プライベート・ナイやん 3-14 哀・席
2005年4月22日出て行こうとした副院長の赤井先生を呼び止めた。
「こんにちは、赤井先生!」
「・・?用は?」
「今日の晩も、どうしても・・」
「何?」
「院長の家族の介護を・・」
「お願いしますね」
「先週はいろいろと迷惑をおかけして」
「みたいだね」
彼は冷淡に答えるだけだった。
「娘さんからはかなり言われまして」
「らしいね」
「家を出ても追いかけられて・・」
「そのようだね」
「今日は弘田先生の患者さんがIABPつきましたし・・」
「で?」
「自分もこの病院で泊まりたいのですが」
「ダメです」
「・・・」
「弘田君には、CCUで患者さんに付き添ってもらいます」
「・・・」
「話はもうないね?以上」
クールな副院長は部屋を出た。
患者の横ではIABPが拍動している。
「波がうまく乗ってないな・・」
僕はダイヤルを動かした。心拍との時相が合わないと意味がない。
「これでいい」
すまないな、アパム・・。
彼は涙目で、隅でおびえていた。
コベンの弘田先生の患者を一緒に回診。
先日いた患者のほとんどが退院している。
さすが平均在院日数12日だ。日本でも屈指だろう。
「弘田先生。この60歳の男性は・・」
「ふ、不安定狭心症・・」
「カテは?」
「2日後」
「すまないが、頑張ってね。今は症状は・・」
「ないです」
「でも糖尿病があるのか。痛みを感じてないだけ?心電図は・・」
連日記録の心電図ではSTが徐々に下がってきている。
「これ、どんどん下がってきてるな・・2ミリも」
「やや、薬剤はこの、ように・・」
「ミリスロール、シグマートか。点滴は何日目?」
「ふ、2日目」
中堅ドクターが現れた。
「オーベン!しっかり教えろよ!あっはは」
「これはどうも」
「アパム!今日は泊まりだな!」
「す、すぐ・・・降ります。す、すぐ・・」
彼はうつむいた。
「ミリスロールを2日目・・」
僕が続けようとしたが、中堅医師が入ってくる。
「漫然と治療しないようにね。アパム!」
「ひ・・」
「前も言っただろ。亜硝酸剤の耐性!」
「たた・・」
「俺がこの前、みんなの前で講義したろうが!ミリスロールなら耐性は2日で
きてしまう!ニトロールのほう使えって!」
「にに・・・」
「人の話聞け!アパム!だからアパムなんだ!」
僕が先日<うさぎさん>呼ばわりされてたのを思い出すな・・。
「弘田先生。気にするな。循環器の医者はあんなタイプが多い」
「ひ・・・」
「身の程知らずさ。裸の王様」
「は、はだ・・」
「冷静さを失っていることすら気づいてない。僕はね。動揺したりカッとなりそうなときは・・」
彼は時計を見ている。
「おい先生!聞いてるのか!」
「ひっ?」
「人の話を聞くんだよ!」
「ひ・・・!」
「あ・・・す、すまない」
僕も気をつけよう。
CCUでは10人余りが人工呼吸器など何がしかの機械が装着されている。
あちこちでシューパーか、ピコピコだ。
IABPのこちらはギットンガッタン、と一番せわしい。
「弘田先生。指示を見せて・・」
「ひ・・」
「夜間はACT(凝固時間)の測定が何度もあって大変だね」
「・・・」
「くれぐれも点滴の入ってる方から採血しないようにね・・」
向こうの人工呼吸器のとこに、ヒロスエ似を発見。
「じゃ、僕はちょっと外すので」
「・・・」
呼吸器のほうへ歩いた。
彼女は座って重症盤と格闘している。
「板に穴が開きそうだな・・」
「ユウキ先生?」
「お疲れさんだったな。カテは」
「も、その話題・・・今日はやめてくれる?」
「わかったわかった」
間が続いた。
「はああ〜」
彼女がため息をついていた。
もう1人、女医が現れた。背の低いこぢんまりとした子だ。
「ジェニー。RIの写真を一緒に見てくれる?」
ジェニー?ヒロスエ似のあだ名は、<ジェニー>なのか。
チビ子はこっちを向いた。彼女は<小森>と名札がある。
「RI、読める?」
「所見?」
「そう。心筋シンチ」
「ああ。なんとか」
「お願いします。わたしは小森」
小森、子守・・・。子守・・・。
ジェニーと僕は近くのシャーカステンに近寄った。
小森が提示したのはピロリン酸とタリウムの分だ。
つまり急性心筋梗塞の急性期に撮影するヤツだ。
「ピロリン酸では下壁・後壁に集積。タリウムでは同部に欠損・・」
「うん・・」
「で、いいのよね?」
「右心室も巻き込んでる。うっすらと・・」
「うっすら・・?」
僕はフィルムを斜めにかざした。
「角度を変えてみたら、新たな発見があることも」
「ほんとだね」
小森は感心しながらフィルムに見入った。
「スリット病変みたいだね」
小森がそう言うと、ジェニーは少しうつむいた。
「どしたの?ジェニー・・・」
たぶんまた思い出したんだろう。
「ジェニー・・さん、でいいの?」
僕は彼女の後ろをつけながら話した。
「うん。そういうことにしといて」
「名前を教えてよ」
「うん。まあ、いいじゃない」
彼女は廊下へ出た。
「あたし、これから食べてくる」
「じゃ、僕も」
「先生は彼女と行かなきゃ」
「へえ?」
彼女の指差す方向を振り向くと・・。
アパムが角からこっちを見ている。
「いいんだ。彼は・・」
「先生が唯一の友人よ」
「じゃ、彼も一緒に」
「あ。でも重症いるでしょ?」
「そうだな。どっちかは待機を・・弘田先生!」
「ひっ・・?」
「すまないが、CCUで待機を!」
彼女はすでに数歩先を歩いていた。
「ま、待って!」
「ふつう、後輩から行かさない?」
「な・・・!」
僕はしばらくした後、アパムへ近づいた。
「弘田先生。お願いだが・・」
「ひ?」
「ついてこないでくれ・・」
言い残し、結局僕は食堂へ向かった。
彼女は既に席を離れたとこだった。
「は、はええ・・はええよ!」
「何?」
「もう食べたの!」
「うん。ごゆっくり」
彼女が出て行くかわりに、院長が入ってきた。
「ウホン!」
僕はトレイを向こうの隅まで持っていったが・・。
院長は・・ヤベ。ここまでやってきた。
他の職員がどんどん逃げていく。
お茶を飲みながら出て行く者も。
「座るぞ!」
「ひっ・・!」
「こんにちは、赤井先生!」
「・・?用は?」
「今日の晩も、どうしても・・」
「何?」
「院長の家族の介護を・・」
「お願いしますね」
「先週はいろいろと迷惑をおかけして」
「みたいだね」
彼は冷淡に答えるだけだった。
「娘さんからはかなり言われまして」
「らしいね」
「家を出ても追いかけられて・・」
「そのようだね」
「今日は弘田先生の患者さんがIABPつきましたし・・」
「で?」
「自分もこの病院で泊まりたいのですが」
「ダメです」
「・・・」
「弘田君には、CCUで患者さんに付き添ってもらいます」
「・・・」
「話はもうないね?以上」
クールな副院長は部屋を出た。
患者の横ではIABPが拍動している。
「波がうまく乗ってないな・・」
僕はダイヤルを動かした。心拍との時相が合わないと意味がない。
「これでいい」
すまないな、アパム・・。
彼は涙目で、隅でおびえていた。
コベンの弘田先生の患者を一緒に回診。
先日いた患者のほとんどが退院している。
さすが平均在院日数12日だ。日本でも屈指だろう。
「弘田先生。この60歳の男性は・・」
「ふ、不安定狭心症・・」
「カテは?」
「2日後」
「すまないが、頑張ってね。今は症状は・・」
「ないです」
「でも糖尿病があるのか。痛みを感じてないだけ?心電図は・・」
連日記録の心電図ではSTが徐々に下がってきている。
「これ、どんどん下がってきてるな・・2ミリも」
「やや、薬剤はこの、ように・・」
「ミリスロール、シグマートか。点滴は何日目?」
「ふ、2日目」
中堅ドクターが現れた。
「オーベン!しっかり教えろよ!あっはは」
「これはどうも」
「アパム!今日は泊まりだな!」
「す、すぐ・・・降ります。す、すぐ・・」
彼はうつむいた。
「ミリスロールを2日目・・」
僕が続けようとしたが、中堅医師が入ってくる。
「漫然と治療しないようにね。アパム!」
「ひ・・」
「前も言っただろ。亜硝酸剤の耐性!」
「たた・・」
「俺がこの前、みんなの前で講義したろうが!ミリスロールなら耐性は2日で
きてしまう!ニトロールのほう使えって!」
「にに・・・」
「人の話聞け!アパム!だからアパムなんだ!」
僕が先日<うさぎさん>呼ばわりされてたのを思い出すな・・。
「弘田先生。気にするな。循環器の医者はあんなタイプが多い」
「ひ・・・」
「身の程知らずさ。裸の王様」
「は、はだ・・」
「冷静さを失っていることすら気づいてない。僕はね。動揺したりカッとなりそうなときは・・」
彼は時計を見ている。
「おい先生!聞いてるのか!」
「ひっ?」
「人の話を聞くんだよ!」
「ひ・・・!」
「あ・・・す、すまない」
僕も気をつけよう。
CCUでは10人余りが人工呼吸器など何がしかの機械が装着されている。
あちこちでシューパーか、ピコピコだ。
IABPのこちらはギットンガッタン、と一番せわしい。
「弘田先生。指示を見せて・・」
「ひ・・」
「夜間はACT(凝固時間)の測定が何度もあって大変だね」
「・・・」
「くれぐれも点滴の入ってる方から採血しないようにね・・」
向こうの人工呼吸器のとこに、ヒロスエ似を発見。
「じゃ、僕はちょっと外すので」
「・・・」
呼吸器のほうへ歩いた。
彼女は座って重症盤と格闘している。
「板に穴が開きそうだな・・」
「ユウキ先生?」
「お疲れさんだったな。カテは」
「も、その話題・・・今日はやめてくれる?」
「わかったわかった」
間が続いた。
「はああ〜」
彼女がため息をついていた。
もう1人、女医が現れた。背の低いこぢんまりとした子だ。
「ジェニー。RIの写真を一緒に見てくれる?」
ジェニー?ヒロスエ似のあだ名は、<ジェニー>なのか。
チビ子はこっちを向いた。彼女は<小森>と名札がある。
「RI、読める?」
「所見?」
「そう。心筋シンチ」
「ああ。なんとか」
「お願いします。わたしは小森」
小森、子守・・・。子守・・・。
ジェニーと僕は近くのシャーカステンに近寄った。
小森が提示したのはピロリン酸とタリウムの分だ。
つまり急性心筋梗塞の急性期に撮影するヤツだ。
「ピロリン酸では下壁・後壁に集積。タリウムでは同部に欠損・・」
「うん・・」
「で、いいのよね?」
「右心室も巻き込んでる。うっすらと・・」
「うっすら・・?」
僕はフィルムを斜めにかざした。
「角度を変えてみたら、新たな発見があることも」
「ほんとだね」
小森は感心しながらフィルムに見入った。
「スリット病変みたいだね」
小森がそう言うと、ジェニーは少しうつむいた。
「どしたの?ジェニー・・・」
たぶんまた思い出したんだろう。
「ジェニー・・さん、でいいの?」
僕は彼女の後ろをつけながら話した。
「うん。そういうことにしといて」
「名前を教えてよ」
「うん。まあ、いいじゃない」
彼女は廊下へ出た。
「あたし、これから食べてくる」
「じゃ、僕も」
「先生は彼女と行かなきゃ」
「へえ?」
彼女の指差す方向を振り向くと・・。
アパムが角からこっちを見ている。
「いいんだ。彼は・・」
「先生が唯一の友人よ」
「じゃ、彼も一緒に」
「あ。でも重症いるでしょ?」
「そうだな。どっちかは待機を・・弘田先生!」
「ひっ・・?」
「すまないが、CCUで待機を!」
彼女はすでに数歩先を歩いていた。
「ま、待って!」
「ふつう、後輩から行かさない?」
「な・・・!」
僕はしばらくした後、アパムへ近づいた。
「弘田先生。お願いだが・・」
「ひ?」
「ついてこないでくれ・・」
言い残し、結局僕は食堂へ向かった。
彼女は既に席を離れたとこだった。
「は、はええ・・はええよ!」
「何?」
「もう食べたの!」
「うん。ごゆっくり」
彼女が出て行くかわりに、院長が入ってきた。
「ウホン!」
僕はトレイを向こうの隅まで持っていったが・・。
院長は・・ヤベ。ここまでやってきた。
他の職員がどんどん逃げていく。
お茶を飲みながら出て行く者も。
「座るぞ!」
「ひっ・・!」
コメント