サンダル先生 ? 10 MINUTES
2005年8月31日救急室では麻酔科医のピートが立っていた。
「おはよう!ん?」
すかさず北野は礼をした。
「北野と申します!見学のため参りました!よろしくお願いいたします!」
「若いな。医学生ってことかい?」
「はい!3年生です。秋から解剖実習が始まります!」
「解剖?怖いでんな」
近くで横になっている中年男性患者がつぶやいた。
「お?目が覚めたな」
ピートは患者の点滴を調整していた。
「飲み過ぎないようにな!そのうち酒に飲まれるぜ!」
どうやらアル中で来た患者のようだ。
サイレンはまだ聞こえてこない。
僕は今のうちにと話しかけた。
「ピート。今度のPKのオペの患者だけど」
「ああ」
「心疾患がある。CHDで2枝病変だ」
「EFは?」
「お前ら麻酔科医は、それしか聞かないな?」
「EFは何パーセントだ?オッケーなんだろ?」
「超音波やカテーテル検査で測定するEFは、あくまでも安静時のものだ」
今度は学生は小さなプレーヤーを取り出した。
「おい!何してる?」
僕はプレーヤーを覗いた。
「録音してんのかよ?」
「き、貴重な話なので」
「バカ!するな!」
僕は話を戻した。
「でな、ピート。冠動脈の病変部はDMのせいでボロボロだ。血管拡張の適応すらない」
「患者のオペの同意は得てるだろう?」
「ああ。だが頻脈時にSTが明らかに下がる。オペ中は慎重にな」
「すると何か。STが下がったらEFも落ちるかい?」
「当然だ。運動負荷は足が悪くてできてない」
「すると俺たちの判断ではしかねるかな」
「?」
「ユウキ先生もオペに同席してもらうとするか」
「そ、それは・・・」
結論では適宜コール、ということになった。循環器はこういう役目を負うこともある。
「きたな。開けるぜ!」
ピートは自動ドアのリモコンを押し、グアーンと両側ドアが開いた。
ピーポーピーポー、とサイレンが飛び込んできた。
僕とピートは表に出て、停車した救急車の後ろに近づく。
後方のガラス窓では救急隊員の頭が上下に動いている。
「北野くん。あの上下してる頭。心臓マッサージだ」
「え?あれが・・」
後方ドアが開き、ストレッチャーが降りてきた。
ピートがマッサージを交代。僕はアンビューを持ち込み頭側へ。
「60代男性!30分前に家族が!起きないということで声かけしたが起きず!」
ピートが迷わず挿管。マッサージは別医師に交代。僕はIVHを麻酔なしで右頸部から。
ナースらはモニター装着。
「どいてよ!」
ナースは棒立ちの北野を腰で蹴飛ばす。
「あ、ああ・・・」
「ユウキ先生!この若い人、邪魔!」
学生は廊下へつまみ出された。
「基礎疾患は?家族は?」
僕は処置しながら救急隊に聞く。
「持病は・・・糖尿があります。インスリン自己管理。しかしここ1ヶ月は治療を中断」
「DM性昏睡か?」
「さ、さあ。私はそういう判断は致しかねますが」
「どいてくれ。まだ帰るなよ!」
「家族はもう来ます!」
刺入部を固定。ピートの挿管チューブ固定も終わった。
ピートはモニターを監視した。
「気管内にボスミン投与したが・・」
「反応ないな」
僕はマッサージを再開した。
「呼吸器、あんのか?」
「セットしました!」
ナースがLTVを持ってきた。
検査技師が部屋の隅で手のひらを見ている。
「デキスターは160mg/dl!」
「あれ?」
僕は耳を疑った。
「高くないじゃないか」
「瞳孔は散大してない」
知らぬ間に来ていたシローがペンライトで観察中。
「ていうか、両方とも縮瞳ぎみですね。反応は若干・・」
「脳外科医は?」
僕は周囲を見回した。
「1人はバイトでいません。もう1人は学会」
ナースが答えた。
「脈が戻ったら、頭のCTを撮ろう。しかし・・・」
モニターはマッサージの波形しか出てない。
「しかし。リカバリーできるのか・・・?」
「信じて、やることですよ!」
シローが部屋の隅からDCを持ってきた。
「いきますよ!どいてください!」
ズン!と患者の体が振動した。みんなモニターを見た。
「お!いいぜ?」
ピートはマッサージしていたナースの手を制した。
「確かに脈は触れるな!」
ピートは手首で脈を確認。
「この触れなら、脈圧も十分だ!」
みんなシローを見て感心した。だがシローは次の処置を考えていた。
「CTへ運びましょうよ!今のうちに12誘導を!エコーもします!」
「12誘導はどうせST上昇だよ」
僕は冷たく突っ込んだ。
「心停止などの影響での心筋障害で。CPKも上がってるだろし」
「じゃ、エコーします」
シローはプローブを当てた。左心室の動きは正常のようだ。
「やっぱ心疾患からは考えにくいか」
僕はこぼした。
「CTはオッケーだな?行こう!」
何度も開け閉めされる廊下側ドアから、学生は一部始終を見ていた。
彼は圧倒されていた。救急現場はドラマやドキュメント番組でおなじみ
ではあったが。何より彼が感心していたのは・・・
いずれも、これらが搬入後わずか10分間での出来事だったってことだ。
「おはよう!ん?」
すかさず北野は礼をした。
「北野と申します!見学のため参りました!よろしくお願いいたします!」
「若いな。医学生ってことかい?」
「はい!3年生です。秋から解剖実習が始まります!」
「解剖?怖いでんな」
近くで横になっている中年男性患者がつぶやいた。
「お?目が覚めたな」
ピートは患者の点滴を調整していた。
「飲み過ぎないようにな!そのうち酒に飲まれるぜ!」
どうやらアル中で来た患者のようだ。
サイレンはまだ聞こえてこない。
僕は今のうちにと話しかけた。
「ピート。今度のPKのオペの患者だけど」
「ああ」
「心疾患がある。CHDで2枝病変だ」
「EFは?」
「お前ら麻酔科医は、それしか聞かないな?」
「EFは何パーセントだ?オッケーなんだろ?」
「超音波やカテーテル検査で測定するEFは、あくまでも安静時のものだ」
今度は学生は小さなプレーヤーを取り出した。
「おい!何してる?」
僕はプレーヤーを覗いた。
「録音してんのかよ?」
「き、貴重な話なので」
「バカ!するな!」
僕は話を戻した。
「でな、ピート。冠動脈の病変部はDMのせいでボロボロだ。血管拡張の適応すらない」
「患者のオペの同意は得てるだろう?」
「ああ。だが頻脈時にSTが明らかに下がる。オペ中は慎重にな」
「すると何か。STが下がったらEFも落ちるかい?」
「当然だ。運動負荷は足が悪くてできてない」
「すると俺たちの判断ではしかねるかな」
「?」
「ユウキ先生もオペに同席してもらうとするか」
「そ、それは・・・」
結論では適宜コール、ということになった。循環器はこういう役目を負うこともある。
「きたな。開けるぜ!」
ピートは自動ドアのリモコンを押し、グアーンと両側ドアが開いた。
ピーポーピーポー、とサイレンが飛び込んできた。
僕とピートは表に出て、停車した救急車の後ろに近づく。
後方のガラス窓では救急隊員の頭が上下に動いている。
「北野くん。あの上下してる頭。心臓マッサージだ」
「え?あれが・・」
後方ドアが開き、ストレッチャーが降りてきた。
ピートがマッサージを交代。僕はアンビューを持ち込み頭側へ。
「60代男性!30分前に家族が!起きないということで声かけしたが起きず!」
ピートが迷わず挿管。マッサージは別医師に交代。僕はIVHを麻酔なしで右頸部から。
ナースらはモニター装着。
「どいてよ!」
ナースは棒立ちの北野を腰で蹴飛ばす。
「あ、ああ・・・」
「ユウキ先生!この若い人、邪魔!」
学生は廊下へつまみ出された。
「基礎疾患は?家族は?」
僕は処置しながら救急隊に聞く。
「持病は・・・糖尿があります。インスリン自己管理。しかしここ1ヶ月は治療を中断」
「DM性昏睡か?」
「さ、さあ。私はそういう判断は致しかねますが」
「どいてくれ。まだ帰るなよ!」
「家族はもう来ます!」
刺入部を固定。ピートの挿管チューブ固定も終わった。
ピートはモニターを監視した。
「気管内にボスミン投与したが・・」
「反応ないな」
僕はマッサージを再開した。
「呼吸器、あんのか?」
「セットしました!」
ナースがLTVを持ってきた。
検査技師が部屋の隅で手のひらを見ている。
「デキスターは160mg/dl!」
「あれ?」
僕は耳を疑った。
「高くないじゃないか」
「瞳孔は散大してない」
知らぬ間に来ていたシローがペンライトで観察中。
「ていうか、両方とも縮瞳ぎみですね。反応は若干・・」
「脳外科医は?」
僕は周囲を見回した。
「1人はバイトでいません。もう1人は学会」
ナースが答えた。
「脈が戻ったら、頭のCTを撮ろう。しかし・・・」
モニターはマッサージの波形しか出てない。
「しかし。リカバリーできるのか・・・?」
「信じて、やることですよ!」
シローが部屋の隅からDCを持ってきた。
「いきますよ!どいてください!」
ズン!と患者の体が振動した。みんなモニターを見た。
「お!いいぜ?」
ピートはマッサージしていたナースの手を制した。
「確かに脈は触れるな!」
ピートは手首で脈を確認。
「この触れなら、脈圧も十分だ!」
みんなシローを見て感心した。だがシローは次の処置を考えていた。
「CTへ運びましょうよ!今のうちに12誘導を!エコーもします!」
「12誘導はどうせST上昇だよ」
僕は冷たく突っ込んだ。
「心停止などの影響での心筋障害で。CPKも上がってるだろし」
「じゃ、エコーします」
シローはプローブを当てた。左心室の動きは正常のようだ。
「やっぱ心疾患からは考えにくいか」
僕はこぼした。
「CTはオッケーだな?行こう!」
何度も開け閉めされる廊下側ドアから、学生は一部始終を見ていた。
彼は圧倒されていた。救急現場はドラマやドキュメント番組でおなじみ
ではあったが。何より彼が感心していたのは・・・
いずれも、これらが搬入後わずか10分間での出来事だったってことだ。
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