2NDLINE  37

2005年6月30日
阪神高速。

事務長はやっとの思いで運転席と壁の隙間から、上に這い上がった。車の右側はとても出れる余裕はない。

「はあ、はあ・・・顔と肩、擦っちゃったよ・・」
車の天井に立ち、前方を眺める。大渋滞だ。それでも少しずつ進んではいるが。

周囲ははひたすら渋滞、クラクションの嵐。

レーサーたちの姿はすでにない。車だけ。進路妨害をして、どこか去ってしまったようだ。

「くそおお、あいつら・・!真珠会か!」
トドロキが真珠会とツーツーだという事実を彼は知っていた。しかしここまでやるとは・・。
「ビショップ・・いや、トドロキのバカー!」

叫んでいるヒマはない。ピートのお迎えに合わせて呼吸器を引っ張り出す必要がある。

彼は天井に立ったまま身を屈め、横にいきなり飛び降りた。
「止まって!」
右車線の軽トラが急ブレーキ。
「一大事なんです!」
「死にたいんかあ、ボケ!」
作業服の男たちは、車から出てきた。

「車の中で飲んでたコーヒーとか、全部落ちたんじゃ、われ!」
「す、すみません。2分だけ時間を!」
軽トラの後ろはクラクションが鳴り響く。

「おらおらにいちゃん!みんな怒っとるでえ!おい!なんや!」
作業服のうちの1人が、車内の呼吸器を見て驚いた。
「ここ、これなんや?」
「これはその。人工呼吸器です」
「なにをわけのわからんこと、抜かしよんねん!」

事務長は4人の作業服に囲まれた。

「いやその、これがね!病院にどうしてもいるの!」
「お前が病院からカッパラッタんちゃうんか!おお!」
「迎えが・・今すぐ迎えが!」
「そんなん、いつでもお迎え来させてやるっちゅうんじゃボケ!」

事務長は完全に動揺して説明どころではなかった。

「ほう?このスケなんやねん?」
若い作業服が天井ミラーのプリクラをはがした。
「それ!ちょっと!」
事務長の手は届かず。

「なんやおい!べっぴんさんやないかい!へへ!」
ヘッドと思われる角刈りが、プリクラをかざして喜んでいた。
「彼女か?」
「た、たぶん」
「なんやコラア、遊びなんかコラア!」
「ちち、違う!」
「年末に彼女に会えへんと・・お前」
「ひい・・」
「じんこうこきゅうきと浮気してどうすんねん!」
「ひい!」

ヘッドはため息をついた。
「にいちゃん。もっとしっかりせえや。彼女の前やったらどうすんねや?」
「は、はい・・」
「おい皆の衆!こいつ、乗せたれ!」
「で、ではなく・・」
「なんや?」

若い衆たちは、後部座席にある呼吸器を引っ張ってきた。他の衆は仁王立ちで道路を封鎖中。

事務長はひらめき、ピートへ連絡した。
「高速でなくて・・一般道から来てくれ!」
『一般道?あんた今、高速だろ?』
「位置を教える・・!」

若い衆は呼吸器をゆっくり引っ張り出す。しかし荒々しい。
「よいしょ!よいしょ!」
車の中のあちこちに衝撃、無数の傷がついていくのが分かる。
「ううう・・・かまわんさ!どうせリースだ!」
手伝ってもらえるのは、それ以上に有難かった。

「それ!」
呼吸器は一般道と高速の仕切りに上げられた。

大空に花火が舞った。
「・・・・?」
思わず腕時計を見た。
「ふんげえ!」

0時だ!

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