沖田院長の病状を気にしつつ、常勤先の病院へ。今度は
遅刻しなかったぞ。

「おはようございまし!」
僕は受付に手を振った。みな奇怪な目で見る。

「おはようございます・・」
外来のアイドルナースが怪訝そうに挨拶。またウツ傾向のようだ。
「おはようございまし!」
「?」

他を圧倒するハイテンションで、僕は医局へと上がった。
睡眠不足が続いているからだ。

トイレ。

最近は緊張する場面が多いため、トイレに行くこと自体がはばかられて
いた。そのためか小の勢いも、いつもより強かった。
「ふ〜。ブルブルブル!」
鏡の前で、手、そして顔を洗った。
「ふ〜・・・ん?」

顔を見ると・・・鼻の周りが真っ黒だ。
「やべやべ!」
水で洗い流した。どうやら鼻血が拭ききれていなかったようだ。
受付の人間達はそれで驚いていたようだ。

医局でテレビを見ていると、三品先生がやってきた。
「ういっす」
「おはようございまし!」
「ほう?今日はやけにテンション高いな」
「いえいえ」
「救急病院の女医さんは、どうですか?」

ギク・・・。

「なんかユウキくんは、うちの医局の関連病院よりも」
「・・・・・」
「救急病院にウツツをぬかされておられるようで」
彼はイヤミたっぷりに語り始めた。
「♪ありがとう〜・・・ジェニ〜ィ。ジェニー!」
「な?なんでそれを?」
「いえいえ。さわさわ。沢田研二!」
彼はパソコンを起動した。

三品先生。誰から聞いたんだ・・。油断ならないな。

「♪お前は〜いいフンフン〜だった〜」
彼は鼻声で歌い続ける。
「♪だけど、ジェニ〜・・・あばよお、ジェニ〜・・・」

あばよ、ジェニーか・・。
そういや、この前間違って他の名前で呼んでしまったなあ・・。
まずいな。

「おはようございまし!ユウキ先生」
品川くんがやってきた。
「今日も外来は・・」
「来てないんだろ?」
「いえ。1匹・・」
「1匹?ガキ大将か?」
「閑古鳥が1匹。先生。小声でいいですか」
「何?」

彼は広告を裏返し、なにやら書き始めた。
『真田病院はOKで?』
僕は少し考えて、返事を書いた。
『大学へ戻って、半年は欲しい』
彼も即、書き始めた。
『半年したら絶対?』
『それまでいろいろカタをつけようかと』
『プロポーズですか?彼女は大学にはもう・・』
『そこまでいくかどうか分からないけど、あの医局をすぐに
離れられないよ』

今までの思い出がいろいろあるからだ。
そう簡単には決断がつかない。

『では半年後』
『ラジャー!』

「お前ら、できてるのか?」
三品先生が覗いていた。
「ユウキ先生は両刀使いなのかな?」
「やめてください・・」
僕はシェーバーでアゴの無精ヒゲを刈り取っていった。

「病棟では看護婦さんたちが噂してるぞ。うさぎさん!」
「!」
「怒った?」
「僕を・・・ウサギさんと・・・・・・!」
「お?お?」
それ以上は言わず、黙った。

品川君が携帯で何か話し終わった。
「ユウキ先生。それで向こうは検討すると」
「ありがとう」
「彼女のことはもう忘れて・・」
「そんな言い方するな!気持ち悪い!シッシッ!」

他の数人は野茂のピッチングを見ている。

品川君は財布から券を取り出した。
「タイタニック、見ました?」
「いや。泣けるらしいな」
「よかったですよ。この券。マイカルで見たんですけどね」
「新人ナースとか?」
「また別のナース。病棟の」
「んで?」
「燃えましたって!」
「映画でなく、その後だろ?」
「ピンポーン!」
「言いふらしてやろ!」
僕は席を離れ、廊下へ出た。

「こら待て!待てっ!」
彼は死に物狂いで追っかけてきた。
「やめろ!」

僕は階段を1段飛ばしで駆け下りた。
詰所へそのまま突入。

申し送りの輪の中に飛び込んだ。
ブレーキがきかなかった。

「みなさん、ハア。いいですか!」
「うわ、気持ち悪い!」
ナースの1人が思わず叫んだ。
「あのね」
「ダメだ!」
品川君が後ろから飛びついた。

「やめろ!先生!」
「うわわ!」
彼は僕の首を後ろから掴み、揺らした。
「言ったら、言ったら・・!」

ナースたちは警戒し、輪はだんだん拡がっていった。
婦長はフー、とため息をついた。
「お似合いですこと。2人とも・・」

「僕は<あのね>って言っただけだ!」
「みなさん!この男が言うことはすべて、うそ!」
「<あのね>、しか・・」
「ぜったいに!う!そ!」
彼は必死だった。

後ろに副院長が立っていた。
「何やってんだ?お前ら・・」
「おはようございます!」僕ら2人は同時に挨拶した。
「乱交なら家でやってくれないか?」
しかし以前の1件を思い出したのか、副院長は少し
ためらいぎみに目を逸らした。

後ろで三品先生がガムを噛んでいた。
「♪あのね、フッフフンフッフ〜(Q太郎はね〜)」
彼は金魚のフンのように、副院長に従っていった。

「変わりなし?」
僕はナースらに聞いた。特記事項なしとのことだった。
回診を済ませたがまだ朝の11時。

もうすることがない。昨日とのギャップは何なんだ?

そうだ。
僕は事務へ電話した。
「メガネ事務長?あのですね。有給って使えるかな?」
「ええ。確かに可能ですが・・・ドクターが有給を取られるってのはあまり」
「非常識?」
「いえ。そういうケースはあまりないもので」
「ちょっと用事があってね。引越しに際して」
「住民票の移し、とか?」
「あとCSとかの解約とかいろいろ」
「では昼からということで」

僕は空いてる時間、バイト先病院で頑張ることを心に
決めていた。

病院駐車場のマーク?のマフラーがドドドと轟く。

「♪だっけどジェニーにはとっても弱いんだってっさ!」

急いで救急病院へ。

病院閉鎖まであと16日・・・・・。

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