2NDLINE 15
2005年6月29日「へくし!はああ・・」
シローはさきほどの嘔吐患者の検査結果を見ていた。
「腹部は、大腸ガス多量。二ボーあるな・・けど大腸ガス」
「あ、イレウスですね」
おせっかいナースが顔を出した。
「ちち、ちがわい!大腸ガスだから!」
「でも、二ボーがあったらイレウスだって。シロー先生が勉強会で」
「う、うん。でも、典型例は小腸ガスの二ボーなの!」
白血球11200 , CRP 3.4mg/dl。
「急性腸炎と、それによる麻痺性サブイレウスってとこかな・・」
シローは寝ている患者の側に立った。
「腸の動きが悪いよね。炎症起こして」
「腸が悪いんですか?」
「もともと悪いのではなくて・・・そうだ。腸が風邪をひいたような感じ」
「腸が、ゴホゴホと?」
「ごめん、聞いてなかったことにして。そんでね。できれば入院して」
「入院は私、イヤですのよ」
「そうですかあ・・困ったな」
「この前この病院に入院したとき、詰所のピコピコ音で眠れなくて」
「そうでしたか・・・」
「・・・・・・」
「分かりました。では、通院で治療を」
「ありがとうございます!」
シローは外来を続けた。
「体がしんどくて・・」
中年女性でやや肥満。
「ふん。それで?」
「いや。それだけなんですが」
「検査しましょう!検査!それしないと、僕も分からない」
「服、脱ぎましょうか・・」
彼女は何枚も着た服を、1枚ずつゆっくり脱ぎ始めた。
「ナースは手伝ってくれよな!」
微熱あり。リンパ節腫脹はなし。
胸部、腹部もこれといった所見は・・なし。
「結果が出たら言って!僕は医局へ・・」
「先生!」
いきなり若い男性がカーテンの向こうから。
「ちょっとお!いきなり入ってこないで!」
「さきほどの、急性胃腸炎とやらの患者の家族です」
「な、なにか・・」
「先生。かなりしんどそうやから。やっぱ入院させてもらえませんか!」
「す、勧めたんですけどね・・」
「お願いしますわ先生。母親、病院嫌いで」
「しかし本人の同意がないと・・」
「そこは先生から説得していただくとして!」
シローはまたベッドのところへ。
「やっぱ入院しましょうよ」
「は?」
神経質そうな中年女性は眉をしかめた。
「さっきは入院せんでもええって・・」
「はい。まあ、言いましたけどお」
「今さらそれはちょっと」
「にゅ、入院したほうがいいですよ」
「はあ・・・」
コロコロ変わるシローに、患者は呆れ果てていた。
「彼らが戻ってきた!」
田中事務員が叫んだ。
リンカーンは病院前の広大な駐車場に姿を現した。
車の列の間をすり抜けて、奥の職員駐車場へ。
途中、僕、トシキが両側からそれぞれ降りた。
僕の内線PHSが鳴る。
「なんだよ。さっそく?」
『病棟です。車が見えたもので』
「夜勤帯。ご苦労さん!」
『聞きたいことが山ほどありますので』
「はいよ!」
僕は非常階段で病棟へ駆け上がった。
トシキ先生は事務室へ入った。
「田中。ご苦労」
「先生!外来がスローでして。先生のお力でスルーしていただければ」
田中事務員は大汗かいてやってきた。
「シローが1人で夜診をなあ。大丈夫かな」
「先生、やっぱ彼1人では、かわいそうですよ」
「かわいそう?そんな甘やかすから・・甘えた職員が出て来るんだよ!おいそこの君ら!」
トシキ先生の一声に驚き、奥でおしゃべりしている若い職員が数人出てきた。
「事務長には報告して、場合によっては処分してもらうからな!」
遅れて事務長が登場。
「品川!」
「はいっ!なんでしょうか、トシキ先生!」
「ケジメがついてないぞ。ここの事務は!」
「へっ?」
「奥でお喋りしてる場合なのか!」
「注意します!」
「これはリーダーの君の責任だ!」
トシキ先生は奥へと消えた。
シローは患者と言い争っていた。
「どうなってもいいんですか!」
「だってこわい!」
「どうして?」
「そそ、それは・・」
女性は言葉をためらった。
シローは家族を呼び出した。
「本人さん、どうしても帰りたいって!」
「困ったなあ・・」
「今度は誰を困らせたんだ?シロー!」
カーテンの奥からトシキが現れた。
「あ!先生!お帰りなさい!」
「患者さんの話をよく聞いてあげるんだぞ!」
「聞いてます聞いてます!もう・・」
トシキはカルテを5秒ほどで確認した。
「急性胃腸炎。脱水がひどい。ヘマトも上昇」
「入院を勧めてるんですけどね。なかなか同意が得られなくって!」
「必要性をきちんと説明したか?」
「え、ええ・・」
「ユウキ先生から学んだ交渉術でいくか・・・!」
トシキは患者に向き直った。
「こんばんは!」
「どうも」
患者は少しすねていた。
「急性胃腸炎という状態でして」
「それはもう聞きました。とにかく入院はしません」
「ガスがけっこうたまってて、胃腸の動きが悪いです」
「・・・・・」
「これだったら、食べても飲んでも便にはなりません。吐くだけです」
「・・・・・」
「水分は体に吸収すらされません。すると体はカラカラです」
「カラカラになりまんの?」
彼女は少し興味を示した。
「だったら、胃腸には休んでもらったらいい」
「家で休ませたら・・」
「うん。それもありますけど。一番いいのは、何も食べないことですよ」
「・・・・・・」
「それが近道。その代わり、点滴を何本かゆっくり補給する。多いほうがいい。そのほうが治りが早い」
「でも・・・1日中なんでしょ?」
「一気にして、心臓に負担をかけさせたくないですしね」
「そうか。それでゆっくりなのね」
「休んでもらうための入院ですから」
患者は考え直したようだった。
「そのほうが、すぐ治るんでっか?」
「家に帰るのとは、数段違います。何よりも、家族の方々のためなのです。それが願いです。僕たちの願い出でもあります」
「へえ・・・」
彼女はしばらく考えた。
「じゃ、お願いします!」
尊敬の眼差しが、トシキに注がれた。
患者は病棟へ。
「助かりました、トシキ先生」
「一方的なアプローチはよくないぞ。シロー」
「し、してませんよ。あの人、けっこう神経質ですし」
「もうちょっと、学ばないとな!」
トシキは病棟へ向かった。
「しかし。あれじゃまるで、言葉攻めだよ・・」
シローはさきほどの嘔吐患者の検査結果を見ていた。
「腹部は、大腸ガス多量。二ボーあるな・・けど大腸ガス」
「あ、イレウスですね」
おせっかいナースが顔を出した。
「ちち、ちがわい!大腸ガスだから!」
「でも、二ボーがあったらイレウスだって。シロー先生が勉強会で」
「う、うん。でも、典型例は小腸ガスの二ボーなの!」
白血球11200 , CRP 3.4mg/dl。
「急性腸炎と、それによる麻痺性サブイレウスってとこかな・・」
シローは寝ている患者の側に立った。
「腸の動きが悪いよね。炎症起こして」
「腸が悪いんですか?」
「もともと悪いのではなくて・・・そうだ。腸が風邪をひいたような感じ」
「腸が、ゴホゴホと?」
「ごめん、聞いてなかったことにして。そんでね。できれば入院して」
「入院は私、イヤですのよ」
「そうですかあ・・困ったな」
「この前この病院に入院したとき、詰所のピコピコ音で眠れなくて」
「そうでしたか・・・」
「・・・・・・」
「分かりました。では、通院で治療を」
「ありがとうございます!」
シローは外来を続けた。
「体がしんどくて・・」
中年女性でやや肥満。
「ふん。それで?」
「いや。それだけなんですが」
「検査しましょう!検査!それしないと、僕も分からない」
「服、脱ぎましょうか・・」
彼女は何枚も着た服を、1枚ずつゆっくり脱ぎ始めた。
「ナースは手伝ってくれよな!」
微熱あり。リンパ節腫脹はなし。
胸部、腹部もこれといった所見は・・なし。
「結果が出たら言って!僕は医局へ・・」
「先生!」
いきなり若い男性がカーテンの向こうから。
「ちょっとお!いきなり入ってこないで!」
「さきほどの、急性胃腸炎とやらの患者の家族です」
「な、なにか・・」
「先生。かなりしんどそうやから。やっぱ入院させてもらえませんか!」
「す、勧めたんですけどね・・」
「お願いしますわ先生。母親、病院嫌いで」
「しかし本人の同意がないと・・」
「そこは先生から説得していただくとして!」
シローはまたベッドのところへ。
「やっぱ入院しましょうよ」
「は?」
神経質そうな中年女性は眉をしかめた。
「さっきは入院せんでもええって・・」
「はい。まあ、言いましたけどお」
「今さらそれはちょっと」
「にゅ、入院したほうがいいですよ」
「はあ・・・」
コロコロ変わるシローに、患者は呆れ果てていた。
「彼らが戻ってきた!」
田中事務員が叫んだ。
リンカーンは病院前の広大な駐車場に姿を現した。
車の列の間をすり抜けて、奥の職員駐車場へ。
途中、僕、トシキが両側からそれぞれ降りた。
僕の内線PHSが鳴る。
「なんだよ。さっそく?」
『病棟です。車が見えたもので』
「夜勤帯。ご苦労さん!」
『聞きたいことが山ほどありますので』
「はいよ!」
僕は非常階段で病棟へ駆け上がった。
トシキ先生は事務室へ入った。
「田中。ご苦労」
「先生!外来がスローでして。先生のお力でスルーしていただければ」
田中事務員は大汗かいてやってきた。
「シローが1人で夜診をなあ。大丈夫かな」
「先生、やっぱ彼1人では、かわいそうですよ」
「かわいそう?そんな甘やかすから・・甘えた職員が出て来るんだよ!おいそこの君ら!」
トシキ先生の一声に驚き、奥でおしゃべりしている若い職員が数人出てきた。
「事務長には報告して、場合によっては処分してもらうからな!」
遅れて事務長が登場。
「品川!」
「はいっ!なんでしょうか、トシキ先生!」
「ケジメがついてないぞ。ここの事務は!」
「へっ?」
「奥でお喋りしてる場合なのか!」
「注意します!」
「これはリーダーの君の責任だ!」
トシキ先生は奥へと消えた。
シローは患者と言い争っていた。
「どうなってもいいんですか!」
「だってこわい!」
「どうして?」
「そそ、それは・・」
女性は言葉をためらった。
シローは家族を呼び出した。
「本人さん、どうしても帰りたいって!」
「困ったなあ・・」
「今度は誰を困らせたんだ?シロー!」
カーテンの奥からトシキが現れた。
「あ!先生!お帰りなさい!」
「患者さんの話をよく聞いてあげるんだぞ!」
「聞いてます聞いてます!もう・・」
トシキはカルテを5秒ほどで確認した。
「急性胃腸炎。脱水がひどい。ヘマトも上昇」
「入院を勧めてるんですけどね。なかなか同意が得られなくって!」
「必要性をきちんと説明したか?」
「え、ええ・・」
「ユウキ先生から学んだ交渉術でいくか・・・!」
トシキは患者に向き直った。
「こんばんは!」
「どうも」
患者は少しすねていた。
「急性胃腸炎という状態でして」
「それはもう聞きました。とにかく入院はしません」
「ガスがけっこうたまってて、胃腸の動きが悪いです」
「・・・・・」
「これだったら、食べても飲んでも便にはなりません。吐くだけです」
「・・・・・」
「水分は体に吸収すらされません。すると体はカラカラです」
「カラカラになりまんの?」
彼女は少し興味を示した。
「だったら、胃腸には休んでもらったらいい」
「家で休ませたら・・」
「うん。それもありますけど。一番いいのは、何も食べないことですよ」
「・・・・・・」
「それが近道。その代わり、点滴を何本かゆっくり補給する。多いほうがいい。そのほうが治りが早い」
「でも・・・1日中なんでしょ?」
「一気にして、心臓に負担をかけさせたくないですしね」
「そうか。それでゆっくりなのね」
「休んでもらうための入院ですから」
患者は考え直したようだった。
「そのほうが、すぐ治るんでっか?」
「家に帰るのとは、数段違います。何よりも、家族の方々のためなのです。それが願いです。僕たちの願い出でもあります」
「へえ・・・」
彼女はしばらく考えた。
「じゃ、お願いします!」
尊敬の眼差しが、トシキに注がれた。
患者は病棟へ。
「助かりました、トシキ先生」
「一方的なアプローチはよくないぞ。シロー」
「し、してませんよ。あの人、けっこう神経質ですし」
「もうちょっと、学ばないとな!」
トシキは病棟へ向かった。
「しかし。あれじゃまるで、言葉攻めだよ・・」
コメント