「弘田先生。どした?」
「かか、カンファがああ、あって・・」
「カンファレンス・・・?入院患者の報告をしたんだろ?」
「でで・・明日までにいろいろと・・・ふ・・・やることを」
「明日まで?何を?」
「血管径の狭窄度を1本ずつ・・」

カテーテル検査をした患者の狭窄した血管を、明日バルーンで
広げる予定らしい。

その前に今日のデータを分析して、狭窄度をきちんと測定しておく
必要がある。明日の朝に術者がそれを見て、方針を決める。

とにかく重大な任務だ。

「パソコンで測定するんだろ?どの患者さん?」
「3枝病変があって・・てて」
「だから。パソコンで測定すれば?上の誰かに頼んででも・・」
「やや、やってもららひひました・・・ささ、3時間もかか・・・って」
「なんだ。してるのか。ならいいじゃないか?」
「そ、それが・・・きき、消えてしまって・・」
「上の先生?そりゃ仕事が終わったら消えるだろうよ」
「ちち・・ちがうちがう・・ひっ」
「何が?」

アパムが一瞬沈黙した。

「パソコンのでで、データがフリーズしし・・して」
「まさか・・」
「ひ・・」
「保存する前に全部消えたとか?」
「ふ・・」
「3時間も苦労したデータを?」
「まま・・マックだから」
「そりゃマックはフリーズよくするだろうよ!」
「どど、どうしたら・・」
「どうしようもないだろ!」

トイレで叫んでいる僕を不振に思った店員がじっと見ている。

「せ・・せせ、先生。よよ、よく分からないんでで・・今から」
「今から?僕が?なにを?なぜにいい?微笑むの〜か〜?」
「?」
「酒も抜けてない。夜も遅い。それに遠方だぞ!」
「・・・」
「そこはだれもいないのか・・?」
「先ほどみみ、みんな帰ってしまって」
「帰ってから電話よこすなよ!」
「ひ・・」

ダメだ。これでは『レインマン』のやり取りだ。

「気が重いな・・」
「ひ・・」
「明日のカテーテルの術者は?」
「そ、それが・・院長」
「それマズイだろ!」

ここから家に帰って半時間。そこから車で1時間。作業が0時から始まって、4時に終わって・・。
気が遠くなってきた。

だが・・・。

「わかった・・・なるべく早く行く」
「ふふ・・」
「食い物とか用意しといてくれないか」
「くい・・」
「はいはい、もういいよ!」

こりゃ大変だ。僕はボックス席に戻った。

中は知らない間に和気あいあいとなっていた。

「おお!女泣かせのご登場!」
既に酔っ払った品川君がミーコの肩を抱いていた。
「そこのサーちゃんが言ってたよ!隅に置けないぜえ!」

ジャイ子が腕組みしている。
「なんか、すっごい吼えてんの!ワンワン!」
「クンクン!」
卸業者は彼女の膝で泥酔していた。うつ伏せだ。

「何やってんだよ・・」

残りのジャイ子が立ち上がった。
「余りだけど、いい〜?」
「わ!寄るな!」
「余りどうし、楽しもうよ〜!」
「余り・・アマリ・・?」
「ふむ?」
「ア〜マ〜リルガ〜!あたためて〜!あげよ〜う!」

品川君も顔を真っ赤にしながら歌ってきた。
「こんなにも〜!あいしてるぅ〜!」
彼はミーコの頬っぺたにキスし始めた。

「すまないが、急用だ!おい!業者!」
業者はうつむいたまま。意識不明だ。
「金の払いは頼んだぞ!」

僕は長い廊下をひた走った。

「ダッシュ!ダッシュ!バンバンバ・・・!うわ!」
つまづいてゴロゴロ回転しながら玄関のドアを押しのけた。
「てて・・・!」

ゆっくり立ち上がり、車道まで歩いた。

「またこれかよ・・ヘイ!タクシー!」
後ろに小学生はいなかった。

待ってろよ。アパム・・。いや、もう「レイ」と呼ぶべきか。

『レイ!いっちょかましたろぜ!』

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