バイト先に久しぶりに出勤。予想通り、スタッフの人数は減っていた。
しかし、外来・病棟の患者数は変わらなかった。

 救急外来では朝9時の時点で列ができている。僕はレジデントたちに混じって
大部屋のベッド上の5人を診察・処置していた。

「興奮状態で、救急搬送。過換気発作の疑い。29歳女性」
例の冷めたレジデントが手帳を読んでいる。
横では小さな女の子がワンワン泣いている。

「ちょっと!子供はどこかへ移そうよ!」
レジデントが叫ぶと赤井副院長がやってきた。

「君を移しますよ」
「え?でも先生・・!」
「母子家庭なんだよ。近くにおいてやりなさい」
「ちっ・・」

僕は紙袋を渡され、交代で紙袋呼吸に携わった。

「ユウキ先生!手、空いてるか?」
後ろのレジデントが叫ぶ。この病院の慣わしで、お互い経験年数は教えあってない。
だから言葉も丁寧語だったり、ため口だったり・・。

「手は・・この通りなので」
「そうか・・アパムの手も借りたい、よ!」
振り向くと、暴れる患者を抑えている。患者の力が強すぎ、ルート確保もままならないようだ。

「せ、先生。鎮静剤などは・・」
「呼吸に影響したらどうするよ?」
僕は余計なアドバイスをしてしまった。

アパムが来たので紙袋を渡し、不穏の患者にかかった。
「僕が手を押さえるから・・」
「頼む!」
レジデントは浮き出した静脈にゆっくり留置針を確保した。
「逆流がないけど、まいっか・・うわ、ダメダメ!」
彼はすごくあわてていた。

「僕がやろう・・」
僕が目をつけた血管に刺入・・・運良く入った。
血管の探しにくい人だ。
「ところでこの人は・・?」
「高血糖とみた!」
「理由は・・」
「多汗に脱水症状、肥満!」

手元のデキスターがピピッと測定された。

「282mg/dlだ!これによる脱水・・」
「そうかな。その程度の高さで脱水にまでは・・」
「じゃあ何を?」
「何って、それはこれから・・」

「黙りなさい」
副院長が現れた。僕らは固まった。
「頻脈以外の所見は?」

「うわ!」
レジデントが叫んだ。患者が突然痙攣しはじめた。
「ユウキ先生!セルシン!」
「くく!」
僕は救急カートのセルシンを用意、ルートから静脈注射。
「5ミリだ!」

だがおさまらない・・。

「ユウキ先生!もう回するか?」
「うーん・・・ああ!」
もう1回の注射で多少おさまってきた。

「ありがとう、ユウキ先生・・・・」
「頭部CTが要るんじゃないか?」
「そうだね」
彼は素直にストレッチャーを出した。

「紙袋呼吸しているが・・」
別のレジデントだ。
「助産婦手位は未だに改善せず。ユウキ先生」

みな僕をに声かけしてくる・・。自信のないうちは、こうして周囲に
確かめたくなる。気持ちはよく分かる。僕もそうだから。

「他の身内が来てないんだろ?ゆっくり待とう。弘田先生」
「はふ?」
「それまで子供を抱いててくれ」

他の患者のところへ行こうとしたら、救急隊がストレッチャー抱えやってきた。
即座に中堅ドクターが反応した。

「CPAだ!蘇生せよ!」
レジデントが3人、部屋の端からサーッと走り寄った。
アパムもつられてやってきた。
「弘田先生!子供子供!」
「ひ・・」
彼のみ退がった。

「聞こえますかー?」「8フレのチューブ!」「ルート!CVで!」
「介助は?」「マッサージ変わる!」「お願い!」
人だかりで、入っていけない。ここは任せて、近くのベッドへ。

超音波をやってる。
「DCM。左室はヘロヘロだな」
中堅ドクターが見終わり電源が切られた。

レジデントが僕の耳元へ。
「ヘロヘロってどういう意味?」
「バテてしまってほとんど動いてないってこと」
「EFでいうと?」
「さあ。10%くらいじゃないか・・?知らないけど」
頼りなく答えるが、レジデントは終始メモに熱中だ。

「両心不全だ。利尿剤に強心剤。内服はACEを・・」
中堅ドクターが僕にいきなり申し送る。
「め、メモします・・」
「急げよ!」
「どうぞ」
「透視下でスワンガンツだ。他の中堅ドクターに頼んで付き添ってもらえ」
「はい!」
「利尿は徐々にな。さもないとVTも出かねん。あと感染のルールアウトに」
「はいはい」
「はいは1回でよろしい!」
「はい!」
「よしいけ!」
「はい!」

僕は患者を透視室へ運んだ。ジェニーが走ってきた。
「手伝う?」
「頼む」
「放射線部への連絡は?」
「へ?ま、まだだ・・」
「それが先。彼ら、今にでもボイコットしそうだから」
「そんなに気をつかうの?」
「この病院が閉鎖でしょ?彼らだって次の職場を・・」
「就職活動中ってわけか!」

放射線部のオッケーをもらい透視室へ。
中堅ドクターは現れない。
「ジェニー・・・誰を呼べばいいかな・・」
「手の空いてるドクターはいない。あたしらで」
「しかし・・」
「スワン・ガンツ入れるくらい・・!あたしは2日に1本入れてるわ!」
「そうだな。IVH入れるようなもんだし」

消毒をもらい、布をかぶせ・・麻酔。
基本に忠実に・・。

「頸部から入れよう・・」
「患者さんのことを考えて、鎖骨下から!」
ジェニーの目は輝いていた。
「そうだな。感染の可能性が一番低いからな・・」

なんとか・・・逆流確認・・・・入った。

「と、透視を!」
透視画面で確認。バルーンを膨らませ血流にのせ、また解除し肺動脈へ。
「よ、よし・・バルーンでエッジを確認して・・終了」
「圧記録もOK」
「ジェニー・・どうもありがとう」
「先生には初歩的すぎますか?」

入院時指示を記録。

「じゃ、CCUへ」
「先生。CCUは閉鎖されたんです・・というか、そこのスタッフがみな辞めてしまって」
「?誰が管理を?」
「病棟のナースとレジデントです」
「病棟のナースにつとまるのか・・?」
「無理です。なので私達が」
「何でもやってるんだな。僕たちの頃よりも・・」

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