赤ん坊の着替えを1から。これでフロから出たときの服は
使ってしまった。汚れた服は原則として即、洗濯にかける。

洗濯機のボタンを押し、床をぞうきんで拭く。
「俺はいったい、何をやってんだ?」
赤ん坊はまだ泣いてるので、ミルクの作成にかかる。
「待ってろ。頼む。僕だってしんどい・・・」

ミルクを飲ませたあと、あまりに苦しいので・・
やっぱり水を頂いた。少々ずつ・・少々ずつ・・・。

瞬く間に半分がなくなった。
これでは足りなくなる可能性がある。

どうしよう・・。

僕は外に助けを求めたいと思った。近所の人間。
誰か通りかからないか・・・。

カーテンごしに外を見ていると、この前家に乱入してきた子供を
見つけた。たしか名前は<あつし>だ。鳥かごを持ってスキップ
している。

「おい!」
聞こえたらしく、彼は振り向いた。
「なに?」
「こっちへ!さあ!」
僕は手招きした。右のこめかみに手を当て、招き猫ふうに招いた。
「こっちだこっち!ニャアニャア!ポコニャン!」
「ポコニャン、知ってる知ってる!」

彼は喜んで飛んできた。今の時代、ピカチュウだと思うんだが
ポコニャンで寄ってくるとは驚きだ。

「ポコニャン見せて!ポコニャン!」
「その鳥は?」
「この鳥。欲しい?」
彼が差し出した鳥かごの中に、緑のオウムがいる。

「これ、喋るのかい?」
「真似するよ」
「ダイアナ!ダイアナ!」

オウムはしらばっくれていたが・・。

『ダイアナ!ダイアナ!』
「おう!すごいな!」
僕は単純に驚いた。
「すまないが、あつし。水を汲んできてもらえるか?」
「じゃ、千円」
「なに?くそ、今のガキは・・!」

空の大きなペットボトルに水を入れてきてもらった。

「ねえ。ポコニャン見せてよ!」
「ねえよ。そんなの」
「見せるって言ったじゃないか!」
「よしよし、この水で今日は大丈夫・・」
「ポコニャンはどこだ!どこに隠した!」
「ポコニャンはな、そうだな・・・。あっちへ行ったよ!」
「そんなウソ、信じるものか!」

意外と利口な子供だった。

「サンタクロースも大人のウソだ!」
「待て待て。誰がそんな・・」
「さあ!ポコニャン見せろ!」
「ポコチンしかないんだ!ごめん!」
僕は土下座した。
「明日になったら、何か買ってやるから!」
「ダメだ!ポコチンなんかやだ!オウムにお前のポコチン
食わせるぞ!」

なんてガキだ・・。

「すまないが、もう遅くなるし。帰ってくれ」
「うああああ!ポコニャン見せろ!ポコニャン見せろ!」
子供は泣き出した。

玄関先で通りすがりの人が立ち止まった。

「どうした?あつし・・・沖田さんの家族さんが・・・何かしたか?」
「こいつ!ウソをつく!どろぼう!」
「なんやて?」
中年ヤクザ風の男は子供をだっこした。

「ほんま、あの女も好き物やで。おいお前!子供泣かして、
どういうつもりや!」
男は玄関に入ってきた。

僕は赤ん坊を抱えて登場した。赤ん坊は泣き喚いていた。

「う・・・?」
彼は僕の姿を見てためらった。
「そ、そうか・・。す、すまん」
「赤ん坊を寝かそうとしていたもので。今の声でビックリしたようです」
「そそ、そうか・・じゃ。い、家へ帰ろうか。あっちゃんよ」

彼は子供を連れて、歩いていった。

僕は井戸水を飲んで、顔を洗った。
薬が・・薬が欲しい!早朝になったら病院で処方だ。
点滴をする時間がない。

僕と赤ん坊はそのまま爆睡した。


早朝。副院長の取り計らいで、ダイアナが帰宅してきた。

「ただいま」
「お、おかえりなさい」
僕は反射的に起きた。

「部屋、キレイになってるね。感心」
「沖田院長はまだ入院してまして」
「あの人のことやから、手術はせんやろうな」
「たしかに・・」

彼女は風呂場とかあちこちをチェックした。

「フロは入らんかったか。まあええわ。あんたも働きすぎやしな。ほら」
彼女は財布から万札を3枚出した。
「え?」
「礼や。これまでの。ようやってくれた」
「そんな・・」
「ええがな。とっとき。今はあたしも売れっ子やさかい」
「そんな・・・どうもすんません」
「今までありがと!」

好意として受け取った。

「ギャアア!」
2階へ上がろうとしたダイアナは悲鳴を上げた。

「こ、これ何〜!」

階段の途中のところに、鳥かごが置いてある。
緑のオウムだ。

「すみません。近所のあつしくんが・・」
「篤志のか。ここへ持ってきたんかいな?」
「あ、遊びに来まして・・」
「返しておくわ。あんたはもう、帰っていいよ」

僕は鳥かごを覗いた。

「では、自分はこれから外に置いてある車で・・」
「気をつけえや」

玄関に座って、靴をはいた。そのとき。

『ダイアナ。ダイアナ』
「ん?」
僕は戦慄が走った。彼女はトイレに入っている。

『ポコチン。ダイアナ。ポコチン』
「おいおい!やめろ!」
『ダイアナ、ポコチン!ポコチン!ニャンニャン!』
「くそ!もう!」

僕は近くのトイレの音をうかがった。
聞こえてなかったか。

ところが、ガラガラガラ!とトイレットペーパーの回転が
恐ろしく速く聞こえ出した。

「失礼します!」
僕はダッシュで家を出た。
「はっ!はっ!はっ!」
ぬかるみに足を取られながら、僕は車に乗り込んだ。
「ひい!エンジンスタートだ!」
マフラーがズババと爆音を上げた。

車はカクカクと前進し、ビューンと急発進した。
「全開だ!バンババン!」
結局追っかけてこなかったが・・・あんなに恐ろしい経験は
今でもあまりない。

バイト先病院で抗生剤などを調達、品川くんを迎えに
車は向かった。

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