プライベート・ナイやん 3-2 I SEE !
2005年4月12日「お?」
勝手にシマウマ?いやシロクマ?
胸が振動する。ポケベルだ。
「きたか・・」
詰所よりダイヤル。
「ユウキ先生?消化器主任の山崎」
「はい」
「大腸ファイバーしてる。見てくれ」
「じ、自分には所見は・・」
「主治医になってもらうから!さ!」
「はい!」
汗だくで走り、内視鏡室へ。
そこは人だかりができていて、カメラ所見を仰ぐことは不可能だった。
「ユウキです。来ました」
周囲はノーレスポンスで、絶えず所見に見いっていた。
シュー・シューという吸引音だけが聞こえる。
「縦走潰瘍だな。十三(じゅうぞう)潰瘍じゃないぞ」
周りがどよめいた。一体何が面白いのか・・。
消化器主任はカメラを引き上げているようだ。
「エデーマ、rednessにerosion、広範囲に・・それと縦走潰瘍」
人だかりの中の1人が熱心に検査伝票に所見を記録。
隅に置いてあるカルテを見ると・・。
『55歳男性。もとは糖尿病・高血圧。下痢で受診。感染性腸炎と考えられ抗生剤・・・夜間外来初診は弘田先生』
アパムじゃないか。
『抗生剤7日分処方。しかし下痢がおさまらず・・・・下痢止めを処方。そのときの夜間外来担当・・・弘田』
またアパム。
『昼間外来に受診。腹痛が持続、下血もみられることより沖田院長指示で入院。CF(大腸ファイバー)の予定となる』
アパム、院長にかなり怒られたんだろうなあ・・。だが、どんなキャラの院長なのか。
そのアパムが、向こうの隅にいる。びびっている様子で、みんなの輪に入っていない。
僕は彼に近づいた。
「アパ・・・弘田先生」
「ひっ・・」
「いやいや。変な用事じゃない」
「きき、き」
「?キーって何?ショッカー?」
「ひっ・・」
ダメだ、こりゃ。
「弘田先生。ペアで組むことになった・・ユウキです。よろしく」
僕らは握手した。
「弘田先生が受け持ってる患者さんを一緒に診せてもらう、わけだよね・・」
「よよ、よろしくお願いします・・」
彼は頭を下げた。
そうだ。僕は一応オーベンなんだ。
「弘田先生。僕はオーべンっていう柄じゃない。なので、同級のつもりでお願い」
「ひっ・・」
「今の大腸ファイバーの所見の患者さんは・・・何?」
「ひっ・・」
彼はどうやら僕にでなく、背後のドクターにびびっているようだ。
振り向くと周囲の人間はとっくに散らばり、検査を終えた主任が座っている。
「頼むよ。お2人さん!」
「ゆ、ユウキです。先生。この人の病名は・・」
「今僕が、所見を書き足しているとこだ」
「・・・」
「さあ、何でしょう?」
人を試す奴ばっかだな・・。こういう病院って。
ま、それが教育病院だ。
「ええっと・・腹痛・下痢・・潰瘍所見・・・」
「ふむ?」
「かか、潰瘍性大腸炎・・」
「ブーッ」
「く、クローン病」
「ブブーッ」
「・・・」
「クイズ番組じゃないよ。ユウキ先生とやら」
「す、すみません」
「すみません?それが君の口癖らしいが」
彼はシビアに僕を見つめた。
「無知であることを<知らない>で済むとでも思っているのかい?」
「い、いえ・・」
「それで済むと思うなら、君にはこの仕事は向いてない」
「・・・・・」
「いくら5年目でバイト扱いだろうと、こっちは容赦しないよ」
「・・・・・」
気が重い。
「まあいい。おいアパム」
「ひ・・」
「動脈硬化リスクが多い患者だ。IVH管理上、血糖や電解質は頻繁にモニタリングな」
「はは、はひ・・」
「虚血性大腸炎(IC)?」
僕はとっさに言葉が出た。
主任は後ろに向かって伸びをした。
「アイ・シー(了解)」
彼は所見用紙を処理、次の現場へ向かっていった。
虚血性大腸炎の患者にさっそくIVHを入れることに。
アパムが穿刺、僕が監督という奇妙なシチュエーションだ。
「消毒は終わりか。じゃ、カテランで麻酔を」
「ひ・・」
彼は鎖骨下をゆっくり麻酔した。
「引きながら・・・そうそう。引きながら・・・」
血液が少し戻った。
「アパ・・弘田先生。そうそう、今の静脈血だよね。今の角度を忘れずに」
「・・・・」
彼、わかっているのだろうか・・。
彼は同様の角度でキット注射器を穿刺した。
「弘田先生。じゃ、同様に・・血液が引けたからといって戻しすぎないように」
そう喋っている間、血液が戻ってきた。
「ひ・・」
彼の手が思わず震えた。
「弘田先生!そのまま!」
「ひふ・・・・!」
彼の額は汗だくになっていた。指はまだ震えている。
「弘田先生。右手でカテーテルをその穴に!」
彼は震える右手でカテーテルを持った。
だがどうも穴を通せない。針に糸を通すよりも遥かに簡単だ。
ためらっている間にも、穴から血液は少しずつ出ている。
そのとき部屋の出口がわずかに開いた。
「下がっててくれ!」
僕は思わず叫んだ。ドアは閉まった。
「弘田先生!」
「ふふ・・・!」
「そ、そうだ・・。弘田先生。意識を・・指先に集中するんだ」
「ゆびさ・・?」
「そうだ。指先だ。指先にすべてを・・・感情はいらん!」
次第にアパムの指の震えは止まってきた。
カテーテルは無事入り、点滴の滴下も良好だ。
「弘田先生。念のため胸の聴診とSpO2の確認もね・・・よし!いいと思う!」
「ひひ・・」
彼は少し微笑んだようだ。
廊下へ出るとヒロスエ似が待っていた。
「やあ。君だったの?」
「ブブーッ。残念でしたっ」
「さっきドア、開けようとしたろ・・?」
「さっきの、沖田院長よ」
「院長?」
「回診してたの。抜き打ち回診よ」
「そんなのありか?」
僕ら3人は歩き始めた。
「沖田院長に<下がってくれ!>とは凄いわ!」
彼女はまた目を輝かせていた。
「あなたが初めてみたいよ!」
「どこ行くの?」
「カテーテル検査よ。ユウキ先生の好きな」
「好きじゃないよ」
「循環器専門であろうお方が・・!」
「僕はカテ屋にはなりたくない」
「カテがなかったら、何のための循環器なの?」
彼女はクールに聞いてくる。圧倒されっぱなしだ。
「カテーテルができたら循環器ができる、と思うこと自体が間違いさ」
思いつきだが、けっこうキマッたセリフだな。
だが医者が人生を語りだしたら、そこで成長はおしまいってことだ。
常に反省しよう。
勝手にシマウマ?いやシロクマ?
胸が振動する。ポケベルだ。
「きたか・・」
詰所よりダイヤル。
「ユウキ先生?消化器主任の山崎」
「はい」
「大腸ファイバーしてる。見てくれ」
「じ、自分には所見は・・」
「主治医になってもらうから!さ!」
「はい!」
汗だくで走り、内視鏡室へ。
そこは人だかりができていて、カメラ所見を仰ぐことは不可能だった。
「ユウキです。来ました」
周囲はノーレスポンスで、絶えず所見に見いっていた。
シュー・シューという吸引音だけが聞こえる。
「縦走潰瘍だな。十三(じゅうぞう)潰瘍じゃないぞ」
周りがどよめいた。一体何が面白いのか・・。
消化器主任はカメラを引き上げているようだ。
「エデーマ、rednessにerosion、広範囲に・・それと縦走潰瘍」
人だかりの中の1人が熱心に検査伝票に所見を記録。
隅に置いてあるカルテを見ると・・。
『55歳男性。もとは糖尿病・高血圧。下痢で受診。感染性腸炎と考えられ抗生剤・・・夜間外来初診は弘田先生』
アパムじゃないか。
『抗生剤7日分処方。しかし下痢がおさまらず・・・・下痢止めを処方。そのときの夜間外来担当・・・弘田』
またアパム。
『昼間外来に受診。腹痛が持続、下血もみられることより沖田院長指示で入院。CF(大腸ファイバー)の予定となる』
アパム、院長にかなり怒られたんだろうなあ・・。だが、どんなキャラの院長なのか。
そのアパムが、向こうの隅にいる。びびっている様子で、みんなの輪に入っていない。
僕は彼に近づいた。
「アパ・・・弘田先生」
「ひっ・・」
「いやいや。変な用事じゃない」
「きき、き」
「?キーって何?ショッカー?」
「ひっ・・」
ダメだ、こりゃ。
「弘田先生。ペアで組むことになった・・ユウキです。よろしく」
僕らは握手した。
「弘田先生が受け持ってる患者さんを一緒に診せてもらう、わけだよね・・」
「よよ、よろしくお願いします・・」
彼は頭を下げた。
そうだ。僕は一応オーベンなんだ。
「弘田先生。僕はオーべンっていう柄じゃない。なので、同級のつもりでお願い」
「ひっ・・」
「今の大腸ファイバーの所見の患者さんは・・・何?」
「ひっ・・」
彼はどうやら僕にでなく、背後のドクターにびびっているようだ。
振り向くと周囲の人間はとっくに散らばり、検査を終えた主任が座っている。
「頼むよ。お2人さん!」
「ゆ、ユウキです。先生。この人の病名は・・」
「今僕が、所見を書き足しているとこだ」
「・・・」
「さあ、何でしょう?」
人を試す奴ばっかだな・・。こういう病院って。
ま、それが教育病院だ。
「ええっと・・腹痛・下痢・・潰瘍所見・・・」
「ふむ?」
「かか、潰瘍性大腸炎・・」
「ブーッ」
「く、クローン病」
「ブブーッ」
「・・・」
「クイズ番組じゃないよ。ユウキ先生とやら」
「す、すみません」
「すみません?それが君の口癖らしいが」
彼はシビアに僕を見つめた。
「無知であることを<知らない>で済むとでも思っているのかい?」
「い、いえ・・」
「それで済むと思うなら、君にはこの仕事は向いてない」
「・・・・・」
「いくら5年目でバイト扱いだろうと、こっちは容赦しないよ」
「・・・・・」
気が重い。
「まあいい。おいアパム」
「ひ・・」
「動脈硬化リスクが多い患者だ。IVH管理上、血糖や電解質は頻繁にモニタリングな」
「はは、はひ・・」
「虚血性大腸炎(IC)?」
僕はとっさに言葉が出た。
主任は後ろに向かって伸びをした。
「アイ・シー(了解)」
彼は所見用紙を処理、次の現場へ向かっていった。
虚血性大腸炎の患者にさっそくIVHを入れることに。
アパムが穿刺、僕が監督という奇妙なシチュエーションだ。
「消毒は終わりか。じゃ、カテランで麻酔を」
「ひ・・」
彼は鎖骨下をゆっくり麻酔した。
「引きながら・・・そうそう。引きながら・・・」
血液が少し戻った。
「アパ・・弘田先生。そうそう、今の静脈血だよね。今の角度を忘れずに」
「・・・・」
彼、わかっているのだろうか・・。
彼は同様の角度でキット注射器を穿刺した。
「弘田先生。じゃ、同様に・・血液が引けたからといって戻しすぎないように」
そう喋っている間、血液が戻ってきた。
「ひ・・」
彼の手が思わず震えた。
「弘田先生!そのまま!」
「ひふ・・・・!」
彼の額は汗だくになっていた。指はまだ震えている。
「弘田先生。右手でカテーテルをその穴に!」
彼は震える右手でカテーテルを持った。
だがどうも穴を通せない。針に糸を通すよりも遥かに簡単だ。
ためらっている間にも、穴から血液は少しずつ出ている。
そのとき部屋の出口がわずかに開いた。
「下がっててくれ!」
僕は思わず叫んだ。ドアは閉まった。
「弘田先生!」
「ふふ・・・!」
「そ、そうだ・・。弘田先生。意識を・・指先に集中するんだ」
「ゆびさ・・?」
「そうだ。指先だ。指先にすべてを・・・感情はいらん!」
次第にアパムの指の震えは止まってきた。
カテーテルは無事入り、点滴の滴下も良好だ。
「弘田先生。念のため胸の聴診とSpO2の確認もね・・・よし!いいと思う!」
「ひひ・・」
彼は少し微笑んだようだ。
廊下へ出るとヒロスエ似が待っていた。
「やあ。君だったの?」
「ブブーッ。残念でしたっ」
「さっきドア、開けようとしたろ・・?」
「さっきの、沖田院長よ」
「院長?」
「回診してたの。抜き打ち回診よ」
「そんなのありか?」
僕ら3人は歩き始めた。
「沖田院長に<下がってくれ!>とは凄いわ!」
彼女はまた目を輝かせていた。
「あなたが初めてみたいよ!」
「どこ行くの?」
「カテーテル検査よ。ユウキ先生の好きな」
「好きじゃないよ」
「循環器専門であろうお方が・・!」
「僕はカテ屋にはなりたくない」
「カテがなかったら、何のための循環器なの?」
彼女はクールに聞いてくる。圧倒されっぱなしだ。
「カテーテルができたら循環器ができる、と思うこと自体が間違いさ」
思いつきだが、けっこうキマッたセリフだな。
だが医者が人生を語りだしたら、そこで成長はおしまいってことだ。
常に反省しよう。
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