プライベート・ナイやん 4-16 愚か者
2005年5月17日徹夜に近い状態で官舎へ戻った。フラフラだ。
そのまま常勤先へ通常勤務。
うっかり緊張が取れれば居眠りは必至だ。
「おはようございます!」
水でも浴びせられるかのような元気な挨拶だ。
「品川くんか!びっくりしたなあ、もう!」
「びっくりしたなあ!もう!」
「まねするなよ!」
「まねするなよ!」
「あのなあ・・」
「あのなあ・・」
少しうっとうしく、エレベーターまで駆け足。
入り口ではヤクザ風の男が3人。サングラスをしている。
彼らは目線を後ろの品川君に移し、深々と礼をした。
エレベーターが開くと、彼らは僕ら2人を先導。彼らは乗らなかった。
「あれ・・・なんだい?」
「あれ?新しい経営者ですよ」
「ヤクザなのかい?」
「経営者っていうのはどこもヤクザですよ」
「どういう意味・・」
「労役から搾取するっていう点ではね」
彼は何もかも知ったかぶった口ぶりだ。
医局に荷物を置き、少しずつ引越しの準備。
「ユウキ先生。大丈夫ですか」
「はあ?」
「面接はうまいこといったらしいですね」
「あの理事長の人。物凄い剣幕だったよ」
「根はいい方です」
「不思議だったよ。言葉が圧倒的で、グングン引っ張られるような・・」
「で・・どうするので?」
「うーん・・・」
彼は心配過剰なのか、苛立っているようだ。
「あと数日で決めないといかんのでしょうが?」
「そうなんだが・・・」
「気になることでも?」
「大学にいったん戻って考える手もあるが・・」
「戻ったら、もうそんな話はないですよ」
彼はこの件になると異様にしつこかった。
「品川くん。すまんがいったん外してくれ」
「私は先生が心配なんで、こういう」
「考える時間をくれ!シッシッ」
「何をそんな!」
「うるさいよ!おまえ!」
医局がシーンと静まった。
パソコン机から三品先生が顔を出した。
「おーお。夫婦喧嘩か」
「違います!」
僕は怒鳴った。
「俺はここの病院の閉鎖を見届けて、どんな新しい展望の病院か期待することにしよう」
「賛成。給料さえ許容範囲なら、僕はオッケー」
神経内科の先生の声。
「だって、生きていける金ありゃ、とりあえずいいじゃん。ユウキ先生」
「・・・・・」
「サラリーマンよりはいいわけだよ。それだけで贅沢ってもんじゃん」
「ですが・・」
「それをさ。まして大学医局離れちゃったらさ、自分の実力だけで食ってくんだよ。危なくない?」
「ですが・・」
「美容整形とかさ、よほど特殊な能力のある医者ならわかるけど。先生は何かあるわけ?」
この先生は、言葉のナイフでグサグサ刺すのが興味らしい。
「僕には・・そうですね。大学へ戻って一生お世話になるほうが、向いてるかもしれません」
「そんなマジにならなくて、いいじゃん」
「ですが、自分の成長がストップするような気がするんです」
「そんなことないじゃん。大学でも臨床できるじゃん」
「上下関係との両立は、僕には・・」
「なんだ。それだけなの?あのさ」
彼は机から抜け出し、僕の真横までやってきた。
「先生。絶対後悔するからやめときなさいって!」
「・・・・・」
「一匹狼なんて、技術が1人前になってからできることだよ!」
品川君がさえぎった。
「やめていただけませんか?」
「どして?」
「ユウキ先生は生まれ変わろうとしてるんです」
「無理じゃん」
「先生とは違うんです!」
「え?なんて?」
先生の表情が曇った。
「事務員がそんな態度取っていいわけ?」
「す、すみません・・」
「メガネ事務長に言ってやろっと」
言いつけたところで、品川君はもうじき退職だ。
「もうサマリーも書いてやらないもんね!」
彼は机に戻った。
「品川くん。すまんな・・」
僕は申し訳なかった。僕自身、自分のことが他人事にしてるからだ。
考える時間より、過ぎ行く時間のほうが遥かに速く流れる。
それに逆らえないのだ。
僕ら部屋の隅に入った。
「ユウキ先生。私はですね」
「ああ?」
「あちらの病院で一緒に頑張りたいんです」
「そ、そうか。それは・・」
「ホモじゃないですよ。言っておきますが」
「おいおい」
「私が先生をお守りしますって!」
彼はサムのように頼れる存在になるのか。
「心強いよ。だが・・」
「またなんですか?もう!本音を言ってください!」
「決別したくない人間が・・」
「初恋の?」
「社会人初恋だよ」
「字余りですね」
「彼女と一緒に仕事ができるかもしれないだろ」
品川君は顔を真っ赤にした。
「なんだそれは!仕事を何だと思ってるんだ!」
「本音で言えと言っただろ?」
「本音にも程があるだろ!アホにもそれ(程)があるように!」
「アホで悪いか!」
「悪いさ!」
僕らはまたそこで取っ組み合いになった。
「ユウキ先生!目覚めよ!」
「ものみの塔!」
「?」
彼がひるんだ隙に、足を踏んで廊下へ逃げた。
「待て!愚か者!」
彼は物凄いスピードで追っかけてきた。
♪今夜はあ・・
チャラッチャララ!バババン!
眠れよ・・・・・。
そのまま常勤先へ通常勤務。
うっかり緊張が取れれば居眠りは必至だ。
「おはようございます!」
水でも浴びせられるかのような元気な挨拶だ。
「品川くんか!びっくりしたなあ、もう!」
「びっくりしたなあ!もう!」
「まねするなよ!」
「まねするなよ!」
「あのなあ・・」
「あのなあ・・」
少しうっとうしく、エレベーターまで駆け足。
入り口ではヤクザ風の男が3人。サングラスをしている。
彼らは目線を後ろの品川君に移し、深々と礼をした。
エレベーターが開くと、彼らは僕ら2人を先導。彼らは乗らなかった。
「あれ・・・なんだい?」
「あれ?新しい経営者ですよ」
「ヤクザなのかい?」
「経営者っていうのはどこもヤクザですよ」
「どういう意味・・」
「労役から搾取するっていう点ではね」
彼は何もかも知ったかぶった口ぶりだ。
医局に荷物を置き、少しずつ引越しの準備。
「ユウキ先生。大丈夫ですか」
「はあ?」
「面接はうまいこといったらしいですね」
「あの理事長の人。物凄い剣幕だったよ」
「根はいい方です」
「不思議だったよ。言葉が圧倒的で、グングン引っ張られるような・・」
「で・・どうするので?」
「うーん・・・」
彼は心配過剰なのか、苛立っているようだ。
「あと数日で決めないといかんのでしょうが?」
「そうなんだが・・・」
「気になることでも?」
「大学にいったん戻って考える手もあるが・・」
「戻ったら、もうそんな話はないですよ」
彼はこの件になると異様にしつこかった。
「品川くん。すまんがいったん外してくれ」
「私は先生が心配なんで、こういう」
「考える時間をくれ!シッシッ」
「何をそんな!」
「うるさいよ!おまえ!」
医局がシーンと静まった。
パソコン机から三品先生が顔を出した。
「おーお。夫婦喧嘩か」
「違います!」
僕は怒鳴った。
「俺はここの病院の閉鎖を見届けて、どんな新しい展望の病院か期待することにしよう」
「賛成。給料さえ許容範囲なら、僕はオッケー」
神経内科の先生の声。
「だって、生きていける金ありゃ、とりあえずいいじゃん。ユウキ先生」
「・・・・・」
「サラリーマンよりはいいわけだよ。それだけで贅沢ってもんじゃん」
「ですが・・」
「それをさ。まして大学医局離れちゃったらさ、自分の実力だけで食ってくんだよ。危なくない?」
「ですが・・」
「美容整形とかさ、よほど特殊な能力のある医者ならわかるけど。先生は何かあるわけ?」
この先生は、言葉のナイフでグサグサ刺すのが興味らしい。
「僕には・・そうですね。大学へ戻って一生お世話になるほうが、向いてるかもしれません」
「そんなマジにならなくて、いいじゃん」
「ですが、自分の成長がストップするような気がするんです」
「そんなことないじゃん。大学でも臨床できるじゃん」
「上下関係との両立は、僕には・・」
「なんだ。それだけなの?あのさ」
彼は机から抜け出し、僕の真横までやってきた。
「先生。絶対後悔するからやめときなさいって!」
「・・・・・」
「一匹狼なんて、技術が1人前になってからできることだよ!」
品川君がさえぎった。
「やめていただけませんか?」
「どして?」
「ユウキ先生は生まれ変わろうとしてるんです」
「無理じゃん」
「先生とは違うんです!」
「え?なんて?」
先生の表情が曇った。
「事務員がそんな態度取っていいわけ?」
「す、すみません・・」
「メガネ事務長に言ってやろっと」
言いつけたところで、品川君はもうじき退職だ。
「もうサマリーも書いてやらないもんね!」
彼は机に戻った。
「品川くん。すまんな・・」
僕は申し訳なかった。僕自身、自分のことが他人事にしてるからだ。
考える時間より、過ぎ行く時間のほうが遥かに速く流れる。
それに逆らえないのだ。
僕ら部屋の隅に入った。
「ユウキ先生。私はですね」
「ああ?」
「あちらの病院で一緒に頑張りたいんです」
「そ、そうか。それは・・」
「ホモじゃないですよ。言っておきますが」
「おいおい」
「私が先生をお守りしますって!」
彼はサムのように頼れる存在になるのか。
「心強いよ。だが・・」
「またなんですか?もう!本音を言ってください!」
「決別したくない人間が・・」
「初恋の?」
「社会人初恋だよ」
「字余りですね」
「彼女と一緒に仕事ができるかもしれないだろ」
品川君は顔を真っ赤にした。
「なんだそれは!仕事を何だと思ってるんだ!」
「本音で言えと言っただろ?」
「本音にも程があるだろ!アホにもそれ(程)があるように!」
「アホで悪いか!」
「悪いさ!」
僕らはまたそこで取っ組み合いになった。
「ユウキ先生!目覚めよ!」
「ものみの塔!」
「?」
彼がひるんだ隙に、足を踏んで廊下へ逃げた。
「待て!愚か者!」
彼は物凄いスピードで追っかけてきた。
♪今夜はあ・・
チャラッチャララ!バババン!
眠れよ・・・・・。
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