サンダル先生 ? 問診
2005年8月30日「呼吸器科の領域を診れる奴ってのは、常に鑑別ができないといけない」
「除外診断ですね」
「それとは違うような・・まあとにかく、結核と腫瘍は常に鑑別として最後まで考えるべきなんだ」
「最後まで?」
「生検で診断がつくまでだよ」
「この人は手術ですか?」
「末梢の病変だから・・・おそらくはバッツだろう」
「バッツ?」
「VATS。胸腔鏡下で観察しながら組織を取る。胸に穴を開けて、そこからカメラ入れて肺を外から観察して処置する」
「で。腫瘍を肺組織といっしょに?」
しつこいな・・・。
僕は事務室へ歩いていった。
「あ!どちらへ?」
「トイレ!」
僕は学生を引き離し、事務室へ入った。奥の事務長室へそのまま入る。
「よう!」
「よう!」
事務長は座って新聞を読んでいる。
「ユウキ先生。もう終わり?」
「なわけないだろ。あの学生、なんとかしろよ」
「いい子じゃないですか」
「相手にしてたら、仕事終わらないよ」
僕はテーブルのお菓子をつまんだ。
「はいいひ、こんはいほはしいへつようびに・・モグモグ」
「食べながら話しなさんな!子供みたいに」
彼はコーヒーをすすりながら新聞を見つめていた。
「もぐもぐ・・・。大学病院から頼まれたんだろ?」
「そうですよ」
「大学との付き合いは順調?」
「昨年は先生方にかき回されて、大変でしたよ」
真田病院は大学病院の関連病院だ。こちらにとっては、医者の供給源。
なのでいろんな社交辞令がついてまわる。
事務長は何か思い出した。
「あ、そうだ。田中くん!」
「はい!」
威勢のいい青二才がカルテを数冊抱えて走ってきた。
「大学病院の教授へのお中元は送ったか?」
「バッチリです!」
「ワインを?」
「ええ。教授の好きな」
付き合いは大変だな・・。
「ユウキ先生は!」
後ろからナースがやってきた。
「外来患者さん、待ってるんですけど!」
「あと3分!」
僕はまた事務長と向き直った。
「事務長。ベッドの空床が増えてる」
「うん」
「こっちも努力はしてるが、なかなか入院してくれない」
「頑張って」
「3割負担とか増えたせいかな」
「だろね」
「だからケースワーカーに働きかけてくれよ」
「イエッサー」
事務長はこんな調子だ。僕は彼の手のひらの上だ。
再び外来へ。学生は立ったまま寝ている。医師として素質がある。
どこででも寝れるという特技は大事にすべきだ。
僕は学生にゆっくり近づいた。
「急変!」
「わあわあわあ!びっくらした!」
学生は驚きのあまり数歩退き、柱に頭をぶつけた。
「・・・いつ何が起こるか、分からないからね。ナース。次を!」
ナースは外で患者を呼んだ。
「学生さん。次は狭心症の中年女性。オベスティーがきつい」
「肥満ですね!」
「シッ!」
きわどいところでメガネをかけた中年女性が入ってきた。
「この1ヶ月、胸はどうでした?」
「うーん。どう言うたらええんかなあ」
「・・・・・さあ」
「こう、胸がこう・・・焼けるような?いや、違う」
「・・・・・・」
「重いものを置かれたような・・いや違う」
「・・・・・・不快感?」
「不快感・・ではない!」
こんなモタモタで時間が過ぎていくのはちょっと・・。
「で。横井さん。ニトロペンは何回使用を・・?」
「胸がこう・・・どうやろか」
「よ!こ!い!さ!ん!」
「はいっ!」
患者は覚醒した。
「ニトロペンは何回使用を?」
「ああ。ニトロ?使わなかった」
「どうして?なぜに?」
「な、なんか怖いし。友達が」
「また友達が何か助言されたんですか?」
「ニトロなめたら、血圧下がって死ぬよって」
僕は自分の目頭をおさえた。
「やれやれ。周囲の言う事をそのまま飲み込まないでくださいよ」
「あたしゃそれ聞いて、もう怖いのなんのって」
「で。そろそろ考えてくれました?カテーテル・・」
「カテーテルは、いやいや!」
彼女は過剰に反応した。
この患者は20年間、他院も含めて狭心症という診断できているが、実際確定診断された
わけではない。たしかに労作時5分以内の胸痛発作でニトロペンが有効だった
という理由で診断されているが、実際証拠となる検査所見がない。カテーテル
以外の検査はしてきたが、明らかな所見がないのだ。
こういう患者はかなり多い。特に開業医ではズルズルとフォローされている人が多い。
「じゃ、今回も出しておきますね。内服は7種類」
この20年の間に明らかな根拠もなく追加されてきた薬だ。こうして上塗りのような追加処方が
されていく。日本の医者は好きだな。
「話の長い人なんだよな・・」
「切り上げるの大変そうでしたね」
「うん。ああいうときは、大きな声で名前を呼んで、目を覚まさせるんだよ」
「なるほど。えっと・・」
「こらこら!書くな!」
彼はカルテを覗きこんでいる。
「本当は狭心症ではないんですか?」
学生がメモをしている。
「あくまでも疑いだよ。カテーテルで冠動脈の狭窄を証明しないと、確定診断にならないだろ?」
「狭窄がなくても、血管の痙攣かもしれませんよね」
「VSAかもな。とにかく検査してみないことには」
「リスクファクターも多そうですね」
「高脂血症、糖尿病、高血圧・・・」
「治療に問題があるのですか?」
「ほっとけ!」
「ほっとくのはちょっと・・」
「だる!」
「除外診断ですね」
「それとは違うような・・まあとにかく、結核と腫瘍は常に鑑別として最後まで考えるべきなんだ」
「最後まで?」
「生検で診断がつくまでだよ」
「この人は手術ですか?」
「末梢の病変だから・・・おそらくはバッツだろう」
「バッツ?」
「VATS。胸腔鏡下で観察しながら組織を取る。胸に穴を開けて、そこからカメラ入れて肺を外から観察して処置する」
「で。腫瘍を肺組織といっしょに?」
しつこいな・・・。
僕は事務室へ歩いていった。
「あ!どちらへ?」
「トイレ!」
僕は学生を引き離し、事務室へ入った。奥の事務長室へそのまま入る。
「よう!」
「よう!」
事務長は座って新聞を読んでいる。
「ユウキ先生。もう終わり?」
「なわけないだろ。あの学生、なんとかしろよ」
「いい子じゃないですか」
「相手にしてたら、仕事終わらないよ」
僕はテーブルのお菓子をつまんだ。
「はいいひ、こんはいほはしいへつようびに・・モグモグ」
「食べながら話しなさんな!子供みたいに」
彼はコーヒーをすすりながら新聞を見つめていた。
「もぐもぐ・・・。大学病院から頼まれたんだろ?」
「そうですよ」
「大学との付き合いは順調?」
「昨年は先生方にかき回されて、大変でしたよ」
真田病院は大学病院の関連病院だ。こちらにとっては、医者の供給源。
なのでいろんな社交辞令がついてまわる。
事務長は何か思い出した。
「あ、そうだ。田中くん!」
「はい!」
威勢のいい青二才がカルテを数冊抱えて走ってきた。
「大学病院の教授へのお中元は送ったか?」
「バッチリです!」
「ワインを?」
「ええ。教授の好きな」
付き合いは大変だな・・。
「ユウキ先生は!」
後ろからナースがやってきた。
「外来患者さん、待ってるんですけど!」
「あと3分!」
僕はまた事務長と向き直った。
「事務長。ベッドの空床が増えてる」
「うん」
「こっちも努力はしてるが、なかなか入院してくれない」
「頑張って」
「3割負担とか増えたせいかな」
「だろね」
「だからケースワーカーに働きかけてくれよ」
「イエッサー」
事務長はこんな調子だ。僕は彼の手のひらの上だ。
再び外来へ。学生は立ったまま寝ている。医師として素質がある。
どこででも寝れるという特技は大事にすべきだ。
僕は学生にゆっくり近づいた。
「急変!」
「わあわあわあ!びっくらした!」
学生は驚きのあまり数歩退き、柱に頭をぶつけた。
「・・・いつ何が起こるか、分からないからね。ナース。次を!」
ナースは外で患者を呼んだ。
「学生さん。次は狭心症の中年女性。オベスティーがきつい」
「肥満ですね!」
「シッ!」
きわどいところでメガネをかけた中年女性が入ってきた。
「この1ヶ月、胸はどうでした?」
「うーん。どう言うたらええんかなあ」
「・・・・・さあ」
「こう、胸がこう・・・焼けるような?いや、違う」
「・・・・・・」
「重いものを置かれたような・・いや違う」
「・・・・・・不快感?」
「不快感・・ではない!」
こんなモタモタで時間が過ぎていくのはちょっと・・。
「で。横井さん。ニトロペンは何回使用を・・?」
「胸がこう・・・どうやろか」
「よ!こ!い!さ!ん!」
「はいっ!」
患者は覚醒した。
「ニトロペンは何回使用を?」
「ああ。ニトロ?使わなかった」
「どうして?なぜに?」
「な、なんか怖いし。友達が」
「また友達が何か助言されたんですか?」
「ニトロなめたら、血圧下がって死ぬよって」
僕は自分の目頭をおさえた。
「やれやれ。周囲の言う事をそのまま飲み込まないでくださいよ」
「あたしゃそれ聞いて、もう怖いのなんのって」
「で。そろそろ考えてくれました?カテーテル・・」
「カテーテルは、いやいや!」
彼女は過剰に反応した。
この患者は20年間、他院も含めて狭心症という診断できているが、実際確定診断された
わけではない。たしかに労作時5分以内の胸痛発作でニトロペンが有効だった
という理由で診断されているが、実際証拠となる検査所見がない。カテーテル
以外の検査はしてきたが、明らかな所見がないのだ。
こういう患者はかなり多い。特に開業医ではズルズルとフォローされている人が多い。
「じゃ、今回も出しておきますね。内服は7種類」
この20年の間に明らかな根拠もなく追加されてきた薬だ。こうして上塗りのような追加処方が
されていく。日本の医者は好きだな。
「話の長い人なんだよな・・」
「切り上げるの大変そうでしたね」
「うん。ああいうときは、大きな声で名前を呼んで、目を覚まさせるんだよ」
「なるほど。えっと・・」
「こらこら!書くな!」
彼はカルテを覗きこんでいる。
「本当は狭心症ではないんですか?」
学生がメモをしている。
「あくまでも疑いだよ。カテーテルで冠動脈の狭窄を証明しないと、確定診断にならないだろ?」
「狭窄がなくても、血管の痙攣かもしれませんよね」
「VSAかもな。とにかく検査してみないことには」
「リスクファクターも多そうですね」
「高脂血症、糖尿病、高血圧・・・」
「治療に問題があるのですか?」
「ほっとけ!」
「ほっとくのはちょっと・・」
「だる!」
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