病院閉鎖前の深夜。

僕らはカラオケボックスにいた。
ひととおり流行歌を歌い終わり、めいめいが代表曲を歌うことに。
しかし・・・アパムは1曲も歌わない。

「なんだよ、アパム。歌えよ!」
僕はマイクを勧めたが、遠慮ばかりだ。
「じゃ、ペアで歌いましょう!」
司会のレジデントが仕切る。

また僕とアパムだ。
「弘田先生。これを言うのは、非常に恥ずかしいんだけど」
「ふ・・・?」
「戻ってきてくれた。オーベンは何よりそれが嬉しい」
「ふふ・・・」
泣き虫の彼はそっと手を差し出した。
こっそり僕らは握手した。

「さあ!そろそろいけよアパム!」
ハカセは酔ってしまっていた。
「そーれ!アパム!アパム!アパム!(一同)」
弘田先生は照れながらも、立ち上がった。

「(一同)おおおおおお!」

僕とアパムは前に出た。
「弘田先生。曲は何を?よかったら<Yes , I , Do>」
ところが、すでに曲は入れられていた。聞いたことにある前奏が始まった。

この曲は・・・。北斗の拳の!

「(一同)ユア。ショーック!」
僕は反射的にマイクを持った。
「ああ?♪あいで、空が、おちてく〜る〜せーの!」
「(一同)ユア、ショー!」
「♪おれの、むねに、おちてくるうう!」
アパムはためらっている。

「♪ああつい心、くうさりでつないでもおおお!今はむうだだんよ!」
「(一同・笑)」
「(じゃまするやあつはゆびさきひとつでえええ!ダウンさあああ!)」

どうしたんだ。アパム。お前も歌え!

「♪すううべてとかし、むざんにとびちるううう!はずさあああああ!」
「(一同)アパム!」
アパムが大口を開けた。

「オオオレトノアイヲマモルタメエ!オオマエハタッビダッチイイイイイ!」
「(一同)おおおおおお!」

そうだ。もと合唱部っていってたな!

「アシ〜〜〜〜タヲ〜〜〜」
「(一同)さんはい!」
「(2人)ミ〜ウしナッタアああアア!」
「(一同・笑)」
「ホオオホエミワスレタカオナドオ!ミイタクハナイッサアアアアア!」
「(一同)さんはい!」
「ああアアイイヲ、トリモドッセええええエエエエエエエエエエ!」
「(一同)おおおおおお!」
「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
彼は一人で、どんどん伸ばしていった。

帰りの車。僕は歌い続けた。

 ♪ 俺との愛を守るためえ!
   お前は旅立ちいいいいい!
   明日をおおおおお!さんはい!見失ったあああ!
   微笑み忘れた顔などお! 
   見たくはないさああ!

   さんはい!

   ああああいを、取り戻せえええええ!

そうか。これは僕のための歌だったのだ。ありがとう、アパム。


 <沖田院長のオペは成功、その後は退職され田舎の民間病院でのアルバイトを転々としているという。>

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