次第にだが、指先が温かくなってきた。両手をそれぞれ握り締める。

「ここか・・?そうか!」
静脈の血液が戻った。
「では次、動脈のほうを・・・!」
「できたな。透視!」

軍曹がカテーテルを入れていった。
「先に入れる!」
「・・・・」
「右心室・・・肺動脈。ここで造影!」
「先生。冠動脈のほうを優先・・」
「はあ?バカか!」
「?」

造影された肺動脈。2本に分かれたその・・両方の入口部に、巨大な
欠損像がみられた。

「PTE(肺血栓塞栓症)だったのか!」
「バカモンが!血ガスもせず!」
僕は足を蹴られた。
「す、すみま・・」
「わしに謝るとは何事か!患者様と沖田院長に土下座しろ!」
「は、はい」

彼は腕組みした。
「t-PAの局所投与だ。用意!」
t-PAはカテを通してワンショットで投与された。
「ヘパリンもいっとけ!」
「はい!」

再度の造影では、欠損像はやや改善。
「これで終わる。CCUへ行くぞ!」
「肺血流シンチは?」
「そんなヒマあるか!それよりも原因としてのDVT(下肢静脈血栓症)などを追求しとけ!」
「は、はい!」
「下大静脈フィルターを入れるかどうかも検討だ!」
「はいっ!」

CCUでモニターをつないだりしたが、ナースたちは疲弊しきっていた。
「さあ!モタモタするな!」
鬼軍曹は容赦しない。
「1分1秒でも無駄にするな!手を止めるな!」
ナースが1人パニクっている。手元があやふやだ。
「こらそこ!何をやっとるか!」
「先生。これ以上は限界です」
ナースの1人が指摘した。
「なにい?何を言うか貴様!」
「スタッフも減って、もう私達限界です!」
「限界とは何事か!ドクターたちは寝泊りでやっとる!」
「新しい病院になるまでの我慢と思ってましたが・・・!」
「甘えたことを抜かすな!病気は待ってはくれんのだ!」
「辞めます!」

ナースは手ぶらで出て行った。

「こら待て!」
彼女は戻ってこなかった。
「根性なしが!都合が悪くなれば音を上げおって!」
軍曹の言葉1つ1つが僕にも突き刺さった。

SpO2は95%へと上がってきている。
「採血ではトロポニンは陰性でした。やはり」
「だろうな!たわけが!指示を出したら外来へ戻れ!」
尻を叩かれながら、外来へ。

それまでずっと後ろから尻を叩かれっぱなしだ。
おかげで外来には微笑ましい雰囲気が漂った。

「急げ急げ!」
「くくっ・・!」

胃腸炎+イレウス疑いの患者のデータを軍曹と見た。

「サブイレウスだ。絶食輸液。IVH管理だ。とっとと指示を書け!」
「今すぐIVHというのは・・」
「カテーテル熱が怖いのか?」
「まずは手足の血管から・・」
「どこに血管がある?」

確かに見当たらない。軍曹はそこまで見ているのか。

「透視室でやってこい!」
「は、はい!」
放射線技師の手を借りつつ、IVH。
なんとか入り、糸でくくる。

「アンステーブルが来る!ここは使うよ」
冷酷レジデントだ。
「あとは頼みますね」
「どういう意味?」
「僕は今日までなので」
「待てよ!この状況だぞ?」
「そういう約束なので」
彼は去った。

「病棟へ上げよう」
サブイレウスの患者を上げる前に、そこにあるポータブルで心機能を確認。
「MR高度。輸液はあまり増やさないようにして・・・指示、上がり!」
病棟から降りると、もうサイレンが鳴っていた。

救急室は3人のレジデントと副院長がいろいろ処置してる。

ドアが開き救急隊が搬入してきた。

「開業医にて肺炎で外来治療していた方!56歳!」
「若いな・・!」
「脱力著名で呼びかけ応答あり。その他バイタルはメモの通り!酸素リザーバー全開でも90%!」

開業医のレントゲンがある。肺気腫だ。急性増悪か。
血ガスでは二酸化炭素の貯留はなし。だが酸素は依然少ない。

挿管して人工呼吸・・。だが菌もいろいろもってそうだし、安易に
挿管して菌が拡がりやすくなる可能性も・・。

「隊員さん。開業で投与した抗生剤は?」
「2週間前からロセフィン・・・・1週間前からメロペン!」
「初回はアミノグリコシド併用か、4世代単剤からでいってくれよな」
「え?」
「いやいやなんでもない」
「血圧が低め。敗血症の状態かも」
「軽く言わないでください」
「では・・失礼します」

採血提出し点滴。ストレッチャーを1人で押し、胸部CTに運ぶ。
「カルバペネムがすでに無効となると・・・変更が必要か。苦しい?」
「はあ・・・ええ・・はあ」
「そりゃそうですよね」

写真では右上肺に、左下肺の肺炎。広範だ。
抗生剤変更うんぬんよりも、救命が優先だ。

「グロブリン製剤。それと・・・」
この前の勉強会を思い出した。
「これだ。ミラクリッド」
重症肺炎でサイトカインが過剰に発現されている状態のはずだ。

アパムが部屋にやってきた。

「アパム先生!ミラクリッド!」
「は・・・」
彼は肩にぶら下げた道具箱からいくつか取り出した。

近くで救急車がもう1台到着。
「アンステーブル(不安定狭心症)だ!」
レジデントが走っていった。どうやらカテになるようだ。
ジェニーもやってきた。

「アパム先生!僕はカテにつくから!この肺気腫+肺炎の人を!」
「ひ・・」
「挿管が必要なときは、僕か上のドクターを!グッチも手伝って!」
「違うわ・・」
彼女は上目遣いで見ていた。
「何が違うんだ!急げグッチ!」
「・・・」
「す、すまん。ジェニー・・・」
ジェニーは無表情にストレッチャーを引っ張り、アパムと病棟へ上がった。

不安定狭心症の周囲ではレジデントが3人、初期の治療を行っている。
「急げ!急がんかあ!」
後ろで沖田院長が怒鳴る。

副院長は吐血の患者のため内視鏡室へ向かった。
「ユウキ先生。介助を」
「僕はカテを・・」
「キミに患者を選ぶ権利はないはずですが」
「は、はい・・・!」

もっともだった。

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