プライベート・ナイやん 3-7 久々の怒り!
2005年4月18日タクシーをコールしたが、町には1台も残ってないという。
僕は仕方なく別番号へ。救急隊だ。
「赤ん坊が高熱で」
「ええっと、場所は?」
「場所は・・・ではお願いします」
「搬送先は救急病院?」
「ええ」
「小児の救急病院が隣町に・・」
「そ、それは・・・そうだ。ぼ、僕も調子が悪いんだ!」
なんとか説得し、救急車を到着させた。
サイレンに驚いてか、周囲は人だかりが出来始めていた。
開けっ放しの玄関で僕らは出くわした。
「ああ!お父さん!ダメだよそれ!」
救急隊の1人が叫んだ。
「このベッドに寝かせて!」
赤ん坊を奪われ、厳重なベッドに寝かされた。
「お父さんは歩ける?」
「ええ」
周囲のオバサンたちは興味深そうにこちらをジロジロ見ていた。
「何、見てるんだよ!」
輪が広がると同時に、救急車は走り出した。
ダッシュダッシュ!バンババン!
若い救急隊が赤ん坊を両手で支えている。
「しかしホントにあの病院でいいんですかね?」
「ええ!いいんですって!」
「あの病院、もうすぐ閉鎖なんですってよ」
「は?」
「そうだよな!」
彼は運転席に呼びかけた。
「そうですよ」
返事が返ってきた。
「それもあって、そこはあまりお勧めはできないんですけどね」
そうなのか・・・。これは真相を探らないと。
また散髪屋でも行くか・・。
あんな活気のある病院が、閉鎖だなんて・・。
「着きました!」
ガラガラと横のドア、後ろのトランク部も開けられた。
入り口では事務員が1人・・・いや、白衣の連中が出てきた出てきた。
駆け寄ってきた職員達は歩みが遅くなってきた。
僕は赤ん坊を取り出し、そのうちの1人に渡そうとした。
「すまないが、院長の・・」
「おいこら!待たんか!」
救急隊が走ってきた。
「父親だろうが!」
「ち、違う!」
「な、なに?」
隊員は物事を深く考え込んだせいか、少しためらった。
「あとは私達がやりますんで」
レジデントが軽く応対し、なんとか彼らを帰せた。
僕は外来へ走った。
「弘田先生!」
カーテンを開けると、すでにアンビュー・心臓マッサージ中だ。
ナースがマッサージしている。
「おい・・・これって。アンビューして何分だ?」
「ごご・・5分」
「応援がいないってウソだろ?何人もそこにいるぞ!」
「よよ・・・呼んだん・・ですが・・ですが・・ふふ」
僕は挿管チューブを準備し取り掛かった。
「入るかな・・自信ないけど・・」
幸い、声門は確認できた。チューブ挿入、スタイレット抜去、呼吸器へ。
「弘田先生。ボスミンはいったのか?」
「ひ、ひいえ・・」
モニターを見ると、脈はもう復活している。
「看護婦さん。手を離したままで・・・!」
ナースはつっ立っている。
「脈は出ている。おい!血圧を測定!」
せっかちな僕の嫌な癖が出た。
ナースは1秒遅れで気づき、血圧測定を始めた。
でも、これでいいのだ。
弘田先生は大汗で固まっていた。
「すす、す、すみません・・」
「君が医局に連絡しても、彼らは電話に出なかったってことか?」
「・・・」
「ナメてんのか、あいつら・・!」
僕は外来を出た。4,5人が立ち話している。事務員が赤ん坊をあやしている。
「外来のこの状況、知らなかったのか?」
話かけても、彼らから応答はない。ひたすら囁き声で喋っている。
「例えば・・君!」
偉そうに君、と1人を指差した。
「外来から医局にコールがあっただろ?君らはどこに?」
「えっ?どこにって・・・医局」
「アパムが電話したんだよ?さっき。どうして誰も出なかった!」
「電話は鳴ってたけど・・」
「?」
「まあとりあえず、誰かいるし」
「その誰かって、君らじゃないか!」
「はあ・・」
ダメだ。こっちが1人で怒ってるだけだ。
「たしか先生は、バイトで来られる先生ですよね」
彼は冷淡に言い返してきた。
「そうだけど・・」
「そういった意見は、上を通していただけますか?」
そう言い残し、彼らは去っていった。
「いつもですよ、先生」
ナースが横からつぶやいた。
「弘田先生に対しては、彼らいつもああなんです」
「なんだ?嫌われ者なのか?」
「町長の息子でね。院長にも声がかかってて」
「それで周りが快く思わないわけか?」
「だと思います」
「この病院も、町長の息がかかってるのか・・そうだ!」
「はい?」
中年ナースは立ち止まった。
「ちょっと小耳に挟んだんだが」
「ええ、ええ」
「この病院って・・」
「はい?」
「閉鎖するって噂」
「エーーーーッ!」
彼女は目を丸くして後ずさりした。
「ウソーー!」
「いや、それはその、噂で!うわさ!」
「イヤア!」
赤ん坊を抱えた事務当直が走ってきた。
「看護婦さん、大丈夫でっか?」
「ひぃい!」
「この男が、何か?」
事務員は僕の腕をつかんだ。
「違う!違う!」
「何をした!」
「赤ん坊が・・また起きる!」
僕は赤ん坊をまた受け取った。
「じゃあ弘田先生。あとは指示通りで。困ったな。また家に戻らないと・・」
中年ナースが鍵を取り出した。
「す、すみません。もうすぐ深夜との交代ですので、私が」
「送ってくれる?こりゃどうも・・」
助手席で子供を抱えたまま、車は町をスイスイ走っていた。
「ゆっくり頼みます」
「分かってます」
ナースは白衣のままだ。
「僕がさっき言ったのは・・」
「すごいショックだったわ」
「ホントかどうかは分かりませんよ」
「いえ。とうとう噂がホンモノになったわけやね」
「噂、やっぱあったんですか・・」
「乗っ取り屋がね、来るって噂があったの!」
乗っ取り屋・・・?
「今どこもそうだけど、いろいろ病院が破綻してるでしょ?」
「破綻?それって倒産・・?」
「資金の繰りがうまくいかなくなるってこと」
「資金不足ですか・・」
「すると経営者が変わるのね」
「病院は潰れないわけですか・・」
「なんか、2通りあるって聞くわね。従業員は変わらず経営陣が交代するか、あるいは従業員自体が・・」
「?」
「こぞってクビになるか」
「でも従業員がクビになったら、病院の経営が・・」
「それは彼らがやるのよ」
「乗っ取り屋?」
「そう。ていうか、彼らがその手続きをやって、違う経営者に売るの」
「リセット屋ですね・・」
車は家の前に着いた。
「どうも」
返事はなく、車はブーンと去っていった。もう朝の5時だ。早朝に母親が戻ってくるという。
当直を早めに切り上げて戻ってきてくれるんだろう。
しかし・・・この子の父親は?
母子家庭なのか?
赤ん坊はスヤスヤ寝たまま。なんとか乗り越えれそうだ。あと数時間、頑張ろう。
僕は仕方なく別番号へ。救急隊だ。
「赤ん坊が高熱で」
「ええっと、場所は?」
「場所は・・・ではお願いします」
「搬送先は救急病院?」
「ええ」
「小児の救急病院が隣町に・・」
「そ、それは・・・そうだ。ぼ、僕も調子が悪いんだ!」
なんとか説得し、救急車を到着させた。
サイレンに驚いてか、周囲は人だかりが出来始めていた。
開けっ放しの玄関で僕らは出くわした。
「ああ!お父さん!ダメだよそれ!」
救急隊の1人が叫んだ。
「このベッドに寝かせて!」
赤ん坊を奪われ、厳重なベッドに寝かされた。
「お父さんは歩ける?」
「ええ」
周囲のオバサンたちは興味深そうにこちらをジロジロ見ていた。
「何、見てるんだよ!」
輪が広がると同時に、救急車は走り出した。
ダッシュダッシュ!バンババン!
若い救急隊が赤ん坊を両手で支えている。
「しかしホントにあの病院でいいんですかね?」
「ええ!いいんですって!」
「あの病院、もうすぐ閉鎖なんですってよ」
「は?」
「そうだよな!」
彼は運転席に呼びかけた。
「そうですよ」
返事が返ってきた。
「それもあって、そこはあまりお勧めはできないんですけどね」
そうなのか・・・。これは真相を探らないと。
また散髪屋でも行くか・・。
あんな活気のある病院が、閉鎖だなんて・・。
「着きました!」
ガラガラと横のドア、後ろのトランク部も開けられた。
入り口では事務員が1人・・・いや、白衣の連中が出てきた出てきた。
駆け寄ってきた職員達は歩みが遅くなってきた。
僕は赤ん坊を取り出し、そのうちの1人に渡そうとした。
「すまないが、院長の・・」
「おいこら!待たんか!」
救急隊が走ってきた。
「父親だろうが!」
「ち、違う!」
「な、なに?」
隊員は物事を深く考え込んだせいか、少しためらった。
「あとは私達がやりますんで」
レジデントが軽く応対し、なんとか彼らを帰せた。
僕は外来へ走った。
「弘田先生!」
カーテンを開けると、すでにアンビュー・心臓マッサージ中だ。
ナースがマッサージしている。
「おい・・・これって。アンビューして何分だ?」
「ごご・・5分」
「応援がいないってウソだろ?何人もそこにいるぞ!」
「よよ・・・呼んだん・・ですが・・ですが・・ふふ」
僕は挿管チューブを準備し取り掛かった。
「入るかな・・自信ないけど・・」
幸い、声門は確認できた。チューブ挿入、スタイレット抜去、呼吸器へ。
「弘田先生。ボスミンはいったのか?」
「ひ、ひいえ・・」
モニターを見ると、脈はもう復活している。
「看護婦さん。手を離したままで・・・!」
ナースはつっ立っている。
「脈は出ている。おい!血圧を測定!」
せっかちな僕の嫌な癖が出た。
ナースは1秒遅れで気づき、血圧測定を始めた。
でも、これでいいのだ。
弘田先生は大汗で固まっていた。
「すす、す、すみません・・」
「君が医局に連絡しても、彼らは電話に出なかったってことか?」
「・・・」
「ナメてんのか、あいつら・・!」
僕は外来を出た。4,5人が立ち話している。事務員が赤ん坊をあやしている。
「外来のこの状況、知らなかったのか?」
話かけても、彼らから応答はない。ひたすら囁き声で喋っている。
「例えば・・君!」
偉そうに君、と1人を指差した。
「外来から医局にコールがあっただろ?君らはどこに?」
「えっ?どこにって・・・医局」
「アパムが電話したんだよ?さっき。どうして誰も出なかった!」
「電話は鳴ってたけど・・」
「?」
「まあとりあえず、誰かいるし」
「その誰かって、君らじゃないか!」
「はあ・・」
ダメだ。こっちが1人で怒ってるだけだ。
「たしか先生は、バイトで来られる先生ですよね」
彼は冷淡に言い返してきた。
「そうだけど・・」
「そういった意見は、上を通していただけますか?」
そう言い残し、彼らは去っていった。
「いつもですよ、先生」
ナースが横からつぶやいた。
「弘田先生に対しては、彼らいつもああなんです」
「なんだ?嫌われ者なのか?」
「町長の息子でね。院長にも声がかかってて」
「それで周りが快く思わないわけか?」
「だと思います」
「この病院も、町長の息がかかってるのか・・そうだ!」
「はい?」
中年ナースは立ち止まった。
「ちょっと小耳に挟んだんだが」
「ええ、ええ」
「この病院って・・」
「はい?」
「閉鎖するって噂」
「エーーーーッ!」
彼女は目を丸くして後ずさりした。
「ウソーー!」
「いや、それはその、噂で!うわさ!」
「イヤア!」
赤ん坊を抱えた事務当直が走ってきた。
「看護婦さん、大丈夫でっか?」
「ひぃい!」
「この男が、何か?」
事務員は僕の腕をつかんだ。
「違う!違う!」
「何をした!」
「赤ん坊が・・また起きる!」
僕は赤ん坊をまた受け取った。
「じゃあ弘田先生。あとは指示通りで。困ったな。また家に戻らないと・・」
中年ナースが鍵を取り出した。
「す、すみません。もうすぐ深夜との交代ですので、私が」
「送ってくれる?こりゃどうも・・」
助手席で子供を抱えたまま、車は町をスイスイ走っていた。
「ゆっくり頼みます」
「分かってます」
ナースは白衣のままだ。
「僕がさっき言ったのは・・」
「すごいショックだったわ」
「ホントかどうかは分かりませんよ」
「いえ。とうとう噂がホンモノになったわけやね」
「噂、やっぱあったんですか・・」
「乗っ取り屋がね、来るって噂があったの!」
乗っ取り屋・・・?
「今どこもそうだけど、いろいろ病院が破綻してるでしょ?」
「破綻?それって倒産・・?」
「資金の繰りがうまくいかなくなるってこと」
「資金不足ですか・・」
「すると経営者が変わるのね」
「病院は潰れないわけですか・・」
「なんか、2通りあるって聞くわね。従業員は変わらず経営陣が交代するか、あるいは従業員自体が・・」
「?」
「こぞってクビになるか」
「でも従業員がクビになったら、病院の経営が・・」
「それは彼らがやるのよ」
「乗っ取り屋?」
「そう。ていうか、彼らがその手続きをやって、違う経営者に売るの」
「リセット屋ですね・・」
車は家の前に着いた。
「どうも」
返事はなく、車はブーンと去っていった。もう朝の5時だ。早朝に母親が戻ってくるという。
当直を早めに切り上げて戻ってきてくれるんだろう。
しかし・・・この子の父親は?
母子家庭なのか?
赤ん坊はスヤスヤ寝たまま。なんとか乗り越えれそうだ。あと数時間、頑張ろう。
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