プライベート・ナイやん 4-3 起きてよ。ジェニー・・!
2005年5月10日救急病院の医局では夜でも数人が何か仕事をしていたものだが、今回は様子が違う。
ダンボール箱の山、山、山。
どの机も片づけ作業中状態だ。
ダンボールを踏まないよう、まんべんなく医局内を歩いた。ソファで1人寝ているが爆睡中だ。
黒板を見上げると・・<AP onset PM5>とある。狭心症、発症は夕方5時・・。
「そうか。カテ室か!」
みんなどうやらカテ室にいるらしい。医局の状態とは裏腹に、救急の受け入れはまだ続けているものと
思われる。
カテ室では全員が集合していた。アパム、ジェニーの姿もある。みな防護服か術衣を着ている。
そのジェニーがカテーテルを操作している。セカンドがおそらく中堅ドクター。
「RCA、造影します!」
久しぶりに聞くジェニーの声とともに、右冠動脈が造影された。いきなり#1の閉塞だ。
狭心症でなく、急性心筋梗塞らしい。
近くのモニターはかなり頻脈だ。STは上がっている。
なんか、懐かしい光景だ。同様のケースを経験した。あのとき、Vfになって・・。
「DCは?」
僕は側のレジデントに聞いた。
「なんでしょうか」
この男、以前赤ん坊を連れてきたときに冷たく対応していたヤツだ。
「DCを近くに置こうよ。もしVfにでも・・」
「それは誰の指示なんですか?」
マスクをして冷たい表情のレジデントが淡々と話す。
「誰の指示でもないけど・・」
「カテ室のDCは故障。病棟にもう1台あります」
「持って来ておこうよ」
「先生は何をしに来られたんですか?」
この男・・!
「アパ・・・弘田先生!」
僕は近くのアパムに声をかけた。
「は・・・ひ」
アパムは一瞬、感動したように驚いた。
「病棟までDCを取りにいこうよ」
僕と弘田先生は廊下を早歩きしながら病棟へ向かった。
「弘田先生。僕、クビになっちゃったよ・・ここ」
「でで、でも、ここ・・・」
「ん?」
「へ、閉鎖・・・もうあと、4週・・」
「らしいな。でもなぜ?」
「かか、買い取り・・」
「買い取り・・?どこかが買うの?」
「うん・・・しし、しんじゅ・・」
病棟からDCを引っ張りエレベーターへ。
「弘田先生はどうするの?」
「ひ?」
「これからだよ」
「じじ・・・じぶんはだだ、大学へ人事でもどり・・」
「人事で来てたのか。じゃ、人任せでいいよな。でも・・」
「ふふ・・?」
「ジェニーはどうすんだろうか・・」
余計な心配をしながらカテ室へ。
さっきのレジデントがアンプルを切っていた。
「キシロカイン、準備します!」
モニターではVPCの単発が出ている。
「弘田先生。VPCといえば以前はあるだけで治療されていたが」
「はふ・・?」
「今は逆だ。その治療がむしろ事故・予後悪化につながるという認識が出て」
「・・・・」
「今度は<よほどのとき以外治療するな、ってよ>。まったくどっちなんだよ」
「ふ・・・?」
「ただしAMIの急性期のときは積極治療。これは例外だよ。気をつけて」
「は・・」
何もレスポンスがない。今の若い世代は・・。それともこの男が特別か。
「きたぞ!Vfだ!」
モニター画面がランダムに揺れている。すかさず中堅ドクターが胸部をグーで叩く。
1回・・・・・2回・・・・・。
「弘田先生!DC充電!」
「はふ?」
「これだよ!」
ボタンを押し充電。僕はアパムにパッドを持たせた。
「左右、間違うな!」
弘田先生はジェニーをどかせ、患者の右側へ。患者は思いっきり嘔吐し、
ジェニーの上半身に浴びせられた。
「やれ!」
ドカンと衝撃が走った。ジェニーは腰を抜かしその場にうずくまった。
「・・・ダメだ!もう1回・・!」
中堅ドクターが叫んだ。
「アパム!もう1回!」
弘田先生は恐怖で青ざめていた。
「ひぃ、ひぃ・・・!」
「弘田・・・!」
僕は彼を押しのけ、パッドを持った。
「2回目!」
ドドン、とまた衝撃が走った。僕にも電気が流れたように錯覚した。
「サイナスだ・・!よし」
中堅ドクターがモニターを見て驚嘆した。
「ちょうどバルーンで病変部を拡げてる最中だったんだ・・!」
虚血の時間が長すぎたのか。
「造影する!おい!」
中堅ドクターがけしかけるが、ジェニーは吐物にまみれたままだ。
座って動かない。
「ジェニー!立て!」
僕とアパムは起こしにかかった。
しかしなかなか起きようとしない。
「ジェニー!頼む!」
ジェニーは泣いたままうつむいていた。
「ジェニー・・・」
「もういい!そこの3年目!代われ!」
別のドクターが呼ばれ、ひきつづきステント挿入へ進んだ。
「バカモンが!」
入り口で沖田院長が立っていた。白衣だけだ。
「患者の横でチビるとは、何事だ!」
「院長。被曝します・・」
レジデントが後ろから気遣った。
「うるさい!」
「ひっ!」
「さっさとステント入れて、終わらんか!」
院長の激が飛ぶ。
ダンボール箱の山、山、山。
どの机も片づけ作業中状態だ。
ダンボールを踏まないよう、まんべんなく医局内を歩いた。ソファで1人寝ているが爆睡中だ。
黒板を見上げると・・<AP onset PM5>とある。狭心症、発症は夕方5時・・。
「そうか。カテ室か!」
みんなどうやらカテ室にいるらしい。医局の状態とは裏腹に、救急の受け入れはまだ続けているものと
思われる。
カテ室では全員が集合していた。アパム、ジェニーの姿もある。みな防護服か術衣を着ている。
そのジェニーがカテーテルを操作している。セカンドがおそらく中堅ドクター。
「RCA、造影します!」
久しぶりに聞くジェニーの声とともに、右冠動脈が造影された。いきなり#1の閉塞だ。
狭心症でなく、急性心筋梗塞らしい。
近くのモニターはかなり頻脈だ。STは上がっている。
なんか、懐かしい光景だ。同様のケースを経験した。あのとき、Vfになって・・。
「DCは?」
僕は側のレジデントに聞いた。
「なんでしょうか」
この男、以前赤ん坊を連れてきたときに冷たく対応していたヤツだ。
「DCを近くに置こうよ。もしVfにでも・・」
「それは誰の指示なんですか?」
マスクをして冷たい表情のレジデントが淡々と話す。
「誰の指示でもないけど・・」
「カテ室のDCは故障。病棟にもう1台あります」
「持って来ておこうよ」
「先生は何をしに来られたんですか?」
この男・・!
「アパ・・・弘田先生!」
僕は近くのアパムに声をかけた。
「は・・・ひ」
アパムは一瞬、感動したように驚いた。
「病棟までDCを取りにいこうよ」
僕と弘田先生は廊下を早歩きしながら病棟へ向かった。
「弘田先生。僕、クビになっちゃったよ・・ここ」
「でで、でも、ここ・・・」
「ん?」
「へ、閉鎖・・・もうあと、4週・・」
「らしいな。でもなぜ?」
「かか、買い取り・・」
「買い取り・・?どこかが買うの?」
「うん・・・しし、しんじゅ・・」
病棟からDCを引っ張りエレベーターへ。
「弘田先生はどうするの?」
「ひ?」
「これからだよ」
「じじ・・・じぶんはだだ、大学へ人事でもどり・・」
「人事で来てたのか。じゃ、人任せでいいよな。でも・・」
「ふふ・・?」
「ジェニーはどうすんだろうか・・」
余計な心配をしながらカテ室へ。
さっきのレジデントがアンプルを切っていた。
「キシロカイン、準備します!」
モニターではVPCの単発が出ている。
「弘田先生。VPCといえば以前はあるだけで治療されていたが」
「はふ・・?」
「今は逆だ。その治療がむしろ事故・予後悪化につながるという認識が出て」
「・・・・」
「今度は<よほどのとき以外治療するな、ってよ>。まったくどっちなんだよ」
「ふ・・・?」
「ただしAMIの急性期のときは積極治療。これは例外だよ。気をつけて」
「は・・」
何もレスポンスがない。今の若い世代は・・。それともこの男が特別か。
「きたぞ!Vfだ!」
モニター画面がランダムに揺れている。すかさず中堅ドクターが胸部をグーで叩く。
1回・・・・・2回・・・・・。
「弘田先生!DC充電!」
「はふ?」
「これだよ!」
ボタンを押し充電。僕はアパムにパッドを持たせた。
「左右、間違うな!」
弘田先生はジェニーをどかせ、患者の右側へ。患者は思いっきり嘔吐し、
ジェニーの上半身に浴びせられた。
「やれ!」
ドカンと衝撃が走った。ジェニーは腰を抜かしその場にうずくまった。
「・・・ダメだ!もう1回・・!」
中堅ドクターが叫んだ。
「アパム!もう1回!」
弘田先生は恐怖で青ざめていた。
「ひぃ、ひぃ・・・!」
「弘田・・・!」
僕は彼を押しのけ、パッドを持った。
「2回目!」
ドドン、とまた衝撃が走った。僕にも電気が流れたように錯覚した。
「サイナスだ・・!よし」
中堅ドクターがモニターを見て驚嘆した。
「ちょうどバルーンで病変部を拡げてる最中だったんだ・・!」
虚血の時間が長すぎたのか。
「造影する!おい!」
中堅ドクターがけしかけるが、ジェニーは吐物にまみれたままだ。
座って動かない。
「ジェニー!立て!」
僕とアパムは起こしにかかった。
しかしなかなか起きようとしない。
「ジェニー!頼む!」
ジェニーは泣いたままうつむいていた。
「ジェニー・・・」
「もういい!そこの3年目!代われ!」
別のドクターが呼ばれ、ひきつづきステント挿入へ進んだ。
「バカモンが!」
入り口で沖田院長が立っていた。白衣だけだ。
「患者の横でチビるとは、何事だ!」
「院長。被曝します・・」
レジデントが後ろから気遣った。
「うるさい!」
「ひっ!」
「さっさとステント入れて、終わらんか!」
院長の激が飛ぶ。
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