プライベート・ナイやん 6-20 叫び
2005年6月13日右季肋部痛の患者のフィルムが戻ってきた。
「ふふ、腹部は何も・・」
弘田先生は写真をシャーカステンへ。
「よく見ろよ。肝臓に、胆嚢に・・ん?」
「ふひ?」
「こりゃ、なんだ?」
僕は思わずハカセを呼んだ。
「ハカセ!これ見てみろ!」
「右の季肋部痛の人ね。胆嚢は・・これでしょ?石はなさそうっすね」
「弘田先生!SpO2測定したか?」
「まま、まだ・・」
僕はCTを見て唖然とした。腹部臓器は確かに問題なさそう。まあ胆石はまだ
明らかでないにしても。
問題なのは、一番上のスライスだ。右胸水らしき所見。
「胸水か・・弘田先生。採血結果は?」
「ひひ、ひんけ・・・」
「貧血ありか?ヘモグロビン8台の正球性。出血・・・」
僕は患者に聞いた。
「交通事故とか、あいました?」
「全然」
「ぶつけたりとか・・」
「まったく覚えナシ!」
「うーん・・・最近、何か変わったことは?何でも」
「変わったこと・・?私自身が変わってますわ!あっはは!」
僕は思わず睨んだ。
「へ、へえ!すんません!ええっと、そうやねえ・・」
「・・・・・」
「わし、肋間神経痛あってね。開業医かかっとるんですわ」
「開業医・・」
「内科の先生。ブロックしてもらいましたわ」
「ブロック。どこに・・」
「ここですわ」
彼は右背中を指差した。注射の針跡がある。
「もしかして・・アパム!胸部CTを!」
「はい、はひ・・・!」
できあがった写真より、右気胸+血胸と診断。
「肺が急速に縮まってきて、でた痛みなんだろな」
「ふ・・・」
「トロッカー入れるぞ!トロッカー!」
右側胸部より、ドレナージ。
「開業医の奴ら・・!」
またピーポーが1台。
鬼軍曹が運んできた。
「真珠会の病院から紹介だ!」
意識障害の患者。
「真珠会の病院に行ったが、病名など一切不明で運ばれてきた!」
「1・2・3!」
僕らは大柄の男性をフルパワーでベッドに移した。
どういう経過で・・?
「鬼・・・先生!これまでの経過は?」
「それが、向こうからの一方的な連絡だけなのだ!」
「はあ?」
「運んできたのも事務員!」
「ドクターからの紹介では?」
「経営者の方針らしい!1人暮らしの老人!67歳!」
メチャクチャだ。患者の命を何と・・。
患者はチアノーゼが著明。酸素吸入を継続。
「血ガスは。代謝性アシドーシス!」
レジデントがいちはやく測定結果を鬼軍曹に。
「CBCも出た!」
また別のレジデント。彼ら、いつの間に採血を・・。
鬼軍曹は頭を抱え込んだ。目の前では心電図が記録中で、
T波の陰転が胸部誘導広範囲。
「うぬう・・・ヘマトクリットが異常に高いな」
「脱水?」
バルーンを入れたハカセが答えた。
「誰でもいい!浮かんだら病名を言え!」
「ルーチン通りですね!」
ハカセはいろいろ本をめくりはじめた。
「とりあえず、アシドーシスを補正します!」
レジデントがメイロンを注射器に吸い始めた。
「まて!」
みんな目を疑った。
「まてといっておるのだ!」
沖田院長は杖で歩いている。
「沖田院長!だめです!」
レジデントの1人が泣き叫び、院長を横から支えた。
「ええいどけ!」
院長は彼を投げ飛ばした。
「検査室で待機しておったのだ!」
みな、ただただ圧倒されていた。
「それでもお前!指導者か!」
鬼軍曹は指で指された。
「は・・はああ!」
「COオキシメトリーの測定はあ?」
「申し訳ありません・・・!」
鬼軍曹は泣きかけになった。鬼軍曹の目にも涙。
「新しい経営者が持っていってしまって・・!」
「バカモン!人のせいにするな!」
「・・・・・」
「これより気管内挿管を行い、純酸素にて管理を開始せよ!
弘田は業者より機械を取り寄せ、CO-Hbを測定!ユウキ!頭部CTで脳浮腫を確認!」
「?」
「どうしたユウキ!」
「人工呼吸器がついたら、頭部CTは・・」
「バカモ・・!」
「そうそう!検査の前後はアンビューですね。そうそう!すんません!」
僕らは3人でストレッチャーをCTへ。呼吸器は身軽なLTV。
「撮影するぞ!」
技師がボタンを押し、ものの10秒足らずで終了。
僕らは画面で確認。
「低吸収域は・・・まだないな!よかった!」
廊下から病棟へ全速力で。
「CO-Hb 55%だそうだ!」
他のレジデントが叫ぶ。
「それって高いの?」
よく知らない僕が聞いた。
「ええ。とりあえずこれを10%以下に下げないと!」
「どれくらいしたら下がるんだ?」
「純酸素なら、2時間くらいだと」
鬼軍曹が後ろから走ってきた。
「多臓器に異常所見がある!幸い、腎機能は良好だ!」
僕は手帳を見ながら鬼軍曹に聞いた。
「僕は教科書で<高圧酸素療法>と習ったんですが・・」
「ここにはないんだ!症例がなく、町がずいぶん前に引き上げた!」
「救急病院なのに・・・」
「お前に言われてたまるか!やあ!」
「いててて!」
また、教科書的によくある<鮮紅色の皮膚粘膜所見>も実際に
お目にかかることは少ない。
個室へ移し、処置を完了。
レジデントが1人、残る。
「ではまたHb-COを今後もモニタリングします!」
「逐一、俺に報告しろ!今日は寝るな!」
「はい!」
鬼軍曹は残りの僕らを率いて、救急室へ。途中、ストレッチャーと
すれ違う。
「なんだ?中堅!」
「吐血です。バリックス!S-Bチューブでなんとか!」
「バイタルは?」
「今はいけてます!」
ストレッチャーは遠ざかっていった。
階段で、またレジデントが1人。座っている。
「こらああ!何を座っとるか!お前!」
「は、吐き気がして・・」
「吐き気?わしはお前を見て、吐き気がした!」
しかし、本当に気分が悪そうだ。
「ちょっと休ませていただけませんか。僕や小森、4人くらいはもうクタクタで」
「お前らの代わりに働くこいつらの身にもなれ!」
確かに、時間の経過が分からないくらい、僕らは動き回っていた。
休み時間が半端にあると、ものすごい睡魔が襲う。
僕ら数人がそれに襲われていないのは、絶えず体のどこかの動きが要請
されているからであった。
「根性ナシは置いていけ!さ!」
鬼軍曹は僕ら3人を・・・いや、2人になってる。1人消えたようだ。
「ユウキ!お前初めてか?CO中毒は?」
「はい!」
「CO-Hbが下がったら、それでいいとでも思うか?」
「・・・・・」
「うち1割は、のちに錐体外路症状を起こしてくる。間欠型のCO中毒という!」
「錐体外路。パーキンソン症候群のときに習ったような」
「そうだ!それだ!」
救急室は、わずか2人のレジデントが悪戦苦闘だ。
「またCPRが来まして!」
もう1人は挿管に手間取っている。
「くそ!入らない・・・!ここか?」
聴診しているが、どうやら胃のようだ。
「ここでは?」
レジデントはそのままアンビューしたが、患者の顔が少し膨らみ始めた。
「バカ!どけい!」
鬼軍曹は彼を跳ね飛ばし、きちっと構えて挿管した。
「呼吸器設定!」
「はい!」
僕はボタンを設定にかかった。
救急がさらに2台到着。救急隊がびしょ濡れで運んでくる。
部屋のあちこちで、僕らを呼ぶ声。
ここは戦場だ!
「ふふ、腹部は何も・・」
弘田先生は写真をシャーカステンへ。
「よく見ろよ。肝臓に、胆嚢に・・ん?」
「ふひ?」
「こりゃ、なんだ?」
僕は思わずハカセを呼んだ。
「ハカセ!これ見てみろ!」
「右の季肋部痛の人ね。胆嚢は・・これでしょ?石はなさそうっすね」
「弘田先生!SpO2測定したか?」
「まま、まだ・・」
僕はCTを見て唖然とした。腹部臓器は確かに問題なさそう。まあ胆石はまだ
明らかでないにしても。
問題なのは、一番上のスライスだ。右胸水らしき所見。
「胸水か・・弘田先生。採血結果は?」
「ひひ、ひんけ・・・」
「貧血ありか?ヘモグロビン8台の正球性。出血・・・」
僕は患者に聞いた。
「交通事故とか、あいました?」
「全然」
「ぶつけたりとか・・」
「まったく覚えナシ!」
「うーん・・・最近、何か変わったことは?何でも」
「変わったこと・・?私自身が変わってますわ!あっはは!」
僕は思わず睨んだ。
「へ、へえ!すんません!ええっと、そうやねえ・・」
「・・・・・」
「わし、肋間神経痛あってね。開業医かかっとるんですわ」
「開業医・・」
「内科の先生。ブロックしてもらいましたわ」
「ブロック。どこに・・」
「ここですわ」
彼は右背中を指差した。注射の針跡がある。
「もしかして・・アパム!胸部CTを!」
「はい、はひ・・・!」
できあがった写真より、右気胸+血胸と診断。
「肺が急速に縮まってきて、でた痛みなんだろな」
「ふ・・・」
「トロッカー入れるぞ!トロッカー!」
右側胸部より、ドレナージ。
「開業医の奴ら・・!」
またピーポーが1台。
鬼軍曹が運んできた。
「真珠会の病院から紹介だ!」
意識障害の患者。
「真珠会の病院に行ったが、病名など一切不明で運ばれてきた!」
「1・2・3!」
僕らは大柄の男性をフルパワーでベッドに移した。
どういう経過で・・?
「鬼・・・先生!これまでの経過は?」
「それが、向こうからの一方的な連絡だけなのだ!」
「はあ?」
「運んできたのも事務員!」
「ドクターからの紹介では?」
「経営者の方針らしい!1人暮らしの老人!67歳!」
メチャクチャだ。患者の命を何と・・。
患者はチアノーゼが著明。酸素吸入を継続。
「血ガスは。代謝性アシドーシス!」
レジデントがいちはやく測定結果を鬼軍曹に。
「CBCも出た!」
また別のレジデント。彼ら、いつの間に採血を・・。
鬼軍曹は頭を抱え込んだ。目の前では心電図が記録中で、
T波の陰転が胸部誘導広範囲。
「うぬう・・・ヘマトクリットが異常に高いな」
「脱水?」
バルーンを入れたハカセが答えた。
「誰でもいい!浮かんだら病名を言え!」
「ルーチン通りですね!」
ハカセはいろいろ本をめくりはじめた。
「とりあえず、アシドーシスを補正します!」
レジデントがメイロンを注射器に吸い始めた。
「まて!」
みんな目を疑った。
「まてといっておるのだ!」
沖田院長は杖で歩いている。
「沖田院長!だめです!」
レジデントの1人が泣き叫び、院長を横から支えた。
「ええいどけ!」
院長は彼を投げ飛ばした。
「検査室で待機しておったのだ!」
みな、ただただ圧倒されていた。
「それでもお前!指導者か!」
鬼軍曹は指で指された。
「は・・はああ!」
「COオキシメトリーの測定はあ?」
「申し訳ありません・・・!」
鬼軍曹は泣きかけになった。鬼軍曹の目にも涙。
「新しい経営者が持っていってしまって・・!」
「バカモン!人のせいにするな!」
「・・・・・」
「これより気管内挿管を行い、純酸素にて管理を開始せよ!
弘田は業者より機械を取り寄せ、CO-Hbを測定!ユウキ!頭部CTで脳浮腫を確認!」
「?」
「どうしたユウキ!」
「人工呼吸器がついたら、頭部CTは・・」
「バカモ・・!」
「そうそう!検査の前後はアンビューですね。そうそう!すんません!」
僕らは3人でストレッチャーをCTへ。呼吸器は身軽なLTV。
「撮影するぞ!」
技師がボタンを押し、ものの10秒足らずで終了。
僕らは画面で確認。
「低吸収域は・・・まだないな!よかった!」
廊下から病棟へ全速力で。
「CO-Hb 55%だそうだ!」
他のレジデントが叫ぶ。
「それって高いの?」
よく知らない僕が聞いた。
「ええ。とりあえずこれを10%以下に下げないと!」
「どれくらいしたら下がるんだ?」
「純酸素なら、2時間くらいだと」
鬼軍曹が後ろから走ってきた。
「多臓器に異常所見がある!幸い、腎機能は良好だ!」
僕は手帳を見ながら鬼軍曹に聞いた。
「僕は教科書で<高圧酸素療法>と習ったんですが・・」
「ここにはないんだ!症例がなく、町がずいぶん前に引き上げた!」
「救急病院なのに・・・」
「お前に言われてたまるか!やあ!」
「いててて!」
また、教科書的によくある<鮮紅色の皮膚粘膜所見>も実際に
お目にかかることは少ない。
個室へ移し、処置を完了。
レジデントが1人、残る。
「ではまたHb-COを今後もモニタリングします!」
「逐一、俺に報告しろ!今日は寝るな!」
「はい!」
鬼軍曹は残りの僕らを率いて、救急室へ。途中、ストレッチャーと
すれ違う。
「なんだ?中堅!」
「吐血です。バリックス!S-Bチューブでなんとか!」
「バイタルは?」
「今はいけてます!」
ストレッチャーは遠ざかっていった。
階段で、またレジデントが1人。座っている。
「こらああ!何を座っとるか!お前!」
「は、吐き気がして・・」
「吐き気?わしはお前を見て、吐き気がした!」
しかし、本当に気分が悪そうだ。
「ちょっと休ませていただけませんか。僕や小森、4人くらいはもうクタクタで」
「お前らの代わりに働くこいつらの身にもなれ!」
確かに、時間の経過が分からないくらい、僕らは動き回っていた。
休み時間が半端にあると、ものすごい睡魔が襲う。
僕ら数人がそれに襲われていないのは、絶えず体のどこかの動きが要請
されているからであった。
「根性ナシは置いていけ!さ!」
鬼軍曹は僕ら3人を・・・いや、2人になってる。1人消えたようだ。
「ユウキ!お前初めてか?CO中毒は?」
「はい!」
「CO-Hbが下がったら、それでいいとでも思うか?」
「・・・・・」
「うち1割は、のちに錐体外路症状を起こしてくる。間欠型のCO中毒という!」
「錐体外路。パーキンソン症候群のときに習ったような」
「そうだ!それだ!」
救急室は、わずか2人のレジデントが悪戦苦闘だ。
「またCPRが来まして!」
もう1人は挿管に手間取っている。
「くそ!入らない・・・!ここか?」
聴診しているが、どうやら胃のようだ。
「ここでは?」
レジデントはそのままアンビューしたが、患者の顔が少し膨らみ始めた。
「バカ!どけい!」
鬼軍曹は彼を跳ね飛ばし、きちっと構えて挿管した。
「呼吸器設定!」
「はい!」
僕はボタンを設定にかかった。
救急がさらに2台到着。救急隊がびしょ濡れで運んでくる。
部屋のあちこちで、僕らを呼ぶ声。
ここは戦場だ!
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