ブレよろ 65
2004年12月29日分院はまだ外来格闘中。
「またインフルエンザだ!」
検査技師は汗を拭いながら検査伝票に「陽性」を記入した。
「もうこれで9例目・・」
マスクをしたナースが結果を取りに来た。
「また陽性?」
「そうなんだ。爆発的な流行だ」
「あなたもマスクしないと!」
「僕はここで缶詰めだから、いいんだよ」
「検査の提出は、一般外来はないわ」
「じゃ、やっと休憩を・・」
「とんでもない!仕事は終わってないわ!」
「え?でも・・・」
トシキ先生のほか、トドロキ、シロー先生は救急外来へコールされた。
東山ふうの医師が、横になった患者を診察している。
「おう!やっと現れたな?アバンカラン・コンビがよ?」
トドロキ医長は部屋を見渡した。10人ほどがベッドで寝かされている。いずれも点滴が入っている。
「救急、こんなに来たのか?」
「あたぼうよ!本院が潰れちまって、そこから流れてきた患者だよ!」
「病棟に上げればいいだろ?」
「あのなあ、おやっさん!」
どう考えても医長より年下の麻酔科医はトントンと片足踏みしていた。
「病棟はさ、もうてんてこ舞いなわけ」
「だがこんな寒いところに・・」
「ましてや点滴などの処置が必要な患者がわんさかだ」
トシキ先生はシロー先生とカルテを回し読みした。
「じゃ、あとは頼むぜ」
麻酔科医はタバコを吸うために、外へ出た。
「あれ?」
また戻ってきた。
「あそこの・・・ドクターズ・カーは?」
「本院へ出かけました」
シロー先生が答えた。
「こりゃあ参ったぜ。俺の断りもなしに。いい度胸だ!」
また出て行った。
トシキ先生は白い大きな紙に文字・線を書き込んだ。シロー先生と向かい合っている。
「これらのうち、3人が昇圧剤などを使用してる。バイタルのモニタリングは必要だ」
「慢性心不全に、肺炎、脳塞栓ですね」
「心不全の治療は今のでいい。だが利尿は時間ごとで見て、バルーンバッグにマジックで印を」
「1時間ごとですね」
「血ガスを1回」
「原因はOMIですね」
「あくまでも前医の診断だ。正しいとは限らない」
「確認します。ポータブルエコーは・・」
「面倒だ。僕専用のノート型エコーで確認しよう」
トドロキが肺炎患者のカルテを読んでいた。
「向こうとここでの点滴内容が違うな。パズクロス?」
「最近使用されてる、ニューキノロンの注射剤だ」
トシキ先生は答えた。
「そうなのか」
「常識だ」
感心している暇はない。患者の呼吸状態も思わしくない。
「肺炎の患者、二酸化炭素分圧高めです」
シロー先生がデータを持ってきた。トシキ先生が受け取る。
「酸素マスクの全開か。リザーバーに代えてくれ」
「はい!」
「30分後に血ガス。上昇傾向なら挿管だ」
「はい!」
医長にとっては専門外ばっかりで、居場所がなかった。
「パズクロスはうちにないから、マキシピームにでも代えるか?トシキ先生」
「向こうの喀痰培養では緑膿菌、感受性はメロペンが良好のようだ」
「緑膿菌といえばモダシンだろう?」
「それは昔の話だ。古本は読むな」
「なに?」
脳塞栓患者をシローがこまめに診ている。
「片麻痺、重度ですね。向こうでは入院したばかり」
「ラジカットが入ってるな。CTで拡がりを見よう」
トシキ先生は患者の搬出コールをした。
シロー先生はマニュアル本を確認中。
「ステロイドとグリセオールを!」
「シロー。DMと心不全がある」
「あ、そうでした。注意します」
慌てるシローの肩を、トシキは揉み解した。
「シロー。自分のペースでいけ」
「そして引き込め、ですね」
トシキ先生はかつての自分を思い出した。
このコベンは裏切りたくない。
医長がまた間に入ってきた。
「t-PAはいかないのか?」
トシキは呆れた。
「脳塞栓だぞ?」
「脳血栓かも」
「前医の心電図がこれ。心房細動」
「それだけで塞栓と言い切れるのか?」
「前医の頭部CT。広範な梗塞巣」
「それでもいいきれんだろう?」
「いや、これは塞栓だ」
「うぬぅ・・・ハヤブサは?まだ戻ってないのか?」
彼は片割れを探し始めた。彼は肺結核を搬送中だ。
シロー先生は携帯を折りたたんだ。
「トシキ先生!自分は病棟へ」
「呼ばれたか?」
「テンポラリーの自己抜去です」
「抑制はしてたのか?」
「ハヤブサ先生が、外すのを許可していたそうで・・」
「勝手なことを・・」
シロー先生は病棟へかけつけた。
暴れているのは53歳の男性だ。SSSで、恒久的ペースメーカー植え込みの予定だった。
一時的ペースメーカーは抜かれて床に落ちている。モニターのレートは幸い50台。
「はようせんかい!」
患者は入院後のストレスからICU症候群に陥っていた。
「はよう帰らせてえなあ!」
起き上がろうとする患者を、シロー先生は抑えた。
「か、看護婦さん!て、手伝って!」
ナースたちはガラス越しに申し送りを行っている。無視された状態だ。
「くわっくわっ!」
ブラックデビル?
どこからこんな力が?というくらいものすごいパワーだ。
「くっ・・!」
シロー先生は救急カートを足で引き寄せ、片手で鎮静剤を用意しようとした。
「くそ!」
片手では困難を極めた。下手すれば針で自分の手を刺してしまう。
病棟でいつも引っ込み思案の彼は、ナースへの声かけをためらったままだ。
「誰か・・・!」
彼はトシキ先生をコールした。
「シローか?」
トシキ先生は新たな来客を迎えるところだった。透析の機械の準備に追われていたのだ。
「トシキ先輩!患者が暴れてて・・・!ナースが手伝ってくれなくて・・・!」
「シロー。本院から透析患者が来るんだ。呼吸状態も思わしくないようで」
「満床なのに・・ですか?くそっ」
「すまないが、今すぐは行けない」
今までオーベン離れできてなかったシローは、途方に暮れた。
トシキは考え直した。
「トドロキ医長。すまんが自分は上へ」
「お、おい!俺は透析は専門外だぞ」
「自分もだ。このマニュアルを見ながら、ユウキ先生と協力して」
「お、俺は知らん」
事務長が医長を押さえつけた。
「逃げないで!さ!トシキ先生、走って!」
「シロー!」
ダッシュダッシュ、バンバンババン!
「またインフルエンザだ!」
検査技師は汗を拭いながら検査伝票に「陽性」を記入した。
「もうこれで9例目・・」
マスクをしたナースが結果を取りに来た。
「また陽性?」
「そうなんだ。爆発的な流行だ」
「あなたもマスクしないと!」
「僕はここで缶詰めだから、いいんだよ」
「検査の提出は、一般外来はないわ」
「じゃ、やっと休憩を・・」
「とんでもない!仕事は終わってないわ!」
「え?でも・・・」
トシキ先生のほか、トドロキ、シロー先生は救急外来へコールされた。
東山ふうの医師が、横になった患者を診察している。
「おう!やっと現れたな?アバンカラン・コンビがよ?」
トドロキ医長は部屋を見渡した。10人ほどがベッドで寝かされている。いずれも点滴が入っている。
「救急、こんなに来たのか?」
「あたぼうよ!本院が潰れちまって、そこから流れてきた患者だよ!」
「病棟に上げればいいだろ?」
「あのなあ、おやっさん!」
どう考えても医長より年下の麻酔科医はトントンと片足踏みしていた。
「病棟はさ、もうてんてこ舞いなわけ」
「だがこんな寒いところに・・」
「ましてや点滴などの処置が必要な患者がわんさかだ」
トシキ先生はシロー先生とカルテを回し読みした。
「じゃ、あとは頼むぜ」
麻酔科医はタバコを吸うために、外へ出た。
「あれ?」
また戻ってきた。
「あそこの・・・ドクターズ・カーは?」
「本院へ出かけました」
シロー先生が答えた。
「こりゃあ参ったぜ。俺の断りもなしに。いい度胸だ!」
また出て行った。
トシキ先生は白い大きな紙に文字・線を書き込んだ。シロー先生と向かい合っている。
「これらのうち、3人が昇圧剤などを使用してる。バイタルのモニタリングは必要だ」
「慢性心不全に、肺炎、脳塞栓ですね」
「心不全の治療は今のでいい。だが利尿は時間ごとで見て、バルーンバッグにマジックで印を」
「1時間ごとですね」
「血ガスを1回」
「原因はOMIですね」
「あくまでも前医の診断だ。正しいとは限らない」
「確認します。ポータブルエコーは・・」
「面倒だ。僕専用のノート型エコーで確認しよう」
トドロキが肺炎患者のカルテを読んでいた。
「向こうとここでの点滴内容が違うな。パズクロス?」
「最近使用されてる、ニューキノロンの注射剤だ」
トシキ先生は答えた。
「そうなのか」
「常識だ」
感心している暇はない。患者の呼吸状態も思わしくない。
「肺炎の患者、二酸化炭素分圧高めです」
シロー先生がデータを持ってきた。トシキ先生が受け取る。
「酸素マスクの全開か。リザーバーに代えてくれ」
「はい!」
「30分後に血ガス。上昇傾向なら挿管だ」
「はい!」
医長にとっては専門外ばっかりで、居場所がなかった。
「パズクロスはうちにないから、マキシピームにでも代えるか?トシキ先生」
「向こうの喀痰培養では緑膿菌、感受性はメロペンが良好のようだ」
「緑膿菌といえばモダシンだろう?」
「それは昔の話だ。古本は読むな」
「なに?」
脳塞栓患者をシローがこまめに診ている。
「片麻痺、重度ですね。向こうでは入院したばかり」
「ラジカットが入ってるな。CTで拡がりを見よう」
トシキ先生は患者の搬出コールをした。
シロー先生はマニュアル本を確認中。
「ステロイドとグリセオールを!」
「シロー。DMと心不全がある」
「あ、そうでした。注意します」
慌てるシローの肩を、トシキは揉み解した。
「シロー。自分のペースでいけ」
「そして引き込め、ですね」
トシキ先生はかつての自分を思い出した。
このコベンは裏切りたくない。
医長がまた間に入ってきた。
「t-PAはいかないのか?」
トシキは呆れた。
「脳塞栓だぞ?」
「脳血栓かも」
「前医の心電図がこれ。心房細動」
「それだけで塞栓と言い切れるのか?」
「前医の頭部CT。広範な梗塞巣」
「それでもいいきれんだろう?」
「いや、これは塞栓だ」
「うぬぅ・・・ハヤブサは?まだ戻ってないのか?」
彼は片割れを探し始めた。彼は肺結核を搬送中だ。
シロー先生は携帯を折りたたんだ。
「トシキ先生!自分は病棟へ」
「呼ばれたか?」
「テンポラリーの自己抜去です」
「抑制はしてたのか?」
「ハヤブサ先生が、外すのを許可していたそうで・・」
「勝手なことを・・」
シロー先生は病棟へかけつけた。
暴れているのは53歳の男性だ。SSSで、恒久的ペースメーカー植え込みの予定だった。
一時的ペースメーカーは抜かれて床に落ちている。モニターのレートは幸い50台。
「はようせんかい!」
患者は入院後のストレスからICU症候群に陥っていた。
「はよう帰らせてえなあ!」
起き上がろうとする患者を、シロー先生は抑えた。
「か、看護婦さん!て、手伝って!」
ナースたちはガラス越しに申し送りを行っている。無視された状態だ。
「くわっくわっ!」
ブラックデビル?
どこからこんな力が?というくらいものすごいパワーだ。
「くっ・・!」
シロー先生は救急カートを足で引き寄せ、片手で鎮静剤を用意しようとした。
「くそ!」
片手では困難を極めた。下手すれば針で自分の手を刺してしまう。
病棟でいつも引っ込み思案の彼は、ナースへの声かけをためらったままだ。
「誰か・・・!」
彼はトシキ先生をコールした。
「シローか?」
トシキ先生は新たな来客を迎えるところだった。透析の機械の準備に追われていたのだ。
「トシキ先輩!患者が暴れてて・・・!ナースが手伝ってくれなくて・・・!」
「シロー。本院から透析患者が来るんだ。呼吸状態も思わしくないようで」
「満床なのに・・ですか?くそっ」
「すまないが、今すぐは行けない」
今までオーベン離れできてなかったシローは、途方に暮れた。
トシキは考え直した。
「トドロキ医長。すまんが自分は上へ」
「お、おい!俺は透析は専門外だぞ」
「自分もだ。このマニュアルを見ながら、ユウキ先生と協力して」
「お、俺は知らん」
事務長が医長を押さえつけた。
「逃げないで!さ!トシキ先生、走って!」
「シロー!」
ダッシュダッシュ、バンバンババン!
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