ブレよろ 72

2004年12月31日
分院では、呼吸器のダイヤルが徐々に回されていた。

「単に、心臓が大きく見えてただけなんて!」
シロー先生は呼吸器のパネルを確認しつつ、呼吸を「強制換気」
から「CPAP」という完全な自発呼吸に切り替えた。

「実際は心不全でもなんでもなかったわけだ」
トシキ先生はカルテをパラパラめくった。
「それにこの動脈血データ!結果は静脈血のだぞこれ!」

「どうりで結果が悪いわけだ。静脈血の結果でそのまま判断したんですね」
「ヤバイよ。あいつら・・」

品川君も呆れていた。

「品川。ドクターズ・カーはあと何分で?」
「ざっと・・1時間くらい」
「シロー。ちと早いが、呼吸器を外してインスピロン吸入で」

シロー先生は呼吸器を外した。
「よし。あとは挿管チューブが入ってるだけ。重症部屋を出れる」
「30分後に動脈血を」
トシキ先生が指示。

「ええ。結果良好なら一般の部屋へ」
「だが・・・どこに入れるかだ」
「個室・・自分ならそこを」
「いきなり退院、出せるのか?」

シロー先生は手袋を外し、個室のドアをコンコンたたいた。

「石丸です。入りますよ」
入ると、やくざ風の男がベッドに横になってテレビを見ていた。

強引に入院してきた、あの患者だ。もともとは、自分の不注意が原因なのだ。

「おう。なんや?」
男はスイッチを消した。

「状態の悪い方が入ります。優先したいのでこの部屋を・・」

「アホ!お前、なめとんちゃうんか?」

この男は、シロー先生がうっかり入院させてしまった患者だ。
勝手に「入院させろ」と入った患者。

ブラックリストに入っている理由は、定職ももたずこうして酒を飲んでは入退院を繰り返し多額の保険金を受け取る・・・危険な患者だったのだ。

それをヤクザの上の人間に分配する。

どうしようもない人間だ。

信じられないが、大阪には多い。

「なめてなんかいない」
「なんやと?」
「だが、どうしても救わないと」
「俺はどうなんねや?」
「外来通院で十分です」
「こっちが納得してからでないとな!退院はできんねや!」

シロー先生が指示していた点滴がまだ落ちている。ソリタT3、つまりポカリスエットそのものだ。

「患者を追い出そう、っちゅうんなら、わしにも考えがある!」
「どういうことで?」
「わしらを怒らせたら・・・わかっとんだろな!にいちゃんよ?」

患者は点滴を自己抜去し、血を流しながら立ち上がった。

シロー自身、もう電池は切れかかっている。
これ以上立ち向かう力など残っていない。

「さらば宇宙戦艦ヤマト」のあのシーン。

 都市帝国が崩壊したかと思いきや、中から出てきた超弩級巨大戦艦。
『すべては我が意のままにある!わたしがこの病院の支配者だ!秩序なのだ!』

違う!

断じて違う!

『だが満身傷ついたお前が、どうやって戦おうというのだ?』

まさにそのような状況だった。

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