2NDLINE 25
2005年6月30日クリスマス明けの早朝集会。酒酔いが抜けない事務長が壇上に。
『今日からマイクを使わせてもらう』
「(一同・笑)」
『先日は、みんなご苦労だった!あれが、病院の危機管理対策というものだ!』
事務長のセリフはいつにも増して、熱い。しかし職員達の表情はどこがしか固かった。
2人のスタッフが懲戒解雇されてしまったからだ。理由が理由であれ、明日はわが身だと過剰な心配を煽った。
『当日がどうなるか、それを分かるものはいない。分かってからでは遅い。したがって対策というのは、常に最悪の事態を想定しなければならん!』
僕は遅刻せずに聞いていた。
「あいつどしたんだ?必死だな」
『最悪の事態・・・それはいろいろ考えられる。呼吸器を運ぶドクターズ・カーが事故ったら?』
彼は列の間を歩き始めた。
『そしてもし呼吸器が到着しなかったら?それらを考えたことはあるか?』
みな押し黙っていた。
『建前の対策だけ立てておいて、それだけで済ましている。それがこの国の悪いところだ!』
「(一同)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼は立ち止まった。
『今一度、考えよう!予定が狂ったときの次の手段!セカンドライン!』
「あいつ、トシキに言われて反省したのかな?にしては素直すぎる」
僕はつぶやいた。
「セカンドライン?癌の化学療法の第2弾的な意味で使われる用語だな・・」
近くの外科医がうなずいていた。
『これで対策が終わったわけではない!セカンドラインとしての防御策を考えるんだ!みんな、いろいろアイデア出してくれ!』
集会は終わり、みな散らばっていった。
事務長はマイクをしまった。
「最近暑いね、事務長!」
僕は少し冷やかした。
「何も起きないかもね。でも、何かは起きる」
「いい心がけだと思うよ。しかし・・成長したな」
僕はカンが働いた。
「女だろ?そうだろ?」
「うう・・なぜ分かった・・」
「長年連れ添った仲だから、自然と分かるって。クラブの女?じゃないよな・・」
「うう・・」
僕は周囲を見回した。女性スタッフはみな事務長を恐れた目つきで見ている。しかしよく目を凝らすと・・
「わかった!ミチルさんだ!」
「な、なぜに?」彼は図星を突かれた。
「あの顔・・」
ミチルさんの顔は、事務長に釘付けになったように赤らんでいた。いかにも気があるといった表情だ。
「事務長。相変わらず手を出すのが早いな・・!」
「すす、すんません。イブにいただきました」
「あっそ」
「先生。イブはどうされました?」
「オレ?オレは・・」
忙しくて知らない間に終わっていた。
「オレは・・♪オ〜レはエックス!チャ−チャチャチャチャ!」
「それ知ってます!仮面ライダーエッキス!」
「エックスだろうが!スカポン!」
「僕の女癖の悪さでは、エックスライダーというよりも・・」
「?」
「セックスライダー?」
「アホかお前?」
僕らはそのまま事務室に入った。
「ああやって演説しとかないと、職員の気合が入らないんですよ」事務長はイスに腰掛けた。
「セカンドラインのアイデアって何なんだ?わけがわからん」
「いやいや。いいんです。どうせ何も起きないでしょうから」
「どっちやねん?」
「なんか、そんな気がしてきたんですよ」
「女に毒されたか?」
訓練が終わっての安心感からか、本番が近づくに連れて緊張感は次第に失せていった。
「2000年か・・これまで苦労したなあ」事務長は天井を見つめた。
「何年生きたっていうんだ?」
「ラーメン屋の店長のときも大変だったあ」
「過去の話か」
「関西から関東へ店舗を拡大したとき・・・それはもう命がけだった」
彼は目を閉じた。
「また始まったな・・妄想が」
「いいから聞けよ。うさぎさん」
「オレをうさぎと呼ぶな!」
「漫才でも何でもそうだが、関西だけでの成功ではダメなんだ。関東で勝たないと。人口のスケールが段違いだ」
「結局成功しなかったんだろ?」
「そうだ。関東人の味をベースに調理は考えてはいたんだが」
「客が入らなかった?」
「そうだ。失敗だったのは、まず関東の関西人を引っ張ることに重点を置かなかった点だ。ならば味も関東合わせでなく、関西人の郷愁を誘うようなオリジナルの味で出すべきだった」
「腹減ってきた・・」
「そういう転換もできないまま、店は漫然と営業を続けた。結局店は3ヶ月で廃店。20人もの従業員はすべて解雇」
「事務長は?」
「僕もその日から、その事業からは手を引いた」
「事務長。昼はラーメンにしようよ!」
「あのね・・♪キュウタロウはね〜」
「♪おばけのキュウタロウはね〜」
「♪あたま〜に毛が三本しかないんだよ〜」
「♪ないんだ〜よ!」
「(手拍子)♪キュっキュキュっキュキュっキュ事務長はね〜」
「は?(手拍子)♪お〜ばかなんだ〜お〜ばかなんだ〜お〜ばかなんだ〜けれど!」
「なぬ?」
それでも事務長はゴキゲンだった。
知らない間に周囲の事務員が手拍子している。
「(一同)♪い〜つも失敗ばっかりしってるんだよ〜!」
「おいおい!」事務長は失笑し、1人で続けた。
「だっけどジェニーには、とっても弱いんだってっさ!」
「こら!」
僕は彼の頭を軽く蹴った。
「いい加減にしろよな・・」
「♪いいかげんにして〜!」
病院はかつての明るい雰囲気を取り戻した。
事務長はなにやら考えている。
「12/31は、私大学へ行ってきます」
「いよいよ呼吸器を借りるんだな?」
「ええ。道中、気をつけます」
「そこまで準備できてたら、大丈夫だろ」
「・・・どうして分かるので?」
「え・・。いや・・・」
僕は赤面した。
「事務長。今、稼動してる呼吸器は16台だよな?」
「最悪旧式の1台は、倉庫で眠らせてます」
「ワインかよ?」
「これが日の目を見ることも、もうないでしょう」
「年明けに引き取りだよな?」
「10円くらいにしかならんでしょうな」
「中古屋行きなのかよ?」
『今日からマイクを使わせてもらう』
「(一同・笑)」
『先日は、みんなご苦労だった!あれが、病院の危機管理対策というものだ!』
事務長のセリフはいつにも増して、熱い。しかし職員達の表情はどこがしか固かった。
2人のスタッフが懲戒解雇されてしまったからだ。理由が理由であれ、明日はわが身だと過剰な心配を煽った。
『当日がどうなるか、それを分かるものはいない。分かってからでは遅い。したがって対策というのは、常に最悪の事態を想定しなければならん!』
僕は遅刻せずに聞いていた。
「あいつどしたんだ?必死だな」
『最悪の事態・・・それはいろいろ考えられる。呼吸器を運ぶドクターズ・カーが事故ったら?』
彼は列の間を歩き始めた。
『そしてもし呼吸器が到着しなかったら?それらを考えたことはあるか?』
みな押し黙っていた。
『建前の対策だけ立てておいて、それだけで済ましている。それがこの国の悪いところだ!』
「(一同)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼は立ち止まった。
『今一度、考えよう!予定が狂ったときの次の手段!セカンドライン!』
「あいつ、トシキに言われて反省したのかな?にしては素直すぎる」
僕はつぶやいた。
「セカンドライン?癌の化学療法の第2弾的な意味で使われる用語だな・・」
近くの外科医がうなずいていた。
『これで対策が終わったわけではない!セカンドラインとしての防御策を考えるんだ!みんな、いろいろアイデア出してくれ!』
集会は終わり、みな散らばっていった。
事務長はマイクをしまった。
「最近暑いね、事務長!」
僕は少し冷やかした。
「何も起きないかもね。でも、何かは起きる」
「いい心がけだと思うよ。しかし・・成長したな」
僕はカンが働いた。
「女だろ?そうだろ?」
「うう・・なぜ分かった・・」
「長年連れ添った仲だから、自然と分かるって。クラブの女?じゃないよな・・」
「うう・・」
僕は周囲を見回した。女性スタッフはみな事務長を恐れた目つきで見ている。しかしよく目を凝らすと・・
「わかった!ミチルさんだ!」
「な、なぜに?」彼は図星を突かれた。
「あの顔・・」
ミチルさんの顔は、事務長に釘付けになったように赤らんでいた。いかにも気があるといった表情だ。
「事務長。相変わらず手を出すのが早いな・・!」
「すす、すんません。イブにいただきました」
「あっそ」
「先生。イブはどうされました?」
「オレ?オレは・・」
忙しくて知らない間に終わっていた。
「オレは・・♪オ〜レはエックス!チャ−チャチャチャチャ!」
「それ知ってます!仮面ライダーエッキス!」
「エックスだろうが!スカポン!」
「僕の女癖の悪さでは、エックスライダーというよりも・・」
「?」
「セックスライダー?」
「アホかお前?」
僕らはそのまま事務室に入った。
「ああやって演説しとかないと、職員の気合が入らないんですよ」事務長はイスに腰掛けた。
「セカンドラインのアイデアって何なんだ?わけがわからん」
「いやいや。いいんです。どうせ何も起きないでしょうから」
「どっちやねん?」
「なんか、そんな気がしてきたんですよ」
「女に毒されたか?」
訓練が終わっての安心感からか、本番が近づくに連れて緊張感は次第に失せていった。
「2000年か・・これまで苦労したなあ」事務長は天井を見つめた。
「何年生きたっていうんだ?」
「ラーメン屋の店長のときも大変だったあ」
「過去の話か」
「関西から関東へ店舗を拡大したとき・・・それはもう命がけだった」
彼は目を閉じた。
「また始まったな・・妄想が」
「いいから聞けよ。うさぎさん」
「オレをうさぎと呼ぶな!」
「漫才でも何でもそうだが、関西だけでの成功ではダメなんだ。関東で勝たないと。人口のスケールが段違いだ」
「結局成功しなかったんだろ?」
「そうだ。関東人の味をベースに調理は考えてはいたんだが」
「客が入らなかった?」
「そうだ。失敗だったのは、まず関東の関西人を引っ張ることに重点を置かなかった点だ。ならば味も関東合わせでなく、関西人の郷愁を誘うようなオリジナルの味で出すべきだった」
「腹減ってきた・・」
「そういう転換もできないまま、店は漫然と営業を続けた。結局店は3ヶ月で廃店。20人もの従業員はすべて解雇」
「事務長は?」
「僕もその日から、その事業からは手を引いた」
「事務長。昼はラーメンにしようよ!」
「あのね・・♪キュウタロウはね〜」
「♪おばけのキュウタロウはね〜」
「♪あたま〜に毛が三本しかないんだよ〜」
「♪ないんだ〜よ!」
「(手拍子)♪キュっキュキュっキュキュっキュ事務長はね〜」
「は?(手拍子)♪お〜ばかなんだ〜お〜ばかなんだ〜お〜ばかなんだ〜けれど!」
「なぬ?」
それでも事務長はゴキゲンだった。
知らない間に周囲の事務員が手拍子している。
「(一同)♪い〜つも失敗ばっかりしってるんだよ〜!」
「おいおい!」事務長は失笑し、1人で続けた。
「だっけどジェニーには、とっても弱いんだってっさ!」
「こら!」
僕は彼の頭を軽く蹴った。
「いい加減にしろよな・・」
「♪いいかげんにして〜!」
病院はかつての明るい雰囲気を取り戻した。
事務長はなにやら考えている。
「12/31は、私大学へ行ってきます」
「いよいよ呼吸器を借りるんだな?」
「ええ。道中、気をつけます」
「そこまで準備できてたら、大丈夫だろ」
「・・・どうして分かるので?」
「え・・。いや・・・」
僕は赤面した。
「事務長。今、稼動してる呼吸器は16台だよな?」
「最悪旧式の1台は、倉庫で眠らせてます」
「ワインかよ?」
「これが日の目を見ることも、もうないでしょう」
「年明けに引き取りだよな?」
「10円くらいにしかならんでしょうな」
「中古屋行きなのかよ?」
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