プライベート・ナイやん 5-7 オペ場フロ場のエイリアン!
2005年5月24日深夜に医局へ戻ると、3人くらいが床で毛布をかぶって寝ている。
夜の重症回診、そのあと英語論文の抄読会(全くわけわからず)、アパムとの2人回診。
明日の朝はまた常勤先。それまでここで待機だ。
ジェニーはどうやら帰ったようだ。これだけ接触する時間が増えても、
なかなかプライベートな話にもっていけない。常に邪魔が入る。
それも絶妙なタイミングで。
彼女は気になる存在ではあるのだが、こうも世界がめまぐるしいと
恋愛どころではない。そういうものにかける時間もあまりない。かと
いって自然に任せれば、ただのすれ違いの人生になっていく。
さて、<BOOP>の復習でもして寝るか。
『 これは1985年になって出てきた概念だ。新しい。
ってことはそれまで長年見過ごされてきたってことだ。
もともと間質性肺炎の1型とされていたらしい。
つまりそれだけ判明しにくい・・微細構造レベルの病気なのだ。
実際このBOOPの本態は、あくまで病理学的(注意!)意味で
? BO = bronchilitis obliterans 閉塞性細気管支炎
? OP = organizing pneumonia 器質化肺炎
(BO + OP = BOOP、つまりBOOPとは『閉塞性細気管支炎を伴う器質化肺炎』
となるが、教科書的には『特発性器質化肺炎』と表現されている)
が同時に存在する、びまん性肺疾患。原因不明。
気管支の枝の枝のそのまた枝の・・・終わりの辺で起こった炎症。
先日話題に出た血管炎もそうだが、あくまでも確定診断は<生検>
による。生検以外が無力ではないが、よほど徹底した鑑別がないと
診断までもっていけない。
かといって最初から生検に走るのも無理がある。初期の検査・所見で
迅速・客観的に鑑別を進め、生検をすべきかどうかも考慮しながらでないと
いけない。
○ 40-60歳台が最多で男女差なし。
○ 発熱・咳・呼吸困難と一見ただの肺炎症状。
○ 発症は急である。なので早く診断してあげないとかなり進行。
○ 胸部レントゲンでは通常、両側多発性の斑状陰影
(エアブロンコグラムを伴う)。エアブロンコグラムなら細菌性肺炎
と考えてしまいがちだが、陰影が両肺にあるなら立ち止まって考えよ。
○ なおテストによく出る特徴的な「移動する陰影」は三分の一の頻度。
陰影が末梢に多発すると好酸球肺炎(これも原因不明の疾患)
との区別が困難。
○ 少し言い換えるが、<多発性の浸潤影>があれば、これが
浮かぶようにしておこう。
○ 血液で好酸球が若干増える例もあるようだが特徴的なのはない。
○ 鑑別疾患としてさきほどの好酸球肺炎、細菌性肺炎、マイコプラズマ
肺炎、肺線維症は頭に入れておく。
○ 鑑別が困難ならBAL(気管支肺胞洗浄:カメラ下で肺の一部に
生理食塩水を注入、回収する)を施行。
○ 確定診断には生検を要する。それ以外は鑑別・除外診断に
没頭し続ける。
○ 病状が進行しすぎると、鑑別・診断の検査に有用なBAL・生検が
しにくくなるので、早めの診断・相談を心がけるべき。
』
呼吸器疾患では<鑑別>をいかに丹念に行うか。それも<なんとなく>
とか<印象>でもなく、理詰めで。これをするのが苦手だとかメンドクサイ
と思う人は、必ずどっかでつまづく。画像やデータとのにらめっこを続けて
「いやこうではない。あれかもしれない」と自分の言葉で自問自答する。
しかし大まかな疾患をふまえておけば、鑑別の手順のコツがわかってくる。
それと画像を介したディスカッションはなるべく大人数で至近距離から行った
ほうがいい。各人がいろんな症例を経験しているはずだからだ。
治療に関しては先日、鬼軍曹が言ってたな。ステロイド・・・。
寝る前に、フロに入ることにした。下着などはすべて自前で用意。
寝巻きは当然、術衣だ。シャンプーは風呂場にあると聞いた。
し、しかし風呂場の場所は・・。
オペ室の隣だ。手術を終えたドクターが本来入るところ。
小説「白い巨塔」の1シーンを思い出すな・・。
「ここだな」
借りた鍵で部屋を開ける。奥は闇だ。手術台。その向こうにフロの入り口。
・・・・・・・。
一歩一歩、ゆっくり歩く。自分の沈黙が怖い。
「ネコちゃーん?おおい!」
『エイリアン』の例の場面を思い浮かべながら、ゆっくりと息を殺す。
ドバン!
「はっ?」
振り返ると、ちょうど扉が閉まった音だった。
「ふう・・・。ネコちゃ〜ん!」
やっとフロのドアにたどり着いた。
ノブをゆっくり廻すが・・・。
ドアを押しても・・・ダメだ。押せない?
何かいるのか?
・・・・・・・。
よく考えた。ドアを引くと、ドアは開いた。
「ひぃ・・・」
その奥も闇。
「で、電源・・・!」
手探りでボタンを探す。
するとなにやら、毛むくじゃらの柔らかい物体が触れた。
「ぎゃああ!うわあ!」
僕はそのままそこへ転倒し、手足をバタバタさせた。
「オーマイ!ジーザス!」
荷物も投げ出し、這いつくばるように風呂場を出た。
立ち上がりつつ、ダッシュでオペ場を横切った。
「わわわわわ!」
ようやく明るい廊下へ。
そこで大の字になった。
「ハア・・・ハア・・・人間も、やるね」
その日は眠れず、医局のパソコンの前に座っていた。
航海日誌でも記録したい気分だ。
翌日の朝、荷物を取りにいったところ・・・その毛むくじゃらは、
上下逆にかけてあったモップだった。
「くそ。こんなモノに俺は・・・!」
思わずモップを取り出し、風呂場の床を2、3掃きした。
「と・・・♪とっても・・・・とっても・・・・・とっても・・・・はあ」
病院閉鎖まであと13日。
夜の重症回診、そのあと英語論文の抄読会(全くわけわからず)、アパムとの2人回診。
明日の朝はまた常勤先。それまでここで待機だ。
ジェニーはどうやら帰ったようだ。これだけ接触する時間が増えても、
なかなかプライベートな話にもっていけない。常に邪魔が入る。
それも絶妙なタイミングで。
彼女は気になる存在ではあるのだが、こうも世界がめまぐるしいと
恋愛どころではない。そういうものにかける時間もあまりない。かと
いって自然に任せれば、ただのすれ違いの人生になっていく。
さて、<BOOP>の復習でもして寝るか。
『 これは1985年になって出てきた概念だ。新しい。
ってことはそれまで長年見過ごされてきたってことだ。
もともと間質性肺炎の1型とされていたらしい。
つまりそれだけ判明しにくい・・微細構造レベルの病気なのだ。
実際このBOOPの本態は、あくまで病理学的(注意!)意味で
? BO = bronchilitis obliterans 閉塞性細気管支炎
? OP = organizing pneumonia 器質化肺炎
(BO + OP = BOOP、つまりBOOPとは『閉塞性細気管支炎を伴う器質化肺炎』
となるが、教科書的には『特発性器質化肺炎』と表現されている)
が同時に存在する、びまん性肺疾患。原因不明。
気管支の枝の枝のそのまた枝の・・・終わりの辺で起こった炎症。
先日話題に出た血管炎もそうだが、あくまでも確定診断は<生検>
による。生検以外が無力ではないが、よほど徹底した鑑別がないと
診断までもっていけない。
かといって最初から生検に走るのも無理がある。初期の検査・所見で
迅速・客観的に鑑別を進め、生検をすべきかどうかも考慮しながらでないと
いけない。
○ 40-60歳台が最多で男女差なし。
○ 発熱・咳・呼吸困難と一見ただの肺炎症状。
○ 発症は急である。なので早く診断してあげないとかなり進行。
○ 胸部レントゲンでは通常、両側多発性の斑状陰影
(エアブロンコグラムを伴う)。エアブロンコグラムなら細菌性肺炎
と考えてしまいがちだが、陰影が両肺にあるなら立ち止まって考えよ。
○ なおテストによく出る特徴的な「移動する陰影」は三分の一の頻度。
陰影が末梢に多発すると好酸球肺炎(これも原因不明の疾患)
との区別が困難。
○ 少し言い換えるが、<多発性の浸潤影>があれば、これが
浮かぶようにしておこう。
○ 血液で好酸球が若干増える例もあるようだが特徴的なのはない。
○ 鑑別疾患としてさきほどの好酸球肺炎、細菌性肺炎、マイコプラズマ
肺炎、肺線維症は頭に入れておく。
○ 鑑別が困難ならBAL(気管支肺胞洗浄:カメラ下で肺の一部に
生理食塩水を注入、回収する)を施行。
○ 確定診断には生検を要する。それ以外は鑑別・除外診断に
没頭し続ける。
○ 病状が進行しすぎると、鑑別・診断の検査に有用なBAL・生検が
しにくくなるので、早めの診断・相談を心がけるべき。
』
呼吸器疾患では<鑑別>をいかに丹念に行うか。それも<なんとなく>
とか<印象>でもなく、理詰めで。これをするのが苦手だとかメンドクサイ
と思う人は、必ずどっかでつまづく。画像やデータとのにらめっこを続けて
「いやこうではない。あれかもしれない」と自分の言葉で自問自答する。
しかし大まかな疾患をふまえておけば、鑑別の手順のコツがわかってくる。
それと画像を介したディスカッションはなるべく大人数で至近距離から行った
ほうがいい。各人がいろんな症例を経験しているはずだからだ。
治療に関しては先日、鬼軍曹が言ってたな。ステロイド・・・。
寝る前に、フロに入ることにした。下着などはすべて自前で用意。
寝巻きは当然、術衣だ。シャンプーは風呂場にあると聞いた。
し、しかし風呂場の場所は・・。
オペ室の隣だ。手術を終えたドクターが本来入るところ。
小説「白い巨塔」の1シーンを思い出すな・・。
「ここだな」
借りた鍵で部屋を開ける。奥は闇だ。手術台。その向こうにフロの入り口。
・・・・・・・。
一歩一歩、ゆっくり歩く。自分の沈黙が怖い。
「ネコちゃーん?おおい!」
『エイリアン』の例の場面を思い浮かべながら、ゆっくりと息を殺す。
ドバン!
「はっ?」
振り返ると、ちょうど扉が閉まった音だった。
「ふう・・・。ネコちゃ〜ん!」
やっとフロのドアにたどり着いた。
ノブをゆっくり廻すが・・・。
ドアを押しても・・・ダメだ。押せない?
何かいるのか?
・・・・・・・。
よく考えた。ドアを引くと、ドアは開いた。
「ひぃ・・・」
その奥も闇。
「で、電源・・・!」
手探りでボタンを探す。
するとなにやら、毛むくじゃらの柔らかい物体が触れた。
「ぎゃああ!うわあ!」
僕はそのままそこへ転倒し、手足をバタバタさせた。
「オーマイ!ジーザス!」
荷物も投げ出し、這いつくばるように風呂場を出た。
立ち上がりつつ、ダッシュでオペ場を横切った。
「わわわわわ!」
ようやく明るい廊下へ。
そこで大の字になった。
「ハア・・・ハア・・・人間も、やるね」
その日は眠れず、医局のパソコンの前に座っていた。
航海日誌でも記録したい気分だ。
翌日の朝、荷物を取りにいったところ・・・その毛むくじゃらは、
上下逆にかけてあったモップだった。
「くそ。こんなモノに俺は・・・!」
思わずモップを取り出し、風呂場の床を2、3掃きした。
「と・・・♪とっても・・・・とっても・・・・・とっても・・・・はあ」
病院閉鎖まであと13日。
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