2NDLINE  19

2005年6月29日
救急室では呼吸不全が搬送。
老人ホームからだ。誤嚥したらしい。

「最近、こんなの多いねえ!」
麻酔科の少年隊、東山ふう(以下<ピート>)が、さっそく挿管の準備をしていた。
シローは痰を吸引。
「さ!血ガスとるぞ!ナース!」
ナースはキットを持ってきた。

高齢女性のそけい部に針を定めるが・・。
「動脈、いっこうに触れない!」
シローは困った。

「IVH,入れるぜよ!」
ピートは頸部よりIVHを挿入中。
「シローちゃんよ!これは挿管が先じゃないの?」
「自発はある!」
たしかに患者は促拍ではあるが自発はある。
「はーいよ!シローちゃん、怒ったらめっぽう怖いんだもんなあ!」
「取れた!」
ナースは近場で動脈血を測定。

「人工呼吸器のつく患者は、いったん増やさないんだろ?」
シローは手洗いし、手袋をしなおした。
「しかも老人の場合、いったん挿管したらなかなか抜管できないんだ!」
「気管切開すりゃいいでしょうが?」
「先生はいつもそうやって機械的!」
「麻酔科っていうのは、そういうもんだぜ!オペの番人なんだしよ!」
「わけわかりません!」

ナースは測定機械をコンコン打診している。

「どうよ?それ?」
ピートも機械をコンコン叩く。
「おかしいので?」
シローは患者を離れた。

「動きません」
ナースは首をひねった。
「故障してるようです」
「なんだよ、もう!もう2000年?」
「シローちゃんよ、あせるなって!」
実はピートも落ち着きがない。
「CO2が測定できなくても、呼吸抑制の有無は推定できるだろう?」
「呼吸回数ですか?」
「それも浅いか深いか」
「胸郭の動きですね」
「そうだ」

胸郭は・・・若干持ち上がって回数だけが多い。

「やっぱり挿管します」
シローは挿管チューブを取り出した。

事務長は病棟へ足を運んだ。
「おはようござい!トシキ先生!」
「ああ」
彼は検査伝票を確認中。周囲に20冊程度のもの
カルテが積み上げられている。

「回診は終了ですか?」
「回診は早朝に済ましてる」
「へえ・・・」
「ユウキ先生のアイデアだ。効率を上げてる」
「どうやって?」
「ユウキ先生は月・水・金、自分は火・木・土に検査を入れて、
午前中に目を通す。回診もじっくりやる」
「トシキ先生は火・木・土ですね。今日は火曜日だ」
「今日は早朝の申し送り前に自分の患者の回診をして、午前中は
検査伝票・画像診断が中心だ。事務長。朝礼のときは・・」
「いえいえ。気になさらずに」
「よく反省しとくように!」
「・・・・・・・・・・・」

トシキ先生は伝票を確認、同時にレントゲン・CTも確認。
これで午前中にすべての指示を出せる。

「トシキ医長。人手が今日は不足していて、CTの搬送がままならなくて」
ミチルがお願いに来た。
「だから?」
「一部のCTは午後に回していただけますか?」
「・・・ダメだ」
「どうして?」
「昼過ぎからはムンテラ時間と決めてる。家族との時間も自分は守る」
「ですけど、物理的に・・!」
「品川。君らも手伝え」
「ははっ!ありがたきしあわせ!」

事務長はトシキに少し不快を抱きながらも、熱意は2倍買っていた。

僕のほうは外来がいよいよ波に乗ってきたところだ。朝の11時ころ。

会社とかでもそうだが、外来でもいちばんはかどりやすい時間帯だ。

「次!」
初診で55歳男性。
「バイアグラください」
「ここでは出せない。泌尿器科に紹介します。次!」

22歳男性で学生。検診で心雑音を指摘。
「確かに、収縮期雑音はあるなあ・・」
心雑音の場合、いろんな姿勢を取らせる。
「胸郭異常はないな・・」
漏斗胸、straight backはなし、と。

「レントゲンに心電図。終わったら超音波します。次!」

高血圧で60代マダム。
「年取ったら、どこもかしこも痛んで・・」
「まだお若いです」
「またそんな!」
僕はバシッと叩かれた。

「いてて・・ふだんの血圧はどう?」
「薬が2種類に増えて、家では上が150-160で、下が90くらいかな」
「うーん。もうちょっとかな」
「薬を増やすので?」
「ええ。血圧手帳によると・・・朝が高いですね、特に」
「はいはい」
「はいは1回でよろし。でね、朝は脳卒中、心筋梗塞が起こりやすいんで、なるべく下げておきたい」
「どうして朝っていうのは、血圧が上がりやすいんですかね」
「人間の活動が始まるのが朝ですよね。脈拍も増えてくる。緊張もするし」
従来のARB、Ca-antagonistに、αブロッカーのカルデナリンを追加。

「立ちくらみがあったら、中止しといて!」
僕はさきほどの学生の超音波検査のため、近くの部屋に移動した。
「じゃ、するよ」
その間に、できあがったレントゲン・心電図を確認。
「CTRは正常、心電図も異常なし・・」

プローブを胸に当て観察。外来中なので、ゆったりはできない。
「僧房弁・・・」
僧房弁の弁のうちの前尖が収縮期に左心房内へ落ち込んでいる。
これは『midsystolic buckling』と表現され、Mモードの収縮期後方運動となって現れる。

「カラーで逆流を・・」
前尖の逸脱の場合、逆流ジェットは左心房の後壁に吹く。
重要なのはこれの有無と、その程度だ。ジェットがなければ有意な弁膜症とはいえないが、ビームの方向で過小評価してないか注意すべき。

「逆流は・・・なし!」
僕は本人に説明。
「僧房弁という弁があってね。これ。この両手を見て。これが弁」
僕は両手を合わせた。
「仏教じゃないよ。パンパン、こうやって弁というのは開け閉じする」
「はい」
「どっちかの手がスカッと後ろへずれ、反転する。これが逸脱」
「めずらしいものですか?」
「いや。頻度的には成人の2.4%」

引き続き、録画した画面をプレイバックする。
「これによって心臓の血液の逆戻りがあるかどうか。それが重要なんだ」
「僕の場合は・・」
「ないと思う」
「よかった。では安心していいんですね?」
「うん。でも見つかった以上、半年毎の確認を勧める」
「また病院へ?」
「進行してないかどうか、見るため」
「そのとき先生はここに?」

いるとは思うんだが・・・。
このままのフォローが望ましい。45歳を越えた場合、
歯科処置の前に予防的抗生剤内服の指導も必要に
なるしな。IE(感染性心内膜炎)の予防だ。

患者には束縛を与えるが。束縛でなく、保険と思ってほしい。

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