プライベート・ナイやん 4-1 リターン・オブ・ザ・・・
2005年5月9日田舎の民間病院は、今日も平和だ。
職員食堂で昼食だ。
1人ずつひしめき合いながら食事を配られるその有様は、刑務所映画さながらだ。
それにしても、よくこんなの食える・・。
病院も最近はコスト面が厳しく、食材を外部に委託して、その安い食材で病院栄養士に
食事をなんとか作らせるところも多い。不思議なことに、栄養士のいかんによっては全く
異なる食事ができてしまう。
どうやらうちは<ハズレ>のようだな・・。
僕は医局で話せる相手もなく(みんなパソコンに夢中)、こうして1人で来た。
「なんか最近、先生元気ないですね」
検査技師のじいさんが横に座ってきた。
「外来の若いナースに・・ひょっとしてジェラシーかな?」
いきなり周囲が静かになった。
「ち・・違いますって」
「あ!今!先生!顔真っ赤になった!なった!」
「あのなあ・・!」
「ははは、先生。本気で怒らんでええがな!」
「ったく・・!」
「外来の若いナースがほら、事務員と付き合ってるのはホント?」
「知らん」
僕はひたすら食べ続けた。しかしまずくて失速してしまう。
「いやあ、ユウキ先生と事務の品ちゃんは仲がいいと聞いてるんで」
「ホモじゃないよ」
「うわははは!」
僕は立ち上がって片付けにかかった。
「あれ?ユウキ先生。残すの?」
僕は1つずつ食器を戻し、出口へと歩いた。
「ツバが飛んだ」
憂鬱だ。今日は副院長に呼ばれている。
これまで何度も呼ばれたが、重大な話らしい。内容はだいたいわかっている。
その予感は的中した。
「失礼します」
僕はゆっくり副院長室へ入った。
ソファにゆっくり座る。副院長はなにやら書き物中。
「よし。来たな」
彼はペンを置いて、その場で背筋を伸ばした。
「ユウキ先生よ!」
「?」
「なんか、体のだるさが取れるような薬でもないですかなあ!」
「さあ・・」
「なんか、発明してくださいや!」
人を嘲るようなものの言い方だ。
「大学へそろそろ戻りますかな!」
彼は両手を後頭部に廻した。
「さ。どうしますかな!」
しばらく間があった。
「ユウキ先生。やっぱりダメだったな」
「・・・何がです?」
「救急病院からは、もう来なくていいとメモが」
知ってたか、こいつ・・。しかし何故なんだ・・?
僕の能力が低いとはいえ。
「何をしたんだ?」
「は?」
「今度は何をしでかしたんだ?と聞いてるんだ」
「別に何も・・」
「ウソをつけ。ウソを」
彼は立ち上がって閉まってるカーテンを開けた。
「まあいい。とにかく君はタイムリミットだ。やはり1から学びなおさないとな」
「1から・・」
「君は医者として、基本がなってないのだと思うよ」
「基本・・」
「そう」
「何ですか?それ」
「なにっ!」
彼は眉間にシワを寄せた。
「そんな生意気な態度だから、やり直す羽目になるんだよ」
「そうですか。戻るんですか、自分は・・」
「わしが大学にな、君の勤務評定を出したんだよ。その上での決定だ」
「・・・・・」
「勤務評定を見せるわけにはいかん。原則だからな」
彼は勝ち誇ったように足取りが軽くなった。
「ま。頑張れ。あと3ヶ月間!どうせイナカ救急に行ってもどうせあそこは・・」
「?」
「そうそう。君と多少オーバーラップするが・・1人大学から来るらしい」
「1人・・それは?」
「つい最近まで病棟医長とかやってたらしいが・・・確か名前は・・」
「・・・・・」
「三品とか」
循環器グループの先生だ。研究志望の先生だったはずだが・・。
「教授からお払い箱になって、わしのこの病院へ流れてくることになった。
知らんか?」
「ええ・・・」
「ま。反抗的でなければ、それでいい」
確か彼はイエスマンだ。副院長の側近になるだろう。
僕は部屋を出た。あまりショックは受けなかった。
なぜかそんな気がしていた。
でもそうか・・・。
大学へ戻されるのか。ふつう1度大学を出て民間病院で勤務して、また戻るには
いくつか理由がある。
? 学位を取るため
? 講師などへの昇進のため
? 医局員減少による研究員数の穴埋め
? 問題児
? 開業に伴い資格など取得準備として
僕はこの?ってことだ。だが問題児にもいろいろパターンがあって・・
? 医療レベルが低く、噂が広まってどの病院も取らない
? 女関係でこのまま民間にいるとマジでヤバイ場合
僕は?のほうなんだろうな・・。
だが、勉強したいという積極的な姿勢は失ってないと今でも思っているのだが。
大学へ戻って、レジデントとともに1から教われというのか。いったい誰が何を
教えるというのだろう・・?患者でなく教授のために働くのは僕にはとても・・。
病棟へ。
心不全が悪化していたハマさんは利尿がかなりつきはじめ、全身の浮腫も取れてきた。
幸いにも血圧低下もなく改善傾向。しかし絶食の期間が長引いたため、栄養状態の
悪化は顕著だった。
「レントゲンでは肺うっ血は軽度あるが・・」
食事を早く始めたい。低アルブミンにいったんなってしまうと元に戻るのが困難だ。
高カロリー輸液にするにしてもけっこうな水分負荷になり、これがまた心不全を引き起こしかねない。
酸素少量吸入下、ナースがスプーンをゆっくりハマさんに近づけた。
流動食は誤嚥の危険が高まるため、トロミ食となっている。
ハマさんはぱくっと口を開け、スプーンを含んだ。
「ぐう・・・」
「?」
みな横のモニターを見ていた。SpO2は下がってないようだ。
「うう・・・」
ハマさんはうっすら目を開けている。
「う・・・」
「何か言いたいことが?」
熱心なヘルパーさんが口に耳を近づけた。
「うまい・・・」
僕は胸を撫で下ろした。
もとはといえば、僕の監視ミスだ。
病院で新たに病気を作らないよう、気をつけよう・・。当然のことだが。
このおかげか、病院を出るときは気持ちよかった。
大学に戻ったら、アイツいるのかな・・。
大学に戻る人間みんなが思うことを、無意識に考えていた。
職員食堂で昼食だ。
1人ずつひしめき合いながら食事を配られるその有様は、刑務所映画さながらだ。
それにしても、よくこんなの食える・・。
病院も最近はコスト面が厳しく、食材を外部に委託して、その安い食材で病院栄養士に
食事をなんとか作らせるところも多い。不思議なことに、栄養士のいかんによっては全く
異なる食事ができてしまう。
どうやらうちは<ハズレ>のようだな・・。
僕は医局で話せる相手もなく(みんなパソコンに夢中)、こうして1人で来た。
「なんか最近、先生元気ないですね」
検査技師のじいさんが横に座ってきた。
「外来の若いナースに・・ひょっとしてジェラシーかな?」
いきなり周囲が静かになった。
「ち・・違いますって」
「あ!今!先生!顔真っ赤になった!なった!」
「あのなあ・・!」
「ははは、先生。本気で怒らんでええがな!」
「ったく・・!」
「外来の若いナースがほら、事務員と付き合ってるのはホント?」
「知らん」
僕はひたすら食べ続けた。しかしまずくて失速してしまう。
「いやあ、ユウキ先生と事務の品ちゃんは仲がいいと聞いてるんで」
「ホモじゃないよ」
「うわははは!」
僕は立ち上がって片付けにかかった。
「あれ?ユウキ先生。残すの?」
僕は1つずつ食器を戻し、出口へと歩いた。
「ツバが飛んだ」
憂鬱だ。今日は副院長に呼ばれている。
これまで何度も呼ばれたが、重大な話らしい。内容はだいたいわかっている。
その予感は的中した。
「失礼します」
僕はゆっくり副院長室へ入った。
ソファにゆっくり座る。副院長はなにやら書き物中。
「よし。来たな」
彼はペンを置いて、その場で背筋を伸ばした。
「ユウキ先生よ!」
「?」
「なんか、体のだるさが取れるような薬でもないですかなあ!」
「さあ・・」
「なんか、発明してくださいや!」
人を嘲るようなものの言い方だ。
「大学へそろそろ戻りますかな!」
彼は両手を後頭部に廻した。
「さ。どうしますかな!」
しばらく間があった。
「ユウキ先生。やっぱりダメだったな」
「・・・何がです?」
「救急病院からは、もう来なくていいとメモが」
知ってたか、こいつ・・。しかし何故なんだ・・?
僕の能力が低いとはいえ。
「何をしたんだ?」
「は?」
「今度は何をしでかしたんだ?と聞いてるんだ」
「別に何も・・」
「ウソをつけ。ウソを」
彼は立ち上がって閉まってるカーテンを開けた。
「まあいい。とにかく君はタイムリミットだ。やはり1から学びなおさないとな」
「1から・・」
「君は医者として、基本がなってないのだと思うよ」
「基本・・」
「そう」
「何ですか?それ」
「なにっ!」
彼は眉間にシワを寄せた。
「そんな生意気な態度だから、やり直す羽目になるんだよ」
「そうですか。戻るんですか、自分は・・」
「わしが大学にな、君の勤務評定を出したんだよ。その上での決定だ」
「・・・・・」
「勤務評定を見せるわけにはいかん。原則だからな」
彼は勝ち誇ったように足取りが軽くなった。
「ま。頑張れ。あと3ヶ月間!どうせイナカ救急に行ってもどうせあそこは・・」
「?」
「そうそう。君と多少オーバーラップするが・・1人大学から来るらしい」
「1人・・それは?」
「つい最近まで病棟医長とかやってたらしいが・・・確か名前は・・」
「・・・・・」
「三品とか」
循環器グループの先生だ。研究志望の先生だったはずだが・・。
「教授からお払い箱になって、わしのこの病院へ流れてくることになった。
知らんか?」
「ええ・・・」
「ま。反抗的でなければ、それでいい」
確か彼はイエスマンだ。副院長の側近になるだろう。
僕は部屋を出た。あまりショックは受けなかった。
なぜかそんな気がしていた。
でもそうか・・・。
大学へ戻されるのか。ふつう1度大学を出て民間病院で勤務して、また戻るには
いくつか理由がある。
? 学位を取るため
? 講師などへの昇進のため
? 医局員減少による研究員数の穴埋め
? 問題児
? 開業に伴い資格など取得準備として
僕はこの?ってことだ。だが問題児にもいろいろパターンがあって・・
? 医療レベルが低く、噂が広まってどの病院も取らない
? 女関係でこのまま民間にいるとマジでヤバイ場合
僕は?のほうなんだろうな・・。
だが、勉強したいという積極的な姿勢は失ってないと今でも思っているのだが。
大学へ戻って、レジデントとともに1から教われというのか。いったい誰が何を
教えるというのだろう・・?患者でなく教授のために働くのは僕にはとても・・。
病棟へ。
心不全が悪化していたハマさんは利尿がかなりつきはじめ、全身の浮腫も取れてきた。
幸いにも血圧低下もなく改善傾向。しかし絶食の期間が長引いたため、栄養状態の
悪化は顕著だった。
「レントゲンでは肺うっ血は軽度あるが・・」
食事を早く始めたい。低アルブミンにいったんなってしまうと元に戻るのが困難だ。
高カロリー輸液にするにしてもけっこうな水分負荷になり、これがまた心不全を引き起こしかねない。
酸素少量吸入下、ナースがスプーンをゆっくりハマさんに近づけた。
流動食は誤嚥の危険が高まるため、トロミ食となっている。
ハマさんはぱくっと口を開け、スプーンを含んだ。
「ぐう・・・」
「?」
みな横のモニターを見ていた。SpO2は下がってないようだ。
「うう・・・」
ハマさんはうっすら目を開けている。
「う・・・」
「何か言いたいことが?」
熱心なヘルパーさんが口に耳を近づけた。
「うまい・・・」
僕は胸を撫で下ろした。
もとはといえば、僕の監視ミスだ。
病院で新たに病気を作らないよう、気をつけよう・・。当然のことだが。
このおかげか、病院を出るときは気持ちよかった。
大学に戻ったら、アイツいるのかな・・。
大学に戻る人間みんなが思うことを、無意識に考えていた。
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