「60歳男性!全身がだるい、ので救急車で搬送!」
救急隊が入ってきた。男性は肥満で浅黒く、大酒のみの印象だ。
意識は問題ないが、だるくて目がなかなか開けられない、と。

こうしている間に、玄関に2台到着したようだ。レジデントら数人がダッシュ。

僕は理学所見を大まかにとり、採血などの指示を。
「全身に黄疸著明。貧血も著明。腹部膨満は・・・あるけど、腹水ではなさそう」
腹部は波打ってはいない。
「採血に、アンモニアを!」
「吐血して・・ない。呼吸状態は・・SpO2きゅ・・・ 99%」
「アパム先生。前医の情報は?」
「なな・・・ないらしくて」
「真珠会の関連病院ってことは確かだが・・・!」
「ふ・・・は!」
「患者が調べ直しになってもいいのか?」

「馬鹿者が!いちいち感情的になるとは何事か!」
鬼軍曹に脚をけられた。
「いて!」
「指先に集中なんだろ?おお?」

誰から聞いたんだ・・?まあ、いいが。

またピーポーが到着。
さきほどの2例のうちの1人は暴れている。
4人がかりで抑えてるようだ。30前後の男性。
「手伝ってくれ!AMIだ!」
ハカセが飛ばされながら叫んだ。

「よし!」
僕は駆け込み、基線揺れ揺れの心電図を確認した。
「なんでこれがAMIなんだよ?」
PもQRSもSTも分からない。揺れすぎだ。

「そ、そう言えば手伝って下さると思いまして」
「あのなあ・・じゃ!3・2・1で押さえろ!」
レジデントが顔を上げた。
「はあはあ!待ってください!<1>と同時ですか?
<1>の次?」
「<1>と同時に!10秒ほど!それ、3!2!」
「(一同)1!」
僕は心電図を操作、四肢・胸部誘導を4心拍ずつ記録した。
「はい!OK!」

STが上がっている。
「ハカセ、見ろ。STが上がってる!」
「ホントだ!ほんとにAMIだ!みんな!AMIだぞ!」
周囲からレジデントらが詰め寄った。

僕はハッと気づき、訂正した。
「これは違うよ。早期再分極だ」
「そうきさいぶんきょく?」
「J点から以降がそのまま上に持ち上がったタイプで、たいていT波が高い」
「J点?僕は消化器のほうの専門なので・・」
「J点は、QRS-ST接合部だ!学生でも知ってる!」
「そうか・・基本的すぎて分からなかった」

この男・・・!

レジデントが1人、入ってきた。
「ユウキ先生。表で警察が・・」
「なに?」
「この患者はヤク中らしいです。真珠会病院からの転院」
「警察もとうとう真珠会に買われたか!」

ハカセは少しムカッとなったようだ。
「ユウキ先生。いちおうトロポニンとか調べます」
「お好きに!」
「30前後でもAMI、あるらしいじゃないですか」
「ああ、いるよ。ヤク中でもよく見る」

警察が入ってきた。僕は他のベッドへ。
鬼軍曹が若い女性を診ている。脚を痛がっている。

「鬼・・・先生。交通事故ですか?」
「いや!間欠性跛行だ。それと倦怠感、。熱もある!」
「ASO?」
「ASOで熱が出るのか?」
「あ・・・」

若い女性はぐったり横になっている。
鬼軍曹は両足をあちこち触診している。
「うーむ・・・ユウキ。腹部を聴け」
「腹部?」
「そうだ!とっとと!ハム太郎!」
「は、はい!腹部を・・?」

腹部を聴診。

「グル音は弱いですね」
「バカモン!」
「え?」
「腹部は腸だけか!」
「?・・・あ、そうか!」
もう一度聴診。

「ブルーイ、あります!」
血管雑音だ。太い血管が狭窄していることを表す。
つまり血管が動脈硬化や炎症で細くなってる、という予測が立つ。

「他も聴け!」
軍曹の言うように、他の部位も聴取。特に頸部で聴取できることが多い。
「頸部雑音は・・ない!それと!」
左右の血圧、手首の動脈触知の有無、左右差。
「左右差はないようだな。両側とも160mmHg台。手首は触知良好。足は・・」
確かに、両側の足背動脈の触知は弱い。

「ユウキ!足の血圧も!」
「え?足の血圧?」
「どけ!」
鬼軍曹はためらわず、足の血圧をマンシェットで測定。
足だけに、患者はつらそうだ。

「足は・・両方とも80mmHgくらいだな!」
「てことは?」
「わしに質問する気か!」
「い、いえ・・」
「上肢と下肢の血圧差がありすぎだろ!バカボン!」
「た、たしかにです!」
「採血指示を出しとけ!検査入院!」

僕は指示を書き始めた。いくつか患者に質問しながら。
「以前の病院では、なんと・・?」
「さ、さあ。それがその。なんの説明もなくて」
「なんの説明も?」
「あまり聞くと、主治医の先生に嫌われるし」
「どんな病院なんです・・?」
「あたしは生保で暮らしてて。でもその病院はいろいろ検査してくれました」
「いろいろって・・」
「紹介状に書いてくれてるはずです」

そんなの、来てないよ・・・。

検査するだけして、何の申し送りもなく転院させてくる病院は珍しくない。だが、この患者の場合はひどすぎる。若い女性であり、被爆も避けたい。

僕は理性に戻り、検査オーダーを書き始めた。もちろん手帳を見ながらだ。
「一般採血のほかに、蛋白分画・・・レニン、アルドステロン・・・」
レニン、アルドステロンは腎動脈狭窄・高血圧の関連。高血圧となると・・
「コルチゾール、ACTH、BNPも出してと」
あと腹部エコー、CTなど。
「MRアンギオ(MRA)の予約を!」

『  高安動脈炎
http://akimichi.homeunix.net/~emile/aki/medical/circulatory/node186.html

 体の大黒柱である大動脈、またそこから出る分枝動脈のほか肺動脈にも起こりうる(毛細血管レベルでは起こさない)、慢性の動脈炎。炎症により動脈は狭窄したり、動脈瘤を形成することもある。必ずしも狭窄だけではないわけだ。

 侵される動脈の部位によって症状・所見が大きく異なる。原因をよく聞かれるが不明で、白血球HLA-B52、MICA-1,2や
リンパ球gammadelta T cellなどとの関連が研究中。

○ 15-25歳若年女性での発症が多い。
○ 初期は発熱・倦怠感
○ 数ヶ月で高血圧、血圧左右差、脈拍微弱、血管雑音、弁膜症など
○ なおかつ炎症所見が慢性的に持続。つまりCRPや赤沈が絶えず陽性。
○ 長期例では脳血管障害、心不全、視力低下に注意。
○ 確定診断は画像検査。CT、MRA、DSAなどを施設により組み合わせる。
○ 下肢の血圧低下がある場合(上記の例のような場合)、高血圧の加療は慎重を要する。上肢の血圧を下げすぎて、下肢の血圧まで巻き込んで歩行障害を助長しないように。腎動脈狭窄がある場合ACEIは禁忌。
○ 炎症所見、症状をみてステロイドを多めで開始。徐々に減らして維持量へ。
○ バルーン・ステント・バイパスなどの血行再建術の成績もよい。



本患者は頻度的には珍しい<III>型だった。

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