プライベート・ナイやん 3-18 僕じゃダメ?
2005年4月26日中堅医者は後ろから首を掴まれた。
「はぐぐ・・!」
「私語は禁止」
副院長だ。中堅医師は追い出された。
「さ、早く処置して」
僕らは協力的に呼吸器のセッティングを行った。
「こっちも呼吸が・・」
後ろのレジデントが呟いた。
50代の男性だ。カルテには・・胃癌のターミナル、とある。
血ガスでは酸素が低いが二酸化炭素はたまってない。
レントゲンより胸水貯留によるものと思われる。
栄養状態不良のためか、転移によるものか・・。
赤井先生はレジデントに歩み寄った。
「どうします?」
「ターミナルの方ですし・・」
「だから?」
赤井先生はキッと睨んだ。
「挿管して呼吸器というのは・・」
「家族は何と?」
「機械の一方的な呼吸なら、呼吸器は見送りたいと」
「君は?」
「え・・」
「同じ?」
「う・・・」
「この方を、家族ともう1度・・・」
「・・・」
「会わせたくない?」
「そ、そりゃ・・」
赤井先生は肘でレジデントを押しのけた。
「君が死になさい。さ、ユウキ先生」
「はい」
「挿管の準備。家族には僕がもう1度話してくる」
レジデントは後ずさりして黙っている。
「君ね。人工呼吸器がすべて強制換気じゃないでしょ」
「は、はい・・」
「プレッシャサポートで完全自発呼吸だってできる」
「は、はい・・」
「もう、辞めどきですね・・・」
レジデントはシクシク泣き出し、出て行った。
そのくらいのことで、泣くなよ・・・!
階段でジェニーとすれ違った。
「ジェ・・・さっきはありがとう・・・!」
「え?何が?」
「ほら、挿管してもらって」
「いえいえ。先輩が何をおっしゃいますか」
落ち込む・・!
「経鼻挿管は、僕はしたことない。また教えて・・」
「あ、あれは偶然入ったんです」
「え?」
「あたし、チューブの入り口に耳、当ててましたけど」
「ああ」
「患者さん、呼吸してなかったでしょ?」
「そうだな。呼吸は止まってた。じゃあ何を聞いて・・?」
「だから!偶然!でもやるしかなかったし!」
彼女はグーでガッツポーズを一瞬構え、また階段を下りていった。
ええなあ、彼女。なんか、生き生きしていて。
僕の住む村には、ああいう子はいない。
デートしたいな・・。
あわわ。何を一体?
子守にでかける直前、病棟へ。
「弘田先生。変わりは?」
「あっ・・」
彼は僕に気づき、少し微笑んだ。
何かテレパシーでも通じたか。
「こ、ここ・・」
彼はカルテの字を指差した。彼はカルテの記載に関しては几帳面で、
僕の言ったこと一字一句までも・・そのまま写している。
「『先週、オーベンより抗生剤の指示を頂くが、3日後の判定でもCRPは悪化、
本日も横ばい』・・・ケンカ売ってるのか?」
「ひ・・」
彼はまた少し微笑んだ。
「わかったよ。変更だ。セフェム2世代が無効か。4世代へ・・」
「そ、それと・・」
「新入院か。低カリウムの中年女性。負荷試験とか大変だな」
カンファでいろんな負荷試験の指示が出たようだ。
「救急病院でも教育病院ってとこは、大変だな・・。症例集めでね。
おいおい!何を書いてるんだ?」
なにやらメモをしているアパムの腕をつかんだ。
油断ならないな・・!
「中年女性だけど、利尿剤や下剤を服用してないかも確認しといてね。その女性は・・太ってる?」
「は、はいい」
「ダイエット目的でそれらを飲む女性が増えたからね」
「ひ・・」
「画像では何も?」
腹部CT、超音波ではこれといったものなし。
「弘田先生。RIは?」
「らら、来週・・」
「遅いな。大学病院も予約で殺されたよ」
僕は放射線部へ電話した。
「すまないが。急いでる患者さんがいてね。アルドステロン症の疑いが・・ああ、副腎癌ってことも」
「予約の枠がいっぱいでして」
「検査のいかんによってはオペかどうかが決まる。これは急ぐんだよ」
「時間外になってしまいますので・・」
「カンファでも教授・・いや、院長が急げとね」
「いい、院長が?」
僕の常套手段だ。
しばらくの沈黙のあと、上司とおぼしき技師が電話に出た。
「わかりました。では明日・・」
「アパム!検査は自分で予約しろ!」
タクシーの待つ玄関へ。
鬱だ。あの家に行くのが怖い。でも僕が当番だから仕方ない。
院長も許してくれてるようだし・・。
タクシーに乗ったとたん、事務の受付嬢(中年)が走ってきた。
「あのですね。ユウキ先生って先生?」
「そうですよ」
「すみません。先生が多すぎて。あのですね」
何だよ。この人の喋り方・・。
ま、なんかの時に使えそうな言葉だな。
「あのですね。赤ん坊の母親の方が・・」
「何です・・?僕ではダメですか?」
「あのですね。<先日は申し訳ありませんでした。今日もよろしくお願いします>と」
「今からそこへ行くんですよ?」
「シャイな方だから・・」
「何言ってんだよ?どこがシャイなもんか!」
僕はバタンとドアを閉めた。
「あのですね・・・いつものとこ!」
タクシーは急発進した。
「はぐぐ・・!」
「私語は禁止」
副院長だ。中堅医師は追い出された。
「さ、早く処置して」
僕らは協力的に呼吸器のセッティングを行った。
「こっちも呼吸が・・」
後ろのレジデントが呟いた。
50代の男性だ。カルテには・・胃癌のターミナル、とある。
血ガスでは酸素が低いが二酸化炭素はたまってない。
レントゲンより胸水貯留によるものと思われる。
栄養状態不良のためか、転移によるものか・・。
赤井先生はレジデントに歩み寄った。
「どうします?」
「ターミナルの方ですし・・」
「だから?」
赤井先生はキッと睨んだ。
「挿管して呼吸器というのは・・」
「家族は何と?」
「機械の一方的な呼吸なら、呼吸器は見送りたいと」
「君は?」
「え・・」
「同じ?」
「う・・・」
「この方を、家族ともう1度・・・」
「・・・」
「会わせたくない?」
「そ、そりゃ・・」
赤井先生は肘でレジデントを押しのけた。
「君が死になさい。さ、ユウキ先生」
「はい」
「挿管の準備。家族には僕がもう1度話してくる」
レジデントは後ずさりして黙っている。
「君ね。人工呼吸器がすべて強制換気じゃないでしょ」
「は、はい・・」
「プレッシャサポートで完全自発呼吸だってできる」
「は、はい・・」
「もう、辞めどきですね・・・」
レジデントはシクシク泣き出し、出て行った。
そのくらいのことで、泣くなよ・・・!
階段でジェニーとすれ違った。
「ジェ・・・さっきはありがとう・・・!」
「え?何が?」
「ほら、挿管してもらって」
「いえいえ。先輩が何をおっしゃいますか」
落ち込む・・!
「経鼻挿管は、僕はしたことない。また教えて・・」
「あ、あれは偶然入ったんです」
「え?」
「あたし、チューブの入り口に耳、当ててましたけど」
「ああ」
「患者さん、呼吸してなかったでしょ?」
「そうだな。呼吸は止まってた。じゃあ何を聞いて・・?」
「だから!偶然!でもやるしかなかったし!」
彼女はグーでガッツポーズを一瞬構え、また階段を下りていった。
ええなあ、彼女。なんか、生き生きしていて。
僕の住む村には、ああいう子はいない。
デートしたいな・・。
あわわ。何を一体?
子守にでかける直前、病棟へ。
「弘田先生。変わりは?」
「あっ・・」
彼は僕に気づき、少し微笑んだ。
何かテレパシーでも通じたか。
「こ、ここ・・」
彼はカルテの字を指差した。彼はカルテの記載に関しては几帳面で、
僕の言ったこと一字一句までも・・そのまま写している。
「『先週、オーベンより抗生剤の指示を頂くが、3日後の判定でもCRPは悪化、
本日も横ばい』・・・ケンカ売ってるのか?」
「ひ・・」
彼はまた少し微笑んだ。
「わかったよ。変更だ。セフェム2世代が無効か。4世代へ・・」
「そ、それと・・」
「新入院か。低カリウムの中年女性。負荷試験とか大変だな」
カンファでいろんな負荷試験の指示が出たようだ。
「救急病院でも教育病院ってとこは、大変だな・・。症例集めでね。
おいおい!何を書いてるんだ?」
なにやらメモをしているアパムの腕をつかんだ。
油断ならないな・・!
「中年女性だけど、利尿剤や下剤を服用してないかも確認しといてね。その女性は・・太ってる?」
「は、はいい」
「ダイエット目的でそれらを飲む女性が増えたからね」
「ひ・・」
「画像では何も?」
腹部CT、超音波ではこれといったものなし。
「弘田先生。RIは?」
「らら、来週・・」
「遅いな。大学病院も予約で殺されたよ」
僕は放射線部へ電話した。
「すまないが。急いでる患者さんがいてね。アルドステロン症の疑いが・・ああ、副腎癌ってことも」
「予約の枠がいっぱいでして」
「検査のいかんによってはオペかどうかが決まる。これは急ぐんだよ」
「時間外になってしまいますので・・」
「カンファでも教授・・いや、院長が急げとね」
「いい、院長が?」
僕の常套手段だ。
しばらくの沈黙のあと、上司とおぼしき技師が電話に出た。
「わかりました。では明日・・」
「アパム!検査は自分で予約しろ!」
タクシーの待つ玄関へ。
鬱だ。あの家に行くのが怖い。でも僕が当番だから仕方ない。
院長も許してくれてるようだし・・。
タクシーに乗ったとたん、事務の受付嬢(中年)が走ってきた。
「あのですね。ユウキ先生って先生?」
「そうですよ」
「すみません。先生が多すぎて。あのですね」
何だよ。この人の喋り方・・。
ま、なんかの時に使えそうな言葉だな。
「あのですね。赤ん坊の母親の方が・・」
「何です・・?僕ではダメですか?」
「あのですね。<先日は申し訳ありませんでした。今日もよろしくお願いします>と」
「今からそこへ行くんですよ?」
「シャイな方だから・・」
「何言ってんだよ?どこがシャイなもんか!」
僕はバタンとドアを閉めた。
「あのですね・・・いつものとこ!」
タクシーは急発進した。
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