ブレよろ 57

2004年12月29日
「24歳、食欲不振と下痢か!」
僕はようやく外来がスムーズに流れ出した。
「看護婦さんよ?」
ナースはどうやら搬送されてくる患者の介助に大忙しだ。
仕方ない。自分で呼ぼう。

患者は顔が真っ青だ。
「とにかく、しんど〜い・・」
目を開けられない状態だ。脱水症状だろう。高熱もあり、脈も速い。

とうとう来たな。僕は事務長を呼び出した。
「はいはい?」
「インフルエンザかもしれない。マスクを配ったほうが」
「かしこまりました。スタッフと外来の風邪症状の方に・・!」
事務長はまた慌しく走っていった。

僕は長い綿棒で患者の鼻の奥をぐりぐりした。
「すみません。痛いとは思いますが・・」
「ひいい!ひいい!」
かわいそうだが、おもいっきりこすらないときちんとした結果が出ない。

点滴しながら結果待ち。

看護助手がやってきた。
「先生、急性腸炎の患者さん。楽になったから帰ると」
「そうだな。もうベッドも空いてないし」

1診から、トシキ先生がひょこっと顔を出した。
「先生。お久しぶりです」
「おひさ・・?会ったことある?」
彼は真顔で少し頷いた。
「ああ?ひょっとして、ノナキーのコベンか?」
「消化器内科の2人は、内視鏡やってて代わりを僕が」
「なんでキンキチームっていうんだ?」
「分かりません。で、今電話がありまして」
「ほうほう」
「吐血だと思ったら、喀血だったと」
「せっかちな奴らだな」
「胃カメラと大腸カメラも異常ないそうです」
「大腸?そこまでしたのか?」
「彼ら、患者を早く手放したかったんでしょう」
「それにしても、吐血と喀血を間違うとは・・レントゲンとかしなかったのか?」
「腹部だけだそうで・・」
「それじゃまるで、≪禁忌≫チームだな・・」
「ユウキ先生は、気管支鏡を?」
「ああ。トシキ先生は?」
「ここ数年やってません」
「待てよ」
「?」
「他の検査、してからだ。胸部CT・・」
「でもすべての喀血は、気管支鏡の適応だと、オーベ・・」

彼はヒヤリ・ハットしたようだ。

「なぬ?オーベン?野中がそう言ったか?」
「い、以前の話ですが・・」
「間違ってはないけど。場合によるよそんなの」
「でも早くしないと・・」
「でもでもって、うるさい奴だな!シカシ男!」

トシキ先生の陰のあだ名がそうだった。

喀血の患者のバイタルは安定していた。
胸部CTを撮影中。

「喀血はおさまったって?トシキ先生」
「ええ。あと、お願いします」
「え?俺が?おい!」
「外来があるので」
「俺もだよ!」
「ガフキーは出ましたか?」
「俺に聞くなよ?検査室へ!」

結核の塗沫すら提出が遅れていた。信じられん。

「ガフキー0・・・・いや、9でした」
老年の検査技師がメガネを目にひっつけながら答えた。

「おいおい!0と9って間違うなよ!」
顕微鏡では9で間違いなかった。
とたん、技師が僕から離れだした。

「な、なんだよ?」
「いや、ちょっと・・」
「9号か・・・こりゃ感染力強いぞ」
「はい・・」
技師はどんどん後ずさりしている。
「何、怖がってんだよ?」
「い、いや。うつるといけないから・・」

僕は呆れて、外来へ戻った。ナースが待っていた。

「おい、キンキの2人は?」
「休憩してます」
「救急車がどんどん来てるけど・・いいのか?」
「本院の指示で運ばれてきた転院患者さんの搬送ですので」
「うちのドクターは・・とりあえずスタンド待機か」

僕は休憩室へ入った。

「起きてくれ!」
「はっ?」
2人とも飛び起きた。

「ユウキといいます。はじめまして」
「・・・ハヤブサです」
「医長のトドロキ」
いちおう、一通りの握手。

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