あれだけ満員だったカンファレンス室も、もはや6〜7人しかいない。
それだけスタッフが辞めたって事だろう。無理もない。

病院は買い取られるといっても、職員は残ろうと思えば残れるらしい。だがどうやら次の経営者の差し出す条件がどうも合わないらしい。

経営の基本姿勢からして異なるものだそうだ。
大人の事情は良く分からない。

勉強会の担当は「ハカセ」と呼ばれているレジデント上がりだった。

「みなさんの宿敵、プロテアーゼについて」
みなプリントを眺めている。
「プロテアーゼ、これはつまり蛋白分解酵素。細胞が持ってる。役割としては・・
血液の凝固・線溶、血管新生、血圧の調節、創傷治癒・・これらはすべて細胞間の情報の発信・伝達
によって行われる。サイトカインが代表例だ。・・・そしていずれも生体反応に必須の役割を持つ」
「それがどうして宿敵なの?」
他のレジデントが問う。

「言い過ぎたかな。本来は僕らを守ってくれるものなんだが・・・それがいざ暴走
すると、間違った方向に導くんだ」
「暴走?」
「体が重篤な場面に瀕したときだよ。DICやMOFの前段階である、重症肺炎や癌末期などがそうだ。
特に高サイトカイン血症によるMOFはトピックスだ」
「なるほどね。サーズ(SIRS)みたいなもんか」    ※世間を騒がせた<SARS>とは違います!
「位置づけとしては、SIRS → 高サイトカイン血症 → MOF」
「なるほどね。わかったからもういいよ。次」
「そうすると、それは次のような変化を助長する。炎症!臓器障害!血栓・出血!アレルギーや癌進行!」

みな小刻みにうなずく。途中1人が呼び出されたようで、ササッと瞬時に部屋を飛び出した。

「これに対する治療薬が、これだ。トラジロール、尿が原料であり細菌性ショックに特に有用なミラクリッド、
凝固線溶系制御・特にDICに有用なフサン、重症感染によるDICに適するFOY」

<エラスポール>はSIRSによる肺病変(急性肺傷害=ARDS=ALI)には好中球エラスターゼが関与する。
炎症に関与するこれを抑えるのが本剤だ。
2004年には<エラスポール>が追加されている。

「次は僕だ。骨粗しょう症」
次のレジデントが紙を配る。最前列の院長や副院長は寝ていた。

「今一度、定義に帰ろう。?骨密度の低下、?骨の微細構造の劣化。これが本態だ。家があるとすると、
セメントがうすく、柱がもろくなった家・・ってことかな?こういう家はすぐに倒れる。つまり強度が低下する」
「それで先生は・・三井ホームを?」
副院長がつぶやいた。
「は、はい!へーベルハウスと迷ったんですが・・」
「でも先生。病院が閉鎖されるのに・・このあとが大変ですね」
レジデントは少ししょげた。早くも近所に家を購入しようとしたようだ。

「くく・・・この強度ってのが大事だ。では骨の強度っていうのは、臨床では<骨密度>っていうもので表現される。
実際、骨密度が低いほど骨折がしやすいってことが分かってるからね」

院長、副院長は立ち上がり夜の外来へ向かう。

「お、お疲れ様です!で、では・・・次。最近ではそれだけでなく、血・尿中のマーカーでそれを推定することも多い。
そのマーカーは?骨形成マーカー、?骨吸収マーカー があり、全部で15種類くらいある」
「全部、保険で通るのか?」
ハカセが質問する。

「いえ。保険でいけるのは・・骨形成マーカーのBAPと、骨吸収マーカーのDPDにNTX」
「異常があったら?何かしないといけない?」
ハカセが問う。
「どれか1つが引っかかれば、2次的な原因を調べます」
「2次的?」
「骨粗鬆症の原因っていう意味ではなくて・・同様の病態を引き起こすもの、
例えば・・骨腫瘍ですね。転移性の。あとは代謝異常を示す疾患」
「で、何もなさそうなら?」
「骨吸収抑制をもつ薬剤を投与します」
「フォサマック?」
「ビスフォスフォネート製剤ですね。第一選択でよろしいかと」
「君に言われたくないね」
「はは・・」

流暢に会話が進む。上下関係を絶えず意識した大学のカンファとは偉い違いだ。

何か言いたい気分だ。

ハヤク人間ニナリタアアアイ!

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