2NDLINE  34

2005年6月30日
「次!」

僕は夜間の外来をしていた。年末年始は里帰り客が多く、初診での扱いが多い。ふだんはよその病院にかかってることが多いため、情報収集が大変だ。

車イス。71歳男性。家族が後ろから。
「体の左半分が動きにくくなってきて」
「いつから?」
「お父さんの話では2週間前から・・」
「もっと早く来てくれたら・・じゃ、横になって」
「ここの消化器の先生には診てもらってました」
「え?」
カルテを診ると、トドロキの後輩であるハヤブサが1回診察している。

どうやら2週間前にTIAを起こしたようだ。

なぜ入院させなかった・・・。

神経学的所見では・・・・左側の腱反射は亢進。バビンスキーも陽性。構語障害あり。顔面の麻痺も認める。瞳孔は正常。

「今日は血圧も高いようですね。そのせいでしょうか?」
娘はいろいろと知りたがっていた。
「逆かも」
「は?」
「脳の血管が詰まって脳の組織の一部が壊死を・・・障害を起こして、足りなくなった血液を補うために血圧が上がったのかも・・」
「なんか。よう分かりません。先生の説明が」
「なっ・・?す、すんません。あとでまた」

CTへ。放射線部へ直接運ぶ。

「2週間前から?」
中年レントゲン技師は伝票を見ていた。
「また消化器のキンキですか・・」
「またやってくれたよ!ホントに!いい迷惑だ!」
「2週間前が発症なら、治療しても手遅れでは?先生」

画像が画面に描出。右大脳基底核〜側頭葉にかけての広範なLDA。つまり梗塞だ。

「うん。かもしれないが。症状は徐々に進んでて・・・まだペナンブラがあるかもしれない」
「ぺなんぶら?」
「トピックスだよ。脳梗塞による血流の低下によって、死に瀕している細胞領域」
「死んでない?」
「虚血の影響は受けているが、壊死にまでは至っていない中途半端な状態」
「治療すれば救えるかもしれない領域?」
「そういうこと!」
「また最近の講演会で影響されました?」
「ほっとけ!」

発症が徐々なので、アテローム性であることは間違いなさそうだ。ならば・・
「アルガトロバン。抗トロンビン製剤だ」

技師もキンキ2に不満タラタラだった。
「キンキの2人は、再訓練できんのですかな?」
「ひとたび独立した医者になると、誰にも教育されなくなるんだ。手遅れだよ」
「脳梗塞で、脳室内穿破でオペになった患者さんいましたね」
「オレが見ていた患者だ。よりによってキンキの当直日に・・」「先生、血圧下げなくていいんですかって、ミチル婦長が言ったのにね。トドロキは<脳卒中は血圧下げないんだ!>ってね」
「脳室穿破やオペ待機は別だろ」
「どっか、行ってくれんかな。あの2人」

今明かせば恥ずかしい陰口だが、僕はこうして悪口を言いふらしてしまう嫌な一面があった。今は反省している。

患者の横で入院時指示。
家族が覗き込み、思わずサッと隠す。

「・・・血圧は高いですが。いいですの?」
「脳出血の手術前だとか、(左)心不全、大動脈解離、急性心筋梗塞の合併があった場合は別ですが」
「?」
「血圧低下は脳の血流を落としてしまいますんで」
「?」
「下げるべきではないのです!」

とか言いながら、合併症確認を意識するのを忘れてた。いかんいかん。人を否定して、自分のことはどうだよ。

胸部CTもいっしょに撮ればよかったな・・。

「ステロイドの指示は?」
おせっかいナースが首をつっこんだ。
「以前はそういう指示がよく出てましたが・・」
こういうおせっかいはどこの病院でもいる。

「いつの時代の話だよ!スカ・・・!」
「古い本しか持ってないもので」
「言い訳言い訳!で。早めにリハビリ開始!」
「治療開始するのに、もうリハビリなんですか?」
「今はな!早めにリハビリしたほうがいいの!」
「どうして?」
「そ・・・そうオーベンから教わったから」
「おおべん?」
「というわけで、入院!次!」

55歳。痛風既往あり。ユリノーム内服のみ。
「今年もいろいろとありましたなあ!」
患者はドカッとイスに座った。かなりの肥満。

「酒は飲んでます?」
「のんでるよー!少々」
「肉は?」
「肉も食べる!ちょっとは!」
「尿酸は、と・・」
「やっぱ、薬はやめられませぬか!」

ふだんはキンキの2人が見ている患者だ。

内服下で、尿酸値は最近・・・4.2mg/dl。低いな。
尿酸は低いにこしたことないか・・。

パラパラとメモ帳のガイドライン要約本を確認。
これには触れてないけど、講演会で聞いたメモ内容によれば。

『PIUMA study ; 尿酸値が低下すれば心血管事故のリスクは低下するが、男性で4.5mg/dl、女性で3.2mg/dl以下になるとむしろ・・・心血管事故は増加する』

あくまでも外国の報告で痛風に関してではないが・・。心血管事故となれば痛風よりも重大だ。

このようなリバウンド状態を、「Jカーブ現象」と呼ぶ。
専門医によれば、尿酸値4以下までもっていく必要はないということらしい。

Jカーブ現象か。

僕は以前、ジェニーという女に振られたが。最初はいい雰囲気だった。彼女は徐々に心を開いているように見えた。しかしアプローチしすぎて警戒心を抱かれた。好きな気持ちが強いほど効果が出るわけではない。これもJカーブの恋か。

「はっ?ああゴメンゴメン。では、ゆっくり薬減らしていきますんで!よいお年を!」

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