2NDLINE  8

2005年6月29日
トシキ先生はその曲げられない性格から、カンファレンス室で
若干名とディスカッションを繰り広げていた。

トシキ先生は最初は傍観していた。

高圧的なオーベンと、現代っコベンがなにやら言い争っている。

「薬物による熱だ!」
「いえ!感染症だと思います!」

以前、オーベンというのはかなり圧倒的な存在だった。それが最近ではお友達的な存在となり、正直・・ナメられている。

学校の教師もそうだな。時代の空気がダメにしていくものが多すぎる。

「培養からは何もなし!CTでも影はない!」とオーベン。
「気管支の壁が肥厚していると!」とコベン。
「これが・・?そのうちに入るか!」
「放射線科にコンサルトしました!」
「なにっ・・・?俺の許可なしに勝手にか!」
「だって先生は!土日いませんし!」
「だから、それは平日か週明けにでもだな!」
「でも患者さんは待てません!」
正義感の強いコベンは譲りそうにない性格だった。

だがじきここでそれも補正されていくのだろう。

トシキは昔の自分と姿を重ねていた。

「薬物熱!」
「感染症!」
「なんの感染だ?言ってみろ!」
「薬物中止して、どんな治療を?」
「中止して経過をみるんだ!」
「そうするとまた土日になります!急変はいつも土日なのに!そんなときに限ってオーベンがいてくれてない!今日は本音で言わせてもらう!」
「ああそうか!オレに黙って相談するならこっちも考えがあるぞ!」
「なら医局長に僕から相談させていただきます!」

コベンは負けていない。頑張れコベン!

聞いてておかしく、トシキ先生は笑いをこらえ座っていた。

「薬物中止!」
「治療続行!」
「中止!」
「続行!」
オーベンは怒って出て行った。

「待ってください!僕はどうすればいいのですかああ!」
コベンはオーベンに引き離され、孤立した。

途方にくれたコベンは、深くうなだれた。
トシキ先生はゆっくり彼に近づいた。

コベンは泣きかけでトシキに気づいた。

「?あなたはMRの方ですか?」
「え?いや・・・僕は・・・いちおう医者だよ」
「新しく来られるんですか?」
「いや・・・その。ま、そんなとこ」
「マイオーベンが、あんな感じで・・」
「オーベン、忙しそうだね」
「オーベン、外病院のバイトばかりで、僕たちの面倒みてくれないんです。みんなこう言います。<しょっちゅう、しゅっちょう>」
「僕もねえ。以前オーベン時代はそうだった。コベンに教えようにも、自分自身抱えきれない課題をたくさん持ってて」

コベンは涙を拭った。

「でもね。やがては1人で臨まないといけない場面にも出くわすものだよ」
「それで医療ミスなんか起こしたくないし!」
「そうだろ?オーベンは必要だ。不必要最大限でなく、最小必要最大限に利用しなきゃ」
「?」
「そうだな。まずオーベンの行動パターンをつかむんだよ」
「パターン?」
「この曜日は何をしていて、どこへ行ってるか、とか」
「へえ・・」
「その空き時間をめがけて、相談したりするんだよ」
「うちのオーベン、土曜日になったら実家に帰るし!」
「だから、その前にまとめて相談しておく。あと、連絡先を聞いて、この時間に電話しますから、と約束する」
「ふうん・・」
「オーベンの尻尾はつかんでおくもんだよ!」
「そっか・・・」
「ある先輩からもらったアドバイスさ。ユウキ先輩の・・」
「僕、頑張ります!」

素直な子だ。きっといい医者になる。

「あ。いけね!」
トシキ先生は携帯を確認した。着信履歴が8件も。
いずれも僕からだ。
「行かないと!」
「先生!教えてください!」
コベンが袖を引っ張った。
「なに?」
「オーベンは薬物熱だから、薬を中止しろ!って。CRP高度で気管支炎を疑った僕としては、抗生剤は続けたいんですが・・・!」
「それはオーベンとよく相談して」
「結局それですか!」

トシキ先生はふと立ち止まった。
「抗生剤は・・ニューキノロンだね?」
「ええ」
「じゃ、中止だ!」
「やっぱりオーベンの意見を尊重するんですか?」
「その薬を中止しても、PAEがあるよ」
「PAE?」
「Post-Antibiotic-Effect。抗生剤中止後も、効果が持続するっていう」
「え?そうなんですか?」
「アミノグリコシド・ニューキノロンがもってる効果だ。オーベンが言うように中止しても、効果はしばらく続くよ」
「?ありがとうございます!」

何か、以前のシローを思い出すな。彼は懐かしかった。

トシキ先生は走った。

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