「先生。答えてください!」

しばし沈黙が流れた。

「ピ・・・ピ・・・」
「?」
女生徒は眉をひそめた。

「ピロリ!今日はピロリの話!みな座れ!」

ええ〜〜〜〜、と教室内がどよめく。
年収の話は持ち越された。

「ピロリという、菌。胃や十二指腸は酸が出ているが、それでも生きているというのは凄いな。じゃあ学級委員よ」
「はい」
「こんな強い酸性の環境で、どうしてピロリくんは生きてるんかいな?」
「防護膜とかあるんですかね。シールドとか・・」
「デス・スターです、ってか?スカポン!」
「・・・」

「女生徒!」
「はい。この菌は酸性の部分でなく、中性である(胃の表面である)粘液層に存在しています」
「胃自身に粘膜層という中性のシールドがあるわけだな。その中に隠れて育つというわけじゃな。頭のいい奴じゃ」
「それほどでも」
「オマエとちゃう!ピロリのこと!立っとれ!」

また女学生は立たされた。

黒板に大きな丸を書き、その周囲に薄い層。層の中を飛び交う戦闘機。

「スターウォーズ風にいうと、こうじゃ。シールドの中に侵入した戦闘機(ピロリ)が、惑星(胃の上皮細胞)を攻撃している」
「その戦闘機の武器は何ですか?」
学級委員が質問。

「ウレアーゼという物質だ。これはシールド内の尿素を分解し、アンモニアと二酸化炭素にする。このうちのアンモニアがピロリを酸から守るとともに、胃粘膜そのものを傷害する」
「そうか。それで潰瘍を作るんですね」

黒板に≪感染経路≫。

「小川。どこから移る?」
「ウンコからです」
「い、いきなりだな。もっと上品に言え!」
「き、きれいなウンコ・・?」
「永久に立っとれ!糞→口感染(糞口感染)だろ?たとえば井戸水とか!」
「はい・・」
「あと口どうしでもありうる。母親が子供に食べ物を口移ししたりとか」
「なるほど・・」
「いったいどうなってんねや、このクラスは?」

女生徒が挙手。
「では先生、みんなピロリを持ってるんですか?」
「今は環境整備が整ってきてるな。井戸もあまりみかけなくなった。このため若年では少なめとなっておる」
「私たちは・・」
「貴様ら10代では陽性率は2割。10人に2人!」
「それでも少ないんでしょうか」
「わしら30代で4割!」
「・・・」
「な、なにを後ずさりしよんねん?で、40代になると7割を超えてくる!」

みな驚く。

「そこから上の世代はみな7・8割、と陽性率が高い!」
「環境がいかに悪かったか、ですね・・」
「だがの!彼らは一生懸命この日本のために戦ってきた!」
「・・・」
「日本の経済を支えてきた!」
「でもバブルに甘やかされて、経済を破綻させたのも彼らですよね」
「う?」
「私たちはその煽りで、けっこう苦しいんですけど」
「うう・・・」
「で・・先生はこの不景気に、いくらもらってるんですか?」
「何を?」
「今度こそ、答えてください!」
「ひいい・・」

「さあ!」
「ピ、ピロリの話はまだ終わってないぞ!」

2人は同時に銃を構えた。

<つづく>

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