2NDLINE 7
2005年6月29日「資料・・・ありませんね」
マックを操作しながら、レジデントは悪戦苦闘していた。
「この何年かの間に、消えたってことはないか?」
「いえ。システムの入れ替えはしてますが、バックアップは常に取ってるので」
「一時的な保存を繰り返してるうちに、データが消えるってことは?」
「まずないでしょう・・・・・く、これもカラだ!」
割と題名だけで中身が空のファイルが多い。ザッキーは空ファイルをポンポンゴミ箱へ捨てていった。
「バックアップは年に何回?」
「1年に1回しか。ずさんな医局でしょ?」
彼は周囲を見回した。
僕は気になって聞いた。
「バックアップする係って?誰?」
「病棟医長が仕切ってます。ファイルの管理も彼が」
「それは・・まさか」
「私の敬愛する、島・病棟医長です」
「また島・・・!」
「呼びましょうか?」
「よばんでいいよばんでいい!」
島の奴・・・。まさかくすねたんじゃあ・・?
「すまんが、島のファイルを開けてくれ」
「えっ?それはできません!」
「し、島は僕の元コベンなんだ」
「えっ?それはすごい!」
単純な奴。
「いろいろと指導した。デキは悪かったがな」
「そうなんですか?今はうちの医局で一番優秀な先生でして」
「この医局も堕ちたな・・・いやいや、なんでもない。で?で?
彼のファイルは?」
「これです」
ファイルが出てきた。論文用、専門医試験用・・・。
「認定医はすでに彼、受かってますから。専門医試験用なのです」レジデントは誇らしげだった。
「開けてくれ」
「え?でも・・・」
「開けろっていうんだ!もういい。オレが!」
画面を開けると、入院患者の名前がズラッと並んでいた。
トシキからのメモを参照。
「・・・・間違いない。全部トシキが受け持った患者だ」
鳥肌が立った。
そこへカンファの終わったスタッフ達が数人やってきた。
「ん?オーベンがなんやて?」
いずれも、知らない顔だ。
「ザッキー。オーベンって?ん?ん?」
干渉好きな連中が、ザッキーにあれこれ詮索する。
「この先生ね、近々こちらへ転勤で来られますって。島っちの元オーベンなんだよ!」
「(一同)どうか、よろしくお願いいたします!」
イエスメンたち。
「ちょっとこれから、パソコン使うからね」
僕は遠まわしに、彼らを追い出そうとした。しかし、彼らは束になって動かない。
「ねえ先生。外病院からですか?」
うち1人がタバコを吸い始めた。
「おれ?ああ」
僕はMOをポケットから取り出し、ドライブに入れた。
「外病院って、楽しいんでしょう?」
「楽しい?外病院は喜怒哀楽の宝庫だよ」
数人が僕のほうへ近づいてる。画面の反射で分かる。
「心カテとかもバリバリされてるんですか?」
「バリバリ、バーバリー、バリックスかな!」
「?」
僕はあまり聞いていなかった。しかし聞きたいことはあった。
「そうだ。野中は元気?」
「え?それ誰です?」
「知らないのか?野中だよ。ここで助手で頑張ってたろ?」
「助手の先生多すぎて、分かりません」
彼らはだらしない格好で部屋内をうろついていた。
僕はポケットからMOがやっと読まれ、コピー保存可能な状態に。
「真田病院から来た先生?」
戻ってきた秘書が後ろから声をかけた。
「ですよね」
「う・・うん」
僕は後姿で答えた。
僕はカーソルで、島の<専門医症例>をコピーした。
かなりの容量のようだ。徐々にコピーが進む。
「秘書さん。野中先生はもういないの?」
「野中助手は・・・ニューヨークに留学中とのことです」
「入浴?」
「ニューヨーク。家族総出で行かれたと」
「マジ?ナカス、ススキノ、ニューヨーク・・か」
「治験や研究をされています」
さすがだな。常に上を目指す男。僕の目指すもの(漠然とした自由)とはベクトルが別方向だ。
さて・・ファイルのコピーはやっと半分だ。
周囲の医局員は隣のパソコンでゲームしている。
すると後ろに別の女レジデントがやってきた。
「いつ、終わりますか?」
「はあ?」
「地方会の準備があるのですが!ここを使いたいんですけど!」
やけにハキハキした奴だな。
「今、使ってるよ」
「ここは学会準備が優先のパソコンですので!」
「だから?」
「だから・・?今の作業が終わりましたら、移動していただけますか!」
「ナマイキな奴、増えたなあ。君は何年目?」
「2年目です。ただし1留してます。交通事故が理由です。落第ではありませんけどね!」
「そこまで聞いてねえよ!この!」
だが周囲は誰も笑わない。冷めている。そこがまた大学らしい。
「くそ!トシキ・・早く来いよ!B型マイペース野郎が!」
マックを操作しながら、レジデントは悪戦苦闘していた。
「この何年かの間に、消えたってことはないか?」
「いえ。システムの入れ替えはしてますが、バックアップは常に取ってるので」
「一時的な保存を繰り返してるうちに、データが消えるってことは?」
「まずないでしょう・・・・・く、これもカラだ!」
割と題名だけで中身が空のファイルが多い。ザッキーは空ファイルをポンポンゴミ箱へ捨てていった。
「バックアップは年に何回?」
「1年に1回しか。ずさんな医局でしょ?」
彼は周囲を見回した。
僕は気になって聞いた。
「バックアップする係って?誰?」
「病棟医長が仕切ってます。ファイルの管理も彼が」
「それは・・まさか」
「私の敬愛する、島・病棟医長です」
「また島・・・!」
「呼びましょうか?」
「よばんでいいよばんでいい!」
島の奴・・・。まさかくすねたんじゃあ・・?
「すまんが、島のファイルを開けてくれ」
「えっ?それはできません!」
「し、島は僕の元コベンなんだ」
「えっ?それはすごい!」
単純な奴。
「いろいろと指導した。デキは悪かったがな」
「そうなんですか?今はうちの医局で一番優秀な先生でして」
「この医局も堕ちたな・・・いやいや、なんでもない。で?で?
彼のファイルは?」
「これです」
ファイルが出てきた。論文用、専門医試験用・・・。
「認定医はすでに彼、受かってますから。専門医試験用なのです」レジデントは誇らしげだった。
「開けてくれ」
「え?でも・・・」
「開けろっていうんだ!もういい。オレが!」
画面を開けると、入院患者の名前がズラッと並んでいた。
トシキからのメモを参照。
「・・・・間違いない。全部トシキが受け持った患者だ」
鳥肌が立った。
そこへカンファの終わったスタッフ達が数人やってきた。
「ん?オーベンがなんやて?」
いずれも、知らない顔だ。
「ザッキー。オーベンって?ん?ん?」
干渉好きな連中が、ザッキーにあれこれ詮索する。
「この先生ね、近々こちらへ転勤で来られますって。島っちの元オーベンなんだよ!」
「(一同)どうか、よろしくお願いいたします!」
イエスメンたち。
「ちょっとこれから、パソコン使うからね」
僕は遠まわしに、彼らを追い出そうとした。しかし、彼らは束になって動かない。
「ねえ先生。外病院からですか?」
うち1人がタバコを吸い始めた。
「おれ?ああ」
僕はMOをポケットから取り出し、ドライブに入れた。
「外病院って、楽しいんでしょう?」
「楽しい?外病院は喜怒哀楽の宝庫だよ」
数人が僕のほうへ近づいてる。画面の反射で分かる。
「心カテとかもバリバリされてるんですか?」
「バリバリ、バーバリー、バリックスかな!」
「?」
僕はあまり聞いていなかった。しかし聞きたいことはあった。
「そうだ。野中は元気?」
「え?それ誰です?」
「知らないのか?野中だよ。ここで助手で頑張ってたろ?」
「助手の先生多すぎて、分かりません」
彼らはだらしない格好で部屋内をうろついていた。
僕はポケットからMOがやっと読まれ、コピー保存可能な状態に。
「真田病院から来た先生?」
戻ってきた秘書が後ろから声をかけた。
「ですよね」
「う・・うん」
僕は後姿で答えた。
僕はカーソルで、島の<専門医症例>をコピーした。
かなりの容量のようだ。徐々にコピーが進む。
「秘書さん。野中先生はもういないの?」
「野中助手は・・・ニューヨークに留学中とのことです」
「入浴?」
「ニューヨーク。家族総出で行かれたと」
「マジ?ナカス、ススキノ、ニューヨーク・・か」
「治験や研究をされています」
さすがだな。常に上を目指す男。僕の目指すもの(漠然とした自由)とはベクトルが別方向だ。
さて・・ファイルのコピーはやっと半分だ。
周囲の医局員は隣のパソコンでゲームしている。
すると後ろに別の女レジデントがやってきた。
「いつ、終わりますか?」
「はあ?」
「地方会の準備があるのですが!ここを使いたいんですけど!」
やけにハキハキした奴だな。
「今、使ってるよ」
「ここは学会準備が優先のパソコンですので!」
「だから?」
「だから・・?今の作業が終わりましたら、移動していただけますか!」
「ナマイキな奴、増えたなあ。君は何年目?」
「2年目です。ただし1留してます。交通事故が理由です。落第ではありませんけどね!」
「そこまで聞いてねえよ!この!」
だが周囲は誰も笑わない。冷めている。そこがまた大学らしい。
「くそ!トシキ・・早く来いよ!B型マイペース野郎が!」
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