「次!」
70代男性で間歇性跛行(かんけつせいはこう・・歩いたりすると脚が痛むので休み休みに歩く)。
2回目の受診。1回目はジェニー先生が診察。アスピリンが処方されているが・・。

「ジェニー・・それはちょっとどうかな?」
診察すると痛い側・・本患者では左足・・・足背動脈が触知しにくい。膝下動脈は・・OKだ。
なら膝より下に狭窄した動脈がありそうだ。

間歇性跛行は閉塞性動脈硬化症(ASO)の初期症状だ。これを放っておくと症状は進み、安静時でも疼痛が起こるようになる。それでも処置を受けないままだと組織の壊死が進み、潰瘍、変色をきたす。

ちなみにこれがあるということは他の血管にも動脈硬化が存在することが多い。背景因子の確認が必要なのはもちろんだ。

「症状、同じですねん」
「(だろうな)」

抗血小板作用だけでは不十分。それだけでは血管を物理的に拡張はできない。その両作用をもつのが・・PDEIII阻害剤であるシロスタゾール(プレタール)だ。この薬剤は作用発現までの時間
が短いのも特徴で、投与後3〜4時間で効果を発揮する。
※ このPDEIII阻害剤は強心剤としての作用もある。しかしこの強心作用は心不全の治療には死亡率上昇の報告があるので、心不全のある患者では十分な検討が必要だ。

それとこの症状に有効なのはPGE1の静脈注射だ。これは2種類あり、
? PGE1-CD製剤 ・・ プロスタンディン
? リポPGE1製剤 ・・ パルクス、またはリプル ・・・ 脂肪乳剤化したことによって病巣部に薬剤を高濃度に集中、副作用も減弱。

ちなみにPGI2製剤の内服(ドルナー)はどうか?実際のところ間歇性跛行に対する効果が証明されていない。

これらから患者のメリットを中心に考えると、この症状に関して治療する場合はパルクスかリプルの点滴通院2週間が好ましい。PGE1製剤の内服も存在はするが点滴ほどの有効性が証明されておらず、

? 点滴が断られた場合、? 点滴2週間終了後のつなぎ薬として
使用すべき。

「次!」
20代男性。インキン。
「ラミシール!途中でやめるなよ!次!」

50代男性。検診で右脚ブロックを指摘。
「けっこういるんだけどな。こういう人・・・」
これを『経過観察』とするか『要精査』とするかはそのとき診たドクターの主観で決まる。
「(せっかく来たしな・・)じゃ、レントゲンと心電図もう1回と心エコー、採血!」
「また検査?」
「検診のデータはなかなか持ち出せないんです。なのでもう1回!」

20代女性。吐き気、下痢。腹部ゴロ音減弱。脱水。
「レントゲン撮って、採血点滴」
「何でしょうか、これ」
「急性胃腸炎かな、と思うが。風邪をひいてた?」
「いえ。1歳の子供が腸炎って言われてて・・」
「オムツから移ったな。だんなさんは?」
「離婚してます」
「ごめん!」

全館放送が鳴る。
「ピンポン。ユウキ先生、ユウキ先生。心カテ室へ」
「なんだ?」
机にはまだ6冊ある。ザラッと目を通す。
「看護婦さん。3人は定期の薬。これは採血して結果待ち、これは安静にして血圧再検、あと1つは心電図!ダッシュする!」
僕はカーテンをくぐって、患者とぶつかりながらもカテ室を目指した。

カテ室ではレジデント2人が穿刺を終えたところのようだ。
「あ。ユウキ先生。お願いします」
ハカセは手を差し出した。

「僕が造影をして、もし血管拡張となったら・・」
「もう1人は、もう来ると思います」
「そうか。ええと、この人は狭心症で、半年前に前下行枝と対角枝の血管拡張を行ってる。
今回発作が出たため・・わかった!」

ハカセが角度調整。

「右冠動脈、入った。まず造影しておく」
従来どおり、狭窄はなし。
「コラテは見当たらず。じゃ左、いくぞ」

もう1人の医者、早く来いよ・・。

左冠動脈を造影。前下行枝は狭窄ないが、そこから分枝する対角枝の近位部が有意狭窄。

「ここによる症状だ。他の血管は・・ハカセ!角度!」
「は、はい!」
「かせよ!もう!」
僕は右手を伸ばして角度を調整した。

「対角枝に対し、血管拡張。ハカセ。シースを変えて。僕はバルーンの準備」
「できればガイドカテを入れさせていただければ」
「心カテを今まで何例?」
「見学なら200例ほど」
「実技のほうだよ!」
「3例・・」
「そんなヤツに、ガイドカテなんか危険すぎて任せられるか!」
「ユウキ先生の同僚のようには・・」
「なに?なんだと?」
「あっ・・・」
「あとでゆっくり、その話を・・」

ガイドカテが入り、バルーンカテーテル挿入。

「ダイセクがしやすい箇所だ。ハカセ!圧を上げれるか?その注射器!」
「ええっと・・」
「もういい。貸して」
結局、僕1人で血管拡張を行った。
「もう1人のドクターはどこだ?ハカセ」
「院長は・・」
「院長?腹に爆弾あるのに?」

患者が顔を上げてきた。
「な、なんか爆弾があるんですかな」
「まって!動かない!造影!」
拡張後の造影では、ダイセクはみられず。

「引き上げよう!」
他のスタッフは救急室へ引き上げていった。意識障害が搬送されて来るらしい。

「ハカセ・・・僕の友人の話。なぜ知ってる?」
「有名です。レジデントに血管拡張をさせた病院」
「関西は狭いな」
「田舎と同じです。悪いことはすぐに広まります」
「世の中、女性週刊誌並みだな」

ハカセはそこらを片付け、僕らは患者をエレベーターまで運んだ。

「ユウキ先生。院長はやはり体調が思わしくなくて」
「当たり前だろ?院長も院長だが、君らも待ったをかけないと!」
「院長はそういう人です」
「君らもそういう奴かよ?」
「僕らは、院長と病院を共にする人間です。ユウキ先生とは・・」

彼は一瞬、言葉をつぐんだ。

「同じ釜の飯を食う・・・そんな仲間なんです」
「同じ毒を食って、当たるなよ」
「冗談きついっす」
「ホントに、ここに残るのか?」
「ええ。真珠会がどんな組織か僕には分かりませんけど。大丈夫。僕らが変えてみせます!」
「若いな・・・」

エレベーターの前で待った。

「ユウキ先生。ジェニーから聞きましたが。真田病院?」
「そうだよ。いったん大学へ帰るがね」
「敵同士ですね。僕ら」
「はあ?」

彼はストレッチャーをエレベーター内に入れ、病棟へ上がっていった。

僕は救急室へ。<意識障害>が待ってる。

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