プライベート・ナイやん 2-2 医師失格
2005年3月1日「挿管チューブ!」
「どこだったっけ・・」
「おい!」
ナースは消えていった。
「みゃ・・脈は・・」
脈は触れる。徐脈ではない。
別の中年ナースが現れた。
「どうしたんですか?」
「呼吸が止まりそうなんだ!」
「部屋の担当ではないんだけど・・」
「急変だぞ!急変!」
「え?でも・・息はしてるし」
「この呼吸を見ろよ!下顎呼吸だろ?」
「かがくこ?」
「あのな・・」
さっきのナースが挿管チューブを持ってきた。
「それだけ?他にもいるだろ?」
そ、そうだ。僕は我に返った。
「あ、アンビューだよ。アンビューが先に要るんだった!」
「え?今度はアンビュー?」
ナースは不機嫌そうにまた部屋を出た。
アンビューを両手で持ち、頻呼吸で何度も押す。
「じゃ、喉頭鏡をちょうだい」
「はい・・」
ナースは慣れない手つきで喉頭鏡を手渡した。
「何だよこれ。電気つかないぞ。お約束かよ!」
僕は思わず弾き飛ばした。
「緊急なのに!もう少し素早く動くとか!」
イライラが募っていた。
喉頭鏡で喉の奥を覗くが・・。
「くそっ。痰で全然見えない。痰を吸って!」
「はあ・・」
ナースは無愛想にチューブを口腔へ入れた。
「ガーガー!」
患者が暴れ、唾液が吐き出された。
「うわ!」
僕の顔面に血痰が少量飛んだ。
「出血したのかよ?まったく・・」
ただ、僕自身もパニックに陥っていた。
「ダメだ。全く見えない。出血のせいで」
あたりをつけて、挿管チューブをおそるおそる挿入。
「ここが真ん中だから、そのまま・・」
周囲のナースは手を休ませていた。
「ボケッとしないでくれよ!」
と怒鳴ったが、反応なし。
「入った!・・かな?」
カフにエアー注入、聴診器で確認するが・・。グ〜という音。
「ダメだ!食道だ!やり直し!」
僕は完全に取り乱していた。両手が震えた。
「くそっ・・・!ここか?ここか・・!」
視野は全く確保できない。
「よし。今度は入ったかな・・」
聴診器。またグ〜という音。
「ダメだ!入ってない!くそ!」
周囲のナースは呆れ返っていた。
「先生。脈が遅くなってますけど」
「うう!ボボ、ボスミン!」
「点滴が外れてますが」
「い、入れなおしを」
「血管がありません!」
「あ、ああ・・」
「・・・・・」
「う・・」
アンビューに切り替えた。
「す、すまないが・・どど、ドクターを」
「はあ?何ですか?」
「ほ、他のドクターを」
「どうするんですか?」
「ほ、他の・・」
「だから!どうするんですか!」
「よ、呼んでほしい」
ナースはプイッと方向転換し、詰め所へと走った。
5分後、消化器の須川先生が現れた。
「うさぎさん、おはよう!」
「せ、先生・・」
「うさぎさん取りが、うさぎさんになってますね」
「?先生。どうしても挿管が」
「うさぎさんでも入らないんですか?」
「・・・」
「じゃ、うさぎさん。そこをどいてください」
「・・・」
「早く!」
彼は真剣な表情になり、僕と交代した。
「まず、肩枕を。ナース!」
ナースは肩枕を準備。患者の頭を十分に後屈。
「吸引!・・・・チューブ、貸してくれ!」
彼は自分で喉頭鏡下をずり上げながら吸引。
「・・・入れるぞ・・・はい。ナース、このスタイレットを抜いて!」
カフエアーが注入、聴診器でも音が無事に確認された。
「じゃ、ナース。アンビューしてるから、固定を!」
「ありがとうございました!」
周囲のナースは深々と頭を下げた。
須川先生は1度ため息をついて、僕の横を通り過ぎた。
「ま、こんな事もあるってよ・・ユウキ」
僕は感謝しないといけないのに、悔しさが隠せないのが余計悔しかった。
やがて人工呼吸器が運ばれ、設定の上開始した。
だが、信じられない。
自分に自信がない。
恐ろしい。
医者なのにだ。
僕はこれから、どうなる・・?
これしき1回の経験で、僕は簡単にブルーサイドに落ち込んだ。
やがて家族が駆けつけた。娘にあたる中年女性。
「あ、これ機械ですか?」
「ええ」
「すると、これが人工呼吸?」
「そうです。あまりに急だったので」
「でもここまでしなくても・・」
「?」
「高齢やのに」
「でも息が止まりそうだったので」
「私が来るのを待っておいて欲しかったのに」
何を言ってるんだ・・・
「待てませんでした」
「これ、途中で外せないんですか?」
「いけませんよ!そんなこと!」
思わず大声が出た。
「じゃ、このまま植物状態なんですか?」
「な・・なんて事を!」
「いや、そのね。植物状態なんだったら、単なる延命なんでしょ?」
「基礎の疾患が改善すれば、呼吸器を外せることだって」
「それはいつになったら分かるんですか?」
「そんなの!分かりませんよ!」
医師失格と言われておかしくないほどの勢いで、僕は言葉を叩きつけた。
僕はまだ自分を中心に回っていた。
なぜだ・・
なぜ・・。
「どこだったっけ・・」
「おい!」
ナースは消えていった。
「みゃ・・脈は・・」
脈は触れる。徐脈ではない。
別の中年ナースが現れた。
「どうしたんですか?」
「呼吸が止まりそうなんだ!」
「部屋の担当ではないんだけど・・」
「急変だぞ!急変!」
「え?でも・・息はしてるし」
「この呼吸を見ろよ!下顎呼吸だろ?」
「かがくこ?」
「あのな・・」
さっきのナースが挿管チューブを持ってきた。
「それだけ?他にもいるだろ?」
そ、そうだ。僕は我に返った。
「あ、アンビューだよ。アンビューが先に要るんだった!」
「え?今度はアンビュー?」
ナースは不機嫌そうにまた部屋を出た。
アンビューを両手で持ち、頻呼吸で何度も押す。
「じゃ、喉頭鏡をちょうだい」
「はい・・」
ナースは慣れない手つきで喉頭鏡を手渡した。
「何だよこれ。電気つかないぞ。お約束かよ!」
僕は思わず弾き飛ばした。
「緊急なのに!もう少し素早く動くとか!」
イライラが募っていた。
喉頭鏡で喉の奥を覗くが・・。
「くそっ。痰で全然見えない。痰を吸って!」
「はあ・・」
ナースは無愛想にチューブを口腔へ入れた。
「ガーガー!」
患者が暴れ、唾液が吐き出された。
「うわ!」
僕の顔面に血痰が少量飛んだ。
「出血したのかよ?まったく・・」
ただ、僕自身もパニックに陥っていた。
「ダメだ。全く見えない。出血のせいで」
あたりをつけて、挿管チューブをおそるおそる挿入。
「ここが真ん中だから、そのまま・・」
周囲のナースは手を休ませていた。
「ボケッとしないでくれよ!」
と怒鳴ったが、反応なし。
「入った!・・かな?」
カフにエアー注入、聴診器で確認するが・・。グ〜という音。
「ダメだ!食道だ!やり直し!」
僕は完全に取り乱していた。両手が震えた。
「くそっ・・・!ここか?ここか・・!」
視野は全く確保できない。
「よし。今度は入ったかな・・」
聴診器。またグ〜という音。
「ダメだ!入ってない!くそ!」
周囲のナースは呆れ返っていた。
「先生。脈が遅くなってますけど」
「うう!ボボ、ボスミン!」
「点滴が外れてますが」
「い、入れなおしを」
「血管がありません!」
「あ、ああ・・」
「・・・・・」
「う・・」
アンビューに切り替えた。
「す、すまないが・・どど、ドクターを」
「はあ?何ですか?」
「ほ、他のドクターを」
「どうするんですか?」
「ほ、他の・・」
「だから!どうするんですか!」
「よ、呼んでほしい」
ナースはプイッと方向転換し、詰め所へと走った。
5分後、消化器の須川先生が現れた。
「うさぎさん、おはよう!」
「せ、先生・・」
「うさぎさん取りが、うさぎさんになってますね」
「?先生。どうしても挿管が」
「うさぎさんでも入らないんですか?」
「・・・」
「じゃ、うさぎさん。そこをどいてください」
「・・・」
「早く!」
彼は真剣な表情になり、僕と交代した。
「まず、肩枕を。ナース!」
ナースは肩枕を準備。患者の頭を十分に後屈。
「吸引!・・・・チューブ、貸してくれ!」
彼は自分で喉頭鏡下をずり上げながら吸引。
「・・・入れるぞ・・・はい。ナース、このスタイレットを抜いて!」
カフエアーが注入、聴診器でも音が無事に確認された。
「じゃ、ナース。アンビューしてるから、固定を!」
「ありがとうございました!」
周囲のナースは深々と頭を下げた。
須川先生は1度ため息をついて、僕の横を通り過ぎた。
「ま、こんな事もあるってよ・・ユウキ」
僕は感謝しないといけないのに、悔しさが隠せないのが余計悔しかった。
やがて人工呼吸器が運ばれ、設定の上開始した。
だが、信じられない。
自分に自信がない。
恐ろしい。
医者なのにだ。
僕はこれから、どうなる・・?
これしき1回の経験で、僕は簡単にブルーサイドに落ち込んだ。
やがて家族が駆けつけた。娘にあたる中年女性。
「あ、これ機械ですか?」
「ええ」
「すると、これが人工呼吸?」
「そうです。あまりに急だったので」
「でもここまでしなくても・・」
「?」
「高齢やのに」
「でも息が止まりそうだったので」
「私が来るのを待っておいて欲しかったのに」
何を言ってるんだ・・・
「待てませんでした」
「これ、途中で外せないんですか?」
「いけませんよ!そんなこと!」
思わず大声が出た。
「じゃ、このまま植物状態なんですか?」
「な・・なんて事を!」
「いや、そのね。植物状態なんだったら、単なる延命なんでしょ?」
「基礎の疾患が改善すれば、呼吸器を外せることだって」
「それはいつになったら分かるんですか?」
「そんなの!分かりませんよ!」
医師失格と言われておかしくないほどの勢いで、僕は言葉を叩きつけた。
僕はまだ自分を中心に回っていた。
なぜだ・・
なぜ・・。
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