「バン!バン!バン!」
4〜5歳くらいの子供が指で銃を構え、僕を撃っている。

「なんだよ。ガキか・・」
「バン!お前撃たれた!撃たれた!」
「何の用だよ・・」
「おねんちゃん!おねえちゃん!」
「おねちゃん・・?は、仕事だよ。仕事」
「仕事?どこ行った?」
「病院だろ。たぶん」
「びょういん・・」
「美容院じゃないぞ。病院」
「知ってらい!バカ!」

彼は玄関の中に入ってきた。外は暗く、ハエや蚊も多少入ってきた。
「あつし、おる?」
「おい!こら!」
彼の力は意外に強く、僕の支えも振り切った。

「あつし!あつし!」
彼は靴を脱ぎ、ダダーッと部屋に入っていった。
「待てってのに!」
「ああ!あつし!」

赤ん坊<あつし>は泣き止んでいて、うつ伏せのまま手足をバタバタさせていた。

「ここに来たことあるのか?」
「ここ。来る!いつも!」
「そうだったのか・・?でも、夜の9時近いよ。お母さんらが心配してる」
「おかあさん、しごと。だからいい」
「あっそ・・こっちに来い」
「うん」

彼はゆっくり歩いてきた。ところがそのうちの1歩が赤ん坊の背中を踏んづけたのを
僕は見逃さなかった。

「こら!」
「うん?」
「今、赤ちゃん・・あつしを踏んだだろ!」
「ふんでないよ・・」
「いいや!踏んだ!危ないじゃないか!」
「ふんでない!」
「ふんだ!」
「ふんでない!」
「ふんだふんだ!」

どっちが子供なのか・・。

叫び声が大きかったのか、外が少し明るくなった。
ガラス越しに見ると・・・外から数人の大人が覗いている。

「あ!母ちゃんかな!」
彼は玄関へ飛び出した。
「え?母ちゃん?お前、さっき仕事って・・」
「かあちゃん!かあちゃん!」

玄関を開けると、頭にタオルを巻いたでっぷりした母親が現れた。
「何あんた!またねえちゃんの家にお世話になって!」
「かあちゃん。いじめられた。いじめられた〜」
彼は猫なで声で母親の腹に顔をうずめた。

「さ!ねえちゃんに謝って・・!」
母親が顔を見上げると、僕が立っていた。

「おお・・・」
「?」
「ちち、ちがうおとこ・・・」
それを最後に、母親はピシャッと玄関を閉めた。

<違う男>・・・。失礼な言い方だな。
院長の娘の浮気相手とでも?
だが・・父親はどこなんだ?この赤ん坊の・・。
病院でアパムらに聞いたが、誰も知らないと言う。

だがあのガンコそうな院長のことだ。
何か揉めたんだろうな、きっと。

ティッシュの半分を使い切り、僕らは眠りに落ちていった・・。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「・・・って聞いてるのよ!」
「わ?」
ガバッと飛び起きると・・・・もう明るい。

婦人は目の前だ。どうやら戻ってきた。
8時。寝坊ではないが・・・

山の上までまた帰らないと!
「すす、すみません!」
僕は立ち上がった。ズボンは知らない間に脱いでいて、赤ん坊の手で向こうへ飛ばされている。

「早くはきなさいよ!は!や!く!」
婦人は先週と同様、<欽ドン>の<ワル子>の如く変貌を遂げていた。
「パンツ1枚で、まったく〜!ん?」
彼女は畳の上に散らばったティッシュを何枚か拾った。

「これ、何・・・・・・きゃあああ!」
彼女は叫び、ティッシュが手からこぼれた。
「何十枚もすみません。実は失敬し・・」
「何をしてたの?何を!こんな!ティッシュいっぱいで!」
「なにって・・!」
「出て行って!」
「目的は赤ん坊の汚・・」
「出て行って!」
彼女は仁王立ちになった。

「でで、出ます出ます!」
僕はまた逃げるように玄関から出た。

「待てっ!ヘンタイ!」
「うわっ?」
彼女は部屋の窓から顔を出していた。

足腰がヘナヘナになり、大通りまで出た。
8時半だ。絶対に遅刻する。間違いない。

理由は、何にするかな・・。

「なんとか9時半には病院へ入り・・・」
緊迫が少し取れた。
「入り・・はいりふれはいりほ〜ハハハ!ハ・・」

涙が出た。

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