2NDLINE  12

2005年6月29日
「お前らに渡すかあ!」
島は私服で地面に降り立ち、全速力でこちらへ走ってきた。
僕はダッシュで車に乗り込んだ。トシキは疲れて寝ている。

「事務長!フルパワーでダッシュだ!」
「おお!」
車は勢いよくバックしていった。前方に島。大きなブタが駆けてくる。

「つかまれ!」
事務長は左にハンドルし、大きくターンした。
僕はウインドウを開けた。
トシキはまだ寝ている。

島が長いダンボールを拾って、全速力で近づいてきた。
「ドロボウ!症例ドロボウ!みんなあ!ドロボウだ!」
僕はウインドウごしに叫んだ。
「ドロボウはお前だろ!内科学会にいいつけてやる!」
「ドロボウ!人の症例!ドロボウ!ドロ・・・!」
僕の声が終わると同時に、車は走り出した。

車のコンセント差しこみ口からコードを抜いた。MOをドライブから取り出したのだ。

僕はMOをトシキのポケットに入れ、ドライブを窓から放った。
「返すよ!」
島の足元にドライブが落ち、何回かバウンドした。

「わあ!なんだなんだ?手りゅう弾か?」
事務長はシートベルトした。
「あの人、なんだい?ユウキ先生の元患者?」
「そ、そう。不穏があるんだよ。大酒呑み。アルコール中止したところでね」
僕はごまかした。

「アルコール?中毒かい?大学でもそんな入院が?」
「離脱症状だよ。アルコール大量常用者の、中止後の48時間以内はよく起こる」
「ところで。聞けよ。うまくいきそうだ!」
「何が?」
「教授からの協力はバッチシだ!今後は関連病院として安定した人材が来そうだ!」
「どうもウソっぽいな・・」
「ほ、ほんとだって!能力的にも問題ない医師を送ってくれる!と思う!」
「大丈夫だよ事務長。オレをそんな警戒せんでも」
「わ、私は真実のみを語っているだけで」
「あ、そうだ。呼吸器のほうは、12/31に貸してくれるってよ!1台だけど」
「1台でもオッケー!いよっしゃあ!」

いつの間にか起きたトシキが事務長に突っ込む。
「呼吸器なんか借りなくても。どうせ業者がバックアップしてくれるでしょう?」
「真田病院の周囲は病院多発地帯。代わりの呼吸器といっても、貸し出し制限があるのです」
「医師会の陰謀かもね・・」
「うちは目のカタキだからね。特に新しい病院は」
「もし真田病院の呼吸器すべてが停止したら?」
「え?」
事務長は固まった。
「17台、稼動してる呼吸器がすべて止まったら?」
「そ、それはないでしょう」
「なぜ分かる?」
「ないことを祈りましょう!」
「なんか、頼りないんだよな・・あなたのことなんだけど」
「ひ・・・」
トシキは外の光景を眺めていた。

病院出口、料金所。

「ちょっとお待ちください!」
車は呼び止められた。
「なぜに?金はきちんと払ったぞ!」
事務長は怒った。
「ここでしばらくお待ちなさいと」
事務員が受話器を持ったまま、僕らを制した。

「なんでここで足止め食らうんだ?」
事務長は僕らのほうを振り向いた。
「なぜだ?おい?」
「さあ・・・駐車料金の水増し工作じゃないの?」
僕は島を気にしながら、キョロキョロ辺りを見回した。

「教授は、出ていいって言ってる」
僕は事務員に呼びかけた。
「医局員の電話は無視しろ、と」
「教授さんが?わかりました!」
事務員はあっけなく、前方のバーを上げた。
「ごくろうさん!」

車はようやく国道にありつけた。

「うしろ!車!」
違うかもしれないが、1台車が出てきそうに見えた。
「事務長事務長!あいつかもしれないぞ!高速高速!」
「はいはい!」

車はズドンと高速に入った。

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