2NDLINE 11

2005年6月29日
「どうしたんですか?先輩」
トシキが現れた。

僕は痛みに耐えながらも、MOを意識していた。
「バカヤロー!遅いんだよ!」
「なんでまた・・先輩。何かしでかしたんですか?ひょっとして・・・どろぼう?」
「あのなあ!」

島は手を放し、トシキの方を向いた。
「おうおう!これはトシキ先生!」
「島・・・」
「チミにも、いろいろ借りはあったよなあ!」
「年末のときか?」
「あれこれ、俺に指図しやがって!自分は何もせずに!」
レジデントら後輩への手前、島はあることないこと言ってきた。

「はあ?何いってる。それはお前だろ!」
トシキ先生は堂々と答えた。
「僕がいろいろ手伝ってきたから、君は今でも医者でいれるんだよ」

ザッキーが2人を交互に見ている。島は狼狽した。

「な!何を言う!病棟医長のニセモノで暗躍したのは誰だ!」
「だとしたら、君は医者のニセモノだろ」
「なにい?」
「相変わらず、雑用は人任せでリスクも押し付けかい?」
「記憶にないな」
「それは君が・・・・・バカだからだよ」
トシキは冷静だが、残酷だ。彼のもとオーベンと同様に。

関西での「バカ」はケンカを売るのと同じだ。

島の蹴りで、僕は廊下のほうへ放り出された。
「ふんげえ!」

横で屈んだトシキに、横から耳打ちした。
「え、MOドライブの中のディスクを・・」
「えっ?エムオー?」
「アホ!しゃべるな!」

島が察した。
「ん?何を言ってる?MO・・?」

ザッキーがはっと表情を戻した。
「MOですよ!そこのドライブ!」
ザッキーは襲いかかるように、MOドライブへ手を伸ばした。

「あ・・?」
つい触れた指のせいで、ディスクはドライブに収納されてしまった。
「この!」
怒った僕は飛び出し、何がなんでもとMOドライブを、そのドライブごとつかんだ。
「なろお!QRS!」
わしづかみにし、そのまま手前に引っ張ると、後ろのコードが抜けた。
「おおお!」
振り回すと、みな驚いて壁側に退いていった。

「ドロボウ!」
島が叫んだ。僕は足早に後ずさった。
「あとで返す!やあ!」
そのまま僕は廊下へ走った。
「待てこらあ!」
島とザッキーはダッシュで走ってきた。

僕は近くの階段を新記録出す勢いで駆け下り、数階下の教室・・・
<免疫・血液内科教室>へ入った。

「はい。これがそのABPMですね。24時間血圧計。みてくださあい」
どうやら教官?らしき人が立っている5人の学生に講義している。足早で入ってきた僕を気にも留めない。

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
僕は絶えず息切れしていた。
と、廊下に走る音。僕は思わず学生の間に混じった。
教官はひたすらABPMの話だ。

「ABPMの講義をね、してくれって医局長から頼まれたんだけど・・僕、専門がMDSなんだよね。でもカリキュラム上仕方なくて。さて」
彼は白板にマジックで書き出した。
「血圧ってふつう、夜中下がるのよね。この患者さんは早朝が高い。脳卒中のリスクが高くなる。これを・・」
「モーニング・サージ!」
僕は思わず答えた。

「そうそう。なので薬剤を・・」
「αブロッカーの就寝前投与!」
「・・・そうそう。副作用ではき・・」
「起立性低血圧!」
「だまっててくれる?」
ドクターは自信をなくし、黙ってしまった。

「すみません。腹が痛いのでトイレを」
僕は教室内のトイレを借りようとした。
「トイレは君!廊下のトイレでなさい!」
「廊下はちょっと!」
「医局のペーパーをいたずらに減らしてはいけない!」
「借ります!」

僕は本当に腹が痛くて、そこのトイレに入った。

ダメだ。間に合いそうにない。僕は周囲を気にする余裕もなく、ズボン・パンツを勢いよく脱いでいった。

彼らはすぐ近くで話し合っている。
「どう?出た?」
教官が心配してやってきた。

僕は満足して、は〜、とため息をついた。
トイレットペーパーの紙は、機関車トーマスの絵がついている。
「走るのは、気持ちいいなあ」
ゆっくりズボンをはき、心機一転だ。

「下痢ですか?」
教官が出口で待っていた。
「IBSです」
「アイビー・・?」
「勉強したら、分かります」
学生らがプッと噴き出した。

僕はそろ〜りと教室を出た。誰もいない。
3階下に下りれば、事務長の待ってるであろう車だ。

注意深く、1段ずつ降りる。

1階出口を出て、駐車場へ向かう。
どうやら島たちは、退散したようだ。

やがて向こうに事務長の外車が見えたとき、近くの屋外非常階段からカンカンと音が響いてきた。

「まさか・・・」
僕はスローモーションで、ゆっくり振り向いた。

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