プライベート・ナイやん 4-4 誘惑スレスレ
2005年5月10日中堅ドクターは焦り、ペースがアップした。
とたん、息が乱れたようにせわしくなった。
「早くせんか!はやあく!」
「造影!」
ステント留置後の造影では、きれいに拡張しているようだった。
「末梢はいいのか!末梢は!」
「は、はい」
遠くから院長の雄たけびが響く。
「末梢にエンボリ(塞栓)しとるかもしれんだろうが!バカモンが!」
「はは、はい!」
3年目ドクターは角度調整していたが、どの角度か一定しない。
「バカ!代われ!」
院長は3年目を蹴飛ばし角度を調整した。
「早くやらんか!」
「はいっ!」
造影すると、末梢部の造影剤が若干ぬけて見える。血栓の存在を示す。
院長はモニターを見ていた。ブロックはみられないようだ。
「テンポラリー留置!ACTはキツめにな!」
院長は自分への被曝などものともせず、部屋を出て行った。
「(一同)院長先生!ありがとうございました!」
中堅ドクターと僕達の間に、気まずい沈黙が流れた。
ジェニーはまだ床に座っている。
時間は過ぎていき、患者はストレッチャーで運ばれていった。
僕はモップを取り出し、床の血やイソジンを拭っていった。
「いつまで座ってるんだ・・?大丈夫?」
「・・・・・」
「元気なジェニーはどうした?そら!そら!」
僕はモップのスピードを上げた。
「これこれ!見ろよ!♪とってもとってもとっても・・!」
「グス・・・!グス!」
「泣くなって!泣くな・・!」
つらいことは、これから山ほどあるというのに。
「ジェニー。泣くな!そら!♪とってもとっても・・・!」
薄暗いカテ室で取り残された僕らの光景は奇妙だった。
「ブブ!」
突発的に笑ったジェニーの鼻に、鼻汁が噴出した。
「おおっと!」
「ごめんごめん・・・」
ジェニーはゆっくりと立ち上がった。
「1人で立てるよ・・大丈夫」
僕はまた以前の経験を思い出した。2年目のときの友人がカテーテル操作を
誤り、カテ後その場で泣き崩れた。
僕が悔やんでいるのは、そのとき彼になに1つ言葉をかけることができなかったことだ。
彼とはそれきり会ってない。
どの場面でもそうだが、言い残したことというのは、一生悔やまれる。
「ジェニー・・・僕はいちおう年上だから言うけど」
「はい・・・」
「誰でもこんな経験はあるし、した人間ほど強くなる」
「そうなの・・」
「でも僕はね。1度逃げてしまったんだよ。自分に負けて」
「そ、そうなの?」
「病院を1度、抜け出した。今思えば・・」
「途中で?」
「いや。病欠ということにして、旅に出た」
彼女はにしては珍しく聞き入っていた。
「あたしもそうやってリフレッシュできたら・・」
「するといい」
僕らは医局へ向かった。
「ユウキ先生。どうして・・いきなりここを辞めたんですか?」
「違う。クビになった。FAXが来て」
「ああ・・・でも分かるような気がする」
「な、なんだって?」
「だって、もうここ閉鎖するし・・」
彼女はまたブルーに突入した。
「買い取られるのか・・」
「すごいんですよ。最近。関西は」
「乗っ取られたり、買い取られたり・・安心して働けないな」
「最近は、そうみたいですね・・先生、今日は何しに?」
「あ?ああ・・」
医局に入り、本を何冊か袋に入れた。
「副院長にお願いして、あと何度かここに・・」
「ええ。来てください」
「ホント?」
「あたしもそのほうが・・」
彼女に少し光が射した。
「わかった!いくいく!」
僕は慌てて本を袋に詰め込んだ。勢いで底が破れた。
「あわわ・・・!」
「ユウキ先生。また話せる機会があったら・・」
「へ?」
「行って話しましょう。どっかで」
素の表情ではあるが、彼女は意味深な言葉を残し、去った。
「い、今なんと・・・・・?」
すいちょうけん。
とたん、息が乱れたようにせわしくなった。
「早くせんか!はやあく!」
「造影!」
ステント留置後の造影では、きれいに拡張しているようだった。
「末梢はいいのか!末梢は!」
「は、はい」
遠くから院長の雄たけびが響く。
「末梢にエンボリ(塞栓)しとるかもしれんだろうが!バカモンが!」
「はは、はい!」
3年目ドクターは角度調整していたが、どの角度か一定しない。
「バカ!代われ!」
院長は3年目を蹴飛ばし角度を調整した。
「早くやらんか!」
「はいっ!」
造影すると、末梢部の造影剤が若干ぬけて見える。血栓の存在を示す。
院長はモニターを見ていた。ブロックはみられないようだ。
「テンポラリー留置!ACTはキツめにな!」
院長は自分への被曝などものともせず、部屋を出て行った。
「(一同)院長先生!ありがとうございました!」
中堅ドクターと僕達の間に、気まずい沈黙が流れた。
ジェニーはまだ床に座っている。
時間は過ぎていき、患者はストレッチャーで運ばれていった。
僕はモップを取り出し、床の血やイソジンを拭っていった。
「いつまで座ってるんだ・・?大丈夫?」
「・・・・・」
「元気なジェニーはどうした?そら!そら!」
僕はモップのスピードを上げた。
「これこれ!見ろよ!♪とってもとってもとっても・・!」
「グス・・・!グス!」
「泣くなって!泣くな・・!」
つらいことは、これから山ほどあるというのに。
「ジェニー。泣くな!そら!♪とってもとっても・・・!」
薄暗いカテ室で取り残された僕らの光景は奇妙だった。
「ブブ!」
突発的に笑ったジェニーの鼻に、鼻汁が噴出した。
「おおっと!」
「ごめんごめん・・・」
ジェニーはゆっくりと立ち上がった。
「1人で立てるよ・・大丈夫」
僕はまた以前の経験を思い出した。2年目のときの友人がカテーテル操作を
誤り、カテ後その場で泣き崩れた。
僕が悔やんでいるのは、そのとき彼になに1つ言葉をかけることができなかったことだ。
彼とはそれきり会ってない。
どの場面でもそうだが、言い残したことというのは、一生悔やまれる。
「ジェニー・・・僕はいちおう年上だから言うけど」
「はい・・・」
「誰でもこんな経験はあるし、した人間ほど強くなる」
「そうなの・・」
「でも僕はね。1度逃げてしまったんだよ。自分に負けて」
「そ、そうなの?」
「病院を1度、抜け出した。今思えば・・」
「途中で?」
「いや。病欠ということにして、旅に出た」
彼女はにしては珍しく聞き入っていた。
「あたしもそうやってリフレッシュできたら・・」
「するといい」
僕らは医局へ向かった。
「ユウキ先生。どうして・・いきなりここを辞めたんですか?」
「違う。クビになった。FAXが来て」
「ああ・・・でも分かるような気がする」
「な、なんだって?」
「だって、もうここ閉鎖するし・・」
彼女はまたブルーに突入した。
「買い取られるのか・・」
「すごいんですよ。最近。関西は」
「乗っ取られたり、買い取られたり・・安心して働けないな」
「最近は、そうみたいですね・・先生、今日は何しに?」
「あ?ああ・・」
医局に入り、本を何冊か袋に入れた。
「副院長にお願いして、あと何度かここに・・」
「ええ。来てください」
「ホント?」
「あたしもそのほうが・・」
彼女に少し光が射した。
「わかった!いくいく!」
僕は慌てて本を袋に詰め込んだ。勢いで底が破れた。
「あわわ・・・!」
「ユウキ先生。また話せる機会があったら・・」
「へ?」
「行って話しましょう。どっかで」
素の表情ではあるが、彼女は意味深な言葉を残し、去った。
「い、今なんと・・・・・?」
すいちょうけん。
コメント