プライベート・ナイやん 6-1 親善試合
2005年6月6日「しまっていこうぜ!」
僕らはグラブ片手に散り散りになっていった。
僕は以前センターだったが、格下げ?でキャッチャーに。
相手チームは村の精鋭部隊らしい。ウルトラマンAの最終回のジャンボキングに
匹敵するらしいのだ。
うちは山の上病院の希望者によるチーム。希望者が少なく何人かは徴兵された。
ピッチャーは品川くんだ。
「いきますよ。ユウキ先生」
「いちいち言わんでもよろし」
フェンスの外には大勢の野次馬たち。散髪屋に、駄菓子屋のオバサン、教師たち。
仕事もほったらかしで、みなこの日を楽しみにやってきた。
今回の試合は、病院閉鎖→新病院誕生を記念して行われる。
「そら!」
投球練習で、品川くんはズバンと1球投げ込んだ。
「いてて!」
受け止めたものの、ジ〜ンと響く1球。こんな球が毎回来たら耐えられない。
「へいへいへい、キャッチャー、びびってるぞ!」
どこかのオッサンが野次を飛ばす。気にしない気にしない。
「う・さ・ぎ!へ・た・れ!う・さ・ぎ!へ・た・れ!」
一休み、一休み・・。
バッターが立った。酒店の息子だ。スポーツ少年団出身。しかし酒びたりで酩酊状態。
「来いこら!」
品川君は女投げで高目を投げた。
「うんこら!」
大振りの空振り。どうやら昔のキレはなさそうだ。
「こいこら!」
ズバン!とまた空振り。バットをよけながら球を受けるのは大変だ。
「こいこら!」
やはり品川君はボールを投げてきた。外角低め。
「ボールや!」
どこかのバカが叫んだとたん、酒屋はバットを引っ込めた。
「おおっとお・・フフン!」
トントン、とバットをホームベースにあてがう。
「逃げるなや!負け犬!」
「犬はそっちでしょう。吼えてるから」
品川君はクールに彼を挑発した。
「こいやこら!こら!」
品川君は大きくふりかぶって・・・斜めに降りてくる球。ワンバウンド球だが、
彼はバットを振った。
ズバン!三振。
「てて・・・」
僕は毎回手をグラブから出す始末。
2番は若い女性。
「フォアボール!」
「おい!」
僕は思わず立ち上がった。品川君はグラブを横に振った。
どうやら以前、手を出した女らしい。彼女は1塁ベースへ。
3番は学校の英語教師。前回のとき、審判をやってた。
フェンスに「○○先生ガンバ!」と掲げている生徒達。
「へへっ!こいこい!」
彼は尻を左右に振っている。
「ヘナチョコ!チョコボール!」
品川君はどうしたのか、ボールを2つ投げてきた。
「ツーボール!」審判がうるさく叫ぶ。
「キンタマの数ですね」
品川君はまた挑発してきた。
「なにい?」
「でもあなたはタマナシだから・・?」
「なにい?こら!勝負せんかい!」
品川君はまたグルングルンと手を回し、速球を放った。
キン!勢いの弱いその球は、ピッチャーが前進で受け取り・・・
「あたあ!」
どうやら顔に当たったらしい。品川くんはその場にうずくまった。僕は飛び出した。
「ああっ?でもら、ラッキー!」
遅れて教師は走り出した。
「大丈夫か?じゃないよな」
僕は駆け寄り、顔を確認した。
「てて。?ユウキ先生。2塁へ!」
「お、おう!」
僕はボールを拾って投げた。二塁手はキャッチし、ダブルプレー。
村民達はフェンスを叩き続け、思いっきりブーイングだ。
ベンチへ。
「品川くん。よほど練習したんだな?」
「プロの特訓を受けた。金をかなりかけてね」
この男らしい。金にものをいわせる。手段を問わない。しかし目標は外さない。
「ユウキ!品ちゃん!スリーアウトだよ!」
「え?もう?」
僕は驚きまた守備へ。
4番、5番が立て続けにヒット。1・3塁。
6番はバントの構え。
「卑怯者らしいやりかたですね!」
品川くんはバカにするように相手を仰いだ。
「なんとでも言え!」
無職のバッターはバントで構えたまま。
「それ!」
品川くんの投げた直球は、僕のグラブをかすめ暴走した。暴投だ。
「ああ!マジ?」
ランナーが帰ってくる。1人。僕はボールを拾った。
「ユウキ!こっち!」
品川くんがホームベースで構える。
「ふん!」
僕は投げず、そのままベースへ向かった。3塁を蹴ったランナーが目前。
「ふんげえ!」
僕ら3人はそこでぶつかった。
「あ・・アウト!アウトオ!」
僕の体当たりでベースは踏ませなかった。品川君は泥をはたいた。
「てて・・・ユウキ先生。なんか熱意があるね」
「有終の美をかざろう!」
1点取られ、その裏僕は打席へ。
レコード店の息子。
1球目は直球だ。
「ストラック!」
高め。見送りだ。僕はバッティングセンターでダウンスイングの練習をしていた。
狙いは低め。地面に叩きつけるつもり。
2球目。
「ボール!」
高め。慌てるな。指先に集中。
「ボール!」
「ストラック!」
高め。いよいよ、追い詰められた。
次は低めが来るんじゃないか。そう予感した。
次は振る。脳に指令がインプットされた。
「それ!」
バットは当たった。金属音とともに、バットも飛んだ。
「うぬ?」
ピッチャーは間違ってバットを追いかけた。
ボールは2・3塁間だ。
チャンスだ!ダッシュダッシュ!
しかし一塁どまりだ。
「お前の死は無駄にしない!」
品川くんがバットをホームラン席へ向けた。
「うがあ!」
デッドボール。肘をぶつけたようだ。
「おい君!」
監督でいちおう味方の副院長が、ベンチから顔を出した。
「死球はいかんよ死球は!まあ彼だったらからまだしも」
フェンスの外がどよめき、拍手が鳴った。
こいつら・・・。
引き続き、神経内科の先生。
「僕、打てませんから」
力なく構えたその先生は、初球をいきなりカキンと打った。
「あ?ああ?」
僕は2塁をダッシュ、3塁も・・・越えた。みんな走れ走れと言ってる。
「よし!」
呆然とする捕手をよそに、僕はベースを踏めた。
あとで聞いたが、神経内科の先生はもと野球部だ。
今回のうちは、強い。
その回2点を取った我がチーム。優勢になることで、心に余裕が出た。
フェンスから、思わず「うわあ!」という歓喜の声。
村長だ。あのとき以来だ。
「さあ!かかってきなされ!」
村長はあちこち写真を撮られながらポーズを決めていた。
そんな中、品川君は投げた。
「す・・ストライ・・」
審判は村長に睨まれていた。
「す・・・で、でも!ストライク!」
村長は不機嫌になり、野次馬を下がらせた。
「お前らの病院もまあ、つなぎとしては必要だったがな!」
彼は罵声を浴びせてきた。
「真珠会に任せたほうが経営的には安定す・・うわ?」
「ストライク!」
品川君はかまわず投げてきた。
「おいおい。親善試合だよ」
「私達は辞めるわけです。なので親善するつもりはないです。そりゃ!」
品川君はあせって3球目を投げた。
「ふんこら!」
村長のバットはかすりもしなかった。
だが品川君の球は、勢いが若干減っていた。さっきのデッドボールのせいだろう。
しかしなんとか凡退で終わらせた。
2対1、僕ら優勢のまま5回。最終回だ。向こうの攻撃。
「さあて!」
酒屋の息子が直立不動。
「もう酒、抜けたもんね!」
「あっちも抜きましたか?」
彼は相変わらず挑発する。
「なにや、このボケ!」
まだ酔ってるようだ。
僕らはグラブ片手に散り散りになっていった。
僕は以前センターだったが、格下げ?でキャッチャーに。
相手チームは村の精鋭部隊らしい。ウルトラマンAの最終回のジャンボキングに
匹敵するらしいのだ。
うちは山の上病院の希望者によるチーム。希望者が少なく何人かは徴兵された。
ピッチャーは品川くんだ。
「いきますよ。ユウキ先生」
「いちいち言わんでもよろし」
フェンスの外には大勢の野次馬たち。散髪屋に、駄菓子屋のオバサン、教師たち。
仕事もほったらかしで、みなこの日を楽しみにやってきた。
今回の試合は、病院閉鎖→新病院誕生を記念して行われる。
「そら!」
投球練習で、品川くんはズバンと1球投げ込んだ。
「いてて!」
受け止めたものの、ジ〜ンと響く1球。こんな球が毎回来たら耐えられない。
「へいへいへい、キャッチャー、びびってるぞ!」
どこかのオッサンが野次を飛ばす。気にしない気にしない。
「う・さ・ぎ!へ・た・れ!う・さ・ぎ!へ・た・れ!」
一休み、一休み・・。
バッターが立った。酒店の息子だ。スポーツ少年団出身。しかし酒びたりで酩酊状態。
「来いこら!」
品川君は女投げで高目を投げた。
「うんこら!」
大振りの空振り。どうやら昔のキレはなさそうだ。
「こいこら!」
ズバン!とまた空振り。バットをよけながら球を受けるのは大変だ。
「こいこら!」
やはり品川君はボールを投げてきた。外角低め。
「ボールや!」
どこかのバカが叫んだとたん、酒屋はバットを引っ込めた。
「おおっとお・・フフン!」
トントン、とバットをホームベースにあてがう。
「逃げるなや!負け犬!」
「犬はそっちでしょう。吼えてるから」
品川君はクールに彼を挑発した。
「こいやこら!こら!」
品川君は大きくふりかぶって・・・斜めに降りてくる球。ワンバウンド球だが、
彼はバットを振った。
ズバン!三振。
「てて・・・」
僕は毎回手をグラブから出す始末。
2番は若い女性。
「フォアボール!」
「おい!」
僕は思わず立ち上がった。品川君はグラブを横に振った。
どうやら以前、手を出した女らしい。彼女は1塁ベースへ。
3番は学校の英語教師。前回のとき、審判をやってた。
フェンスに「○○先生ガンバ!」と掲げている生徒達。
「へへっ!こいこい!」
彼は尻を左右に振っている。
「ヘナチョコ!チョコボール!」
品川君はどうしたのか、ボールを2つ投げてきた。
「ツーボール!」審判がうるさく叫ぶ。
「キンタマの数ですね」
品川君はまた挑発してきた。
「なにい?」
「でもあなたはタマナシだから・・?」
「なにい?こら!勝負せんかい!」
品川君はまたグルングルンと手を回し、速球を放った。
キン!勢いの弱いその球は、ピッチャーが前進で受け取り・・・
「あたあ!」
どうやら顔に当たったらしい。品川くんはその場にうずくまった。僕は飛び出した。
「ああっ?でもら、ラッキー!」
遅れて教師は走り出した。
「大丈夫か?じゃないよな」
僕は駆け寄り、顔を確認した。
「てて。?ユウキ先生。2塁へ!」
「お、おう!」
僕はボールを拾って投げた。二塁手はキャッチし、ダブルプレー。
村民達はフェンスを叩き続け、思いっきりブーイングだ。
ベンチへ。
「品川くん。よほど練習したんだな?」
「プロの特訓を受けた。金をかなりかけてね」
この男らしい。金にものをいわせる。手段を問わない。しかし目標は外さない。
「ユウキ!品ちゃん!スリーアウトだよ!」
「え?もう?」
僕は驚きまた守備へ。
4番、5番が立て続けにヒット。1・3塁。
6番はバントの構え。
「卑怯者らしいやりかたですね!」
品川くんはバカにするように相手を仰いだ。
「なんとでも言え!」
無職のバッターはバントで構えたまま。
「それ!」
品川くんの投げた直球は、僕のグラブをかすめ暴走した。暴投だ。
「ああ!マジ?」
ランナーが帰ってくる。1人。僕はボールを拾った。
「ユウキ!こっち!」
品川くんがホームベースで構える。
「ふん!」
僕は投げず、そのままベースへ向かった。3塁を蹴ったランナーが目前。
「ふんげえ!」
僕ら3人はそこでぶつかった。
「あ・・アウト!アウトオ!」
僕の体当たりでベースは踏ませなかった。品川君は泥をはたいた。
「てて・・・ユウキ先生。なんか熱意があるね」
「有終の美をかざろう!」
1点取られ、その裏僕は打席へ。
レコード店の息子。
1球目は直球だ。
「ストラック!」
高め。見送りだ。僕はバッティングセンターでダウンスイングの練習をしていた。
狙いは低め。地面に叩きつけるつもり。
2球目。
「ボール!」
高め。慌てるな。指先に集中。
「ボール!」
「ストラック!」
高め。いよいよ、追い詰められた。
次は低めが来るんじゃないか。そう予感した。
次は振る。脳に指令がインプットされた。
「それ!」
バットは当たった。金属音とともに、バットも飛んだ。
「うぬ?」
ピッチャーは間違ってバットを追いかけた。
ボールは2・3塁間だ。
チャンスだ!ダッシュダッシュ!
しかし一塁どまりだ。
「お前の死は無駄にしない!」
品川くんがバットをホームラン席へ向けた。
「うがあ!」
デッドボール。肘をぶつけたようだ。
「おい君!」
監督でいちおう味方の副院長が、ベンチから顔を出した。
「死球はいかんよ死球は!まあ彼だったらからまだしも」
フェンスの外がどよめき、拍手が鳴った。
こいつら・・・。
引き続き、神経内科の先生。
「僕、打てませんから」
力なく構えたその先生は、初球をいきなりカキンと打った。
「あ?ああ?」
僕は2塁をダッシュ、3塁も・・・越えた。みんな走れ走れと言ってる。
「よし!」
呆然とする捕手をよそに、僕はベースを踏めた。
あとで聞いたが、神経内科の先生はもと野球部だ。
今回のうちは、強い。
その回2点を取った我がチーム。優勢になることで、心に余裕が出た。
フェンスから、思わず「うわあ!」という歓喜の声。
村長だ。あのとき以来だ。
「さあ!かかってきなされ!」
村長はあちこち写真を撮られながらポーズを決めていた。
そんな中、品川君は投げた。
「す・・ストライ・・」
審判は村長に睨まれていた。
「す・・・で、でも!ストライク!」
村長は不機嫌になり、野次馬を下がらせた。
「お前らの病院もまあ、つなぎとしては必要だったがな!」
彼は罵声を浴びせてきた。
「真珠会に任せたほうが経営的には安定す・・うわ?」
「ストライク!」
品川君はかまわず投げてきた。
「おいおい。親善試合だよ」
「私達は辞めるわけです。なので親善するつもりはないです。そりゃ!」
品川君はあせって3球目を投げた。
「ふんこら!」
村長のバットはかすりもしなかった。
だが品川君の球は、勢いが若干減っていた。さっきのデッドボールのせいだろう。
しかしなんとか凡退で終わらせた。
2対1、僕ら優勢のまま5回。最終回だ。向こうの攻撃。
「さあて!」
酒屋の息子が直立不動。
「もう酒、抜けたもんね!」
「あっちも抜きましたか?」
彼は相変わらず挑発する。
「なにや、このボケ!」
まだ酔ってるようだ。
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