プライベート・ナイやん 6-7 インフォームド・コンセント
2005年6月8日胸部叩打のあと、モニターはサイナスへ。しかしQRS幅は広いまま。
「ふう。今後も監視が必要だな・・」
ペーシングカテは留置され、患者は病棟へ。
「レジデントの誰か。家族が来たらムンテラを」
ハカセから連絡。
「救急室へお願いします」
「はいはい。待っててよ!」
術衣を脱ぎ、救急室へ。
「重症か?ハカセ」
「このレントゲンを」
「?右の下肺・・・末梢に三角形の陰影?」
三角形の底辺は胸膜に接している。水はないもよう。
「ユウキ先生。肺梗塞でいいですよね!」
「待てよ。他の検査は?」
「やってる最中ですが。この画像は典型例かと」
「くさび形陰影がか?でも他に根拠が?」
「患者さんは50代で呼吸困難、胸痛もあるようです」
「咳のせいかもよ?」
患者を聴診。太ってはない。DVTがある印象でもない。
下肢のオペ既往もないし。
「ハカセ。心電図は?」
「頻脈すぎて、よくわかりません」
「たしかにな・・」
頻脈所見以外、特徴はない。
「ユウキ先生。肺血栓塞栓症と肺梗塞は同じなんですか?」
「ハカセなら知ってるだろ?」
「梗塞があるか、ないかですか?」
「だろ?」
「じゃあどういうときに、梗塞を起こすんですか?」
あまりにしつこいので、指示を書くペンの動きを止めた。
「肺はふつう、肺動脈と気管支動脈の2重支配を受けている。
中枢側は肺動脈、末梢側は気管支動脈。肺動脈側に塞栓
を起こしても気管支動脈からの血流があるから、梗塞は免れることが
多い」
「ふんふん」
「しかし気管支動脈のような末梢の細い血管で起こった場合は、血流を
カバーしがたく梗塞を起こしやすい。よって喀血を起こす」
「じゃあ、喀血を起こすのが重症だっていうわけではないんですね」
「このノートにそれを書きとめてある」
僕は大事な手帳をしまった。
「それ、ください!」
「だーめ!」
彼はレントゲンと、新たに出来上がったCTを再び見た。
「やっぱり胸膜を底辺にした三角形だ。エアブロンコもないし」
「呼吸器疾患は、そんな最初でズバッと解決する領域じゃない」
「はあ・・」
「そうなってもいけない!」
採血データが出た。ハカセが食いいる。
「白血球増加なし、CRP陰性・・肺炎ではないな」
「腫瘍や結核は、たえず呼吸器の鑑別疾患だ」
「肺炎ではないでしょう?」
「胸膜直下病変として、重要なのがある」
僕は手帳を閉じた。
「え?なんです?」
「オーベンに聞くように!」
「へ?」
たぶんクリプトコッカスだと思う。だが確定診断はあくまでも
気管支鏡による生検・グロコット染色だ。抗原・抗体検査は
補助的な診断だ。
肺クリプトコッカス症はCryptococcus neoformansによる肺感染症。
必ずしも低免疫状態に起こるわけでなく、健常者に起こる場合もある。
病変は多発性の場合もあり、髄膜炎をみる例も。
僕の場合、カンがいい意味で作用したが、医師というのは実技にカンを
重ねつつ、そのカンをセンスよく役立てる訓練が必要だな。実技経験を積んでも
診断が全くダメな医者もいるし、経験浅くとも独自の道順で診断に持っていく
医者もいる。<センス>の問題もあるのだろう。
『だが、そのような言葉は一人前になってから言うものだ』
「わかってるって!」
僕はフォースをごまかした。
外来に呼ばれ、1時間ぶりに戻る。
「先生、さっきはどうも」
帯状疱疹の患者がペコッと礼をして、ベッドから降りた。アシクロビルの点滴が
終わったとみえる。
「ちゃんと通ってね!」
ベッド群を通り抜けて、診察室へ。ドカッと腰掛ける。
「はああ・・」
「カルテが鬼のように」おばさんナースが立っている。
「そうだよ!ちょっと休憩!」
「呼んで来ます」
「待ってって!う・・」
患者が入ってきた。さっき診た肝硬変の患者。
「あれ?さっき説明したよ。淡々と喋る息子さんに」
ナースが間に入った。
「それがね。息子さんが帰ったとたん、わしはいやや!聞いてない!
って帰りたがるんです」
「そこまで言うなら、しょうがないなあ・・」
「なので、今度は娘さんを呼びました」
「勝手に呼ぶなよ!」
そうか。あくまでも息子だけが納得したということか。
そういや本人の返事を聞いてなかった。
難しいな。インフォームド・コンセントは・・。シャアならこう言うかな。
「インフォームド・コンセント。響きはいいが、難しいものだな。わたしも以前、何度も失敗はしたものだ。それを分かるのがニュータイプだという認識自体が間違いなのだよ!」
そうなのか?シャア!ぬけぬけしゃあしゃあとよくも!
「ふう。今後も監視が必要だな・・」
ペーシングカテは留置され、患者は病棟へ。
「レジデントの誰か。家族が来たらムンテラを」
ハカセから連絡。
「救急室へお願いします」
「はいはい。待っててよ!」
術衣を脱ぎ、救急室へ。
「重症か?ハカセ」
「このレントゲンを」
「?右の下肺・・・末梢に三角形の陰影?」
三角形の底辺は胸膜に接している。水はないもよう。
「ユウキ先生。肺梗塞でいいですよね!」
「待てよ。他の検査は?」
「やってる最中ですが。この画像は典型例かと」
「くさび形陰影がか?でも他に根拠が?」
「患者さんは50代で呼吸困難、胸痛もあるようです」
「咳のせいかもよ?」
患者を聴診。太ってはない。DVTがある印象でもない。
下肢のオペ既往もないし。
「ハカセ。心電図は?」
「頻脈すぎて、よくわかりません」
「たしかにな・・」
頻脈所見以外、特徴はない。
「ユウキ先生。肺血栓塞栓症と肺梗塞は同じなんですか?」
「ハカセなら知ってるだろ?」
「梗塞があるか、ないかですか?」
「だろ?」
「じゃあどういうときに、梗塞を起こすんですか?」
あまりにしつこいので、指示を書くペンの動きを止めた。
「肺はふつう、肺動脈と気管支動脈の2重支配を受けている。
中枢側は肺動脈、末梢側は気管支動脈。肺動脈側に塞栓
を起こしても気管支動脈からの血流があるから、梗塞は免れることが
多い」
「ふんふん」
「しかし気管支動脈のような末梢の細い血管で起こった場合は、血流を
カバーしがたく梗塞を起こしやすい。よって喀血を起こす」
「じゃあ、喀血を起こすのが重症だっていうわけではないんですね」
「このノートにそれを書きとめてある」
僕は大事な手帳をしまった。
「それ、ください!」
「だーめ!」
彼はレントゲンと、新たに出来上がったCTを再び見た。
「やっぱり胸膜を底辺にした三角形だ。エアブロンコもないし」
「呼吸器疾患は、そんな最初でズバッと解決する領域じゃない」
「はあ・・」
「そうなってもいけない!」
採血データが出た。ハカセが食いいる。
「白血球増加なし、CRP陰性・・肺炎ではないな」
「腫瘍や結核は、たえず呼吸器の鑑別疾患だ」
「肺炎ではないでしょう?」
「胸膜直下病変として、重要なのがある」
僕は手帳を閉じた。
「え?なんです?」
「オーベンに聞くように!」
「へ?」
たぶんクリプトコッカスだと思う。だが確定診断はあくまでも
気管支鏡による生検・グロコット染色だ。抗原・抗体検査は
補助的な診断だ。
肺クリプトコッカス症はCryptococcus neoformansによる肺感染症。
必ずしも低免疫状態に起こるわけでなく、健常者に起こる場合もある。
病変は多発性の場合もあり、髄膜炎をみる例も。
僕の場合、カンがいい意味で作用したが、医師というのは実技にカンを
重ねつつ、そのカンをセンスよく役立てる訓練が必要だな。実技経験を積んでも
診断が全くダメな医者もいるし、経験浅くとも独自の道順で診断に持っていく
医者もいる。<センス>の問題もあるのだろう。
『だが、そのような言葉は一人前になってから言うものだ』
「わかってるって!」
僕はフォースをごまかした。
外来に呼ばれ、1時間ぶりに戻る。
「先生、さっきはどうも」
帯状疱疹の患者がペコッと礼をして、ベッドから降りた。アシクロビルの点滴が
終わったとみえる。
「ちゃんと通ってね!」
ベッド群を通り抜けて、診察室へ。ドカッと腰掛ける。
「はああ・・」
「カルテが鬼のように」おばさんナースが立っている。
「そうだよ!ちょっと休憩!」
「呼んで来ます」
「待ってって!う・・」
患者が入ってきた。さっき診た肝硬変の患者。
「あれ?さっき説明したよ。淡々と喋る息子さんに」
ナースが間に入った。
「それがね。息子さんが帰ったとたん、わしはいやや!聞いてない!
って帰りたがるんです」
「そこまで言うなら、しょうがないなあ・・」
「なので、今度は娘さんを呼びました」
「勝手に呼ぶなよ!」
そうか。あくまでも息子だけが納得したということか。
そういや本人の返事を聞いてなかった。
難しいな。インフォームド・コンセントは・・。シャアならこう言うかな。
「インフォームド・コンセント。響きはいいが、難しいものだな。わたしも以前、何度も失敗はしたものだ。それを分かるのがニュータイプだという認識自体が間違いなのだよ!」
そうなのか?シャア!ぬけぬけしゃあしゃあとよくも!
コメント