ブレよろ 34

2004年12月29日
カンファレンスルームに僕らは入った。

野中が司会。

「さ、やるぞ。ミタライ!」
「は、はい」
彼女はボサボサのまま前へ出た。

「患者さんは、35歳男性・・急性心不全です。既往歴は・・」
「ポイントだけ言え」
「はい。既往歴は特記事項はありませ・・」
「だから要点だけ言えって!」

彼女はキレたようにため息をついた。

「心不全で酸素・利尿剤投与中。それだけです!」
周囲が沈黙する中、彼女はカルテとフィルム袋をかかえて戻ろうとした。

「なめてんのか、オレを?」
野中はペンをクルクル回しながらつぶやいた。
「コベンはオーベンに似るというが、まさしくそうだな・・・」
彼女は僕と同様、野中の横柄な態度が気に入らなかった。

「やり直せ」
「・・・・・」
「よっと」
彼は立ち上がり、数歩進んで彼女を机ごと蹴飛ばした。

ガガ−ンと雪崩のように荷物が落ちてきた。

「ユウキ。お前がきちんと指導せんからだ」
僕は彼女をゆっくり起こした。
「野中。お前の独裁政治じゃねえぞ」
「なに?」
「こんな雰囲気で、話し合いなんかできるかよ?」
「俺が仕切ってるってのか?なあ、みんな。俺は正しいよな?」

周囲の医局員たちは涼しい顔でうなずいている。
みんな彼の手下だ。イエスメンだ。

「勘違いするなよ。ユウキ。ここは大学病院なんだ」
「はあ?」
「文句があるなら、きちんとコベンを指導してからものを言え」
「お前とは話し合いよりも・・・」
「?」
「果し合い、のほうがいいな」

気がつくと、別の人間がプレゼンしている。

「野中・・。表へ出ろ!」

僕らは廊下へ出た。

「野中。お前、いったいどうしてそんな奴に?」
「そんな奴?俺は俺だ」
「まあ、以前から好かないところはあったが・・」
「ユウキ。お前こそ、大丈夫なのか?この医局で・・」
「・・・・・」
「組織で生きていかないといけないんだぞ?それはどこへ行っても同じだ」
「お前こそ、東京のセンターで生きていけなかったんだろ?」
「なにを?」
「センターを中退して、帰ってきてるだろ?人のこと言えた義理か!」

野中は大学から代表で東京の医療研究施設「センター」へ赴任していた。
3年ほどの予定であったのが、2年足らずで戻ってきた。周りに理由を聞いたが、
誰も知らない。

「あれか。あれは特別だったんだ」
「てめえも最低だよ。自分のコベン応援しといて、結局さしおいてセンター行ったんだろ?」
「そいつはどうせ医局の裏切り者だった。かまわんさ」
「ひでえヤツ・・」
「せ、センターは俺としても勤務を続けたかった。他の意味で限界だったんだ!」
「はあ?」
「お前にも経験があるだろうが・・」
「?」

野中は振り向き、カンファ室へ戻りかけた。

「いいか。教授にはすべて報告しておく」
「ああ、勝手にしろよ」
「またどこか飛ばされるかもな」

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