プライベート・ナイやん 3-1 アパム、再び・・・。
2005年4月11日さて出勤したのはいいが・・。医局長も事務も全く捕まらない。
出勤早々、行き場も分からないままか・・。
とにかく詰所へ入った。即、ナースが近づいてきた。
「他の先生の患者さんですが・・」
「はい」
「高熱なんです。いきなり」
ナースがカルテの裏をめくった。
突然、39度台の発熱。
「脳梗塞後遺症で寝たきりです」
「見に行きます」
「お願いします」
病室では80台の寝たきり女性。無表情でテレビを見ている。
バルーンが入っているが、尿は混濁・・・?よく分からない。
胸の音は異常なし。SpO2は98%。肺炎は否定的、か。
いやまだ分からんぞ。
僕は詰所へ戻った。
「先生。どうですか?」
「検査を出さないと」
「検査ですか」
「採血とレントゲンに、検尿チンサ」
「お願いします」
ナースはスピッツを数本渡した。
「え?これ・・」
「採血はドクターがしますので」
「そんな病院なの?」
「そう。そんな病院なの」
メガネをしたヒロスエ似の女医が分厚い本を読んでいる。
「採血は、全部ドクター」l
僕は無念そうに採血の準備をした。
大学病院以来だな・・。
ヒロスエ似はうつむいたまま話しかけてきた。
「急変?」
「急な高熱」
「ふーん・・何を疑うの?」
「そ、そうだな。MRSAに、インフルエンザ・・」
「6月でインフルエンザ?」
「あ、いや・・」
詰所のナースたちが黙って見ている。
「ユウキ・・先生よね。MRSAって安易に口にしちゃダメじゃないの」
子供に諭すような口調で彼女はつぶやいた。可愛い顔しているが、
化粧っ気が全くない。服も非常に地味だ。
「ユウキ先生。大丈夫?」
「え?あ、ああ」
採血し、レントゲンをオーダー、検尿も自分で採取を。
高度のCRPと尿中白血球の増加。胸部レントゲンで影はなし。と思う。
「尿路感染だ。抗生剤を・・4世代で」
「何か忘れてない?」
「は?」
ヒロスエ似がまた横槍を入れる。
「ワンパターンな決め方はダメよ」
「い、いいじゃないか。高齢者だから4世代で・・」
「日ごろの培養の結果は見たの?」
「あ、いや・・」
そうだった。こんなことも、僕は・・・。
「緑膿菌と大腸菌。感受性検査からは・・・カルバペネムがいいな」
「4世代でもまあまあ感受性いいじゃない?」
「でも感受性がマシなのはカルバペネムのほうだ」
「いきなしそんな広域のを使うの?」
彼女の視線は冷たかった。
「う、いや・・」
「ユウキ先生。高齢者なのよ」
4世代抗生剤の指示を出した。
『尿路感染、特に腎盂腎炎が疑われます、と・・』
カルテに記載し、引き上げだ。
「寝たきりは、尿路結石や神経因性膀胱が多いものね」
「バルーンが日ごろ入っているから、尿路結石かな」
「さあ。それ以外だったりして」
「なな、なんだよ・・」
素っ気ない彼女は立ち上がった。
「ユウキ先生はたしか、胸部内科の先生よね」
「そうだけど」
「じゃ、1人診て」
「はい」
なぜか下手になってしまう。
「この人。59歳。RCM」
「RCM?」
「ウソ?RCMよ。循環器ドクター!」
「あ、拘束型心筋症・・」
「そうよ。しっかりしてよお、もう」
彼女は少しふくれっ面でカルテをめくった。
「3大原因疾患は否定的なんだって」
「あ、そう・・」
「知ってると思うけど」
「・・・・・」
「これが心電図。low voltageに伝導障害・・」
「う、うん・・」
「超音波はこれ。わたし消化器中心だからイマイチ分からないけど」
「ああ・・ふむふむ」
彼女は左のポケットをモゾモゾしていた。
「検査からか・・ちょっと外すわ」
彼女はダッシュで出た。
「・・・」
僕は今のうちにと、小さい本を取り出した。
3大原因疾患・・・拘束型心筋症・・・この5年、1例も見たことがない。
それほどまれな疾患だ。
というか、見逃されていたのかも。
「あったあった・・・3大原因は・・?アミロイド−シス、?好酸球増多症、?心内膜心筋線維症=EMF」
覚え方、覚え方・・
≪高速と、シンナー好きな・・鈴木あみ≫
でいくか。イマイチだな。
「なになに・・原因不明は1%で、残りは2次性・・そうなのか。知らなかった・・」
だがこういうハングリーなときは、知識の吸収力が物凄い。
こういった感覚は久しぶりだなあ。
「原因不明。<硬い心室>が本症の本質的病態である。わが国ではアミロイド−シスによるものが最多。その場合
心不全症状出現して1年後が平均余命・・・」
厳しい疾患だな・・。
学生のときは学習問題に追われ、そういう観念がなかった。人命を何だと思っていたのか・・。
「でね」
「う?」
彼女は戻っていた。
「酸素吸入、利尿剤など使用しているのね。でもコントロール、悪いみたい」
「そのようだな・・」
「主治医、先生とアパム組で変わってくれる?」
「アパム?アパムって・・」
「町長の息子。アパムってあだ名の・・本名は弘田先生」
「僕とアパム組?」
「そうよ。ここは基本的に2人主治医制」
知らなかった・・。
「ユウキ先生はアパムと2人組なのよ。オーベンコベンでね」
「オーベン?僕は・・」
「もち先生がオーベン。5年目の医者なんでしょ?」
「そうだけど」
「アパムは2年目」
「君は?」
「あたしも2年目」
こいつ、年下のくせに・・・。それより、自分が恥ずかしい。
「そうか。僕はオーベンなのか・・」
「先生の大学病院は、2年目でオーベンになった先生がいるんですって?」
「野中・・」
「近畿の医学雑誌で見たわ。顔もすごくカッコイイよね」
彼女は目を輝かせた。
「なにが・・」
「まさか、ユウキ先生の同級生ってことないよね?」
「知らん」
僕は不快感をあらわにし、病室を出た。
「じゃ、ユウキ先生。あたしは医局長に言っておくから」
「主治医交代?」
「そ!」
彼女はすごく嬉しそうだった。
なんだ。そういう相談かよ・・。
こりゃ、大変な症例を引き継ぐことになったな・・。
今日はともかく、それ以外の6日間は<アパム>かよ。
気が重い。
ターミネーター2の最後。
『(オーベンの)泣く気持ちが分かった・・・』
涙は出ないがね(あまりにもシャレにならなくて)。
出勤早々、行き場も分からないままか・・。
とにかく詰所へ入った。即、ナースが近づいてきた。
「他の先生の患者さんですが・・」
「はい」
「高熱なんです。いきなり」
ナースがカルテの裏をめくった。
突然、39度台の発熱。
「脳梗塞後遺症で寝たきりです」
「見に行きます」
「お願いします」
病室では80台の寝たきり女性。無表情でテレビを見ている。
バルーンが入っているが、尿は混濁・・・?よく分からない。
胸の音は異常なし。SpO2は98%。肺炎は否定的、か。
いやまだ分からんぞ。
僕は詰所へ戻った。
「先生。どうですか?」
「検査を出さないと」
「検査ですか」
「採血とレントゲンに、検尿チンサ」
「お願いします」
ナースはスピッツを数本渡した。
「え?これ・・」
「採血はドクターがしますので」
「そんな病院なの?」
「そう。そんな病院なの」
メガネをしたヒロスエ似の女医が分厚い本を読んでいる。
「採血は、全部ドクター」l
僕は無念そうに採血の準備をした。
大学病院以来だな・・。
ヒロスエ似はうつむいたまま話しかけてきた。
「急変?」
「急な高熱」
「ふーん・・何を疑うの?」
「そ、そうだな。MRSAに、インフルエンザ・・」
「6月でインフルエンザ?」
「あ、いや・・」
詰所のナースたちが黙って見ている。
「ユウキ・・先生よね。MRSAって安易に口にしちゃダメじゃないの」
子供に諭すような口調で彼女はつぶやいた。可愛い顔しているが、
化粧っ気が全くない。服も非常に地味だ。
「ユウキ先生。大丈夫?」
「え?あ、ああ」
採血し、レントゲンをオーダー、検尿も自分で採取を。
高度のCRPと尿中白血球の増加。胸部レントゲンで影はなし。と思う。
「尿路感染だ。抗生剤を・・4世代で」
「何か忘れてない?」
「は?」
ヒロスエ似がまた横槍を入れる。
「ワンパターンな決め方はダメよ」
「い、いいじゃないか。高齢者だから4世代で・・」
「日ごろの培養の結果は見たの?」
「あ、いや・・」
そうだった。こんなことも、僕は・・・。
「緑膿菌と大腸菌。感受性検査からは・・・カルバペネムがいいな」
「4世代でもまあまあ感受性いいじゃない?」
「でも感受性がマシなのはカルバペネムのほうだ」
「いきなしそんな広域のを使うの?」
彼女の視線は冷たかった。
「う、いや・・」
「ユウキ先生。高齢者なのよ」
4世代抗生剤の指示を出した。
『尿路感染、特に腎盂腎炎が疑われます、と・・』
カルテに記載し、引き上げだ。
「寝たきりは、尿路結石や神経因性膀胱が多いものね」
「バルーンが日ごろ入っているから、尿路結石かな」
「さあ。それ以外だったりして」
「なな、なんだよ・・」
素っ気ない彼女は立ち上がった。
「ユウキ先生はたしか、胸部内科の先生よね」
「そうだけど」
「じゃ、1人診て」
「はい」
なぜか下手になってしまう。
「この人。59歳。RCM」
「RCM?」
「ウソ?RCMよ。循環器ドクター!」
「あ、拘束型心筋症・・」
「そうよ。しっかりしてよお、もう」
彼女は少しふくれっ面でカルテをめくった。
「3大原因疾患は否定的なんだって」
「あ、そう・・」
「知ってると思うけど」
「・・・・・」
「これが心電図。low voltageに伝導障害・・」
「う、うん・・」
「超音波はこれ。わたし消化器中心だからイマイチ分からないけど」
「ああ・・ふむふむ」
彼女は左のポケットをモゾモゾしていた。
「検査からか・・ちょっと外すわ」
彼女はダッシュで出た。
「・・・」
僕は今のうちにと、小さい本を取り出した。
3大原因疾患・・・拘束型心筋症・・・この5年、1例も見たことがない。
それほどまれな疾患だ。
というか、見逃されていたのかも。
「あったあった・・・3大原因は・・?アミロイド−シス、?好酸球増多症、?心内膜心筋線維症=EMF」
覚え方、覚え方・・
≪高速と、シンナー好きな・・鈴木あみ≫
でいくか。イマイチだな。
「なになに・・原因不明は1%で、残りは2次性・・そうなのか。知らなかった・・」
だがこういうハングリーなときは、知識の吸収力が物凄い。
こういった感覚は久しぶりだなあ。
「原因不明。<硬い心室>が本症の本質的病態である。わが国ではアミロイド−シスによるものが最多。その場合
心不全症状出現して1年後が平均余命・・・」
厳しい疾患だな・・。
学生のときは学習問題に追われ、そういう観念がなかった。人命を何だと思っていたのか・・。
「でね」
「う?」
彼女は戻っていた。
「酸素吸入、利尿剤など使用しているのね。でもコントロール、悪いみたい」
「そのようだな・・」
「主治医、先生とアパム組で変わってくれる?」
「アパム?アパムって・・」
「町長の息子。アパムってあだ名の・・本名は弘田先生」
「僕とアパム組?」
「そうよ。ここは基本的に2人主治医制」
知らなかった・・。
「ユウキ先生はアパムと2人組なのよ。オーベンコベンでね」
「オーベン?僕は・・」
「もち先生がオーベン。5年目の医者なんでしょ?」
「そうだけど」
「アパムは2年目」
「君は?」
「あたしも2年目」
こいつ、年下のくせに・・・。それより、自分が恥ずかしい。
「そうか。僕はオーベンなのか・・」
「先生の大学病院は、2年目でオーベンになった先生がいるんですって?」
「野中・・」
「近畿の医学雑誌で見たわ。顔もすごくカッコイイよね」
彼女は目を輝かせた。
「なにが・・」
「まさか、ユウキ先生の同級生ってことないよね?」
「知らん」
僕は不快感をあらわにし、病室を出た。
「じゃ、ユウキ先生。あたしは医局長に言っておくから」
「主治医交代?」
「そ!」
彼女はすごく嬉しそうだった。
なんだ。そういう相談かよ・・。
こりゃ、大変な症例を引き継ぐことになったな・・。
今日はともかく、それ以外の6日間は<アパム>かよ。
気が重い。
ターミネーター2の最後。
『(オーベンの)泣く気持ちが分かった・・・』
涙は出ないがね(あまりにもシャレにならなくて)。
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