外来で「風邪」を診察。

「じゃ、薬出しておきますので・・」
「先生。1発で治るようなやつを!」
30代の男性は急かしてきた。

「そ、そんな薬は・・」
「子供の頃、よく注射してもらってたんや!」
「ああ。あれはもう・・・発売中止になった解熱剤でして」
「え?今はないの?」

何だったか、名前までは知らない。

「ところで先生」
「はあ?」
「野球の試合。来月の・・3日!」
彼はいきなりカレンダーを指差した。
「試合?って・・?」
「アパッチのチームの!覚えてない?」
「老人ホームの職員さん?」
「そう。今度は容赦せん!ってアパッチが言ってました」
「ケンさんっていう人ですね・・はいはい」

こういうイベントにはもう付き合っていられない。
田舎のスポーツは本気だ。

脱力感を感じながら、事務室へ入った。

「ユウキ先生!」
品川氏が振り向いた。レセプトで忙しそうだ。

「人事はどうなりました?」
「うん。いろいろ情報収集してね」
「え?どうやって」
「ま、僕のやりかたで」
「その表情では、たぶん・・」
「そう。とんでもないとこ!」

僕は勢いで、大学医局へダイヤルした。

「秘書さん?医局長を!」

品川氏はじっと僕を見つめていた。まるで品定めするかのように。

「医局長。板垣です」
「ユウキです」
「やあ。こんにちは」

何が、やあこんにちは、だよ。

「医局長。自分はあそこでは働けません」
「?何を言ってるんだい?」
「せっかくご配慮いただいたのに・・」
「おいおい。今さら変更は無理・・」

品川氏が僕にメモを見せた。
その通りに言ってみた。
「何でしたら、僕から教授に」

「きょ、教授に・・?」
「僕が教授と相談しようかと」
「それは・・しかしだね」
「いえ。そうしないと僕自身・・納得が」
「・・・」

医局長は自信を無くしたような感触だ。

「うん。まあ・・ユウキ先生」
「はい」
「この件はじゃあ・・・検討しておく」
「?」

電話は終わった。どうやら行かずにすみそうだ。

「品川さん。ありがとう」
「いえいえ」
「教授に知られるのを恐れてるみたいですね・・」
「あの医局長は人事があたかも決まったかのような素振りで、君の意思を固まらせようとしていたんです」
「?人事は決まってないの?」
「私のほうにはそんな情報はないし」

この人、何者だ・・?

「品川さん・・ですかね。また助けられました」
「いえいえ。でもいつか、私も先生に助けてもらう日が来るかも」

意味深なセリフを言い残し、彼は出て行った。

今(2005年)思えば、彼はもう既に≪総攻撃の準備≫を始めていたのだ・・。

何も知らない僕は医局へ戻り、カバンに救急の本などを詰め込んだ。救急病院へのバイトに備えて。

早朝。

救急病院へ向けて、1台の車が官舎を出た。

僕はカーステのボリュームを上げた。

「今度こそ、頑張る・・・今度こそ!」


哀 ふるえる哀
それは!別れ唄
ひろう骨も 燃えつきて
ぬれる 肌も 土にかえる
荒野をはしる 死神の列
黒くゆがんで・・・ 真あっ赤あにぃ燃おええるう!

(音楽)

哀 命の哀
血の色は 大地にすてて(ジャンジャン!)
新たな 時をひらくか
生き残る 哀 戦士たち
荒野をはしる! 死神の列!
黒くゆがんで・・ 真あっ赤ぁに燃おえるぅ!

(音楽)

死にゆく男たちは 守るべき女たちに
死にゆく女たちは 愛する男たちへ

何を賭けるのかあああ 何を残すのかあああ
I pray, pray to bring near the
(ハモリ→)ニューデーーーーーイ!

「こちらユウキです。あと1時間でそちらへ着きます」
「AMIが来てます。早速主治医、お願いします」
「カテですか?」
「カテは終わりますが、IABPが付きます」
「久しぶりだなあ・・」
「何か?」
「い、いえ!急ぎます!」

マーク?は噴煙を撒き散らしながら、全速力でカーブを曲がりきった。


哀 かなしみの哀
いまは 残るだけ
名を知らぬ 戦士を討ち
生きのびて 血へど吐く
ハヤテのごとき 死神の列
あらがう術は! わが手にはない!

死にゆく男たちは 守るべき女たちに
死にゆく女たちは 愛する男たちへ

ワン・モー・ターイム!

戦う男たちは 故郷の女たちに
戦う女たちは 信じる男たちに

何を賭けるのかあああ 何を残すのかあああ
I pray, pray to bring near the
(ハモリ→)ニューデーーーーーイ!

(音楽)

自分をリセットする、最後のチャンスだ。

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