プライベート・ナイやん 1-10 脱出
2005年1月18日「よっしゃ・・」
彼はど真ん中を投げる気だ。だがストライクが2つ続いた。
やはり次はボールだろう。最初から打つ気を鎮めた。
彼は思いっきり投球した。
「いてっ?」
一瞬のことだったが、僕の手からバットが叩き落された。
ボールは3塁側ベンチへと飛んでいった。
「しめた!ユウキ先生!一塁へ!」
3塁側に立っているスタッフが手をぐるぐる回す。
で、デッドボールではなくて・・いちおう当たったってことか。
僕は無我夢中で走り始めた。
「おお!」
3塁手は慌ててベンチまで走った。うちの職員にちょうど
ぶつかりそうになり、時間がけっこう稼げた。これなら2塁まで行ける。
「おらあ!」
3塁手が大振りで投げた球は完全な暴投で、セカンドはおろかファーストさえも
超えていった。
「ユウキ!おいでカモンカモンカモン!」
ジェ、ジェームス・ディーンのように?
3塁側に立ったスタッフが手招きする。僕は指示通り、また走り出した。
後ろの状況は分からない。ただサードベースを目指すだけだ。
なんとかベースを踏んだ。大歓声だ。
「ユウキ!やるなお前!」
会場は盛り上がった。当チームの応援軍団は、「ナイス・ナイス」を連発。
ケンさんは恨めしそうに僕を睨んでいた。
「まぐれまぐれ!すぐにアウトで、走り損やって!」
こうなったら、ホームベースも踏んでやる。
どこか熱くなりかけた、ちょうどそのとき。
また携帯だ。
「もしもし」
『先生。さきほどの方ですが』
「高熱の?」
『尿が出てないんです』
「血圧が低い?」
『さあ、それは・・』
「確認してから電話してくれよ!こっちは・・なんでもない」
次のバッターは打ちそうだ。ファ−ルの連発ではあるが。
「ユウキ先生。病院はあとでいいでしょうが!さ!前出て!」
3塁側に立つスタッフ(総務)が促した。
「し、しかし・・」
「しかしもカカシもあるもんか!給料減らすぞ!」
な、なんてことを・・。
でもそうだな。前にもある程度、進まないと。
また携帯が。
『血圧は70/40mmHgです』
「・・ひょっとして、座薬を?」
『神谷先生が25mgで出されました』
ケンさんがこちらを睨み、尻からオナラの
ポーズをしている。
「やめろよなオッサン!」
『何がですか?』
「え?いや」
『神谷先生がですか?いけないですか?』
「い、いや・・でも老人の座薬は12.5mgのほうが」
『そう言われても困るんですが』
「・・・またあとで連絡する」
『いつですか?』
「カタがついたらだ!」
僕はいったん電話を切った。
「はよ走れ!」
3塁側スタッフが叫んだ。どうやら打ったようだ?
ダッシュだ!
「ダッシュ!ダッシュ!バンバンババン!」
ところが、ボールはいままさに投げられてるとこだった。
バッターは僕に気づき、素早くバントに変えた。
なんとか当たった球は、残念なことに上に打ち上げられた。
僕はもうホーム寸前まで来た。どうせツーアウトだが。
キャッチャーは後ずさりしながら球を受ける準備。
僕はホームベースをまたいだ。
「こら!ピー(笛)!」
審判の英語教師が怒って笛を鳴らした。あまりに大きい音で、
思わず耳を塞いだ。僕がベースを踏んだと思ったようだ。
キャッチャーも思わずのけぞり、足を踏み外した。
「わわ!くそ!」
そのまま転倒、ボールはグラブに当たり内野に向かって転がった。
「よし!」
僕はドーンと貴重な1歩を踏み出した。
オオー!と歓声が沸いた。村民に歓迎されたのは、これが最初で最後だった。
だが結局試合は負け戦状態で、
回 1 2 3 4 5 6 7
僕ら 0 0 2 1 2 0
相手 3 2 4 1 6
と、惨敗に向かっていた。
しかし、知らなかったな。負けたらうちの驕りだなんて。
今月も家計が苦しい。自動車税の延滞は催促が来たし、
その車の修理代、本代、NTT延滞分、ケーブルテレビ代。
とてもそんな余裕はない。給料日までの1週間はチキンラーメン
なんだぞ。
マジで、負けるわけには・・。すると、こうするしかない。
センターで佇んでいた僕は、おもむろに携帯を取り出した。
「詰所?」
『先生。今のとこは落ち着いています』
「もしもーし!」
大声で、試合開始とはならず、現場の空気が止まった。
「今から戻るわ!」
『尿も出始めました。血圧も上昇・・』
「どうして?行かないと!」
『で、でも先生。今日はもうお休みでは・・』
「休み?休み休みに言え!」
『そ、そりゃ来ていただけたら詰所としては嬉しいのは嬉し・・』
「か、家族も呼んで!」
現場は固まり、ただならぬ雰囲気が立ち込めた。
「わかった!すぐ行く!」
僕は一目散に、ベンチへと駆け込んだ。
「病棟でちょっと!」
「急変ですか?」
メガネ事務長が驚いた。
「行ってきます!」
僕は駆け出し、病院を目指した。
「こら、卑怯者!」
ケンさんが叫び、グラブを叩きつけた。
「これじゃゲームにならんぞ!」
試合は中止。延期となった。
確かにゲームにはならん。<真剣試合>はパス!
田舎のスポーツ狂たちよ。アルコールもそうだが、
あくまでも「適度」に!
彼はど真ん中を投げる気だ。だがストライクが2つ続いた。
やはり次はボールだろう。最初から打つ気を鎮めた。
彼は思いっきり投球した。
「いてっ?」
一瞬のことだったが、僕の手からバットが叩き落された。
ボールは3塁側ベンチへと飛んでいった。
「しめた!ユウキ先生!一塁へ!」
3塁側に立っているスタッフが手をぐるぐる回す。
で、デッドボールではなくて・・いちおう当たったってことか。
僕は無我夢中で走り始めた。
「おお!」
3塁手は慌ててベンチまで走った。うちの職員にちょうど
ぶつかりそうになり、時間がけっこう稼げた。これなら2塁まで行ける。
「おらあ!」
3塁手が大振りで投げた球は完全な暴投で、セカンドはおろかファーストさえも
超えていった。
「ユウキ!おいでカモンカモンカモン!」
ジェ、ジェームス・ディーンのように?
3塁側に立ったスタッフが手招きする。僕は指示通り、また走り出した。
後ろの状況は分からない。ただサードベースを目指すだけだ。
なんとかベースを踏んだ。大歓声だ。
「ユウキ!やるなお前!」
会場は盛り上がった。当チームの応援軍団は、「ナイス・ナイス」を連発。
ケンさんは恨めしそうに僕を睨んでいた。
「まぐれまぐれ!すぐにアウトで、走り損やって!」
こうなったら、ホームベースも踏んでやる。
どこか熱くなりかけた、ちょうどそのとき。
また携帯だ。
「もしもし」
『先生。さきほどの方ですが』
「高熱の?」
『尿が出てないんです』
「血圧が低い?」
『さあ、それは・・』
「確認してから電話してくれよ!こっちは・・なんでもない」
次のバッターは打ちそうだ。ファ−ルの連発ではあるが。
「ユウキ先生。病院はあとでいいでしょうが!さ!前出て!」
3塁側に立つスタッフ(総務)が促した。
「し、しかし・・」
「しかしもカカシもあるもんか!給料減らすぞ!」
な、なんてことを・・。
でもそうだな。前にもある程度、進まないと。
また携帯が。
『血圧は70/40mmHgです』
「・・ひょっとして、座薬を?」
『神谷先生が25mgで出されました』
ケンさんがこちらを睨み、尻からオナラの
ポーズをしている。
「やめろよなオッサン!」
『何がですか?』
「え?いや」
『神谷先生がですか?いけないですか?』
「い、いや・・でも老人の座薬は12.5mgのほうが」
『そう言われても困るんですが』
「・・・またあとで連絡する」
『いつですか?』
「カタがついたらだ!」
僕はいったん電話を切った。
「はよ走れ!」
3塁側スタッフが叫んだ。どうやら打ったようだ?
ダッシュだ!
「ダッシュ!ダッシュ!バンバンババン!」
ところが、ボールはいままさに投げられてるとこだった。
バッターは僕に気づき、素早くバントに変えた。
なんとか当たった球は、残念なことに上に打ち上げられた。
僕はもうホーム寸前まで来た。どうせツーアウトだが。
キャッチャーは後ずさりしながら球を受ける準備。
僕はホームベースをまたいだ。
「こら!ピー(笛)!」
審判の英語教師が怒って笛を鳴らした。あまりに大きい音で、
思わず耳を塞いだ。僕がベースを踏んだと思ったようだ。
キャッチャーも思わずのけぞり、足を踏み外した。
「わわ!くそ!」
そのまま転倒、ボールはグラブに当たり内野に向かって転がった。
「よし!」
僕はドーンと貴重な1歩を踏み出した。
オオー!と歓声が沸いた。村民に歓迎されたのは、これが最初で最後だった。
だが結局試合は負け戦状態で、
回 1 2 3 4 5 6 7
僕ら 0 0 2 1 2 0
相手 3 2 4 1 6
と、惨敗に向かっていた。
しかし、知らなかったな。負けたらうちの驕りだなんて。
今月も家計が苦しい。自動車税の延滞は催促が来たし、
その車の修理代、本代、NTT延滞分、ケーブルテレビ代。
とてもそんな余裕はない。給料日までの1週間はチキンラーメン
なんだぞ。
マジで、負けるわけには・・。すると、こうするしかない。
センターで佇んでいた僕は、おもむろに携帯を取り出した。
「詰所?」
『先生。今のとこは落ち着いています』
「もしもーし!」
大声で、試合開始とはならず、現場の空気が止まった。
「今から戻るわ!」
『尿も出始めました。血圧も上昇・・』
「どうして?行かないと!」
『で、でも先生。今日はもうお休みでは・・』
「休み?休み休みに言え!」
『そ、そりゃ来ていただけたら詰所としては嬉しいのは嬉し・・』
「か、家族も呼んで!」
現場は固まり、ただならぬ雰囲気が立ち込めた。
「わかった!すぐ行く!」
僕は一目散に、ベンチへと駆け込んだ。
「病棟でちょっと!」
「急変ですか?」
メガネ事務長が驚いた。
「行ってきます!」
僕は駆け出し、病院を目指した。
「こら、卑怯者!」
ケンさんが叫び、グラブを叩きつけた。
「これじゃゲームにならんぞ!」
試合は中止。延期となった。
確かにゲームにはならん。<真剣試合>はパス!
田舎のスポーツ狂たちよ。アルコールもそうだが、
あくまでも「適度」に!
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