プライベート・ナイやん 5-5 院長は病院(ふね)と運命を共に・・!
2005年5月24日病棟の個室。
「ユウキです・・・入ります」
ゆっくりと部屋内へ。
予想とは違っていた。人工呼吸器の機械などもない。
沖田院長は病衣を着た姿で横になりテレビを見ていた。
「沖田院長・・」
「グオオ・・・うぬ?」
沖田が、起きた。
「お体のほうは・・」
「ウム?何かお前、死人でも見るような目つきじゃのう」
「とと、とんでもないです」
「わしが無事なので、少しガックリしとるんだろう?」
「そそ、そんなわけ!」
「まあよい。そこへ座れ」
「はい・・」
僕は腰掛けた。
「友香が感心しとったぞ」
「友香?」
「ほら。赤ん坊の母親」
<ダイアナ>か。
「お前は赤ん坊の扱いが誰よりも上手じゃった」
「扱い・・ですか」
「そりゃもう最初はひどいもんじゃった。落として打撲はさせるわ、
部屋は汚すわ、他の部屋に勝手に入るわ・・」
「・・・・・」
「だが、この前のとき。実にお前はスムーズにやってのけた」
「フロに入れた日ですかね・・?」
「そうじゃ。実に用意周到で、臨機応変じゃった」
「確かに、ちょっとしてことで動じたりはしないようにはなりました」
「それは何故か、分かるじゃろう?」
「?」
「最近、自分の何かが変わったのではないか?」
・・・・・?
「ふむ。それでいいのじゃ。それで」
「確かにあのとき、いろいろと悟りました」
「ふむ」
「最初はイヤでした。やったことがないからという単純な理由で。
しかし、イヤでもやらざるを得ない状況に立ちました」
「・・・・」
「そこで選択に迫られました。逃げるか、立ち向かうか。自分は
立ち向かうことにしました」
「ふむ」
「立ち向かうなら、どうすればいいか。ビデオで技術を覚えてそれを習得して・・
しかしそれだけではダメだったんです」
「・・・・・」
「次に何が起こるか。常に最悪の状況を想定しつつ、その場の状況に応じた対処を
見極めていくんです。先を先を見越すように」
「ふむ」
「大事なのは技術をマニュアルにして合理化することでなく・・・予測を立て続けて
自分を流動化することです」
正直自分は舞い上がっていて、何を言っているのかわからなくなった。
「ふむ。予測を立て続け・・常に先を考えながら現在を生きるということだな?」
「?は、はい」
「わしは動脈瘤の手術は断固、拒否した。このままでいい。わしも手術した場合、
しなかった場合で先をいろいろ考えた」
「・・・・・」
「わしの周りは愛人くらいしか身寄りがおらん。孫は可愛い。じゃがわしが死んだ
ところで、また数年生きたところで何になる?」
「数年だなんて先生」
「だまれ!わしがわしに聞いておるんじゃ!」
「・・・・・」
鬼軍曹がびっくりしてドアを開けた。
「何か!」
「閉めろ!」
院長の一喝でドアは閉められた。
「わしはこの病院の院長だ。院長は病院と運命を共に・・」
複雑な理由があった。手術をするとなると胸部外科の設備のある他の
病院へ転院させられるのだ。
僕は鬼軍曹といっしょに重症回診へ向かった。
「沖田院長は、お前をすごく気に入ってたようだな」
「・・・・・」
「子育ての面で」
それ以外にも、と思いたい。
重症患者の集まるICUでは、6〜7人がベッドを1つずつ巡回する。
アパムやジェニーも混じる。
「左の下肺の肺炎は悪化してます。最初は小さかったのですが」
ジェニーの友人の女医、小森が説明している。
患者は中年女性で酸素マスク吸入中だ。
「右にも少し陰影が」
「喀痰培養は?」
レジデントらが質問する。
「入院5日目で、まだ・・」
「グラム染色は?」
「そ、それはまだ」
「バカモンが!基本だろうが!」
鬼軍曹が怒鳴り散らした。
「抗生剤の使用は適正なんだろうな?」
「にゅ、入院時白血球増加がなくて、異型肺炎を疑ってミノマイシンから開始して」
画像を確認し終わった軍曹は何か悟ったようで、フィルムを僕に手渡した。
「で?」
「で・・・状態が悪いのでカルバペネム系に変更して」
「CRPが10→12mg/dlで肺炎像も拡大だな。で?」
「それで今回、肺炎が拡がってて、CRPも16mg/dlまで上昇していて・・」
「次はなんだ?免疫グロブリンかミラクリッドか?」
「そうしようかと」
「調べたのか?いろいろと」
「本はいろいろと見たのですが」
「どれ?どこに?」
あたりが静まった。
「どこなんだ?ジェニー?」
彼は手を差し出した。
「じ、自分は本を読んだだけで」
中堅ドクターがしゃしゃり出た。
「先生、許してやってください。ジェニーはここ3日、全く寝ずの状態で」
いつも強気の中堅ドクターが、片膝をついている。ありえない光景だ。
でも僕には分かる。
彼は・・ジェニーに惚れている。
・・・何を考えてんだ?
「ユウキです・・・入ります」
ゆっくりと部屋内へ。
予想とは違っていた。人工呼吸器の機械などもない。
沖田院長は病衣を着た姿で横になりテレビを見ていた。
「沖田院長・・」
「グオオ・・・うぬ?」
沖田が、起きた。
「お体のほうは・・」
「ウム?何かお前、死人でも見るような目つきじゃのう」
「とと、とんでもないです」
「わしが無事なので、少しガックリしとるんだろう?」
「そそ、そんなわけ!」
「まあよい。そこへ座れ」
「はい・・」
僕は腰掛けた。
「友香が感心しとったぞ」
「友香?」
「ほら。赤ん坊の母親」
<ダイアナ>か。
「お前は赤ん坊の扱いが誰よりも上手じゃった」
「扱い・・ですか」
「そりゃもう最初はひどいもんじゃった。落として打撲はさせるわ、
部屋は汚すわ、他の部屋に勝手に入るわ・・」
「・・・・・」
「だが、この前のとき。実にお前はスムーズにやってのけた」
「フロに入れた日ですかね・・?」
「そうじゃ。実に用意周到で、臨機応変じゃった」
「確かに、ちょっとしてことで動じたりはしないようにはなりました」
「それは何故か、分かるじゃろう?」
「?」
「最近、自分の何かが変わったのではないか?」
・・・・・?
「ふむ。それでいいのじゃ。それで」
「確かにあのとき、いろいろと悟りました」
「ふむ」
「最初はイヤでした。やったことがないからという単純な理由で。
しかし、イヤでもやらざるを得ない状況に立ちました」
「・・・・」
「そこで選択に迫られました。逃げるか、立ち向かうか。自分は
立ち向かうことにしました」
「ふむ」
「立ち向かうなら、どうすればいいか。ビデオで技術を覚えてそれを習得して・・
しかしそれだけではダメだったんです」
「・・・・・」
「次に何が起こるか。常に最悪の状況を想定しつつ、その場の状況に応じた対処を
見極めていくんです。先を先を見越すように」
「ふむ」
「大事なのは技術をマニュアルにして合理化することでなく・・・予測を立て続けて
自分を流動化することです」
正直自分は舞い上がっていて、何を言っているのかわからなくなった。
「ふむ。予測を立て続け・・常に先を考えながら現在を生きるということだな?」
「?は、はい」
「わしは動脈瘤の手術は断固、拒否した。このままでいい。わしも手術した場合、
しなかった場合で先をいろいろ考えた」
「・・・・・」
「わしの周りは愛人くらいしか身寄りがおらん。孫は可愛い。じゃがわしが死んだ
ところで、また数年生きたところで何になる?」
「数年だなんて先生」
「だまれ!わしがわしに聞いておるんじゃ!」
「・・・・・」
鬼軍曹がびっくりしてドアを開けた。
「何か!」
「閉めろ!」
院長の一喝でドアは閉められた。
「わしはこの病院の院長だ。院長は病院と運命を共に・・」
複雑な理由があった。手術をするとなると胸部外科の設備のある他の
病院へ転院させられるのだ。
僕は鬼軍曹といっしょに重症回診へ向かった。
「沖田院長は、お前をすごく気に入ってたようだな」
「・・・・・」
「子育ての面で」
それ以外にも、と思いたい。
重症患者の集まるICUでは、6〜7人がベッドを1つずつ巡回する。
アパムやジェニーも混じる。
「左の下肺の肺炎は悪化してます。最初は小さかったのですが」
ジェニーの友人の女医、小森が説明している。
患者は中年女性で酸素マスク吸入中だ。
「右にも少し陰影が」
「喀痰培養は?」
レジデントらが質問する。
「入院5日目で、まだ・・」
「グラム染色は?」
「そ、それはまだ」
「バカモンが!基本だろうが!」
鬼軍曹が怒鳴り散らした。
「抗生剤の使用は適正なんだろうな?」
「にゅ、入院時白血球増加がなくて、異型肺炎を疑ってミノマイシンから開始して」
画像を確認し終わった軍曹は何か悟ったようで、フィルムを僕に手渡した。
「で?」
「で・・・状態が悪いのでカルバペネム系に変更して」
「CRPが10→12mg/dlで肺炎像も拡大だな。で?」
「それで今回、肺炎が拡がってて、CRPも16mg/dlまで上昇していて・・」
「次はなんだ?免疫グロブリンかミラクリッドか?」
「そうしようかと」
「調べたのか?いろいろと」
「本はいろいろと見たのですが」
「どれ?どこに?」
あたりが静まった。
「どこなんだ?ジェニー?」
彼は手を差し出した。
「じ、自分は本を読んだだけで」
中堅ドクターがしゃしゃり出た。
「先生、許してやってください。ジェニーはここ3日、全く寝ずの状態で」
いつも強気の中堅ドクターが、片膝をついている。ありえない光景だ。
でも僕には分かる。
彼は・・ジェニーに惚れている。
・・・何を考えてんだ?
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