赤ん坊をどう持ち上げるか・・。両手で首をしめて持ち上げるのは危険なはずだ。
そうだ。こう、横にして・・、右手を首の下、左手をおしり・・。水平に沈めると顔が沈むから、斜めに傾けて、と。

考えながらすれば、楽しいものだ。

赤ん坊の両足がお湯につかる。少し驚いたようだが、抵抗はしないようだ。
そのまま首まで沈めた。
「うげえ・・・うげえ」
何やら喋っている。でも泣いてないので放置。
「ふんげ。ふんげ」

チャポチャポ遊ばせ、頭を後ろからお湯で洗う。
「う、うげあ!」
赤ん坊の体がそり返り、頭をフロに突っ込みそうになったが・・。
予測していたので、力をいれることで防げた。

次に何をするか、何が起こりうるか・・。考えながらだ。常に。
よく考えると、仕事に通じるものがあった。

赤ん坊は自分の手をなめ始めた。
「ふふ。ふんへえふんへえ」
「フロの水だぞ!やめろ!」
思わず手を引っ張った。しまったと思ったが時は遅く・・。

「ふ・・・ふふ!ふんげっ!ふんげっ!」
赤ん坊は号泣してきた。
「ああ、ごめん!」
「ふんげっ!ふんげっ!」
「ああ!」
僕は動揺して体を揺さぶってしまった。
「ぎゃあ!ぎゃあ!ぎゃあ!」

今日は寝ないかもしれないな。

「なんとかしないと・・機嫌を!おう!おう!」
「ぎゃああ!ぎゃあああ!」
「逆効果だ・・」
「ぎえあ!ぎえあ!」
叫び声はどんどんひどくなっていく。

「こ、これはどうだ!べ!ベロベロバア!」
「ふげっ?ぎいいえあ!ぎいいえあ!」
「余計ひどいな」
「ギエ!ギエ!ギエ!」
予後不良だ。

「なら・・・そうだ。これは?」
僕は赤ん坊の体ごと、横にスイ〜と泳がせた。
狭い浴槽なので、せいぜい数十センチだが。
「ふ?ふきゃっふきゃっ」
「よ、よし!」
僕は何度も繰り返した。
「ふきゃっふきゃっ!」
嬉しそうだ。

フロから出してタオルで拭いたあと、用意周到のミルクを
口にあてがった。ビデオの順番だ。

「ふ!ふ!ふん!ふん!」
順調に飲んでいる。あまりに号泣されると却って飲まないからな。
まあ助かった。

「ふん!ふん!ふ・・・・ふ・・・・」
次第に赤ん坊はしおれていった。疲れて寝てしまったのだ。
「スー・・・・スー・・・・」

僕は寝かせたあと、思わずジャンプした。
「イエス!」
<エアフォースワン>のイラク機撤退を受けたペンタゴンだ。

しかし夕方を過ぎても救援は来ない。
明日は月曜日だ。夜には僕も官舎へ戻りたい。
沖田院長は今頃、オペの最中なのだろうか・・・?

「ゲポゲポゲポ」
「うわっ?」
赤ん坊は自分が吐き出したミルクに驚き、また泣き出した。
「ふううう。ふげえ!ふげえ!」
「しまった!ゲップさせるのを忘れていた!」

僕はまるで<男塾>で2人の戦いを見守るキャラのように、
ひたすら状況をいちいち説明していた。
『なにいーっ?富樫がジャンプしたとたん、敵の矢を交わしたあ?』

油断は禁物だ。

そうこうしてるうち、<ダイアナ>が帰ってきた。買い物袋を引っさげ、
赤いドレスで。しかしタバコをくわえて髪はボサボサで不健康だ。
前より老けて見えるのはスッピンだからか。

「あら。ティッシュ坊や」
「なにがだよ・・」
「この前はありがと」
「いえ。沖田院長が今日・・」
「なんかあった?」
「運ばれた、と。様子を聞こうと思います」
「はいはい。じゃあ、行ってきて行ってきて!」

ようやく交代だ。

「ちょっとこれ何!」
僕はまだ吐いた部分のカーペットを拭いてなかった。
「いつ吐いたの?」
「今さっき」
「ホンマア?」
「ホンマですって!」
「これ、拭いてから行きいや!」
「はいはい」

すぐに反応してしまう自分が悲しかった。
結婚したら、こうなるのかなあ・・。

当時何も知らなかった僕。グッチが野中と結婚したのはちょうどこの頃だ。

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