2NDLINE 22
2005年6月29日トシキは僕のほうをチラッと見た。
「内視鏡専門医のベテランの話によれば、僕らもとりあえず内視鏡係OKでしたよね?」
「ああ。そう言ってたな」
「バカバカしい!」
トドロキが叫んだ。
「誰の発想だ!苦手分野の克服と銘打って、俺たちに専門外のことを学ばせる、っていうのは・・」
「私ですが」
「事務長!」
事務長は知らない間に近くのパソコンのとこに腰掛けていた。
「いやね。別にオールマイティになって欲しいから、という理由じゃないんです」
「じゃあなんだよ?」
トドロキは不服そうだ。
「そうやって何でも出来る体制にもっていって、日中夜問わず、俺たちを働かせるつもりだな?」
「そんなつもりはないない!例えばね!ね!聞いて!」
みな事務長のほうを見ている。
「例えばね。月曜日。消化器グループが2人で内視鏡。しかし・・しまった!病棟で急変だ!そのうち1人が向かう。残った1人では何も出来ない。そうするとシステムが止まってしまう」
「それ、俺のことか?」
ハヤブサが少し切れかけた。
「たっ、例えばの話ってば!」
「代用が利くようにするためだろ?」
「そ、そうそう。これもある意味<セカンドライン>ですよね?へへへ」
みんな無視した。
トシキはタバコを吸いはじめた。
「ペースメーカーや超音波の補助は、まあ何とかお願いはできるよ。だが心カテは別だ」
「心カテだって、ワンパターンだろうが!」
トドロキがまた食ってかかった。
僕はずっと傍観していたが、見ていて情けなくなってきた。
「もうトシキ!いいって!相手にするな!」
「・・・・・トドロキ先生が内視鏡専門医って、初耳だな」
トシキはイヤミを続けた。
「ペーパー試験だけじゃないぞ。それ相応の症例数もいる」
トドロキは足を組んだ。
「その資格もなしで、お前ら内視鏡医をきどるなよ。ところでカテ医ってないのか?」
「ない。だがあれば、内視鏡医よりは価値はありそうだな」
こいつら、ミエの張り合いだな・・。
「もうトシキ!いいってのに!」僕はまた声をかける。
「俺たちは循環動態、呼吸機能という人間としての一番重要な力学的メカニズムを担当してる」
トシキはかまわず続けた。ハヤブサは睨んでいる。
「やめろっていってんだ!」
僕は大声で怒鳴った。
「ケンカなら外でやれ。ただでさえ、ストレスフルな職場なのに・・うっとうしい!」
みんな押し黙った。
「これ以上のストレスを作るなよ。潰瘍できるぞ!」
事務長は頭を抱えていた。
「みんな、仲良くね。仲良く・・・!」
キンキらが引きあげ、僕とトシキは医局に残った。
「トシキ。明日のカテのカンファをするか」
「2人カンファですね」
「トシキも気が短いな。以前はそういう奴じゃなかっただろ?」
「先輩だって、あいつらに患者を殺されたでしょう?悔しくないんですか!」
「殺されたって、お前・・」
「い、言い方が悪すぎました」
「お前らが、心不全の患者をあいつら消化器に回したからだよ・・」
「それは・・・」
医局内のパソコン動画で、患者の過去の心カテ動画を流す。僕が解説を始める。
「さてと。これは3ヶ月前にここで拡げたときの造影。LADの6番で、75%から25%へ改善」
「最後にステントを挿入」
「以後は僕が外来でフォローした。血流シンチは費用をケチられ、負荷心電図しかしてない」
「負荷心電図ですか?インチキ検査ですよ」
「インチキじゃないだろ?」
「検出率は半分以下って言われてます。逆に見落とす症例も多い」
「まずカテありき、か?」
「本来、そうでしょう」
自信満々だな。
「でな。今回確認造影は受けてくれるんだが、危険因子としては・・」
「コレステロールが380?先輩・・何やってるんですか」
「俺のせいじゃないよ。患者の内服コンプライアンスが問題だ!」
「そこをきっちりするのが主治医の見せ所なのに」
「ま、今回はどうかな。再狭窄も心配だが、プラークがまた盛り上がってるかな?」
病気の話題になると、僕らはいつものテンションだ。
この時点で、胸部内科と消化器内科の間ではすでに深い亀裂が走っていた。
しかしそういう状況ではなおさら、同じ専門内の人間同士がうまく噛みあうから不思議、というか皮肉だ。
「内視鏡専門医のベテランの話によれば、僕らもとりあえず内視鏡係OKでしたよね?」
「ああ。そう言ってたな」
「バカバカしい!」
トドロキが叫んだ。
「誰の発想だ!苦手分野の克服と銘打って、俺たちに専門外のことを学ばせる、っていうのは・・」
「私ですが」
「事務長!」
事務長は知らない間に近くのパソコンのとこに腰掛けていた。
「いやね。別にオールマイティになって欲しいから、という理由じゃないんです」
「じゃあなんだよ?」
トドロキは不服そうだ。
「そうやって何でも出来る体制にもっていって、日中夜問わず、俺たちを働かせるつもりだな?」
「そんなつもりはないない!例えばね!ね!聞いて!」
みな事務長のほうを見ている。
「例えばね。月曜日。消化器グループが2人で内視鏡。しかし・・しまった!病棟で急変だ!そのうち1人が向かう。残った1人では何も出来ない。そうするとシステムが止まってしまう」
「それ、俺のことか?」
ハヤブサが少し切れかけた。
「たっ、例えばの話ってば!」
「代用が利くようにするためだろ?」
「そ、そうそう。これもある意味<セカンドライン>ですよね?へへへ」
みんな無視した。
トシキはタバコを吸いはじめた。
「ペースメーカーや超音波の補助は、まあ何とかお願いはできるよ。だが心カテは別だ」
「心カテだって、ワンパターンだろうが!」
トドロキがまた食ってかかった。
僕はずっと傍観していたが、見ていて情けなくなってきた。
「もうトシキ!いいって!相手にするな!」
「・・・・・トドロキ先生が内視鏡専門医って、初耳だな」
トシキはイヤミを続けた。
「ペーパー試験だけじゃないぞ。それ相応の症例数もいる」
トドロキは足を組んだ。
「その資格もなしで、お前ら内視鏡医をきどるなよ。ところでカテ医ってないのか?」
「ない。だがあれば、内視鏡医よりは価値はありそうだな」
こいつら、ミエの張り合いだな・・。
「もうトシキ!いいってのに!」僕はまた声をかける。
「俺たちは循環動態、呼吸機能という人間としての一番重要な力学的メカニズムを担当してる」
トシキはかまわず続けた。ハヤブサは睨んでいる。
「やめろっていってんだ!」
僕は大声で怒鳴った。
「ケンカなら外でやれ。ただでさえ、ストレスフルな職場なのに・・うっとうしい!」
みんな押し黙った。
「これ以上のストレスを作るなよ。潰瘍できるぞ!」
事務長は頭を抱えていた。
「みんな、仲良くね。仲良く・・・!」
キンキらが引きあげ、僕とトシキは医局に残った。
「トシキ。明日のカテのカンファをするか」
「2人カンファですね」
「トシキも気が短いな。以前はそういう奴じゃなかっただろ?」
「先輩だって、あいつらに患者を殺されたでしょう?悔しくないんですか!」
「殺されたって、お前・・」
「い、言い方が悪すぎました」
「お前らが、心不全の患者をあいつら消化器に回したからだよ・・」
「それは・・・」
医局内のパソコン動画で、患者の過去の心カテ動画を流す。僕が解説を始める。
「さてと。これは3ヶ月前にここで拡げたときの造影。LADの6番で、75%から25%へ改善」
「最後にステントを挿入」
「以後は僕が外来でフォローした。血流シンチは費用をケチられ、負荷心電図しかしてない」
「負荷心電図ですか?インチキ検査ですよ」
「インチキじゃないだろ?」
「検出率は半分以下って言われてます。逆に見落とす症例も多い」
「まずカテありき、か?」
「本来、そうでしょう」
自信満々だな。
「でな。今回確認造影は受けてくれるんだが、危険因子としては・・」
「コレステロールが380?先輩・・何やってるんですか」
「俺のせいじゃないよ。患者の内服コンプライアンスが問題だ!」
「そこをきっちりするのが主治医の見せ所なのに」
「ま、今回はどうかな。再狭窄も心配だが、プラークがまた盛り上がってるかな?」
病気の話題になると、僕らはいつものテンションだ。
この時点で、胸部内科と消化器内科の間ではすでに深い亀裂が走っていた。
しかしそういう状況ではなおさら、同じ専門内の人間同士がうまく噛みあうから不思議、というか皮肉だ。
コメント