プライベート・ナイやん 2-17 選択
2005年4月1日そこには20人ばかりのナースたちが白衣の天使姿で待っていた。
長いすの上には豪勢な料理。酒はないようだな。
「よろしくおねがいしまーす!」
ナース達は起立し挨拶、そしてすぐ座った。まるで儀式か何かだ。宗教団体ってこんなイメージだよな・・。
「ユウキ先生は、こちらです」
ナースたちをすべて見渡せる前座に座らされた。その横に老人が座っている。その向こうに院長。
この老人は誰なんだ・・?
老人は車椅子。鼻カニューラで酸素を吸入しているようだ。メガネをかけていて、無表情。スーツ姿と非対照的だった。
「こ、こんにちは」
老人に挨拶すると、彼はじっとこっちを見た。
「・・座ってよし」
「は、はい」
まさか、この人が名誉教授か・・。たぶんそうなんだろう。
事務長が何やらマイクで喋っている。
「・・ですので。では乾杯の音頭を!え?また僕?」
甲高い笑い声が響く。
「では、カンパーイ!」
みなウーロン茶を気持ち口をつけ、また着席。拍手が鳴った。
これは一体、誰のための何という会なんだ?
「では近々勤務していただくことになります!ユウキ先生より!」
いきなりマイクを向けられた。
「ささ!」
無理やりマイクを持たされた。
「は?あの?」
声がエコーしながら響いた。
「こ、こんにちは」
一気に静まった。
「じじ、自分はき、今日面接に来ただけなのですが・・ここで勤務するかどうかは、まだ・・分かりませんけど」
「しっかりせんか!」
そう叫んだのは横の老人だった。
「信念を持って話せ!」
「・・・」
「ゲホ!ゲホ!」
熱くなりすぎた彼は大きく咳き込んだ。事務長が彼の背中をさする。老人がティッシュを取り出し、すぼめた口から少量の・・緑の痰が出てきた。
見ないほうがよかった。
「もしここに勤務ということになれば・・その節はお願いいたします」
何の言葉も用意してなかったので、思ったことを口にするだけだった。
食事はカチャカチャと進んだ。
「お前の病院は、山の上・・」
「はい。そうです」
「退屈だろうが」
「救急のバイトを近々・・」
決まってもないことを口にした。
「救急?あの村でか?」
「いえ。隣の町です。イナカ救急病院という」
「沖田のところか・・ゲホゲホ」
「そこで週に1回修行をと」
「週に1回の修行で何が身につく?」
「・・・」
「あんなところで勉強しても、ほとんどの奴はついていけん」
「・・・」
「うちなら問題はない」
なぜ、そんなに急かすんだ。
「必要なときだけ、指導する。技術も教える」
「ええ・・」
「こんな機会はそうないぞ。大学病院との結びつきも万全だ」
「はい・・」
「どうした?食わんのか?」
全く食が進まない。
「先生。僕のほかにも誰か適任者が・・」
「なに?適任者?まあ、希望する者はおるようだが」
彼は目を斜め上に逸らした。
「年を取りすぎておる」
ジェダイかよ。
「それにお前は独身だ。婚約者はおるのか?」
「い、いえ」
「確か大学からは・・誰かいたと聞いたが」
「な?」
「行く先々で、噂があるとな!ゲホゲホ」
「大げさです」
「ま。かまわんかまわん。わしも若い頃は凄かった」
「え、ええ・・」
「ま。仕事の支障にならん程度にな」
彼は事務長に目配せし、車椅子の後ろに回らせた。
「先生。今日はどうも・・」
「何を言っておる?トイレだ!」
「あ・・」
別の事務員が用紙を持ってきた。
「これ、先生。いつでもかまいませんので」
「これ・・?」
住所などの連絡先、口座番号・・。
「事務員さん。僕はここで働くと決まったわけでは・・」
「あれ?そうなんですか?おかしいな」
事務員は引き上げた。
院長がフルーツを持ってきた。
「若いのに。食べないか!」
「す、すみません」
「医局がやがて人事を決めるだろう」
「僕の希望は・・」
「そりゃ、君の希望も一応は聞くだろうさ」
「・・?」
「君はおそらく、キヨミズの舞台から飛び降りた経験はないな」
「・・・」
「なかろう。だが飛び降りない限り、君は一生臆病者なのだ」
名誉教授は調子が悪いのか、戻ってこなかった。
「では、失礼します」
裏の駐車場で、大勢に見送られた。
院長が歩み寄った。
「よおく考えたまえ」
「・・・」
「一生医局で肩身の狭い生活を送るか。それとも1国、1病院の主として名を上げるか」
「・・・」
「いい返事を待ってる」
ミラーを振り返ることなく、タイヤは回りだした。
「いずれも大人の言いなり、ってことだな・・」
だが、それ以外に道はないだろうか。
あるような気がする。
長いすの上には豪勢な料理。酒はないようだな。
「よろしくおねがいしまーす!」
ナース達は起立し挨拶、そしてすぐ座った。まるで儀式か何かだ。宗教団体ってこんなイメージだよな・・。
「ユウキ先生は、こちらです」
ナースたちをすべて見渡せる前座に座らされた。その横に老人が座っている。その向こうに院長。
この老人は誰なんだ・・?
老人は車椅子。鼻カニューラで酸素を吸入しているようだ。メガネをかけていて、無表情。スーツ姿と非対照的だった。
「こ、こんにちは」
老人に挨拶すると、彼はじっとこっちを見た。
「・・座ってよし」
「は、はい」
まさか、この人が名誉教授か・・。たぶんそうなんだろう。
事務長が何やらマイクで喋っている。
「・・ですので。では乾杯の音頭を!え?また僕?」
甲高い笑い声が響く。
「では、カンパーイ!」
みなウーロン茶を気持ち口をつけ、また着席。拍手が鳴った。
これは一体、誰のための何という会なんだ?
「では近々勤務していただくことになります!ユウキ先生より!」
いきなりマイクを向けられた。
「ささ!」
無理やりマイクを持たされた。
「は?あの?」
声がエコーしながら響いた。
「こ、こんにちは」
一気に静まった。
「じじ、自分はき、今日面接に来ただけなのですが・・ここで勤務するかどうかは、まだ・・分かりませんけど」
「しっかりせんか!」
そう叫んだのは横の老人だった。
「信念を持って話せ!」
「・・・」
「ゲホ!ゲホ!」
熱くなりすぎた彼は大きく咳き込んだ。事務長が彼の背中をさする。老人がティッシュを取り出し、すぼめた口から少量の・・緑の痰が出てきた。
見ないほうがよかった。
「もしここに勤務ということになれば・・その節はお願いいたします」
何の言葉も用意してなかったので、思ったことを口にするだけだった。
食事はカチャカチャと進んだ。
「お前の病院は、山の上・・」
「はい。そうです」
「退屈だろうが」
「救急のバイトを近々・・」
決まってもないことを口にした。
「救急?あの村でか?」
「いえ。隣の町です。イナカ救急病院という」
「沖田のところか・・ゲホゲホ」
「そこで週に1回修行をと」
「週に1回の修行で何が身につく?」
「・・・」
「あんなところで勉強しても、ほとんどの奴はついていけん」
「・・・」
「うちなら問題はない」
なぜ、そんなに急かすんだ。
「必要なときだけ、指導する。技術も教える」
「ええ・・」
「こんな機会はそうないぞ。大学病院との結びつきも万全だ」
「はい・・」
「どうした?食わんのか?」
全く食が進まない。
「先生。僕のほかにも誰か適任者が・・」
「なに?適任者?まあ、希望する者はおるようだが」
彼は目を斜め上に逸らした。
「年を取りすぎておる」
ジェダイかよ。
「それにお前は独身だ。婚約者はおるのか?」
「い、いえ」
「確か大学からは・・誰かいたと聞いたが」
「な?」
「行く先々で、噂があるとな!ゲホゲホ」
「大げさです」
「ま。かまわんかまわん。わしも若い頃は凄かった」
「え、ええ・・」
「ま。仕事の支障にならん程度にな」
彼は事務長に目配せし、車椅子の後ろに回らせた。
「先生。今日はどうも・・」
「何を言っておる?トイレだ!」
「あ・・」
別の事務員が用紙を持ってきた。
「これ、先生。いつでもかまいませんので」
「これ・・?」
住所などの連絡先、口座番号・・。
「事務員さん。僕はここで働くと決まったわけでは・・」
「あれ?そうなんですか?おかしいな」
事務員は引き上げた。
院長がフルーツを持ってきた。
「若いのに。食べないか!」
「す、すみません」
「医局がやがて人事を決めるだろう」
「僕の希望は・・」
「そりゃ、君の希望も一応は聞くだろうさ」
「・・?」
「君はおそらく、キヨミズの舞台から飛び降りた経験はないな」
「・・・」
「なかろう。だが飛び降りない限り、君は一生臆病者なのだ」
名誉教授は調子が悪いのか、戻ってこなかった。
「では、失礼します」
裏の駐車場で、大勢に見送られた。
院長が歩み寄った。
「よおく考えたまえ」
「・・・」
「一生医局で肩身の狭い生活を送るか。それとも1国、1病院の主として名を上げるか」
「・・・」
「いい返事を待ってる」
ミラーを振り返ることなく、タイヤは回りだした。
「いずれも大人の言いなり、ってことだな・・」
だが、それ以外に道はないだろうか。
あるような気がする。
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