2NDLINE 24
2005年6月29日「乾杯!」
5つのジョッキが勢いよく交わされた。
ビールを飲み干し、思わず拍手が鳴り続いた。
「ビアホールは気持ちがいいなあ!」
僕はビルの最上階から階下を眺めた。
「いよいよ、あと1週間か!」
「なにがです?」シローがとぼけた。
「21世紀」
「違うでしょう。21世紀は2001年からでは?」
トシキは飲み干したジョッキを置いた。
「2000年問題。世間ではあまり危機感がないなあ・・・」
彼は不満そうだった。
「いっそのこと、電気まで使えなくなって石器時代に戻りゃいいのに」
事務長も窓の外を眺めていた。
「いやあ。機械や組織に振り回されて大変だよ」
「自分が選んだ道じゃない!」
ミチルは彼に寄り添った。
僕ら胸部内科ドクター3人は、テーブルにしがみついていた。
「あの2人、あやしいですね」シローは顔が真っ赤だ。
「男も30越えりゃ、身を固めないとな」僕は意味もなく答えた。
「ユウキ先生も、あちこちで手を出さずに」
「してないしてない!」
「噂はいろいろ。ジェニーでしょ、山城病院の院長婦人、それに・・」
「手を出せばよかった・・・なんて言えない言えない!」
トシキはタバコをふかしていた。
「ふ。なかなか出会いがないですね。先輩」
「俺に言ってるの?」僕は意外だった。この男がこんな話を・・
「僕が大学病院にいたころは、魅力的な女性がいましたよ。2人ほど」
「なにが2人、ほど、だよ。限定してるじゃないか」
「ナースと女医でね」
「オーベンの生き写しになれって言ったオナゴか?しかしとんでもねえ女だなあ・・・結果がこれだ」
ナースはともかく、女医が誰かすぐに気になった。同じ医局の出身として聞き捨てならない。この男が惚れた女医か・・・。
「女医ってだれ?」
「それはちょっと・・」
「俺が知ってる?」
「さあ」
「熟女医?」
「今はそうかもしれませんね」
「?」
彼はいっこうに教えてくれない。
「トシキも恋はするんだな・・」
「ユウキ先生はどうでした?」
「俺?ま、家に入らせてもらったりはしたけどね」
「ナースですか?」
「女医」
「同期で?」
「さあな」
「教えてください!」
「お前も教えろ!」
「先生から!」
「お前から!」
シローは口をぽかんと開けていた。
「2人とも、早く落ち着いたらいいのに・・・」
事務長はミチルと意気投合していた。
「なんだかんだ言って、彼らはよくやってくれるよ」
「あたしもそう思う」
「今回の予行練習は完璧だったよね」
「練習で満足するの?」
「よき練習なくして、よき本番はないよ」
「でも、いざというときに役に立たなくなるってことない?」
真剣な内容で喋ってると思っているミチルとは裏腹に、事務長は下ネタ的に解釈した。
「や、役に立た・・・」
「事務長が役立たずっていう意味じゃないのよ」
「い、いざというとき・・・たしかにあるある」
「?いけないこと言った?」
「そうだな。だから練習して満足したら・・うんうん」
「?」
「ありがとう!ミチルさん!」
「はあ?」
「でも僕は、自信あり!」
酒に酔った事務長は見境がなくなってきた。
「絶対に、自信あり!」
「なんでわかるの?」
「経験上、そんなことなし!」
「経験上?」
ミチルはわけがわからなかった。
「ただし相手による!」
僕らはマズイと思い、事務長を引っ張った。
「なにする?」
「事務長!帰ろう!」
「はは、はなせ!」
「トシキにシロー!運ぶぞ!呼吸器の搬送だ!」
僕らは事務長を担ぎ、部屋を出て行った。
トシキは廊下で事務長に殴られた。
「あたあっ?」
「おめえな!うう・・セキャンドらいんってせきゃんどラインって・・その・・うう、うるさい!」
「なんだって?」
「そそ、そんなあいであ、おうお・・・おお、おまえらが、だだ、だせ!うげえ」
事務長は嘔吐した。
「(僕ら)うあああ!」
「♪たんごのわあああうげえええ!」
トシキはまともに受け取っていた。
「事務長。もういい。あれだけ練習がうまくいってたら・・」
「ほほ、ほうだろ?うげえええ」
「次の対策は必要なさそうだ。セカンドラインは不要だ」
「ほほ、ほれみろ・・うげえ!」
「ただし!」
トシキは事務長を殴り返した。
「おいバカども!」
僕とシローは何分もかけて、彼らを制した。
2時間後。
シローはそのまま自宅へと戻っていった。
ローンは順調に払い続けている。購入した家の庭は、
子供のための玩具であふれていた。
広い庭を通り、ピンポン。結局キーで入る。
「ただいま!」
返事がない。心配性のシローは、どことなく胸騒ぎがして靴を脱ぎ捨てた。
「おーい!」
駆け出すと、ちょうど赤ん坊のミルクの時間だった。生後6ヶ月。
「はあ・・・」
ワイフはかなり疲れきっている様子だった。
赤ん坊はミルクを中途で飲み終え、疲れ果てて眠りついたとこだった。
「お帰り・・ごめん。夕飯、まだしてない」
「今日はいきなり打ち上げがあってね」
「飲み会?」
彼女は少しムッとなっていた。髪がボサボサだ。
赤ん坊はゆっくりラックに寝かされた。
「2000年対策は万全だよ!」
「・・・・・」
「今度もう1回練習して、タイムを測るらしい!今回もそれはもう、速かったらしい!運転手はもとレーサーで!」
「しっ!子供が起きる・・!」
「ああ。ごめん。トーンを下げるよ。でね、職員の働きもけっこうチームワークが取れてきた!これは素晴らしいことだよ!キンキの2人は相変わらずだけどね。今日のケンカもすごかったけど、すぐ仲直りするんじゃないかな。ごはん!」
「今日はミルクが3回。でもすぐ吐いてね」
「え・・・?」
「子供の話よ!帰った途端、そんな話して!」
「おい大声だよ?」
「子供と病院と、どっちが大事なのよおおお!」
彼女は完全な育児ノイローゼだった。
「それ、ちょっと待ってくれよ」
「待つって、何をよ!」
「僕だって、日頃の業務で疲れてる!挿管にスワンガンツ・・」
「手、洗って!赤ちゃんに菌がうつる!」
「洗うさ!」
シローの手洗いが終わっても、彼女はうつむいて落ち込んでいた。
「胃が悪いのかしら・・」
「熱はあった?」
「朝が36.1℃、昼が36.8℃・・・上がってきてるのかな」
「大丈夫だろ」
「どうして分かるの?」
「それは・・」
「診てもないのに!」
「診ようか?」
「起きるから!」
「あやしいと思うなら、昼間に病院に連れて行けよ!」
「あたしが?こんなに疲れてるのに?」
「どこの家庭だって疲れてる」
「あなたが手伝ってくれるならいいけど!」
「無理だ!どうやって?」
「隣の家の人は、父親が昼間帰ってきたりして手伝うって」
「隣の親父はプータローだろ?」
「プータローでも、面倒見のいい父親よ。オムツもかえるし」
「しょうがないだろ!」
シローはふてくされ、別の部屋に入った。
「ったく・・・!」
首のうっとうしいネクタイをコキコキと外した。
「どこで休めばいいんだよ!」
彼はそのままふとんに倒れこんだ。
5つのジョッキが勢いよく交わされた。
ビールを飲み干し、思わず拍手が鳴り続いた。
「ビアホールは気持ちがいいなあ!」
僕はビルの最上階から階下を眺めた。
「いよいよ、あと1週間か!」
「なにがです?」シローがとぼけた。
「21世紀」
「違うでしょう。21世紀は2001年からでは?」
トシキは飲み干したジョッキを置いた。
「2000年問題。世間ではあまり危機感がないなあ・・・」
彼は不満そうだった。
「いっそのこと、電気まで使えなくなって石器時代に戻りゃいいのに」
事務長も窓の外を眺めていた。
「いやあ。機械や組織に振り回されて大変だよ」
「自分が選んだ道じゃない!」
ミチルは彼に寄り添った。
僕ら胸部内科ドクター3人は、テーブルにしがみついていた。
「あの2人、あやしいですね」シローは顔が真っ赤だ。
「男も30越えりゃ、身を固めないとな」僕は意味もなく答えた。
「ユウキ先生も、あちこちで手を出さずに」
「してないしてない!」
「噂はいろいろ。ジェニーでしょ、山城病院の院長婦人、それに・・」
「手を出せばよかった・・・なんて言えない言えない!」
トシキはタバコをふかしていた。
「ふ。なかなか出会いがないですね。先輩」
「俺に言ってるの?」僕は意外だった。この男がこんな話を・・
「僕が大学病院にいたころは、魅力的な女性がいましたよ。2人ほど」
「なにが2人、ほど、だよ。限定してるじゃないか」
「ナースと女医でね」
「オーベンの生き写しになれって言ったオナゴか?しかしとんでもねえ女だなあ・・・結果がこれだ」
ナースはともかく、女医が誰かすぐに気になった。同じ医局の出身として聞き捨てならない。この男が惚れた女医か・・・。
「女医ってだれ?」
「それはちょっと・・」
「俺が知ってる?」
「さあ」
「熟女医?」
「今はそうかもしれませんね」
「?」
彼はいっこうに教えてくれない。
「トシキも恋はするんだな・・」
「ユウキ先生はどうでした?」
「俺?ま、家に入らせてもらったりはしたけどね」
「ナースですか?」
「女医」
「同期で?」
「さあな」
「教えてください!」
「お前も教えろ!」
「先生から!」
「お前から!」
シローは口をぽかんと開けていた。
「2人とも、早く落ち着いたらいいのに・・・」
事務長はミチルと意気投合していた。
「なんだかんだ言って、彼らはよくやってくれるよ」
「あたしもそう思う」
「今回の予行練習は完璧だったよね」
「練習で満足するの?」
「よき練習なくして、よき本番はないよ」
「でも、いざというときに役に立たなくなるってことない?」
真剣な内容で喋ってると思っているミチルとは裏腹に、事務長は下ネタ的に解釈した。
「や、役に立た・・・」
「事務長が役立たずっていう意味じゃないのよ」
「い、いざというとき・・・たしかにあるある」
「?いけないこと言った?」
「そうだな。だから練習して満足したら・・うんうん」
「?」
「ありがとう!ミチルさん!」
「はあ?」
「でも僕は、自信あり!」
酒に酔った事務長は見境がなくなってきた。
「絶対に、自信あり!」
「なんでわかるの?」
「経験上、そんなことなし!」
「経験上?」
ミチルはわけがわからなかった。
「ただし相手による!」
僕らはマズイと思い、事務長を引っ張った。
「なにする?」
「事務長!帰ろう!」
「はは、はなせ!」
「トシキにシロー!運ぶぞ!呼吸器の搬送だ!」
僕らは事務長を担ぎ、部屋を出て行った。
トシキは廊下で事務長に殴られた。
「あたあっ?」
「おめえな!うう・・セキャンドらいんってせきゃんどラインって・・その・・うう、うるさい!」
「なんだって?」
「そそ、そんなあいであ、おうお・・・おお、おまえらが、だだ、だせ!うげえ」
事務長は嘔吐した。
「(僕ら)うあああ!」
「♪たんごのわあああうげえええ!」
トシキはまともに受け取っていた。
「事務長。もういい。あれだけ練習がうまくいってたら・・」
「ほほ、ほうだろ?うげえええ」
「次の対策は必要なさそうだ。セカンドラインは不要だ」
「ほほ、ほれみろ・・うげえ!」
「ただし!」
トシキは事務長を殴り返した。
「おいバカども!」
僕とシローは何分もかけて、彼らを制した。
2時間後。
シローはそのまま自宅へと戻っていった。
ローンは順調に払い続けている。購入した家の庭は、
子供のための玩具であふれていた。
広い庭を通り、ピンポン。結局キーで入る。
「ただいま!」
返事がない。心配性のシローは、どことなく胸騒ぎがして靴を脱ぎ捨てた。
「おーい!」
駆け出すと、ちょうど赤ん坊のミルクの時間だった。生後6ヶ月。
「はあ・・・」
ワイフはかなり疲れきっている様子だった。
赤ん坊はミルクを中途で飲み終え、疲れ果てて眠りついたとこだった。
「お帰り・・ごめん。夕飯、まだしてない」
「今日はいきなり打ち上げがあってね」
「飲み会?」
彼女は少しムッとなっていた。髪がボサボサだ。
赤ん坊はゆっくりラックに寝かされた。
「2000年対策は万全だよ!」
「・・・・・」
「今度もう1回練習して、タイムを測るらしい!今回もそれはもう、速かったらしい!運転手はもとレーサーで!」
「しっ!子供が起きる・・!」
「ああ。ごめん。トーンを下げるよ。でね、職員の働きもけっこうチームワークが取れてきた!これは素晴らしいことだよ!キンキの2人は相変わらずだけどね。今日のケンカもすごかったけど、すぐ仲直りするんじゃないかな。ごはん!」
「今日はミルクが3回。でもすぐ吐いてね」
「え・・・?」
「子供の話よ!帰った途端、そんな話して!」
「おい大声だよ?」
「子供と病院と、どっちが大事なのよおおお!」
彼女は完全な育児ノイローゼだった。
「それ、ちょっと待ってくれよ」
「待つって、何をよ!」
「僕だって、日頃の業務で疲れてる!挿管にスワンガンツ・・」
「手、洗って!赤ちゃんに菌がうつる!」
「洗うさ!」
シローの手洗いが終わっても、彼女はうつむいて落ち込んでいた。
「胃が悪いのかしら・・」
「熱はあった?」
「朝が36.1℃、昼が36.8℃・・・上がってきてるのかな」
「大丈夫だろ」
「どうして分かるの?」
「それは・・」
「診てもないのに!」
「診ようか?」
「起きるから!」
「あやしいと思うなら、昼間に病院に連れて行けよ!」
「あたしが?こんなに疲れてるのに?」
「どこの家庭だって疲れてる」
「あなたが手伝ってくれるならいいけど!」
「無理だ!どうやって?」
「隣の家の人は、父親が昼間帰ってきたりして手伝うって」
「隣の親父はプータローだろ?」
「プータローでも、面倒見のいい父親よ。オムツもかえるし」
「しょうがないだろ!」
シローはふてくされ、別の部屋に入った。
「ったく・・・!」
首のうっとうしいネクタイをコキコキと外した。
「どこで休めばいいんだよ!」
彼はそのままふとんに倒れこんだ。
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