「いきますよ!」
「手抜きはせん!」
「ほれ!」
僕はすぐ目の前の村長に、超スローでなく・・・
いきなり速球で投げた。

「なにい?うわあ!」
完全な振りおくれだった。

「やったぞ!試合終了だ!」
品川君はこちらへ駆けてきた。
「よ、よせ!」
「どうして?」
「またホモだと思われる!」
「いいじゃないか!」

僕は追いかけられながら、フェンスの外に出た。

すると村民が大勢でまくしたててきた。
「卑怯者!」「罰当たり!」「変態医者!」
僕は近くに置いてあった車に乗り込んだ。

「どけどけ!」
クラクションを連打し、群がる群衆を遠ざけた。
「試合は終わったんだ!終わり!」

タイヤをまだ変えてない車はキュキュキュと車体をきしませながら、
僕を待つ病院へと向かった。

病院の駐車場から外来まで走ると、鬼軍曹が待っていた。

「遅いぞ!バカモン!」
「試合があって!」
「試合?こっちはエラーしたら取り返しがつかんぞ!」
「自分はどこへ・・」
「外来をやれ!」
「救急は?」
「適宜、呼ぶ!」

僕は外来まで走った。

「座ってゆっくりできるなら・・・ちょっと休憩できるな」

肥満でない中年女性。
「ここが痛いんです・・」
右の腹部から服を上に上げると、ヘソのやや右上に発赤した発疹が集中。
背中は・・・中央やや右側にもある。

「今日は、うちが初めてで?」
「3日前から出たんですが」
「うちが初めて?」
「へ?」
「ここの病院に来るまで、どこか他の病院に行かれましたか?」
「・・・わたしゃ耳が遠いんで」
「・・・・・いかれましたか!他の病院へ!」
「他の病院に・・・なんて?」
「いかれ!ましたか!」

「誰がイカれとるんじゃ、おお?」
廊下の方から鬼軍曹の声だ。声からすると復活している。
「ユウキよ!」
彼はサーッと外来のカーテンを開けた。

「診察中だ!」
僕は思わず叫んだ。
「あああ、これはどうもすみません。くっ・・・!」
軍曹はどうやら僕がまたおふざけしていると思ったようだ。

「横井さん。これはおそらく帯状疱疹というやつです。点滴と塗り薬を・・」
僕は紙に書いた。
「これ、どうぞ」
「はあはあ。これはどうも」
「点滴に・・・通ってもらいましょう」
「それはちょっと」
カーテンの裏からジャージ姿の若い女性が現れた。

「ヘルパーです。私は用事があって、そう何回も連れては来れません」
「ですが・・」
「何とかならないんですか?飲み薬で治すとか」
「・・・事情が事情ですね・・」
僕は少しムッとなったが、こらえた。

点滴はアシクロビル。教科書的には1日3回だが、入院でないと無理だ。
本患者は範囲も広くないので、内服主体として・・と。

点滴は発疹が増量している急性期に使用すべき。発疹出現3日以内の開始が理想的だ。
この人はギリギリってところか。

「この点滴は副作用はあるんですか?」ヘルパーが問うた。
「あ。そうでした。腎機能障害」
「意味がよく分からないんですが」
「腎臓の機能が悪化することがあって」
「この方は腎臓は大丈夫なんですか?」
「採血します。結果は今日出ますから説明を・・」
「採血の結果が出る頃には、点滴は終わっているんじゃないんですか?」

そうだな・・。

「え。まあ。それと!」話題を変えた。

「飲み薬、塗り薬も出しておきます」
従来通りならゾビラックス(アシクロビル) 800mg/回を1日5回。1日5回は確かに回数多すぎの指摘があった。
しかし当院で最近入ったバルトレックス(塩酸バラシクロビル)。これは1000mg/回で1日3回。なのでこっちにする。

「神経痛による痛みに関してはボルタレン座薬を、と」
「ふだんはこの方1人ですし。飲み薬のほうが」
「え。ええ。ではボルタレン内服。胃薬とセットで」
「何日たったら、治るんですか?」
「・・・・・おおよそ2週間で乾燥するといわてます」
「2週間ですね」
「い、いい、いろいろですよ!」

ヘルパーは小さいチューブをポケットから取り出した。
「デキサルチン使ってましたけど、やっぱダメだったんですね」
「へ?」
「私、よく口内炎になるんです。ヘルペスだったら別物ですもんね」
「デキサルチンは、デキサメサゾンっていって、ステロイドですよ!絶対にダメ!」

勝った・・・。しかしこんなので喜んでるヒマはない。

「次!」

60台、肝癌既往の男性。大柄、色が黒っぽい。
「検査はいらん!」
「いきなりそれですか・・」
「酒は飲んでない!」
「おとついまでは?」
「うん。おとついは飲んだ!」

やはりな・・。

外来では検査が常に断られているため、肝機能の推移もよく分からない。

「飲んでる薬はプロへパール・・・あのね。検査はやっぱりしたほうが」
「いらんって!ハアハア」
「息切れを?」
「そりゃ、誰だって息切れはするわい!アンタもするやろ!」
「相手によります」
横になってもらい、触診。腹部を両側からパン、と片方ずつたたく。

波打っているのが分かる。

「水がたまってるかもな・・」
「肝硬変あるからな。わいは」
「それでしんどいんですよ。胸にもあるかも」
「どうして分かる?」
「写真で分かります」
「あるっていうんか?ないよ」
「じゃ、撮ってみますか?」
「おう」
「採血!胸部と腹部CT!」

患者は検査を受けた。

「結果待ちね。今日はどのようにして来られました?」
「家族の送り迎えじゃ。いつごろ迎えに来てもらおうかのう」
「30分後かな」
「ほいほい」

とりあえずできたCTでは、胸水が少量、腹水は多量。

僕はナースのほうを向いた。
「結果が出たら、家族交えて説明だ。いずれにしても入院だからな。はい次!」

30代の男性で風邪症状。

「喉が痛くて」
「いつから?」
「きのう」
「それ以外に何か?」
「咳・たん・・熱はない」
「測ったの?」
「測ってはないけど」
「看護婦さん!耳で!食事は食べてる?」

頸部リンパ節はかなり腫脹。咽頭の発赤も高度。
ウイルス性<細菌性を疑う。

「抗生剤の点滴を受けましょう」
「点滴?点滴はイヤです・・こわい」
「こわい?」
「飲み薬でお願いします」
「点滴のほうがいいよ」
「自分は飲み薬で十分だと」
「あす、仕事は?」
「あります」
「行きたい?」
「そりゃ行かないと!家族を支えているのは僕だけだし」
「なら、明日は万全の体勢で臨んだほうがよろしいね」
「そりゃそうです!」
「ならば、今日は体に十分休養を取らせた方がいい」
「やっぱそうしたほうがいいですか?」
「僕が家族なら、絶対それを望むと思う」
「さ、さようで・・」
「今日は点滴して、あとはもう休む!それが一番の休養ですよ」
「そっか・・・はい。受けます!」

オレはサギ師か?

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