プライベート・ナイやん 1-3 バレット・文句
2005年1月8日ダルルルル・・・!
トラクターの音・・。
目覚ましとともに、起床。
「はっ?」
外が明るい。時間は・・8時半?
なら、大丈夫。
官舎は病院のすぐ真横にある。歩いて5分だ。
しかも一般病棟の患者がいるわけでもないので、そのままダイレクトに
外来診療か医局でゆっくりだ。
こんな生活を続けていていいのだろうか。僕は妙な罪悪感に苛まれていた。
ガラッと戸を開けると、近所の老人たちと目が合う。
「おはようございます」
彼らはいつも、僕の目から足の指先まで、舐めるように見る。
田舎の人間が向ける視線は一見フレンドリーだが、どこか冷ややかだ。
私服ジーンズで出勤。トコトコ歩いていると、後ろから副院長の足音。
足音で誰か判断できるようになっていた。
「おはよう。ユウキ先生」
「神谷先生。おはようございます」
「先生。釣りは好きか?」
「ゲームでなら、しましたが」
「ゲーム?そりゃゲームだが」
こういう取りとめのない会話をしながら、病院の玄関が近づいてくる。
「ああそうそう、君な」
「はい」
「向かいの向井さんの長男さんが気にしとったがな」
「ええ」
「夜の9時頃になると、ハイカラな音楽がかなり響くと」
「ああ、確かに音楽は聴いてますね」
「ロックか何かか?わしにはよく分からんが」
「TMRです。曲名はHIGH PRESSURE」
「ティー・・TMR?MRの検査か?」
「邦楽ポップスです」
「まあそれはどうでもいいが、ボリュームがかなり高いというのだ」
「先生のとこに、苦情が?」
田舎の場合、就寝時間も早い。9時を過ぎるとこの近辺は真っ暗となる。
だが僕らの年代の場合、さあこれからと羽を伸ばしたい時間だ。
「だからユウキ君。頼んだぞ」
「はい・・」
「向井さんちは昔からの地主でな」
「?」
「いろいろ影響力も持ってるお方だ」
だがそこの30代の長男は定職もなくブラブラしている。
金が有り余っているからいいってことか。
病院にやっと着いた。
副院長を引き離すため、トイレへ。
しかしまたついてきた。
「あんまり薄着で寝ころがってると、風邪ひくぞ」
「え?なんでそれを・・」
「それも向井さん家から聞いた」
彼は最後のひと絞りを終わり、ジッパーを上げた。
「2階から君の家のカーテンの隙間通して、見えたらしい」
「なっ?」
「何気なく見たらそうだったらしいがな」
ウソつけ。
カーテンが開いていた、その隙間から見てたとは・・。
帰ったらチェックしないと。
外来では高齢の男性が1人座って待ってる。
白衣で診察室へ。
「おはようございます」
患者は愛想なく、ゆっくり腰掛けた。
「風邪や」
「咳や痰が?」
「咳は出ないが、痰が多い」
「・・・」
「だから薬、出してえな。じゃ・・」
「待って待って!診察してから・・」
消化器内科の院長が診察してるカルテ・・。
処方の記載しかない。病名は不明。
いつも胃薬だけもらいに来ている・・。
聴診は目立ったものなし。
ガリガリだな。肋骨が見えてる。
それにしてもタバコ臭いな。
SpO2 95%か。ギリギリだな。
「タバコは1日に何本・・」
「5本」
「多いときは?」
「それは昔の話や」
「いや、それでも」
「60本。もう十年前やで!」
「ふむう・・ふだんから咳や痰は・・」
「多少はな」
長期に咳・痰があって、慢性気管支炎・・じゃなかろうか。
今回はその増悪・・。
「呼吸機能検査をしましょう」
「いらん」
「いえ、それでも」
「薬だけくれ、っちゅうのに!」
無理矢理、検査室へ。
%肺活量 85%(正常80%以上) 、 1秒率 47%(正常70%以上)
「慢性の気管支炎かな・・」
「気管支炎?」
「風邪がひどいのが急性気管支炎だとすれば、これはその慢性型です」
「四六時中、風邪ひいとんのか?わっはは!」
「笑えません」
「じゃあ、風邪薬を毎日飲めばええんやな?」
「いえ。炎症はタバコによるものです」
彼は呆気に取られた。
「なんでや。タバコは売り物やぞ」
「ですが、害なのです」
「じゃあ、なんで売っとんねや?」
「く、国が・・」
「お国のために戦ったわしらを、国が殺すんか?」
いきなり飛躍してるが、いい線だ。
「クラリスという抗生剤を出します。それと去痰剤・・」
「じゃあタバコは1日3本でええわけやな?」
「ダメですよ。止めましょう!」
「なんでやねん?」
「それこそ酸素吸入とかしないといけなくなりますよ!あ、そうだ。
肺気腫がないか、今度CTを・・」
「じゃあおい!こっち来い!」
患者は汚れたカーテンをくぐり、いきなり診察室を飛び出した。
何だ?ケンカか?
診察室の外だから、負けちゃうかも・・?
トラクターの音・・。
目覚ましとともに、起床。
「はっ?」
外が明るい。時間は・・8時半?
なら、大丈夫。
官舎は病院のすぐ真横にある。歩いて5分だ。
しかも一般病棟の患者がいるわけでもないので、そのままダイレクトに
外来診療か医局でゆっくりだ。
こんな生活を続けていていいのだろうか。僕は妙な罪悪感に苛まれていた。
ガラッと戸を開けると、近所の老人たちと目が合う。
「おはようございます」
彼らはいつも、僕の目から足の指先まで、舐めるように見る。
田舎の人間が向ける視線は一見フレンドリーだが、どこか冷ややかだ。
私服ジーンズで出勤。トコトコ歩いていると、後ろから副院長の足音。
足音で誰か判断できるようになっていた。
「おはよう。ユウキ先生」
「神谷先生。おはようございます」
「先生。釣りは好きか?」
「ゲームでなら、しましたが」
「ゲーム?そりゃゲームだが」
こういう取りとめのない会話をしながら、病院の玄関が近づいてくる。
「ああそうそう、君な」
「はい」
「向かいの向井さんの長男さんが気にしとったがな」
「ええ」
「夜の9時頃になると、ハイカラな音楽がかなり響くと」
「ああ、確かに音楽は聴いてますね」
「ロックか何かか?わしにはよく分からんが」
「TMRです。曲名はHIGH PRESSURE」
「ティー・・TMR?MRの検査か?」
「邦楽ポップスです」
「まあそれはどうでもいいが、ボリュームがかなり高いというのだ」
「先生のとこに、苦情が?」
田舎の場合、就寝時間も早い。9時を過ぎるとこの近辺は真っ暗となる。
だが僕らの年代の場合、さあこれからと羽を伸ばしたい時間だ。
「だからユウキ君。頼んだぞ」
「はい・・」
「向井さんちは昔からの地主でな」
「?」
「いろいろ影響力も持ってるお方だ」
だがそこの30代の長男は定職もなくブラブラしている。
金が有り余っているからいいってことか。
病院にやっと着いた。
副院長を引き離すため、トイレへ。
しかしまたついてきた。
「あんまり薄着で寝ころがってると、風邪ひくぞ」
「え?なんでそれを・・」
「それも向井さん家から聞いた」
彼は最後のひと絞りを終わり、ジッパーを上げた。
「2階から君の家のカーテンの隙間通して、見えたらしい」
「なっ?」
「何気なく見たらそうだったらしいがな」
ウソつけ。
カーテンが開いていた、その隙間から見てたとは・・。
帰ったらチェックしないと。
外来では高齢の男性が1人座って待ってる。
白衣で診察室へ。
「おはようございます」
患者は愛想なく、ゆっくり腰掛けた。
「風邪や」
「咳や痰が?」
「咳は出ないが、痰が多い」
「・・・」
「だから薬、出してえな。じゃ・・」
「待って待って!診察してから・・」
消化器内科の院長が診察してるカルテ・・。
処方の記載しかない。病名は不明。
いつも胃薬だけもらいに来ている・・。
聴診は目立ったものなし。
ガリガリだな。肋骨が見えてる。
それにしてもタバコ臭いな。
SpO2 95%か。ギリギリだな。
「タバコは1日に何本・・」
「5本」
「多いときは?」
「それは昔の話や」
「いや、それでも」
「60本。もう十年前やで!」
「ふむう・・ふだんから咳や痰は・・」
「多少はな」
長期に咳・痰があって、慢性気管支炎・・じゃなかろうか。
今回はその増悪・・。
「呼吸機能検査をしましょう」
「いらん」
「いえ、それでも」
「薬だけくれ、っちゅうのに!」
無理矢理、検査室へ。
%肺活量 85%(正常80%以上) 、 1秒率 47%(正常70%以上)
「慢性の気管支炎かな・・」
「気管支炎?」
「風邪がひどいのが急性気管支炎だとすれば、これはその慢性型です」
「四六時中、風邪ひいとんのか?わっはは!」
「笑えません」
「じゃあ、風邪薬を毎日飲めばええんやな?」
「いえ。炎症はタバコによるものです」
彼は呆気に取られた。
「なんでや。タバコは売り物やぞ」
「ですが、害なのです」
「じゃあ、なんで売っとんねや?」
「く、国が・・」
「お国のために戦ったわしらを、国が殺すんか?」
いきなり飛躍してるが、いい線だ。
「クラリスという抗生剤を出します。それと去痰剤・・」
「じゃあタバコは1日3本でええわけやな?」
「ダメですよ。止めましょう!」
「なんでやねん?」
「それこそ酸素吸入とかしないといけなくなりますよ!あ、そうだ。
肺気腫がないか、今度CTを・・」
「じゃあおい!こっち来い!」
患者は汚れたカーテンをくぐり、いきなり診察室を飛び出した。
何だ?ケンカか?
診察室の外だから、負けちゃうかも・・?
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