プライベート・ナイやん 3-19 秘密の部屋
2005年4月27日部屋に入ると、母親が三面鏡で化粧していた。
赤ん坊は眠っているようだ。
「あ。この前は・・どうも」
母親はメイクをしながらボソッと呟いた。
「いえ・・では、気をつけて」
彼女はブランドのバッグを抱え立ち上がった。
黒づくめのド派手な格好だ。なおこの頃はまだ「マトリックス」
は公開されてなかった。
「では・・」
彼女が出て行ったあと、僕は子供を起こさないよう静かに配慮した。
「なに、しようかな・・」
テレビを見たら子供が起きる。では何をしたら・・。
そうだ。
僕も寝よう。
僕は赤ん坊のふとんに並ぶように、横になった。
真上の蛍光灯から2メートルほどの紐がぶらさがっている。
まぶしいので、消しにかかった。
「頼むから・・・寝ててくれよ!」
パチン。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
バイト先の病院で、確かに僕は少しずつ学んでいるとは思う。
だがどこか、自己満足的なもののようにも思う。
授業に出るだけ出てノート取って・・勉強したふりみたいな。
学ぶっていうのはもっと困難で、傷ついて、もっと苦いものではないのだろうか。
つまり僕が言いたいのは、こんなバイトみたいな割り切り行為でやってて、ホントに
身につくのだろうか、という不安。毎日主治医ではないということでリスクは減るが、
それが僕を気楽にさせているんだろうか・・。
それでか?ジェニーをデートに誘う、など考えたり・・。
レジデントの頃はそれどころではなかった。ことはないな。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
そのとき、外でプア−ンという車のクラクションが鳴った。
けっこうデカイ音だ。
僕は暗闇に慣れた目で、おそるおそる赤ん坊の方を見た。
赤ん坊は目を開けてこっちを見ていた。目が合ったのだ。
彼は徐々につらそうな表情になっていき・・・次第に顔がシワクチャになってきた。
「ふ!ふ!」
「やべ!」
「ふんげ!ふんげ!ふんげ!」
電気をつけ、抱きかかえ。
それにしても、耳をつんざく泣き声だ。
「ふげふげふげふげ!」
育児ノイローゼが増えるわけだ。
「そ・・・そうだ。おう!」
「ふげ・・・・キイッ」
いきなり笑顔に。
「おう!おう!おう!」
「キイッキイッキイッ」
単純だな・・。
何か・・匂わないか?
療養病棟でよく嗅いだ匂いだ。
これは・・
「うわ!」
赤ん坊のオムツを外すと、大量の便がオムツに付着している。
「つまり赤ん坊がウンコをしたわけだ」
思わず香港映画の字幕のような言葉が出た。
『マイユン、カアダ!(チェン。ヤンさんは元気か?)』
『マストン、チャンガア!(お前の上司だ)』
『ヤンマン。バイバ!(気をつけてな!)』
※ 広東語は適当
こんな感じ。説明的で単純。
大便は背中まで回りこみ、下着もすべて汚染されていた。
「つまり全部着替えないといけないわけだんガア!アイヤー!」
近くのタンスを適当に引くと、下着らしきものが・・。
「アイヤー。女物だんがあ!」
焦って閉めた。下の段に、子供用のがあった。
全部脱がし、体を拭き拭き。
「アイヤー。ティッシュ一箱全部使ったわけだ」
服の着せ方がいまひとつ分からず、とりあえず体に巻いた。
赤ん坊はまた寝返りし、ハアハア息を荒げていた。
ハイハイはまだできないようだから・・お前は7ヶ月以下、ってところか。
当直日誌に従い、ミルクの時間。<何がしか、することが必ずある。
それが育児である>など、日誌の裏表紙にいろいろ書いてある。
僕は少し慣れたつもりで、哺乳瓶の先を赤ん坊の口にあてがった。
「大きくなれよ。♪はいりはいりふれ・・」
自然と出てきた歌声に思わず笑ってしまった。
「・・はいりほーパッポー!ハハハ!はりはりふれ、ホッホー!」
昔『ゴールデン洋画劇場』の終わりかけでよく流れたCMだ。
ティッシュがなくなったのは問題だ。この部屋にはもうなさそうだし・・。
2階にあるんでは?
「すんませんがあ・・」
僕はおそるおそる、木造の階段をゆっくり上がっていった。
誰もいないと分かっていても、気になる。
「ティッシュを取りに来ただけなんでんがあ・・」
階段上ったところ、2つのドアのうちの1つを開けた。
「入り・・・♪はいりはいりふれはいりほ〜・・」
デスクに机の4畳半。机は荘重な作りで、子供部屋でないのはわかった。
何より、蔵書がいっぱい置いてある。床にも散乱している。
「ハリソンに、ワシントンマニュアルに・・」
床ではどれも古びた、ハードカバーっぽい本がホコリをかぶっている。
あの奥さんの本なんだろうか。
机の横にベッド。それでもう部屋はいっぱいだ。
ベッドの上のシーツはシワシワ。そのど真ん中にティッシュ箱が置いてある。
「ちょっと、借りますねんがあ・・!」
悪知恵の僕は、箱ごとでなく中のティッシュのみをたくさん取り出した。
「失敬・・!バイバ!」
恥ずかしい思いをしながら、ゆっくり階段を下りた。
赤ん坊は畳の上でうつ伏せになり、顔だけ上げている。
しかしよく見ると、大量のミルクが口から・・畳半畳分くらい漏れ出ていた。
「ああ!どうしたんがあ!」
「ふ・・・ふげ!ふんげ!ふんげぇ〜!」
彼はびっくりして手足をバタバタさせた。
「すまん!ゲップさせるの忘れたんがあ!」
「ふんげ!ふんげ!」
そのときピンポーン!と外の呼び鈴が鳴った。
「はい?」
玄関の外は誰もいない・・と思ったら・・
「バン!」
「うわ?どうしんたんがあ?」
撃たれた?
赤ん坊は眠っているようだ。
「あ。この前は・・どうも」
母親はメイクをしながらボソッと呟いた。
「いえ・・では、気をつけて」
彼女はブランドのバッグを抱え立ち上がった。
黒づくめのド派手な格好だ。なおこの頃はまだ「マトリックス」
は公開されてなかった。
「では・・」
彼女が出て行ったあと、僕は子供を起こさないよう静かに配慮した。
「なに、しようかな・・」
テレビを見たら子供が起きる。では何をしたら・・。
そうだ。
僕も寝よう。
僕は赤ん坊のふとんに並ぶように、横になった。
真上の蛍光灯から2メートルほどの紐がぶらさがっている。
まぶしいので、消しにかかった。
「頼むから・・・寝ててくれよ!」
パチン。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
バイト先の病院で、確かに僕は少しずつ学んでいるとは思う。
だがどこか、自己満足的なもののようにも思う。
授業に出るだけ出てノート取って・・勉強したふりみたいな。
学ぶっていうのはもっと困難で、傷ついて、もっと苦いものではないのだろうか。
つまり僕が言いたいのは、こんなバイトみたいな割り切り行為でやってて、ホントに
身につくのだろうか、という不安。毎日主治医ではないということでリスクは減るが、
それが僕を気楽にさせているんだろうか・・。
それでか?ジェニーをデートに誘う、など考えたり・・。
レジデントの頃はそれどころではなかった。ことはないな。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
そのとき、外でプア−ンという車のクラクションが鳴った。
けっこうデカイ音だ。
僕は暗闇に慣れた目で、おそるおそる赤ん坊の方を見た。
赤ん坊は目を開けてこっちを見ていた。目が合ったのだ。
彼は徐々につらそうな表情になっていき・・・次第に顔がシワクチャになってきた。
「ふ!ふ!」
「やべ!」
「ふんげ!ふんげ!ふんげ!」
電気をつけ、抱きかかえ。
それにしても、耳をつんざく泣き声だ。
「ふげふげふげふげ!」
育児ノイローゼが増えるわけだ。
「そ・・・そうだ。おう!」
「ふげ・・・・キイッ」
いきなり笑顔に。
「おう!おう!おう!」
「キイッキイッキイッ」
単純だな・・。
何か・・匂わないか?
療養病棟でよく嗅いだ匂いだ。
これは・・
「うわ!」
赤ん坊のオムツを外すと、大量の便がオムツに付着している。
「つまり赤ん坊がウンコをしたわけだ」
思わず香港映画の字幕のような言葉が出た。
『マイユン、カアダ!(チェン。ヤンさんは元気か?)』
『マストン、チャンガア!(お前の上司だ)』
『ヤンマン。バイバ!(気をつけてな!)』
※ 広東語は適当
こんな感じ。説明的で単純。
大便は背中まで回りこみ、下着もすべて汚染されていた。
「つまり全部着替えないといけないわけだんガア!アイヤー!」
近くのタンスを適当に引くと、下着らしきものが・・。
「アイヤー。女物だんがあ!」
焦って閉めた。下の段に、子供用のがあった。
全部脱がし、体を拭き拭き。
「アイヤー。ティッシュ一箱全部使ったわけだ」
服の着せ方がいまひとつ分からず、とりあえず体に巻いた。
赤ん坊はまた寝返りし、ハアハア息を荒げていた。
ハイハイはまだできないようだから・・お前は7ヶ月以下、ってところか。
当直日誌に従い、ミルクの時間。<何がしか、することが必ずある。
それが育児である>など、日誌の裏表紙にいろいろ書いてある。
僕は少し慣れたつもりで、哺乳瓶の先を赤ん坊の口にあてがった。
「大きくなれよ。♪はいりはいりふれ・・」
自然と出てきた歌声に思わず笑ってしまった。
「・・はいりほーパッポー!ハハハ!はりはりふれ、ホッホー!」
昔『ゴールデン洋画劇場』の終わりかけでよく流れたCMだ。
ティッシュがなくなったのは問題だ。この部屋にはもうなさそうだし・・。
2階にあるんでは?
「すんませんがあ・・」
僕はおそるおそる、木造の階段をゆっくり上がっていった。
誰もいないと分かっていても、気になる。
「ティッシュを取りに来ただけなんでんがあ・・」
階段上ったところ、2つのドアのうちの1つを開けた。
「入り・・・♪はいりはいりふれはいりほ〜・・」
デスクに机の4畳半。机は荘重な作りで、子供部屋でないのはわかった。
何より、蔵書がいっぱい置いてある。床にも散乱している。
「ハリソンに、ワシントンマニュアルに・・」
床ではどれも古びた、ハードカバーっぽい本がホコリをかぶっている。
あの奥さんの本なんだろうか。
机の横にベッド。それでもう部屋はいっぱいだ。
ベッドの上のシーツはシワシワ。そのど真ん中にティッシュ箱が置いてある。
「ちょっと、借りますねんがあ・・!」
悪知恵の僕は、箱ごとでなく中のティッシュのみをたくさん取り出した。
「失敬・・!バイバ!」
恥ずかしい思いをしながら、ゆっくり階段を下りた。
赤ん坊は畳の上でうつ伏せになり、顔だけ上げている。
しかしよく見ると、大量のミルクが口から・・畳半畳分くらい漏れ出ていた。
「ああ!どうしたんがあ!」
「ふ・・・ふげ!ふんげ!ふんげぇ〜!」
彼はびっくりして手足をバタバタさせた。
「すまん!ゲップさせるの忘れたんがあ!」
「ふんげ!ふんげ!」
そのときピンポーン!と外の呼び鈴が鳴った。
「はい?」
玄関の外は誰もいない・・と思ったら・・
「バン!」
「うわ?どうしんたんがあ?」
撃たれた?
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